次鋒戦   作:亜楽


原作:仁王2
タグ:仁王2 一話完結
ゲーム「仁王2」の二次創作小説です。
短編1話完結。

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暗影篇「御前仕合」の終了直後です。


次鋒戦

「他に、誰ぞおらぬか」

 織田信長が上機嫌で言った。

 御前仕合。信長の選んだ者を戦わせた。双方とも、感嘆するに充分な戦い。決着後は、互いの健闘を称え合い、退場した。

 居並ぶ家臣達に伝わる。これは余興ではない。

 天下布武に向けた信長の意思表示。織田は身分を問わない。力のある者は認め、取り立てる。

 道場には戦いの熱が残る。

 観衆の奥から、前列の家臣をかき分けてきた。首を左右にひねったあと、信長に向き直る。

「次は俺にやらせてもらってもいいかい?」

 蜂須賀小六が言う。

 墨俣の妖怪を集めた川並衆の顔役であり、自身も妖怪の血を引く。藤吉郎と手を組む形で織田に加わった。

「おもしろい」

 信長は興味深げに小六を見た。

「許す。あやかしの力を見せてみよ。うぬと川並衆、悪いようにはせぬぞ」

「話がわかるねえ、大将。そうこなくちゃ」

 藤吉郎は織田家に士官してから、異例の早さで武勲を立て、家中に知れ渡る。小六と川並衆は、妖怪の武力で藤吉郎を支えてきた。

 避けて通れない軋轢が生まれる。行商人の藤吉郎を武士とは認めない者も多い。妖怪を仲間に連れている様子も反感を抱かれた。

 小六もまた、本来なら手柄とされるであろう働きをしていながら、時には差別されてきた。

「そら、あやかし退治がしたい奴はいねえのか?」

「うわぁっ!」

 鎖鎌を取り出す。分銅を振るい、周囲の者を追い払う。

「お、おい、小六。あまり乱暴なのは。な?」

 藤吉郎がうろたえる。

 立ち回りはいつも考えている。軽々に衝突しては未来はない。織田家に居場所を作ろうと苦心しているさなかだった。

 離れた位置で明智光秀が静観していた。かたわらにいる斎藤利三が口を開く。

「では……僭越ながら、拙者が」

「利三、殿?」

 それぞれの顔を見て、藤吉郎は思考に詰まる。斎藤利三は明智光秀の懐刀と言われる側近。暴力で渡り合うべき相手ではない。

「いい度胸してんじゃねえか」

 小六は道場の中央まで歩を進めた。利三も応じる。

 

 腕の紐を締め直す。手を閉じ開き、なじませる。準備しながら利三を見た。

 大太刀を背負い開始位置に立つ。聞き取れないほどの声で、なにやら文言を唱えていた。

「なんだありゃ」

「精神統一の真言だろうな」

 不安げな顔で藤吉郎が言う。

「剣術と陰陽術の達人だ。明智光秀殿の腹心で、信長様にも重用されている」

「ぶちのめせば、俺の方が上ってわけだ」

「いや、それは……」

 利三よりも、背後にいる光秀が気になった。

 金ヶ崎の戦いでは、助勢を申し出てきた。別働隊で参戦はしたものの、肝心の撤退時に連携が取れず、孤立した藤吉郎達は窮地に立たされた。

 その後は藤吉郎について探りを入れている様子が見られる。利三の立ち合い志願も、光秀の思惑が感じられた。

 織田での影響力を考えると、敵対はしたくない。慎重にならざるをえない人物。

「おい。手加減しろなんて言わねえよな」

「一切不要にて願います」

 声が利三に届く。

「蜂須賀小六殿の全力をお見せ頂きたい」

「だとよ」

 小六は藤吉郎に言葉を投げた。

 真意を計りかねる。ならば流されてもよい。近付いて、相手がよく見える。

「わかった。勝ってこい。俺達の強さを見せてやれ。あとは藤吉郎流でなんとかする」

 利三を見る。肩越しに光秀と目が合った。

 

 対峙する。数歩の間合い。

 小六は鎖鎌を構えた。旋回する分銅が空を切る。手を放せば利三に襲いかかる。

「抜かないのか?」

 利三は腰を低く落とし、愛用の大兼光を、納刀したまま前方に向けた。

「抜き、即斬。……参られよ」

 鎖分銅がある小六の鎌に、利三の大太刀は長さで劣る。先手を取らせて合わせる。利三は呼吸まで止まったかのように静止した。

 緊張した空気が観衆にまで届く。

 武器を打ち鳴らす叩き合いだった先刻とは違う。今回は一瞬一閃で決まる。誰もが固唾を呑んで目を凝らした。

 墨俣に棲む相棒、鎌鼬を思い浮かべる。木を薙ぎ倒す大鎌。藤吉郎は達人と呼んだ。小六も感じる。

 小六が踏み出せば、利三が抜き払う。

 しばし見合う。

 風切り音が消える。小六は頭上で回していた鎖をゆるめ、分銅をつかんだ。手首を返し利三に投げる。

 掛け釣瓶の仕込み。放たれた分銅は、速くも遅くもなく、獲物を惑わせる。

 利三の視線が分銅に重なる。

 瞬間。小六は跳び上がった。

 鎖を引き、空中で身をひねる。分銅は弧を描きながら回転。小六を中心に渦巻いた。

 利三も踏み出す。大太刀がさやを走り、刀身が光る。宙に跳ねた河童を狙う横一閃。

 突風にも似た音が響く。観衆に吹き抜けたかのようだった。

 掛け釣瓶は、大きく回転させた鎖分銅で弾きながら、手に持つ鎌で斬りかかる。小六は大太刀の軌道を読んでいた。背中で受け止める。

 小六の防具は水中での戦闘も想定した軽装だが、甲羅のような装甲を身に着けており、背面からの奇襲に備えている。

 装甲は強度に加えて、複雑な形状の突起がある。刀剣を弾き、通さない。小六が振り向きながら突き進む。着地。叩きつけ、利三を吹き飛ばした。

「小六ッ!」

 藤吉郎が叫ぶ。立ち上がり、小六に駆け寄った。

 

 時間が動き出す。観衆がざわめく。

 付近の者が様子を見るより早く、利三は立ち上がる。側頭部を負傷していた。血を流してはいるものの、深手ではない。

 小六と藤吉郎の前まで歩く。足取りは堅実で、決着を感じさせない。

「いや。もう、な?」

 藤吉郎は小六を見た。認められた御前仕合とはいえ、利三を殺しては、光秀との敵対は避けられない。

「お見事」

 一礼。利三の頭からわずかに血がこぼれ、道場の床に落ちた。

「お手並みのほど、とくと拝見させて頂きました」

「……おう」

 言葉に内心が見えない。不審感だけが浮かぶ。

「鎌を使わなかったのは、手心でしょうか」

 掛け釣瓶で飛びかかった小六は、鎌では斬らず、握った拳で殴りつけた。

「首まで取ろうとは思わねえよ。それに……な」

 背中の装甲を取りはずした。藤吉郎が息を呑む。

 破壊されている。

 突起の上から一直線に、深い切れ目が割り込む。剣だけではない。火の陰陽術を大太刀に乗せ、焼きながら斬った。

「やっぱり手加減しやがった」

 自分の目で見て確信した。装甲だけを斬られた。受け止めた背中の感覚。太刀の勢いに反して軽い。

 胴体まで届くはずの抜即斬。

「お前の方こそ、お情けか?」

「拙者も同意ゆえに。ここは戦の場ではございませぬ」

 通じながらも重ならない思い。

 それは人間と妖怪の隔たりそのもの。遠い過去から、いつか未来まで続く。

 気配を察した藤吉郎が顔をしかめた。

 小六はため息をつく。

「命を握り合ったんだ。少しは腹を割れよ」

 周囲の煮え切らない様子に嫌気が差す。人間は好きではないが、藤吉郎や信長に会い、意せずして妖怪との仲介を引き受けるようになった。

 たびたび対立する中で、関係が生まれていく。今までなかった感情が小六に去来する。

「血を拭いたら、一緒に湯屋はどうだ?」

「いえ。拙者はあまり……そのような」

 数歩下がり、再び利三は礼をする。

 堂々と歩き道場を去る。藤吉郎が気付く。すでに明智光秀の姿もない。

 小六は口を結ぶ。藤吉郎も落としどころが見つからず、言葉に迷った。

「なんだあいつ。風呂は嫌いなのか」

「まあ、今日はこのへんでな……」

 扇子の音が響く。

 上座にいる織田信長。一動作でその場を仕切り、注目を集めた。

「他にも、誰ぞいれば、名乗り出るがよい」

 人妖を併せ呑み、織田の天下布武は進む。




情報wikiを個人的に編集しています。
https://www.wicurio.com/hide3/

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