別冊星達のミュージアム 第2号   作:苗根杏

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15作目は、にわにわさんの作品です。
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心砕

 ある日の朝。かのんとすみれは、部室へと呼び出されていた。今日は朝練もない中、わざわざかのんとすみれを呼び出した人物とは……

 

「失礼しま~す。ごめんね、四季ちゃん。待たせた?」

「平気です。私もさっき来た所なので」

 

 若菜四季。先日、中学からの友達である米女メイと一緒に入部した、新たなスクールアイドル部員だ。メイの為にと色々とスクールアイドル絡みで動いている内に、自らもスクールアイドルの世界に興味を持ち、メイと手を繋いで共に飛び込んだという経歴を持ち、生物や化学が好きという一風変わった人物だ。

 そんな四季からの相談というのは二人には想像し難く、この場所に来る前にある事ない事を話し合ったりという一幕もあった事はさておき。

 

「で、話ってなんなのかしら?」

「もしかして、練習の事で何か聞きたい事とかあったのかな?」

「いいえ、単刀直入に聞きますが……二人は、音ちゃんの事が好きですよね?」

「「……!?」」

 

 予想だにしない方向からの質問に、二人の頭に雷が落ちる。好き、とは友達という意味ではなく、わざわざ聞いてくるという事はその言葉の意味は明らかだろう。事実、二人は音羽に少なからず特別な意味で好意を持っており、お互いしのぎを削り合う仲にあるのだ。

 

「なっ、なんでそんな事をあんたが聞くのよ!」

「というか、いつから気づいてたの!?」

「なんとなく……二人を見てたら、そんな感じがしたので」

「そ、そうなのね……それを聞くためにわざわざ?」

「いいえ。実は……」

 

 まさか事実確認の為だけに呼び出したのではないだろうと四季に問いかけるすみれ。勿論、四季もそんなつもりはなく続く言葉を二人に伝えようとする。かのんとすみれは、一体どんな言葉が飛び出てくるのかと息を吞んだ。

 

「私は……音ちゃんが好き、なんです」

「「……はあああああぁぁぁぁ!?」」

「あの、先輩。声が大きいです」

「いや、いやいやいや! そりゃ大きい声も出るわよ!」

 

 すみれとかのんは、四季の口から出た言葉の衝撃に耐えられないとでも言わんばかりに詰め寄っていた。

 

「そ、それってつまり。四季ちゃんもライバルって……」

「先輩方、この話にはまだ続きが……なので、一旦離れてください。話しにくい……」

「あっ。そ、そうね。この私とした事が、少し取り乱しちゃったみたいね」

「それで、四季ちゃん。お話の続きって」

「はい。私は、音ちゃんが好き……でも、その“好き”がどういう“好き”か、まだよくわからないんです」

「純粋に先輩として慕ってるのか、或いは恋心を抱いているのかわからない、って事?」

「はい。なので……先輩方。音ちゃんとデートさせてくださいませんか? 私が音ちゃんの事をどういう風に好きなのか、音ちゃんと一緒にいる事でそれを確かめたいんです」

 

 四季からのお願い。それが、二人を呼び出した理由だろう。だがしかし、その少しズレたお願いに、二人は思わずきょとんとした。

 

「あのねぇ、四季……音羽とデートしたいなら、音羽自身にお願いしなきゃ」

「うんうんっ。それに私達、まだおとちゃんと付き合ってるわけじゃないから、別に許可とか……」

「ま、最終的に音羽と付き合うのは私なんだけど!」

「ちょっと、すみれちゃん! それ私が言おうとしてたの!」

 

 四季を差し置いて騒ぎ始めた二人に四季はきょとんとしながら、

 

「わかりました。じゃあ、今日の練習が終わったら音ちゃんに聞いてみようと思います」

 

 そう、返すのだった。

 

 ***

 

 時は飛んで練習後、四季は言質通りに音羽をデートに誘おうと、練習の後片付けをしている音羽に近寄った。

 

「あの、音ちゃん」

「四季ちゃん。どうかしたの? そうだ、今日のステップ、凄く上手く出来てたよ!」

「あ、ありがとう……」

 

 柔らかい笑顔で褒められ、四季は顔を赤らめる。こういった所も音羽の魅力であろう。だがしかし、魅力に流されてては本題に入れない。意を決し、四季は自己の中で言葉を固めて解き放とうと、音羽に向き直る。

 

「あ、あの……えっと……」

「ん?」

「きょ、今日。一緒に帰りたい……じゃなくて、一緒に帰ろう」

「うん、いいよ」

「えっ」

 

 まさか飛んでくるとは思わなかった音羽の肯定に、四季は思わず声を上げる。だがしかし、そこは音羽。まさかデートの誘いだとは思わず。

 

「僕もメイちゃんや四季ちゃんと、もっとお話ししたいって思ってたし」

「がくっ……そうじゃなくて、今日は二人で、帰りたいの」

「あれ? メイちゃん、今日は用事とかあるの?」

 

 会話が進む内に自然と出てきた疑問を口にすると、外野から回答が飛んできた。今の四季の誘いで行間を読めないのも、また音羽である。

 

「んあ? 別に、何もないぞー?」

「えっと……音ちゃん。わっ、私は。音ちゃんとデート、したいの」

「……ふぇっ!?」

 

 デート、その単語が登壇した瞬間、四季の顔の赤が音羽にも移る。がしかし、音羽以上に驚愕の声を上げる存在がいたのだ。

 

「はああっ!? ちょ、おいおいおいおい! おま、四季がデートだと!?」

 

 その声は当然、部室中に響き渡るワケで。その反応は三者三様。

 

「ほえぇ、四季ちゃんと音羽先輩がデートっすかぁ。都会は進んでるんすねぇ」

「ありゃりゃ。もしかしておとくん、また女の子を……」

「可可知ってマス! こういう時、音羽の事をたらしと言うのデス!」

「たらし、とは何ですか?」

 

 と、メイの叫びで部の中は一気にカオスに。それがまた、四季の中の羞恥を加速させていき、遂には音羽の手を取り部室を飛び出した。

 

「い、行こうっ。音ちゃん」

「う、うん!」

 

 パタリ、と閉じたドアを見ながらまだまだ会話が尽きない面々。それとは打って変わって、かのんとすみれの二人は、そのドアの向こうを不安そうに見つめるのであった。

 

 ***

 

 学校から駆け出した二人は適当な所で止まり、呼吸を整えようとしていた。四季も最近までインドア派であったし、音羽もマネージャー業の一環として何度もLiella!のメンバーと走っているとは言え、それもたかが知れている。二人はしばらく、息絶え絶えと言った様子であった。

 

「はっ……はぁ……ごめん、音ちゃん。急に飛び出しちゃって」

「ううん、平気。僕も、あんまりデートって言われるの……慣れてないから」

「慣れてないって」

「んとね、よくかのんちゃんや他の子とも二人で出掛ける事があるんだけど」

「むぅ……音ちゃん。今は、私との時間だから……あんまり、他の人の名前、出して欲しくない」

 

 先に呼吸のペースを取り戻した四季は、音羽の腕にしがみつき顔を寄せる。初めて至近距離で見る四季の顔に再度音羽は顔を赤らめる。澄ました顔をしているイメージが強い四季だが、そんな四季が普段は見せない潤んだ瞳、スラッと整った鼻、肉厚な唇の色艶、その全てが音羽の意識を誘い込む。ドクドクと波打つ心臓が、整ってきた呼吸を再び乱れさせるようで。

 

「あ、あの四季ちゃん! 近いっ!」

「……! そ、Sorry、配慮が足りなかった」

 

 二人して顔を赤らめ、互いに飛び退く。街を行き交う人々の視線など気に止める暇もないぐらいに互いを見つめ合う。いや、相手の視線に捉えられてしまっていると言った方が正しいか。先にその拘束を解いたのは、音羽であった。

 

「え、えっと……どこか、行きたい場所ってある?」

「えと、えっとえっと……取り敢えず、何か食べたい。練習後の糖分補給は大事」

「そっか……わかった。それじゃ、美味しいモノ食べに行こ!」

「音ちゃん、良いお店知ってるの?」

「うん。最近、皆と食べ歩きとか結構してて……昔の僕じゃ、考えられないけどね。あはは」

 

 皆と、という言葉にまた四季の胸がチクリと痛む。四季の口からは、自然と言葉が紡がれていた。

 

「……これからは。これからは、私もいっぱい、音ちゃんと食べ歩き、したい。ダメかな?」

「勿論! よろしくね、四季ちゃん」

 

 にこっ、とまた柔らかい笑顔を四季に見せる音羽。自分の口からなんでそんな言葉が出てきたかわからず戸惑うまま、でもその笑顔が、胸に刺さった棘を溶かすような。そんな感覚に四季はまた、顔を赤らめるのであった。

 

 ***

 

 四季が音羽に連れられてやってきたのは、モンブランを取り扱っているキッチンカーであった。

 

「私、音ちゃんに栗が好きって言ったっけ?」

「そうなの? 偶然だけど……四季ちゃんが喜んでくれるなら、嬉しいな」

「ん……ありがとう」

「店員さん、モンブラン2つください」

 

 店員に注文をし、お金を払う音羽。四季も続いて財布を出そうとしたが、それを音羽が制止する。自分で払う気満々であった四季は、面食らった顔で音羽の方を見て口を開いた。

 

「音ちゃん、お金……」

「いいよ、四季ちゃん。ここは先輩の僕に払わせて、ね?」

「ありが、と……」

 

 音羽の言葉に甘える事にした四季は、素直に財布をしまったのだった。やがて、二人分のモンブランが運ばれてきて、音羽はそれを受け取り片方を四季に渡す。

 

「はいっ。四季ちゃんのは、ちょっと大きい方ね」

「そこまでしなくてもいいのに……」

「ううん。折角、2人でお出掛けだもん。四季ちゃんにはいっぱい楽しんで欲しいから!」

「ん……」

 

 四季は、音羽から飛んでくる甘い言葉の応酬―無論、音羽は無意識である―に何度も何度も顔を赤らめていた。モンブランの上に鎮座する主役の栗を口に運び、それが口の中でほどける。零れ出る甘さは、いつもの何倍も強く感じられたのであった。

 高鳴る鼓動、火照る頬、自分の瞳に映るその顔、その全てが、四季が押しとどめていた心にヒビを入れる。とめどなく溢れ、思わず言葉にしてしまいそうになるそれを、まだ口の中で蕩けていたモンブランと一緒に飲み込む。

 四季の気持ちを覆っていた殻が完全に砕け散り、四季は自分の中で眠っていたその感情を確信したのであった。

 

 ***

 

 その後も二人は原宿の街を練り歩き、そうして日の傾きが別れの時間を告げてきた。

 

「今日はありがとう、四季ちゃん。四季ちゃんとお話するの、凄く楽しかったよ」

「私も……音ちゃんと一緒にいれて、嬉しかった」

「そっか、だったらよかった」

 

 そう言って、また笑う音羽。何度も何度も、同じ笑顔が同じだけ、身体の中に熱を蓄積させる。その熱が、また自分の心の中を押し出して。四季は音羽の前に一歩踏み出し、クルリと音羽の方に向き直る。

 

「今日は……」

「ん?」

「今日は……好きなモノが一つ増えた。そんな日になった。ありがと、音ちゃん。また明日ね」

 

 そう言って、四季は音羽に別れを告げた。その言葉が表わす意味を。

 

「あのモンブラン、気に入ってくれたのかな? また今度一緒に行こうね」

 

 察せないのが、音羽であった。

 

 ***

 

 次の日の朝。かのんとすみれは、部室へと呼び出されていた。今日は朝練もない中、わざわざかのんとすみれを呼び出した人物とは……

 

「失礼しま~す。ごめんね、四季ちゃん。待たせた?」

「平気です。私もさっき来た所なので」

「って、なんか覚えのあるやり取りね」

 

 言わずもがな、四季であった。昨日の今日で呼び出された二人は、果たして四季が出す答えとは何なのか、この場所に来る前にある事ない事を話し合ったりという一幕もあった事はさておき。

 

「それで四季、答えは出たのね」

「はい。私は、音ちゃんが……好き。だから……」

 

 好きと一言だけ。脚色もないその一言が表わす意味は、明らかであった。次いで出る言葉は宣戦布告か、かのんとすみれは四季が紡ぐ言葉の続きを想像し、息を吞んだ。

 

「メイと音ちゃん……両手に花の、イチャイチャパラダイスを創ります」

「「……は?」」

「だから、先輩達に音ちゃんは渡しません」

「いや、いやいやいや! ちょっと待ってよ!」

「色々、ツッコみたい所があるんだけど!?」

 

 かのんとすみれは、まさか真面目な顔で四季の口からそんな言葉が出てくるとは思わず、昨日と同じく四季に詰め寄った。

 

「まず、両手に花のイチャイチャパラダイスって……何!? というか、えっ。四季ちゃんってメイちゃんが好きなの!?」

「昨日、音ちゃんと過ごしてわかったんです。私が音ちゃんに感じる好きって気持ち……メイと、全く一緒だって」

「ええっと、つまり……四季は、メイと音羽の事がどっちも恋愛的に好きで。両方とも付き合いたいと」

「はい。あ、メイの事も渡しませんよ?」

「受け取らないわよ!!」

 

 かのんとすみれは、半ば呆れた表情を浮かべながら顔を見合わせる。突如現われたダークホースが、文字通りダークな野望で自身のハーレムに音羽……自分達の好いている相手を加えると。二人の返答は当然、決まっていた。

 

「あんた……なかなかいい度胸してるじゃない! かのん、一途の恐ろしさ、この子に思い知らせてやるわよ!!」

「えっ、あ、うん! でも、おとちゃんと付き合うのは私だからね!」

「それはこっちの台詞よ!」

「その言葉、そっくり私が貰います」

 

 バチバチと火花を散らす三人。こうして人知れず、音羽を巡る戦いは四季を向かえ、新たなフェーズへと移行したのであった。

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