別冊星達のミュージアム 第2号   作:苗根杏

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13作目は、壱肆陸さんの作品です。
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まえがき
──────
締め切りを、過ぎる〜!
殺すぞ〜!


ラーメン大好き音羽くん

 結ヶ丘高等学校のスクールアイドル部、『Liella!』。

 今を煌めく女子高生5人と、それを支える男子高校生1人で構成された、注目度と実力を兼ね備えた話題のグループ。最高の音楽を追い求め、彼女たちは日夜努力を積み重ねる。

 

 そんな練習の合間に差し込まれた、グループの中心人物である澁谷かのんの一言。

 

 

「ねぇ……ラーメンって、好き?」

 

 

 かのんが神妙に放ったその一言が、全ての始まりとなった。

 

 

 ___________

 

 

 と、いうわけで。『Liella!』の5人と音羽でとんこつラーメン屋に来ていた。

 

 

「いやどういうわけよ」

 

「どうしたのすみれちゃん?」

 

「ごめん音羽、なんか言わなきゃいけないような気がしたんだけど……じゃなくて! なんでよりにもよって『ラーメン』!? しかも『とんこつ』! 私たち一応アイドルなの分かってる!?」

 

「なに言ってるデスかすみれは。スクールアイドルにとってラーメンとは、とってもありがたーい料理なのデスよ? 大体、味噌ラーメン屋みたいな名前してるクセに何をイマサラ」

 

「誰が札幌味噌ラーメンすみれよ」

 

「たまにセブンイレブンに売ってるよねー、すみれ監修の味噌ラーメン」

 

「あれ美味しいよね。すみれ監修札幌濃厚味噌ラーメン」

 

「そこ! すみれ連呼しない!」

 

 

 恋や音羽あたりが「ラーメンも作れるなんてすごい!」とか言いだす前に、すみれが千砂都とかのんの会話を断ち切った。

 

 練習中の不意の一言により、ラーメン談義が勃発し瞬く間に加熱。その熱は練習が終わっても冷めることはなく、テンションが完全にラーメンになった一同はラーメン屋に直行したという流れである。

 

 華のJKにラーメンは無縁だと思われがちだが、女子でもガッツリ食べたい年頃の高校生。女子高生は意外とラーメンが好きなのだ。

 

 

「でも僕、とんこつラーメンは初めてかも。袋麺とかなら食べるんだけど、お店で食べたことは無い気がする」

 

「私もです。とんこつと言うと……豚の骨、ですよね? 豚のお味噌汁のようなものなのでしょうか……?」

 

「確かにおとちゃんや恋ちゃんはラーメン食べるイメージ無いね」

 

「大丈夫デス! なにを隠そうククと千砂都は、ラーメン屋めぐりでラーメン愛を高め合ったラーメンマスターなのデスから!」

 

「そうそう! だから今日のエスコートはお任せくださいよ、御二人さん!」

 

「だからアイドルとしてどうなのよそれ……」

 

 

 友達みんなで外食をするというシチュエーションもそうなのだが、音羽は大声を出したくなるほどワクワクしていた。音羽は普段からラーメンをよく食べるわけでは無いのだが、いざ食べるとなると途端に気持ちが昂ってしまう。ラーメンという料理は、なぜこうも魅力的で、人の心を掴んで離さないのだろう。

 

 

「すみれちゃんはラーメン食べないの?」

 

「食べない……ことも無いわね。ラーメンって結構数字取れる料理だし、自炊する分でもインスタント麺アレンジとかお手軽で結構美味しいのよ。美味しいんだけど……カロリーが……! 匂いも……!」

 

 

 そう葛藤しつつも付いてきている辺り、すみれもラーメンが好きなのだなと音羽は思った。実際、ラーメンが嫌いな人は音羽は余り見たことがない。

 

 自分たちと同じくラーメンの魔力に魅せられた者たちは多いようで、平日の夜だというのにそれなりの行列が形成されていた。この待ち時間もまた、ワクワクを高めてくれるいいスパイスだ。

 

 

「あ、入れるみたいです。行きましょうか」

 

「でも豚骨スープは美容に良いとも言うし、ギリギリ……!」

 

「いつまでウジウジしてるのデスか。ほら、行きマスよ!」

 

 

 己と戦うすみれを可可が引っ張って、一同は入店。

 その瞬間、音羽は凄まじい衝撃を受けた。

 

 都内の人気店だけあって店の雰囲気は綺麗だ。一般的にラーメン屋に抱かれる、不潔さや暑苦しさのようなネガティブなイメージは全くない。しかし、衝撃的なのは一歩踏み入った瞬間にまず感じる『匂い』だった。

 

 まるで爆音を嗅覚で感じ取ったようなインパクト。力強く重厚な獣の香りは、知識の無い音羽ですら『これが豚骨!』と一瞬で理解できてしまうほど鮮烈だった。『臭さ』と紙一重だが決して不快ではない絶妙な香りが、不思議と強烈に食欲を刺激する。

 

 

「とんこつって、確か福岡だよね? 福岡といえばラーメンってよく聞くけど、これが……すごいね」

 

「私も福岡に行ったことあるんだけど、本当にどこも豚骨ラーメンしか無くてビックリしたんだよね。あとやっぱり屋台! 夜の街に出てみると、ラーメン屋台がズラーって!」

 

「そう、とんこつは福岡で発展したラーメン文化なんだ。福岡じゃ豚骨に非ずんばラーメンに非ず! 都内だと豚骨をベースに魚介や鶏のスープをブレンドするお店が多いけど、ここは本場昔ながらの豚骨100%だからね」

 

「さすがラーメンマスター……博識ですね千砂都さん!」

 

 

 テーブル席に着き、メニューを確認。枕詞の無い『ラーメン』のお品書きが自信と思想の強さを感じさせる。ラーメンがとんこつ一本である反動なのか、サイドメニューやセットメニューは豊富で、何を選ぶべきか中々悩ましい。

 

 各々が悩んだ末の決断を下し、注文。しかし、そこで店員から思わぬ一言が投げられる。

 

 

「麺の硬さはどうされますか?」

 

「麵の硬さ……? あっそういえば、確かとんこつラーメンは自分で硬さを選べるんだっけ」

 

「その通りデス音羽! 消化に優しい『ヤワ』から、基本の『カタ』や『バリカタ』。店によっては『ハリガネ』や『ナマ』、『粉落とし』ナンテのもあると聞きマス」

 

「それは私も聞いたことあります! 『ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ』ですよね!」

 

「うーん、恋ちゃん惜しい。どーしよっか……私はやっぱり『バリカタ』かな~」

 

 

 恋に軽いツッコミを飛ばしながらも、メニューの次は硬さに頭を悩ませるかのん。可可と千砂都が『カタ』を選ぶと、恋と音羽も同じものを選択。かのんは『バリカタ』、すみれが『普通』を選んだ。

 

 

「そういえば……ラーメンって中華料理? 日本料理? 僕、ちゃんとした中華料理の店でラーメン見たこと無いなぁって」

 

「中国の『拉麺』と日本の『ラーメン』は全然別物なのデス。ククの故郷、上海では日式拉麵と呼ばれて大人気デシタ。特にとんこつラーメンの強烈なコクと、麺の硬い食感は、中華には無いスバラシイ味覚デス!」

 

「すみれさん。それは何を食べているのですか?」

 

「高菜よ。こういう野菜類を先に食べとけば脂の吸収を抑えられるから」

 

「高菜を先に食べると怒られるーみたいな話もあるけどね。ラーメン文化はそういう気難しい面があるから、敬遠されがちだよね」

 

「ちぃちゃん詳しいね、やっぱさすが飲食バイト……って私も喫茶店の娘だった」

 

「ラーメンお待たせしましたー。セットは後でお持ちしますねー」

「早いっ!?」

 

 

 軽い雑談が終わらない内にラーメンが運ばれてきて、声を出して驚いてしまう音羽。とんこつラーメンの店は、ラーメンが来るまで異様に早い。早い店だと本当に体感一瞬で来る。

 

 黒い器に白濁したスープのモノトーン。具はチャーシューや刻みネギは外せないとしても、変わったところだとキクラゲか。湯気と共に立ち昇ってくる豚の香りがなんとも重厚だ。

 

 ラーメンは寿命の短い刹那的な食べ物。ひとたび手元に来たら駄弁るのは悪手だ。手早くその容貌を写真に収めると、全員が黙って手を合わせた。

 

 

「いただきます」

 

 

 誰に教わったわけでもないが、まず音羽はレンゲでスープに手を付けていた。表面に脂が浮いた見るからに重量級のスープを、慎重に息で冷ましてから口に運ぶ。

 

 

「~~~~っ!! すごっ……美味しい!」

 

 

 思わず声に出てしまったが、無理もないと皆が頷く。インスタントで食べる豚骨スープも美味しいのだが、これはインパクトが別次元だ。口に入れた瞬間、独特な野趣溢れる香りと共に脂の旨味が一気に広がった。

 

 普段お店で食べる醤油ラーメンや塩ラーメンの、様々な出汁の味わいが掛け合わされた複雑巧緻な味わいとは全く違う。持ち得る『豚骨』という武器ただ一本での真っ向勝負。力強く、潔い、なんとも漢らしい味だ。

 

 

「美味しいですね音羽くん……!」

 

「ねっ! 濃厚で、どんな料理より豚を食べてる! って感じがする。でも意外と後味はスッキリだ」

 

「豚骨を乳化するまでじっくり煮込んで、なおかつ血抜きや灰汁抜きをしっかりやってるからこその美味しさなんだ。うーん……やっぱり良いよね! 上から見たらマルなのも、ラーメンのいいところだよ!」

 

「大変手間がかかっているのですね……納得の美味しさです」

 

 

 今度は麺を持ち上げ、一気にすすり上げる。この瞬間こそがラーメンの醍醐味だ。音羽がよく食べる麺とは違って細くまっすぐだが、そのおかげで濃厚なスープが麺に絡み過ぎることなく、最適なバランスで口の中に入ってくる。そして硬い麺の食感が豚骨にとても合う。

 

 具材のチャーシューやネギも抜かりなく美味いが、白眉は意外にもキクラゲだ。このコリコリとした食感が、丼の中で心地の良いメリハリを生み出している。

 

 

「そういえば、すみれちゃんが食べてた高菜に、辛味噌や……ゴマに紅ショウガまで色々あるね。これ全部取っていいの?」

 

「もちろんデス。味のカスタマイズもとんこつラーメンの魅力デスので!」

 

「私のイチオシは紅ショウガだね! 紅ショウガは邪道だとか、存在意義は無いとか、そんなこと絶対無いから。紅ショウガは美味しいから。紅ショウガ入れよう?」

 

「千砂都ちゃん、なんだか圧が……」

 

 

 その一方で、

 

 

「かのん、落ち着きなさい!? それは流石にダメったらダメよ!? 明日も学校あるの分かってる!?」

 

「わかってる……でも……! こんなに美味しいラーメン……にんにくを入れないと逆に失礼じゃないかな!? うん、私はそう思う!」

 

「だとしても男子の前で女子がやっていい行動じゃないわよ!? 目が! 目が本気!」

 

「にんにくを入れると美味しいのですね! 勉強になります!」

 

「ちょっと待ってええええっ!!」

 

 

 食べ方、愛し方、全てが千差万別の十人十色。この共通言語を介し、人々はテーブルを囲んで笑顔を咲かせる。それがこの国で最も親しまれる大衆食『ラーメン』なのだ。

 

 続々と運ばれる餃子やチャーハンも美味い。ラーメンとの相性も言うまでもない。しかし、宴の終わりは必然的に訪れる。

 

 

「あっ、もう麺が無くなってしまいました……美味しいだけにあっという間でしたね」

 

「そうだね。スープはまだこんなに残ってるのに、ちょっと寂しいなぁ」

 

「ふふふ……レンレン、音羽、とんこつラーメンの本番はココからデスよ……とんこつラーメンにおしまいなんて無いのデス!」

 

「「えっ?」」

 

 

 可可から伝えられる、博多とんこつ最大の特徴ともいえる必殺技。

 そう、とんこつラーメンを前に欲望を我慢する必要なんて無いのだ。満たされるまで食べて、楽しめばいい。この合言葉と共に。

 

 

「「替え玉、お願いします!」」

 

 

 粗削りなのに洗練されていて、愚直と言えるほど純粋。それでいて決して折れない力強さと、人を惹きつける輝きを持っている。なによりも自由で楽しい。そうだ、この一杯に込められた熱気は、音楽に例えるのならどこかライブに似ている。

 

 音羽がとんこつラーメンをそう感じたところで、再び麺が無くなり、器の底も現れる。皆が満たされたところで手を合わせ、今度こそ宴は終わりを迎えた。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

 __________

 

 

「いやー食べたねぇ。いい食べっぷりとリアクションだったよ~おとくんに恋ちゃん!」

 

「本当に美味しかったよ! 紅ショウガがあんなに合うとは思わなかったなぁ。でも恋ちゃんとかのんちゃん……なんか遠くない? 大丈夫?」

 

「どうしましょうかのんさん……まさかここまで匂いが強いとは。大変美味しかったのですが、このままでは少し……」

 

「とりあえずブレスケア買おう恋ちゃん。あとリンゴも臭いに効くって聞いたことある。おとちゃん、いま絶対近付かないで。絶対」

 

「あんたねぇ……ラーメンに替え玉とご飯って、どう考えても食べ過ぎじゃない。太るわよ!?」

 

「スクールアイドルにとって『ラーメン』と『ごはん』は神聖な食べ物……この組み合わせを外すなんてありえマセン。そんなことも知らナイとは……まだまだ勉強不足デスねすみれは……うっ……」

 

「青い顔で言われてもねぇ……ほら、しっかり!」

 

 

 食事を終え、はしゃぎ過ぎた者は深手を負いつつも、揃って帰路に就く6人。なんでもない会話から本当にいい思い出になった。腹も心も満たされ、音羽はこの上なく満足だった。

 

 

「うん……楽しかったなぁ。また行きたいね。次はどうしよっか?」

 

「とんこつだけでも色々ありマスよ! 鹿児島ラーメンに、熊本ラーメン、久留米に長浜!」

 

「ご当地麺なら、ラーメンじゃないかもだけど沖縄そばも美味しいわね。あとはやっぱり北海道の札幌味噌に、旭川醤油もショウビジネス的にアツいんじゃない?」

 

「いやいや、広島や新潟の背脂ラーメンに、鳥取の牛骨ラーメン。さっぱり濃厚の和歌山ラーメン、真っ黒スパイシーな富山ブラックも捨てがたいよ~? 乾麺を使った竹岡式も面白いし!」

 

「いや本当によく知ってるね、ちぃちゃん……」

 

「日本全国でそんなに……ラーメンの世界は奥が深いのですね。全て味わおうと思うと、どれだけ時間がかかるのでしょう……」

 

「確かに……でもさ、今日みたいな日が、少しずつ……でもずっと続いたら、いつか全部食べられるかもね。みんなで一緒に」

 

 

 いつか『Liella!』が無くなって、みんな大人になっても、この食べきれない幸福を分かち合いたい。音羽はそんな身に余る未来を夢想する。

 

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()()

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 ラブライブ東京大会を視界の奥に据え、音羽は今一度その覚悟を固く結んだ。

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