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春の息吹を感じるある日。まだ少し肌寒さも感じるが、心地よいとも感じる。
東音羽は電車に揺られていた。今日は平日ではあるが学校は入学試験関連で休みとなっているので彼はとある場所に向かうところだ。
出発地からおよそ30分。運良くずっと座ることが出来たので寝てしまいそうになったが我慢することが出来た。乗り換えをしてしまえば20分で着くことも出来たがそれをする気にはなれなかった。
無気力とまではいかないが、日々のタスクに対していつもより身が入らない。東京大会の時の自問自答や重圧とはまた違うもので、あの後も色々なことがあったがなんとか立ち直ることが出来た。
だが、大会前のような情熱は今のところ湧き上がってこないというのが現状だ。そんな彼を見かねて、友人であり、大切な仲間である唐可可から気分転換にとある場所に行ってみてはどうデスかと言われ、その通りにしているということだ。
音羽が降り立ったのは神田駅。ここからおよそ15分ほど歩いたところに目的地があるらしい。来ようと思えば来れる距離だが、目的が無ければ来ないだろうなという場所であまり馴染みがない場所なので少し不安な気持ちはある。とはいえ、今の時代はスマートフォンの地図アプリを見れば簡単に目的地にはたどり着けるのだが。
駅を出てからはほぼ真っ直ぐに歩いてたどり着く5分前くらいにすこし曲がってというルートなのでそこまで迷わない道のりみたいなので、安心してたどり着けそうだ。
今の音羽の中には、なんとも形容しがたいもやもやが体の中に詰まっているといえる。
そのもやもやを仲間たちにすべて打ち明けてしまえば彼女たちは真剣に向き合ってくれるだろう。
わかりきっていることだ。だが、打ち明けてしまえばまた彼女たちを不安にさせてしまうかもしれない。自分のせいでそんなことになるのは出来ればしたくはない。自分でも考えすぎなのかもしれないとは思うが、どうしてもそのもやもやが晴れることは無い。
「ここかぁ」
そうしているうちに音羽は水色の大きな鳥居の前に着いていた。ここは神田明神。可可いわく、かつてレジェンドスクールアイドルが練習や体力作りに利用していた場所で、東京方面だけでなく全国各地からスクールアイドルの者やファンが参拝に来る、とのこと。
正直音羽はそのレジェンドスクールアイドルのことは詳しくはないが、廃校の危機にあった学園を救うために立ち上がり、夢を叶えたという伝説は耳にしたことがある。
無論、伝説といえるスクールアイドルはその人達だけでなく他にもいたのだが、それなりに月日が経った現在でも語り継がれているというのはそれほどに影響が大きかったということだ。
鳥居を抜けて奥へ進んでいくと赤と金色が特徴の巨大な門の前へと来た。
平日だから自分以外の参拝客はそこまで見当たらないが、休みの日だったらもっと人がいるんだろうなと思えるくらいに煌びやかな門だ。
その門から境内に入ると目に飛び込んできたのはこれまた煌びやかな御神殿だ。お賽銭箱の前に並んでいる参拝客もそれなりにいる。自分もとりあえず参拝することにした。
音羽の番になり、バックから財布を取り出し、お賽銭箱にお金を投げ入れ、きちんと二礼二拍手一礼。ひとまず参拝を終えたので、散策をすることにした。まず最初に向かったのは、本堂から見て右側にある階段だ。 聞いた話だと、その階段にてレジェンドスクールアイドル達は体力作りをしていたそうだ。 さすがに平日ということもあって今現在階段付近には音羽しかいないが、日によっては今日の音羽のように 彼女達の痕跡を辿るかのようにこの階段を見に来るファンやスクールアイドルもいるそうだ。ある意味ここも"聖地"とも言えるだろう。 階段を降り登りしながら写真を撮って、音羽自身もここにその伝説がいたんだということを体感している。
ひとしきり写真を撮り終わったあとに、境内を見て回った。お馬さんがいたり、ハート型のみくじ掛けがあったりと、自分が知っているようなものとは違うものがあった。そして絵馬掛けは何個もあり、様々な人達の願いがそこにはあった。 やはり話に聞いていたとおり、スクールアイドルに関する願いが目に留まることが多い。それ以外にも、受験に合格したいだとか病気を治してほしいとかうまい肉を食べたいとか世界平和だとか。人の願いや祈りが形となっている。そのように感じられた。
「すいませーん!」
突然後ろから声をかけられて身体が一瞬震える。
「えっ、はい?」
振り向くとそこには巫女さんがいた。
紫紺の髪を束ねて、まさに大人の女性と形容出来るような人だった。思わず音羽は息を飲んでしまう。自分がいつも関わっている仲間もとても魅力的な存在だとは思っているが、この巫女さんは彼女たちとは違った存在感だ。
「え、えっと。なんでしょうか?」
「これ、落としませんでしたか?」
「あっ!」
差し出されたのは財布だった。カバンを漁るとたしかに財布がない。先程の参拝時に落としてしまったのか。
「すみません、ありがとうございます!」
財布を受け取ると同時に、落としたことすら気づかなかった自分が情けなくなってしまった。その上巫女さんにも迷惑をかけてしまった。
「どういたしまして! 無くしたままにならなくてよかったねぇ♪」
そうですね、と力なく返事してしまった。
「おっ? どうかしたん?」
「あ、いえ、その、なんだかぼーっとしてて」
「へぇー、何か悩み事でも、あったの?」
「悩み事というか、もやもやというか」
「そっかぁ。もしよかったら、お姉さんに話してみぃひん?」
「へっ?」
「あっ、嫌ならええよ〜?」
見ず知らずの人にこんなに丁寧に接してくれるのだから、おそらくこの人は悪い人ではないのはわかる。 自分のもやもやを話してもいいものなのか、という考えもあるが、この人の厚意を無下にするのも申し訳ない。
ここで出会えたのも何かの縁だ。
「はい。よろしくお願いします」
「おっけ! それじゃあそこに座ろ?」
巫女さんが指さした方向には体育祭や祭りでよく見るようなテントの下にあるベンチがあった。
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「ん〜しょっと! よっし、それじゃあこの巫女さんに話してみ? まぁ、今日はたまたまお手伝いに来てるだけだけどっ」
音羽と巫女さんは並んで座った。正直こんなに魅力的な人が隣にいるという状況に心臓の鼓動が早くなってはいるが、それをもやもやが上回っているという自分でも気持ち悪い状況だ。
「あの。僕、スクールアイドルに関わっていて」
「へぇ〜! 男の子のスクールアイドル! たしかに君愛らしい顔立ちしてるし、人気あるんじゃ」
と言おうとしていた巫女さんの言葉を遮る。
「いいえ。僕自身がスクールアイドルってわけじゃなくて、なんというか、サポーターをやらせてもらってて」
「サポーター? ごめんねぇ、うち最近のスクールアイドルには疎くて」
苦笑いする巫女さんを見て、この人は昔スクールアイドルに関わっていた人なのかな、と音羽は思った。
「簡単に言うと、マネージャーみたいな感じです。僕はみんなと話し合ったり管理したり、作曲のお手伝いとかもしたりしていて」
「ほー、そういうことなんやねぇ、時代は変わってるんやなぁ。それで、どういうもやもやがあるん?」
「その、お姉さんはラブライブ! って分かりますか?」
「まあねぇ。それなりに」
「うちのスクールアイドル部も今回の大会に出場したんですけど、東京大会で優勝出来なくて」
「そっかぁ。悔しかったんやね」
「はい。多分かの、みんなは最高のパフォーマンスをすることが出来たと思うんです、だから優勝出来なかったのはみんなを支える僕達が何か他にもやれることがあったんじゃないかなって思えて」
勝たせてあげられなかった。それは音羽だけじゃなくて、学園内の Liella! を応援してくれる人達の大半が思っていたことだろう。 無論、何に対しても手を抜いたつもりは無いし、言ってしまえばぽっと出のスクールアイドルがすぐさま優勝出来るほどラブライブ! は甘いものでは無いというのはわかっているのだが。
「それに、不安な気持ちもあるんです。もしかすると、今年新入部員が入ってきたりして、その子たちと上手くやれるのかなぁって」
「なるほどねぇ」
先程までの軽いノリとは打って変わって、巫女さんは音羽の言うことをきちんと受け止めてくれているようだ。
「話を聞いてると、君は結構背負い込むタイプなんじゃないかなぁって思うんだけど。ちゃんと仲間の子達に話したりしてるん?」
「ま、まぁ、それなりには。でも、このことを言ったとしても、みんなはそんなことないよって言ってくれるんだろうなって思ってて、それでまたみんなを不安にさせたくなくて」
「そっかぁ。優しいんやね、君は」
突然頭を撫でられて再び身体が一瞬震える。
「これはうちの経験上の話なんだけど、そういった内面のこととか、ほんとはちょっと言い難いこととかも相談しあえたらもっとこう、絆が深まるんやない?」
巫女さんは撫でるのをやめて微笑む。
「それともうひとつ感じたのは、今の自分じゃダメだから、頑張って変わろう変わろうって追い詰めたりしてない?」
「それは」
「変えなきゃって向上心は別に悪いことじゃないし、むしろいいことだと思うよ? でも、それで追い詰められて壊れちゃうくらいなら無理して変わろうとしなくてもいいとうちは思うよ〜?」
自分では無理をしているつもりはなかったけど、いつの間にか無理をしていたのか。
「だから、君は君のままで、無理をしない程度に頑張ればいいってことだと、お姉さんは思うな〜。ちょっとふわっとした内容になっちゃったけど」
不安に感じたのなら互いに支え合う。そう話し合ったこともあった。だけどそれをすることに躊躇いがあった。
「そう、ですね」
「友達とか仲間とかそういうのって、迷惑かけられるくらいがちょうどいいんよ、うちもそんな感じだったし」
「あの、お姉さんも前に何かあったんですか?」
音羽の問いに自分の人差し指を自分の口に当ててうーんと考え、巫女さんは話し始めた。
「うちもね、ほんのちょっとだけど、君みたいにとあるスクールアイドルを影から支えてたりしてたんよ」
「僕みたいに?」
「まぁその頃うちは高校の生徒会の副会長だったんだけど、会長がスクールアイドルに対して複雑な感情を抱いててね〜……だから表立ってサポーターですって感じじゃなかったんだけど、うちができる限りのサポートはさせてもらってたんよ」
「そうだったんですか……」
「うんっ、それで会長の心も雪解けてお互いのことを分かりあって、そうしていく中でうちもサポートするだけじゃなくてそのキラキラ輝く7人と1人の中に入ってみたいなーって思ったんよ」
「それじゃあ、お姉さんもスクールアイドルだったんですか?」
「そ! 高三の一学期後半からだったし、あまり長い時間はいられなかったけどね」
縁とは不思議なものだと、音羽は感じた。
「今日ここに来てよかったと思いました.ここはレジェンドスクールアイドルに縁がある場所だって仲間から聞いてたので、こうして先輩スクールアイドルの方と同じできるなんて」
「その、レジェンドだとか色々言われてたとしても、きっとその子たちも全部が全部何もかも上手くいってた訳じゃなくて、色んな壁にぶち当たって悩みながらも進んでたと思うで〜?」
「そう、ですか」
「それはそうと、そのお仲間さんってレジェンドスクールアイドルさんのこと知ってたりするん?」
「多分、僕よりかは何倍も詳しいと思いますよ? スクールアイドルをやりたいがためにわざわざこっちまで来ているので、想いは段違いだと思います」
それを聞いて、巫女さんはため息をついた。 感慨深い、のだろうか?
「そっかぁ。あの頃から何年経っても、まだ影響って残ってるもんなんやね」
「えっ?」
「ねえねえ、何か書くものとか持ってたりする?」
はい、と不思議そうにカバンからルーズリーフとペン入れを取り出し渡した。受け取ると、慣れた手つきで何かを書いたようだ。
「はいっ、これ! 御朱印代わりに、君とその子に、ね」
ルーズリーフとペン入れを受け取ると、そこにはサインが書いてあった。可愛らしい笑顔が特徴的だ。そこに書かれた名前に、音羽は見覚えがあった。
「これって!」
「おっ? 名前くらいは知ってくれてるん?」
「お姉さん、まさか」
話していた中で一番の心からの笑顔を向けて、巫女さんは名乗った。
「うちは東條希、多分そのレジェンドスクールアイドルって言われてる μ's の、一員だったんよ」
「……!」
μ's。 そこまで有識者ではない音羽でも知っているくらいの伝説といっても差し支えない程のスクールアイドル。 そのメンバーにこんな所に出会えるとは。
「その、ごめんなさい! 全然気が付かなくて」
「ううん、うちが活動してた頃から何年も経ってるし、多分世代も移り変わってるだろうしね」
頬を緩ませながら、希は続ける。
「でもこうして、新しい世代のスクールアイドルや、関わってる子にまで、影響が続いてるなんて、ほんとよかったなぁ。めっちゃ嬉しいわぁ~」
「えっと.僕みたいな人が言うのはおこがましいですけど、きっとこれから先もずっと、影響を与え続けてる.って思いますよ!」
「そう? ありがとね。だから君も、無理をしない程度に頑張って、仲間と共に支え合えば、これから先の未来に繋がる何かを生み出せると思うよ? 今はカードがないから確証はないけどねっ」
カード? と疑問に思ったが突っ込むのも野暮だと思ったので追求はしなかった。
「信じればきっと、願いは叶うはずだから。ね?」
彼女の笑顔はとても眩しく、音羽もついつい見とれてしまうほどだ。
「あの、色々ありがとうございました! 今日出会えたことは、ずっと忘れません」
「うちの方こそありがとね、付き合ってもらって!」
お互い立ち上がって、門まで一緒に歩いていく。去りゆく音羽のことを、希は微笑みながら手を振り見送る。彼が見えなくなったあと、希は1人で呟く。
「なぁんか、久しぶりにみんなに会いたくなってきちゃったなぁ〜……」
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「こっ!? こここここここここコレは!?」
休み明けに希から貰ったサインを可可に見せると、いつになく動揺しているようだ。もらった経緯を教えると、肩を何回もぽんぽんと叩きながら可可は喚く。
「ずるい!!!! ずるいデス〜!!!!」
「ちょ、痛いってくぅちゃん!」
苦笑いしながら音羽は咎めるがぽんぽんは止まらない。思えば、こうして今じゃれあえるのも、可可がかのんをスクールアイドルに誘わなければ、かのんが音羽と出会わなければ起こらなかったことだ。そして元を辿れば、可可がスクールアイドルに憧れなければ。そうして知らないところで縁は繋がっていくものだ。
繋がりあって、混ざりあって、またそれが誰かを救ったり、未来を築いたり、影響し合うものだ。なんとか落ち着いた可可を引き連れて、部室へ向かおうとする。
「それじゃあ次は可可も一緒に行きマス!」
「そうだね、一緒に行こうね」
また会えるかは別として。
「ありがとね」
「んっ? 何か言いマシタか?」
「んー、なんでもないっ!」
音羽の中のもやもやは、すでに消えていた。
おわり