五条悟は、とある和室のちゃぶ台に座り、カスタードプリンの乗ったパフェをつついていた。
ちゃぶ台の前に座っているというわけではなく、ちゃぶ台に腰をおろして座っている。
いつもの目隠しはつけておらず、その蒼い瞳をあらわにしていた。
ガラリ、とふすまが開け放たれる。
ピンクの手入れがされてない髪の毛。紫がかった黒の瞳。一八〇以上の高身長。
胸はかなり大きく、腰回りもかなり魅惑的に、くびれの曲線を描いているが、残念ながら、ダボダボのTシャツのせいでほとんど隠れていた。代わりに男はその程よく太い肉付きの良い脚を見るだろう。彼女はショートパンツを身に着け、その美しい曲線を描く脚をあらわにしていた。
その年は、今年で三〇。
誰もが目を見開き、驚くだろう。彼女の容姿も体も、どこから見ても、百歩譲っても二十代半ばのようにしか見えない。人によれば、まだ社会人でないとも思うかもしれない。
彼女――「五条悟の姉」は、五条悟の姿を認めるなり、声を荒らげた。
「机に座るな!」
五条悟は慌てる様子もなく、入ってきた姉に顔を向けた。
「だってこのちゃぶ台小さいじゃん。俺身長一九〇超えよ? 百歩譲って姉ちゃんならギリギリ――
「料理置くから!」
「あらそう」
五条悟はおどけてみせ、ちゃぶ台がら腰を上げた。
「これで拭いて」
姉が無愛想に、五条悟に布巾を手渡す。
「え? 俺の尻そんなにやだ?」
「ご飯の前は拭くもんでしょ! ていうかそもそも机を尻に敷くな!」
「あらそう」
姉はいつも、粗相をする五条悟に対して大声を上げて諌めていた。
五条悟はそれを気にもしていないし、それがいつからだったのかも覚えていない。
そして、五条悟は、机を拭き始めた。
もし五条悟を知るものがそれを見れば、卒倒するだろう。自ずからやるならともかく、誰かに命令されて、それも当然のようにやるとは。
「姉ちゃん便利だよね、それ」
五条悟はちゃぶ台を拭きながら姉に言った。
五条悟の六眼は、ちゃぶ台の汚れ一つも逃さない。姉はそれを利用していた。
その六眼で、五条悟は壁のむこうを見ていた。
廊下を、家にいる使用人でも、誰でもないものが、この部屋に向かって歩いてきていた。
それが姿を表す。
人形だった。等身大の、着物を着た少女の。
いや、人形と呼ぶにしてはしては精巧すぎた。五条悟の目ならばそれが人形であることは一瞬で看破できるが、普通の人間が見れば、美しい着物を着た少女だと思うかもしれない。
そしてその容姿は、どこか五条悟の姉、五条雪に似ていた。
それが少し大きめのお盆にのせた、数種類かの和風料理を手にしていた。
それが一礼をしてから敷居をまたぎ、ちゃぶ台に近づく。脚をおり、膝をつく。
その一挙手一投足が、実に人間らしかった。
料理をお盆からちゃぶ台の上に並べたあと、その女の子の人形――いや、傀儡はお盆を持ち、一礼をして、部屋から出ていった。
「なんて名前だっけ、その子」
「夏」
「いいね、夏ちゃん」
それは彼女、五条雪の術式、傀儡操術の産物だった。
「あげないわよ」
そっけなく姉は言い、よっこらしょっと卓につく。
「一家に一台欲しいね」
「台じゃなくて人で数えて。それにまだ自立しないわよあの子。早く座って。布巾はそこにおいてていいから」
五条悟も卓につき、手を合わせる。
「「いただきまーす」」
箸をとり、食事が始まる。
五条家ならば、豪勢で高級な懐石料理やら海鮮やらなんやら料理がでるものだ。
しかし、この場ででたのは、(パフェを除けば)一汁三菜の、ごく一般的な食事。
少し食事が進んだところで、姉は五条悟に話しかけた。
「で、用って何? そろそろ答えてほしいんだけど」
「んー、ほーふーこほへ」
「飲み込んでから喋りなさい!」
だらしない最強。
唯一姉はそれを知っていた。
姉の前でだらしないのは、何も立ち居振る舞いだけではない。それならば、彼の教え子たちならば、よく見知ったものだ。
だが、ちゃぶ台を囲んで、質素な会話と食事に勤しんでいる最強は、見たことがないだろう。
「で、何?」
五条悟は数度口元をモゴモゴさせ、ゴクリと飲み込んだあと、口を開いてそれに答えた。
「宿儺の器が見つかったんだよね」
ぴたり、と姉の手が止まる。
その目は、五条悟に向けて大きく見開かれていた。
「は???」
姉はようやく声を絞り出した。
「宿儺の器が見つかったん
「二回言えって言ってんじゃないわよ!!」
姉はカンっと茶碗を置いた。
「宿儺の? 器? あの宿儺の??」
「うん」
「何? 受肉したってこと?」
「そう」
「なんで?」
「教え子に宿儺の指任務にいかせたら、そこでたまーったま、呪霊が見える身体能力すごい子がいて、その子がなんか食べちゃったらしいんだよね。宿儺の指。そしたら、たまーったまぐえっ」
五条悟の顔には布巾がかかっていた。
姉が、机を拭いた布巾を、話す途中でぶん投げていた。
五条悟は本来常時発動している『無限の壁』を、この場において解いていた。
「どうすんのよ! っていうかこの国どうなんの!? えってか宿儺いまどこ!? こんなことしてる暇――
「落ち着いてよ姉ちゃん。流石にこんなものほったらかして来たりしないよ。大丈夫。器と言っても、『檻』みたいなものだ。宿儺は、虎杖……僕の教え子の中から、出てこれない」
五条悟は布巾をとりながら言う。
姉は硬直し、はあっ、と肩を下ろした。
「びっくりした…………」
「いつも俺冗談言うのに、逆になんで信じたの?」
「あんた嘘つくとわかりやすいわよ」
「そうなん?」
姉は食事を再開した。
「で、どうなったのその子? 上が黙っちゃいないでしょ。お得意の無理やり特権?」
味噌汁を姉は口に運んだ。
「そんな事言わないでよ。正義だよ正義。秘匿死刑扱いになったのを、執行猶予つきにした。宿儺の指二十本を全部取り込むまでね」
五条悟は米を口にかきいれた。
「よく上も了承したわね。どうせあんたが一本隠しといたんでしょ。やっぱり合理性とかガン無視の無理やりで上も話聞かされたのね」
「正っ解〜」
五条悟は愉快そうに言ってみせた。
「で、頼みごとはそれ関連ってわけね?」
「正っ解。姉ちゃん最近暇でしょ? 全然依頼受けてないし」
姉は米に向かう箸をぴたりと止めた。
「暇といえば暇だけど……別にやりたいことだっていくらでもあるし…………」
「もちろん対価はあるよ。俺の依頼として金も出すし」
「家族からの金なんていらないわよ」
「夜蛾校長って知ってる?」
「えっ会わせてくれるの!?」
夜蛾校長。東京都立呪術高等専門学校の学校長、夜蛾正道。彼も、五条雪とおなじく、傀儡操術の使い手であり、その道を更に極め、学問として研究まで行っている。
同じく傀儡操術の使い手であり、研鑽に身を傾ける姉も、研究者としての夜蛾正道を知っていた。
「うん。夜蛾校長に会わせてあげるよ。色々話ししたいでしょ。向こうも姉ちゃんの事知ってるみたいだし」
「呪骸の自立のさせ方……!」
「じゃ、依頼聞いてくれる」
「何でも言ってみなさい」
姉は大きな胸を張って、ドンと叩いてみせた。
「高専の教師になって」
すぐに猫背になった。
「ハァ!?」
「高専の教師になって」
「二回言えって言ってんじゃないわよ!!」
もう一度、べちゃりと五条悟の顔に布巾が着弾した。
「私高専通ってないし資格持ってないし教員免許もってないし
「俺がなんとかする」
「ああもうそう言えば無茶通しまくる弟いた!!」
五条雪は頭をかきむしった。
五条悟は布を取る。
「まずは資格取ってもらわなくちゃね。流石に中卒フリーランスで高専の教師は無理だ」
「でもどうしろっていうのよ。誰か推薦してくれるの? 家族内での推薦できるの?」
「そもそも姉ちゃんっていう存在が世間で知らされてないしね」
「誰のせいよ」
「世間での存在に関しては俺何もしてないよ」
一瞬沈黙が流れた。
「まあ、コッチでも融通聞く人に推薦してもらうから。一応その人と姉ちゃんは会ってもらうけど、他の表向きには姉ちゃんっていうことは隠すよ」
「う〜ん……教師……」
姉は頭に手を当てて苦悶した。
「まあでもマトモじゃない弟だって教師してるし……」
「ねえ」
「私でも行けるか…………」
「ひどくない?」
「あんたがマトモだって言う人いる?」
「いないね」
「でしょ?」
五条悟はパフェのスプーンを取った。
「ま、とりあえず、明日その人には来てもらうよ」
「明日!?」
驚く姉を横目に五条悟はパフェをつつく。
「う〜んうまい。パフェ作れる人形、一家に一人欲しいね」
「ちょっと、明日ってどういうことよ!?」
「本人も忙しいんだよ。僕ほどじゃないけどね。高専の教師だし。明日土曜じゃん」
「女の子っていうのは少なくとも三日前から準備しないといけないものなの! モテないわよ!」
「モテるよ。イケメンだし」
「彼女できたことないでしょ!」
「それはそう」
五条悟は一拍置いた。
「まあ呼んじゃったもんは仕方ないじゃん。とりあえず、明日午後三時からね。うまく行けば、来週から昇級……っていうか受級試験。姉ちゃんの実力なら一級ぐらい取れるだろうけど、まあ最初は二級くらいからかな」
「ちょっとまってよ……私の人生……」
「給料入るし取っときなよ。フリーランスでやるよりも手当て充実してるよ。それに依頼も向こうが管理してくれる」
「私は自分で気ままにやるのが好きで……」
「じゃあ夜蛾校長とはもういいの?」
「うっ………」
「まあ明日来る人と話くらいはしてみなよ。悪い人じゃないし」
「…………」
姉はしばらく頭を悩ませた。
「……はあ…………わかったわよ……」
「じゃあ決まりね。明日は俺もいるからさ」
「はあ…………姉にまで無茶振り通すのねこの弟は……」
「
五条悟は姉の口調を真似て言ってみせた。
「もう……この弟は……」
姉にはもう反撃する気力はないようだった。額に手を当てている。
「明日……午後三時ね。来る人の名前は?」
「ああ、それね。日下部」
姉の命運は、またも弟によってかき乱されていた。
続く!
う〜ん、続きを書くのが楽しみ!
五条姉やこの話に何を求めますか? 参考までに
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姉っぽい感じ
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戦闘
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エッ
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日常のほんわか
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人心無?(シリアス的な)