これは、結ヶ丘で煌めく星達にLiella!という名がついて、まだ間もない頃のお話。
「あれっ、おとくんじゃん?」
少しずつオレンジに染まり始めた秋めく空の下、嵐千砂都がいつものように公園の決まったルートをランニングをしていると、バッタリと音羽と出会った。
「千砂都ちゃん、こんばんは」
「うぃっすー。おとくんは……お使い?」
「ちょっとそこまでね。千砂都ちゃんはランニング?」
「そだよ! 体力作りの基本はランニング、だからね!」
ぐっ、と片腕に力瘤を作るポーズを見せると、音羽はクスクスと笑った。
「むーっ、なぁにおとくん?」
「ううん。やっぱり千砂都ちゃんは頼もしいなって」
「そう? えへへっ、その言葉はありがたく貰っておこうかな……へくちっ」
千砂都が笑顔と共にくしゃみを一つ、ランニングで温まった身体が段々と冷えてきている事を知らせるサインを放った。そんな千砂都を見かねてか、音羽は着ていたコートを脱いでサッと千砂都に被せる。
「千砂都ちゃん、大丈夫? はい、僕のコート使って」
「おとくんは大丈夫なの?」
「大丈夫っ。僕、カイロいっぱい貼ってるから」
「ふふっ、おとくんらしいや」
「そうだっ。そこのベンチで待ってて。何か温かい飲み物買ってくる!」
別にそこまで、と千砂都が口を開く前に音羽はサッと、木枯らしに乗って自動販売機の方へと駆けていった。その際、風下にいながらも音羽が放ったくしゃみの音を、千砂都は聞き逃さなかった。
「もう……おとくんってば、ズルいんだから」
千砂都はそう呟き、音羽の指したベンチに腰掛ける。音羽が戻ってくるまでどうしようかと、考えながら目を泳がせていると、その先に小さな野花が群がって咲いているのが目に留まったのだった。
***
「ただいまぁ、千砂都ちゃん……って、何してるの?」
音羽が両手に温かな缶飲料を持って千砂都の元に帰ってくると、手元の花片をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返してながら、何やらぶつぶつと呟いている千砂都がいた。
「コンポタ、おしるこ、コンポタ、おしるこ……」
「おーい、千砂都ちゃん?」
「コンポタ……おしるこっ! って、おとくん。ごめんね、気づかなかった」
「何してたの?」
「花占い。おとくんがコンポタとおしるこのどっちを買ってくるのかなぁって」
「それは占いなのかな……? でも、千砂都ちゃん正解っ。はい、おしるこ」
「やったぁ♪」
音羽は、小豆色をした片方の缶を千砂都に手渡す。音羽も千砂都の隣に腰掛け、同じ色の缶を2人同時に開いた。
「ごくっ、ごくっ……ぷはぁ! 丁度甘い物が飲みたかったんだよね」
「ふふ、喜んで貰えてよかった」
「そうだっ。おしるこのお金」
「いいよいいよ。千砂都ちゃん、ランニングお疲れ様って事で。僕の奢り」
「う~ん……そこまで言うんだったら、お言葉に甘えちゃおうかな」
2人並んで、甘くて温かいおしるこを喉に流し込む。身体の内側から、ホカホカと温まるように感じたのだった。
「ご馳走様っ。そうだ、おとくんも花占いやる?」
「占いかぁ。意外かも」
「なにが?」
「千砂都ちゃん、占いとか信じないタイプだと思ってたから」
「そりゃまぁ、普段はね。でも、花占いは別枠って言うか、乙女にとっては一度は通る道みたいな?」
「そういうもんなの……?」
「ふふ、まぁまぁやってみようよ」
千砂都は新たに摘んだ花を音羽に手渡す。音羽は目の前の一輪の花と向き合いながら、その花びらに一体何を託そうかとしばらく頭を悩ませた。
「そうだなぁ。うぅ~ん……今日の晩御飯は……オムライス、カレー、ハンバーグ……」
そうして花びらを摘むリズムに合わせて並べ始めたのは、今日の晩御飯。音羽の希望する晩御飯のメニューが少し子供っぽいかも、と千砂都はくすりと笑いを浮かべたのだった。
「あははっ、おとくんも似たようなもんじゃん。なんだかメニューも可愛いし」
「カレー、ハンバーグ、オムライスっ……やったぁ! 今日の晩御飯、オムライスかも」
「ふふっ。そうだといいね。そうだなぁ、私は……」
1番の好物を引き当てた音羽に微笑んだ後、千砂都も自分の手元の花で何を占おうかと悩んだ。そうして少し逡巡、そして千砂都は何やらニヤリと悪戯めいた笑いを浮かべたのであった。
「将来おとくんのお嫁さんになるのは~……かのんちゃん、可可ちゃん……」
「えっ、千砂都ちゃん!? 何言ってるの!?」
そうして並べ始めたのは、Liella!メンバーの名前だった。それも、将来音羽と結ばれるのは誰か、というお題で。
「何って、花占いと言えば恋占いでしょ。私……も一応入れておいて。すみれちゃん、恋ちゃん……」
「う、うぅ……そんな、皆はただの友達なのにぃ」
「まぁまぁ、わかんないじゃん? それに、所詮は占いだし。かのんちゃん、可可ちゃん、私、すみれちゃん、恋ちゃん……」
楽しげな千砂都の手によって白の花びらが地面に散らされる度に、音羽の顔は段々と赤く染まっていく。そうして、千砂都の手が10時の花びらを摘み始めた時。
「あ……」
「え、千砂都ちゃん。どうしたの?」
「れ、恋ちゃん、かのんちゃん、可可ちゃん……」
段々と、千砂都の声がか細くなっていき、そうして最後の花びらが摘み取られた。
「私……あはは、まさかまさかだね」
そして、音羽の方にはにかんだ顔を向けた千砂都。その頬が赤くなっているのは、さっき飲んだ熱いおしるこのせい……だけではなかった。
「え、えぇっと……」
「どうしよっか。う~ん……将来の事とかについて話してみる?」
「なんでそうなるの!?」
「占いで出ちゃったし……それに、占いは占いだよ。私達が結婚するって決まったわけじゃないし」
「うぅ~ん。それなら、少しだけ考えてみる……?」
「いいね、やろやろっ」
そうして、2人は自分達の将来を思い浮かべ、それを重ね合わせる。
「おとくんは作曲家で……私はやっぱり、ダンサーかな」
「うんっ。千砂都ちゃんは、大人になったらもっともっと凄いダンスが出来るようになってて」
「それでね、おとくんの曲で踊ってるんだ」
「ふふっ。それは光栄だなぁ。そんな曲が作れるように、頑張らなきゃね」
「私がたまに家に帰るときは、タコ焼き作ってよ!」
「だったら、千砂都ちゃんにいっぱい教えて貰わなきゃだね」
2人は笑い合いながら、互いの将来が重なった未来を語り合う。それが恥ずかしい以上に楽しくて、顔の赤らみがスッと引いていくのであった。
「あー、なんだか面白いなこれ。他の子でもやってみる?」
「えぇ!? そ、それは……なんだか、皆に失礼になっちゃわないかな?」
「う~ん、大丈夫だと思うよ?」
「そうなのかなぁ」
「うんうん。かのんちゃんはシンガーソングライターかなぁ」
「あ、それは納得かも」
2人の頭の中に、ぼんやりと成長したかのんが浮かぶ。少し大人びたかのんが、ステージの上でギターを弾き語り、会場全体を沸き立たせているビジョンが2人の頭の中にハッキリと映った。
「そして、そんなかのんちゃんの熱愛が発覚……! 相手はなんと、超有名作曲家の東音羽!」
「そういう切り口で僕が参戦するの!?」
2人の頭の中のビジョンは、煌びやかなステージ上から打って変わって、報道カメラからダッシュで逃げるかのんと……その手を引く音羽へと変わっていった。
「あ、でもそういうスクープみたいな感じだと……現役アイドルの可可ちゃん?」
「それはなんかやめよう……くぅちゃん可哀想」
「確かに……これじゃスクープじゃなくてスキャンダルだ」
かのんがアイドル衣装に身を包んだ可可に置き換わった姿を想像すると、どうしても2人の罪悪感が煽られてしまうのだった。慌ててそのビジョンをかき消して、テレビの向こうで踊る可可へとチャンネルを切り替える。
「でも、くぅちゃんがアイドルって言うのはピッタリかも」
「でしょでしょ。雑誌にバラエティに引っ張りだこ! そして、そんな可可ちゃんを支える敏腕マネージャーがおとくんなんだよね」
「そこ、僕じゃなきゃダメ?」
「いやいや、さっきからおとくんと皆の将来を妄想するって話だし……」
千砂都の中では、あっちこっちへと駆け回る可可と一緒に走っている音羽が、妙に似合っているのであった。
「アイドルとマネージャー、決して結ばれない身分の違いに悩まされる2人……」
「そんな中世風のストーリーなの?」
「でも、2人で困難を乗り越えた果てに、結ばれるんだっ……!」
「お、おぉ。なんだかすっごくロマンチック……僕本人の話だからちょっと恥ずかしいけど」
「まぁその実態は可可ちゃんが現役を退いて、活動も落ち着いてきたからなんだけどね」
「あ、理由がすっごく現実的」
千砂都の頭の中のビジョン……それぞれウェディングドレスとタキシードに身を包んだ可可と音羽に、過去の音羽からツッコミが入るのであった。
「っと、可可ちゃんはこれぐらいにして……すみれちゃんは断然、モデルさんでしょ!」
「うわぁ……大人になったすみれちゃん、とっても綺麗なんだろうなぁ」
「今のすみれちゃんにも綺麗って言ってあげなよ~」
「え、えぇ!? それは流石に恥ずかしいよぉ……」
ニヤリとした千砂都に音羽が小突かれる。そんな2人の頭の中には、煌びやかなランウェイを歩くすみれの姿が、ハッキリと映っていた。
「キラキラしたドレスを着て……世界中を飛び回ってさ……」
「うんうん」
「毎日毎日豪華なパーティで世界中の有名人に囲まれて……そんなすみれちゃんも大切な日には帰国して、日本で待っているおとくんと2人きりでグラスを交わすんだよね」
「あ、やっと僕出てきた」
「待ちわびた?」
「ここまで来たら逆にどういう風に出てくるのか気になっちゃって」
2人の頭の中では、タワーマンションの最上階で乾杯をしている音羽とすみれが浮かび上がっていた。
「う~ん、でも僕、そんな高級な感じはむず痒いなぁ……」
「いやいや。おとくんって結構なお坊ちゃまじゃない?」
「そう? 考えた事もなかったけど」
「だって、お父さんは有名な音楽家で、お母さんも元歌手でしょ?」
「そうだけど……それだけでお坊ちゃまって事になるのかなぁ」
「となるとやっぱりおとくんの相手って……ズバリ、お嬢様の恋ちゃんだよねぇ」
「やっぱりって何!?」
めまぐるしく変わる千砂都の頭の中、次いで現われたのは煌びやかな舞踏会のホールだった。その真ん中で、周りの視線を釘付けにする音羽と恋。音羽が恋の手を引き、優雅に舞っていた。
「そういえばさ、おとくんは恋ちゃんの事が好きだった時とかある?」
「えぇぇ!? そ、そんな。恋ちゃんはずっと幼馴染みで……」
「そんな事言っちゃってぇ。ホントはどうなの?」
「い、いや。大人になってもずっと一緒とは言った事あるけど……それは結婚とかじゃなくて……」
「ひゃー♡ 大胆なプロポーズだねぇ。かのんちゃん達にも言ってこよーっと」
「違うからぁっ!」
「あははっ。冗談だよぉ」
音羽がぷくりと頬を膨らませるが、千砂都はそれを笑ってあしらった。
「あとはあれだね。一緒に演奏会とかで世界を回ってそう。おとくんがピアノで恋ちゃんは……バイオリンとか?」
「あ、それはちょっとやってみたいかも」
「おっ。結婚したくなってきた?」
「そんな感覚でするモノじゃないでしょ」
再び音羽の鋭いツッコミが千砂都に入れられる。
「ふふっ。あー、楽しかった」
「もう、勝手に僕のあることないこと……」
「あるって言う事は、満更じゃないんだね」
「ないっ! ないから! 今言った事は全部ないですっ! それに」
「それに?」
ほう、と溜息を一つ。すっかり藍色に染まった世界に音羽の白い溜息が霧散する。
「今は、Liella!の皆がラブライブ!で素敵なパフォーマンスをする。そんな未来を見ていたいんだ。それは、占いなんかで決める事じゃない。皆が自分で掴む未来だから」
「わお……ふふっ、おとくんに良いとこ持っていかれちゃった」
「えっ。あ、ごめん! そういうつもりじゃ!」
「いいのいいの、わかってるから。そうだね、まずは地区予選突破だ!」
「うんっ、頑張ってね」
「そうじゃなくて……一緒に頑張ろう、でしょ? おとくんもLiella!の一員なんだから」
「じゃあ……頑張ろう、一緒に!」
「うぃっす!」
千砂都が差し出した拳に、音羽も拳を合わせる。そんな2人を、星々だけが見守っていた。