五条悟に姉がいたら   作:ケンタ〜

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姉と弟

 五条雪。三〇歳。女。フリーター。

 

 それが五条悟の姉だった。

 

 彼女が物心ついたばかりの時、弟は生まれた。

 

 弟は最強だった。

 

 三歳のぼんやりとした思考の中で、彼女は(五条悟)を抱いたのを覚えている。

 

 『恐怖』

 

 まるで、あの瞬間、五条雪は、時限爆弾でも抱いているのかと思っていた。

 

 空色の目。色素のない白い髪。

 この世の全てを見透かしたかのような、達観したかのような、あの新生児の表情。

 

 三歳の小さい世界に、五条悟(最強)は入り込んだ。

 

 姉は呪術の才があった。

 

 彼女の術式は、モノを操る傀儡操術。

 

 それを生かすための素質を、彼女は持っていた。

 

 彼女は物心つかぬころから、人形にその術式を使い、動かして遊んだりなどしていた。

 子供の成長、特に好きなものに熱中した者の成長は早い。

 

 三歳になる頃には、五条家のだだっ広い屋敷は、すべて彼女の人形遊びの庭となっていた。

 

 その世界の中に入り込んだ(最強)は、あまりにも大きかった。

 生まれたばかりの弟は、姉をとがめることなどありはしない。

 それに怒ることもありはしない。

 

 なんなら、いつも泣いて、母親の乳を求めるくらい。

 

 でも、姉は、弟が生まれてから常に、冷や汗が止まらなかった。

 彼女は人形遊びをすることが出来なかった。

 三歳の子供にとって広大なはずだった家の敷地は、急に狭く見えて来た。

 

 そこで遊ぶことで、弟はそれを認識するだろう。

 六眼というものをまだ知識的に姉は知らなかったが、子どもの直感ゆえか、それを理解していた。

 

 彼女には、それがたまらなく怖かった。

 ずっと監視されているような。

 少しでも呪力を使えば、一挙手一投足を見られる。

 

 もし、何か、粗相をしてしまえば?

 

 ――何もしてくるはずはない。そんなことは誰の目にも明らかだ。

 

 だが、ただただ、ただただ、怖かった。

 

 夜はほとんど眠れなかった。常に弟のおかげでひやりとしている胸をおさめようとしながら床につくも、数時間ごとに、冷や汗と共に目を覚ます。

 それが赤ん坊だった弟の夜の目ざめと連動していたことは、彼女は知る由もない。

 

 姉は弟の顔をほとんど見ずに、弟は乳児期を過ごした。

 

 弟が生まれて一年ごろ。

 

 弟が、立つようになった。その知らせを、姉は使用人伝いに聞いた。

 使用人は嬉しそうに、『雪を呼べ』との両親からの報告を聞いた。

 

 動悸が止まらなかった。

 

 両親と弟がいる部屋に入り、椅子に手をかけて立っている弟と、嬉しそうにそれを囲む親と使用人を見た。

 

 それに気づいた弟が、姉を振り返り、それと目が合った。

 

 姉は、堂々と直立する弟の前で、小鹿のようにくずおれた。

 

 恐怖だった。今までは、自分が避けていれば、弟とは合わずに済むことが出来た。

 しかし、これからは。弟が、文字通り自立して、動くのだ。

 今までも、細心の注意を払って、弟に関わらないようにして来たのだ。これからは、どうすればいいのか?

 

 その日は、一晩中眠れなかった。

 次の日は、一日中部屋から出られなかった。

 

 いつ、どこで、どうやって、弟と出会うかわからない。わからないことは、恐怖と対面するよりも、何よりも怖い。

 

 思えばそれからだった。彼女が自分の世界の閉じこもるようになったのは。

 

 彼女は、親に頼み、自分の部屋を、中心から最も離れた場所に移動させてもらった。もちろん、弟が怖いからなどとは言えない。ただ、自分の術式をいろいろ試してみたいからと、他人に迷惑が掛からないようにと、そう言った。

 

 親は快く承諾してくれた。その理由の一つに、親の興味がより弟へと注がれていったからと言うのがあるかもしれない。

 もちろん親は雪を愛していた。雪は親を愛していたし、親が弟を愛していたことも同じ原理で理解できていた。

 しかし、当時傾きかかっていた五条家を、一気に頂点まで押し上げるような存在が生まれたことで、親の関心は、そちらへと傾かざるを得なかった。

 

 それが、彼女が彼女を自分の世界に押し込めた一つの原因となった。

 

 彼女は自分の部屋の中で、延々と人形遊びを続けた。

 できるだけ、呪力を使わずに。できるだけ、静かに、できるだけ、速やかに。

 すべては、弟にばれないように。

 

 外に出るのは、食事の時や身支度の時、公の行事があったときぐらい。

 

 それ以外、彼女は弟に会わないがために、自分の部屋に閉じこもり、唯一、弟が存在しない、人形遊びの世界に浸った。

 

 しかし、一年くらいたてばもう慣れたもので、五つになった雪は、呪力探知がある程度できるようになったおかげで、弟がいない間を見計らって少しは外に出るようになった。とはいっても、当社比であり、同じ年頃の女の子と比べればほとんど外に出ないも同然だった。

 

 一年も経てば、人形遊びのバリエーションも尽きる。

 彼女は人形作りを始めた。

 彼女は傀儡操術の本懐に、五つにして無意識に踏み込んだ。

 

 そのころには、ある程度弟に対しての恐怖も少しは和らいでいった。一年間、ほとんど全く弟と顔を合わせず、夜も普通に寝れるようになり、人形遊びも弟を気にせずにする時間も多くなった。

 ずっと引きこもり続けるという、最初は精神的に負担が多かったことも、子どもの適応力で一年も経てば慣れたものだった。

 弟は彼女の中で、まるで別人のような存在になって行った。

 

 しかし、事件が起きた。

 

 ある日、彼女が部屋で遊んでいる時。

 

 (バケモノ)が、彼女の部屋(世界)に、入ってきた(侵略してきた)のだ。

 

 そもそも自分の者だった、自分の世界(五条家の敷地)

 

 ソレに飽き足らず、ようやく見つかった、自分の世界(部屋)にまで、それは進行してきたのだ。

 

 姉に倣って呪力と気配を隠蔽し、興味本位で自分の姉がいる部屋の戸を叩いただけ。

 

 そんな些細なことであると、彼女には認識できなかった。

 

 姉の中で、弟はすでに弟ではなかった。

 

 弟の中では、姉は姉だった。なぜならば、親によってずっと言い聞かされてきたから。彼女は優しく、いい子で、今は引きこもりがちだけど、彼女自身の素晴らしい才能を磨いているのだと。

 まだあまり深くは理解できなかった弟でも、姉が素晴らしい存在であるとは理解したのだ。

 

 弟にとって、それは姉への訪問だった。

 

 ネズミにとって、それは獅子の来訪だった。

 

 

 姉は、自分の世界にあるすべてをもって、獅子に抵抗しようとした。

 

 弟は、この時人生で初めて、攻撃にさらされた。

 

 獅子に抵抗するつもりですべてを襲い掛からせた姉は、今でもそれを後悔している。

 

 

 姉は、弟を倒していた。

 

 恐怖は何よりも怖い。

 

 姉は生まれて初めて、肉親を傷つけた。

 無防備に床に倒れ伏す弟を見て、初めて弟を認識した。

 

 術式の自覚もまだこれからの、二歳の幼児。考えてみれば、向き合ってみれば、当たり前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五条姉やこの話に何を求めますか? 参考までに

  • 姉っぽい感じ
  • 戦闘
  • エッ
  • 日常のほんわか
  • 人心無?(シリアス的な)
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