人と人が激しく行き交う休日の原宿で、音羽はある人物を待っていた。今現在のLiella!は順風満帆。何より新入部員が加入し、学校で改めてライブを行った事で全体の士気が高まっていた。音羽が待つのは、そんなLiella!の台風の目。
「音羽せんぱーい!!」
「あ、きなちゃん! こっちこっち!」
桜小路きな子。結ヶ丘に入学するために、北海道から上京してきた少女だ。ひょんな事からLiella!に加入したきな子は、二年生の面々の指導もあってか、めきめきとその実力を伸ばしている。1ヶ月程前まで殆ど運動の経験が無かったと言っても、信じがたいだろう。
「音羽先輩、今日はエスコートよろしくお願いしますっす!」
「うんっ。頑張るね」
そんなきな子だが、今日は音羽と2人で遊ぶ約束をしていた。もっと音羽と親睦を深めたいというきな子たっての希望に、音羽が応えないわけはなかった。
「ところで音羽先輩、スポッチャって何をするところなんすか?」
「きな子ちゃんが行きたいって言ってから、少し調べたんだ。屋内で色々スポーツが出来るんだって。サッカーとかバスケとか、少し変わったので言えばローラースケートとかも出来るらしいよ!」
「ローラースケート……! きな子やった事ないっす! そんなのもあるなんて都会は凄いっすね」
「僕もやった事ないから、一緒に頑張ろっか!」
「はいっす!」
そうして2人、休日の街の喧騒へと溶け込んでいくのであった。
***
待ち合わせ場所から少し歩いて、目的の場所へと到着した2人。休日という事もあり、スポッチャは家族連れで賑わっていた。受付で手続きを済ませた2人は、早速目的のローラースケートのブースへと足を運ぶ。
「はい、きなちゃんのヘルメット」
「ありがとうっす! 音羽先輩、頑張りましょうね!」
「うん!」
ヘルメットを着用し、早速靴を履き替えた2人。手すりに掴まりながら移動し、広い場所に出たところで……早速、ローラースケートの洗礼を受ける事になった。
「あ、あばばばば……バランスが、取れないっす~!」
「だだ、大丈夫きなちゃん!? 僕に掴まって……うひゃあ!?」
「音羽先輩もぐらぐらじゃないっすか~! あひゃあ!」
2人仲良く、尻餅をつく。ズドンと大きな音が立ち、周りの視線が刺さる。その中には、軽やかに滑りながらクスクスと笑っているずっと小さい子供もいた。
「うぅ、結構難しいっすね……」
「仕方が無いよ。誰だって初めてはこんな風だと思うな」
「た、確かに……きな子も、初めて先輩達と一緒に踊った時は散々だったっす」
「うんうん。でも、今は皆と一緒に踊れてるでしょ? 練習あるのみだよ!」
「はいっす! バリバリ行くっすよ~!」
そうして練習する事一時間。元々センスが備わっていたのか、きな子はスラスラと滑れるようになっていた。
「ひゃっほー! 楽しいっす~! 音羽先輩も、こっちまで来るっすよ!」
「ちょ、ちょっと待って。今、行くから……ひぃん!」
一方音羽はと言うと、未だに壁から1mも離れてはすってんころりんと尻餅をつく有様であった。そんな音羽にきな子が駆け寄る。
「大丈夫っすか? 音羽先輩」
「へ、平気だよ……きなちゃんは凄いね」
「えへへ、ありがとうっす。でも、きな子は音羽先輩と滑りたいっす。だから、音羽先輩も頑張るっすよ!」
「きなちゃん……うん、ありがとう」
きな子が差し出した手を、音羽が取った。
「えへへ。きなちゃんももう、こっちを引っ張ってくれる立場になったんだね」
「そ、そんなぁ。照れちゃうっすね、えへへ……ほら、音羽先輩。一緒に滑りましょうっす!」
「うん!」
きな子に手を引かれ、音羽も滑り出す。しばらく滑ったところで、きな子はそっと、音羽の手を離した。慣性の法則に従って、勢いはそのまま、音羽ときな子が併走する形になった。
「……あれ? わぁ、きなちゃん! 僕、滑れてる! 滑れてるよ!」
「あ、音羽先輩! そんなにはしゃいだら」
「うわぁ!?」
「あぁ、言わんこっちゃないっす……」
何度も何度も尻餅をついた音羽だが、それからさらに10分が経った頃、音羽もきな子と同じぐらい滑れるようになり、2人はそのまましばらくローラースケートを楽しんだのだった。
***
「ごくっ……ごくっ……ぷはぁ! 生き返るっす!」
一通りローラースケートを堪能した2人は、併設のカフェテリアで休憩を取っていた。音羽のカフェオレ一杯とサンドイッチ一切れに対して、きな子の目の前にはジュースにパスタ、ホットケーキと、所狭しと皿が並べられていた。
「ふふっ。きなちゃんって、美味しそうに食べるよね」
「はっ……しまったっす! 減量しなきゃ、またすみれ先輩に色々言われてしまうっす~!」
「うぅ~ん、でも今日はいっぱい運動するよ? 食べた分いっぱい運動すれば、僕は大丈夫だと思うな。それに、食べたい物を我慢するのも健康に良くないって聞いた事あるし」
「ほ、本当っすか~? えへへ~、音羽先輩は甘やかす天才っすねぇ。あ~むっ」
「うん……うん?」
褒められたのか多少疑問を感じている音羽を差し置いて、きな子の目の前の皿はどんどんと片付けられていく。
「音羽先輩こそ、むぐむぐ。それだけでこの後大丈夫っすか?」
「う~ん……僕、あんまりお腹入らなくって」
「きな子のホットケーキ、一切れ分けてあげるっす! 甘い物を食べた方が、この後もっと頑張れるっすよ!」
「う~ん、きなちゃんがそう言うなら……一口頂こうっかな。あ~ん」
「えっ」
「あっ」
きな子が驚いたのも、無理はない。音羽はきな子のホットケーキに対して口を開けて待機……所謂、「あ~ん」をして貰おうとしたのだ。当然、そのつもりがなかったきな子は思わず声を漏らした。
「ごめん……普段からかのんちゃん達にして貰ってるから、自然にしちゃった」
「あ~ん、を自然に? と、都会は進んでるっすね」
「都会がみんなこうじゃないとは思うけどね」
「ご、郷に入っては郷に従えっすね! 音羽先輩、あ~んっす!」
「あ、あ~ん」
お互い少し頬を赤らめながらも、初めての「あ~ん」は遂行され、きな子のホットケーキが音羽の口の中に消えていった。音羽が感じた甘さは、たっぷりとかかったシロップだけではないのであった。
***
カフェテリアを後にした2人は、次にどんな遊びをしようかと、スポッチャの中を探索して回っていた。
「午後は何して遊ぶっすか?」
「う~ん、きなちゃんが楽しそうだって思ったモノでいいよ」
「それはダメっす!」
歩きながらそんな会話をしていると不意に、きな子は音羽の言葉に反対の意を示した。音羽は急な反論に戸惑いながらも、何故と返す。
「え。ぼ、僕何かおかしな事言っちゃったかな?」
「今日、きな子は音羽先輩と仲良くなりたくて一緒に遊ぼうと思ったんっす。さっきまでは、きな子の好きなものを教えてばかりだったから、音羽先輩が好きなモノの事ももっと知りたいんっす!」
「きなちゃん……うんっ、わかった。きなちゃんがそう言うなら、僕ももう少し考えてみるね」
そうして、音羽の目がより活動的になる。サッカー、バスケ、どれも魅力的ではあるが音羽にとっては激しすぎる、と感じてしまうのであった。
「う~ん……もう少し、程良く体を動かせそうなモノがいいかも」
「程良く、っすか? 難しい注文っすね……むむむ」
「あ。あれとかすっごく楽しそうだな」
音羽が指差したのは、遠目に見てもわかるぐらいボヨンボヨンと上下運動している……トランポリンだった。
「うわぁ! アレを使えば、ダンスの練習以上にジャンプ出来るっすよね!」
「うんうん! きなちゃんも楽しそうって思う!?」
「はいっす! 行きましょう、音羽先輩!」
2人は受け付けを済ませ、早速上下に揺れる地に足を着ける。その振動が身体中を伝播し、2人の身も心も勝手に跳ね始めた。
「ひゃっほ~! これ、クセになるっすね!」
「うんっ! あはは、楽し~!」
2人は揃って、トランポリンを堪能する。軽くジャンプしたり、時に高く飛び上がったり。だがしかし、2人を捉えて離さないこの揺れる地面の恐ろしさを、2人はこの後身をもって知る事になる。
「あ、あの。音羽先輩……」
「うんっ……もしかして、トランポリンって……結構、疲れる?」
そう。音羽達以外にもトランポリンを利用する客は存在し、それに伴いトランポリンも揺れ続ける。このトランポリンというレジャーは、その地面の動きに合わせて“跳ね続けなければならない”。その事実に、最初は楽しげだった2人の顔から段々笑顔が消え失せ、10分もしないウチに2人は息絶え絶えとしていた。
「き、きなちゃん。僕……」
「多分、きな子と考えている事は一緒っす……早く、脱出しなきゃ」
2人は揃って、出口の方へと移動しようとする。だがしかし、ぐらぐらと揺れるトランポリンの上でバランスを保つのは至難の技であり、移動する途中できな子はバランスを崩してしまった。
「ひゃっ!?」
「っ、きなちゃん!」
倒れ込んできたきな子を、音羽はなんとか受け止めようと全身を伸ばす。結果、音羽がきな子を抱き留める形となり、そのまま音羽はトランポリンの上に尻餅をついた。
「あいたたた……きなちゃん、大丈夫?」
「は、はい。ありがとうっす、音羽先輩」
お互い、何も怪我がなかった事を安堵し笑い合ったが、その直後に。
「みて、ママ。かっぷるー」
「こら、人の事を指差しちゃいけませんよ」
外野からの言葉で、お互いの頬が真っ赤に染まった。急いで離れた2人は、気まずそうに言葉を交わし。
「は、早く出よっか」
「そう、っすね」
そそくさと、魔のトランポリンから脱出したのであった。
***
「今日は楽しかったね! きなちゃん」
夕焼け色に染まったスポッチャから、出てきた2つの人影。音羽ときな子だ。あの後もゴーカートやビリヤード等、楽しめるだけ楽しんで来た2人は満足げな表情でスポッチャを後にするのだった。
「はいっす! 音羽先輩と仲良くなれた気がするっすよ♪」
「そう言って貰えて、嬉しいな」
「まぁ、少しだけ距離感が近すぎる気はするっすけど」
「うっ、反省します……」
痛い所を突かれた音羽、最近かのん達面々の距離感がバグり散らかしている事を自覚させられたのであった。
「でも……音羽先輩となら、不思議とイヤじゃないっすよっ」
くるり、と夕日を背にしてきな子が音羽に向き直る。その笑顔は、音羽の目には夕日よりも眩しく映るのだった。
「今度は、先輩達とも行きたいっすね~!」
「……ふふっ、うん!」
「あとは~、これからLiella!に入って来る1年生の子達とも遊びたいっす! どんな人が入ってくるっすかね~」
「きっと、素敵な子達だよ」
「そうっすね!」
音羽ときな子、並んでこれからの事を話しながら、夕焼けの街を歩く。そうして、やがてお別れの場所へと辿り着いた。
「それじゃ、音羽先輩! 明日の練習もよろしくっす!」
「うん。またね!」
朝よりも少し仲良くなった2人はまた明日と、手を振りそれぞれの帰路につくのであった。