別冊星達のミュージアム 第2号   作:苗根杏

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6作目は、にわにわさんの作品です。
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フタリ夜ニ落チテ

 葉月恋は無類のゲーム好きである……その事実が公に晒される事はないが、結ヶ丘の他の生徒がそれを知ったら驚くだろう。一時は他事がおろそかになるほどにのめり込んだ事もあったが、Liella!の面々の尽力、そして何より恋が恐れずに自分の気持ちを赤裸々に皆に話した事で事態は解決した。だがしかし、それ以来部室では空き時間になると、ピコピコとポニーテールを揺らしている恋の光景が見られるようになったのである。そんなある日の事。

「音羽くん、音羽くん」

 練習が終わり、音羽が自分の片付けを終えたところで、恋は彼に声をかけた。

「どうしたの、恋ちゃん?」

「実は、音羽くんと一緒にやりたい……と言うよりは、音羽くんに助けていただきたいゲームがあるのですが」

「ふふっ、いいよ。でも、僕あんまり得意じゃないし、一緒にやってて楽しめるかどうかわかんないけど」

「いえいえ。音羽くんと一緒なら、なんだって楽しいです」

 そういって、恋はニッコリと笑うのだった。その笑顔に応えた音羽は、両親に恋の家へと寄ってから帰るという旨のメッセージを伝え、恋と2人、部室から去って行ったのだった。そんな2人をねめつける様な視線が3つ。

「ぐぬぬ、ナチュラルにおとちゃん取られた……恋ちゃんはやっぱり強敵だよ」

「羨ましい。私も、音ちゃんと放課後実験とかしたいのに」

「それはよくわかんないケド……見てて落ち着かないのよねぇ。フラグが立ってるのか立ってないのかわかんない所とか」

「……あの3人は何を話してるっすか?」

「きなきなもそのうちわかる日が来るデスよ」

「ふふっ、おとくん憎いねぇ」

「にゃはっ! 良いことを思いつきましたの、グループ内での恋愛ドラマをドキュメンタリー形式にしてひとバズり……」

「マジでやめろ、な?」

 そんなやり取りがあった事を、音羽達は知る由もないのだった。

 ***

 さて、場所は移って葉月邸。恋のゲーム部屋に鎮座したテレビを前に、音羽は恋からゲームのコントローラーを分け与えられていた。

「それで恋ちゃん、このゲームってなぁに?」

「はい、ピ○ミンです!」

「ピク○ンかぁ。僕も名前ぐらいは聞いたことあるかも」

 恋が音羽に見せたパッケージには、頭から葉っぱを生やした人型のキャラクターが描かれていた。少し前に話題になったタイトル故か、音羽の耳にも入ったことはあるようだったが、その内容までは知らなかったようだ。

「それで恋ちゃん、これってどういうゲームなの?」

「そうですねぇ……説明も兼ねて、新しいデータで始めましょうか。前のデータは事情があって止まってしまっているので」

「うん……?」

 そう言うと恋は、新しいセーブデータを立ち上げた。音羽は恋の言葉に疑問が残るのだったが、黙ってテレビの画面へと向き直る。選択画面に出てきた「ふたりで遊ぶ」が選ばれ、2人がコントローラーの設定を終えると、画面が影絵風の地球らしき惑星へと切り替わった。それと同時に、恋は音羽へとストーリーの説明を始めたのだった。

「さてさて、音羽くん。このゲームのストーリーですが、序盤はとある惑星に遭難してしまったこちらのオ○マーさんが、この星で出会った不思議な生き物であるピ○ミンさんと一緒に脱出を試みるというお話でして」

「オリ○ー? マ○オじゃなくて?」

「ふふっ、違いますよ。あ、でもオ○マーさんはマ○オさんのアナグラムだそうです」

「へぇ……?」

 恋が音羽に説明しているうちに画面は切り替わり、小さなロケットが一般家屋の中へと飛び込む様子が映っていた。

「うわ、ロケット小さいね!」

「そう! オ○マーさんもピ○ミンさんも、体長は2cm程なんです!」

「あ、ロケットからオリ○ーさんが出てきたよ……あと、こっちの子は?」

「そちらは、オ○マーさんの相棒の宇宙犬です! 可愛らしいですよね」

「犬……? 犬、なの……」

 音羽は、宇宙服を着た人物の隣にいる緑色の生物……どうやら犬らしいそれを見て、首を傾げていた。自身も犬を飼っている恋としては、お気に召しているらしいので、音羽は頭の中に浮かんだ疑問符をそっとしまったのだった。

「ほら、見てください音羽くん。ピ○ミンさんが降りてきました!」

「ホントだ。みんなどこへ行くのかな?」

「ここでは、散らばってしまったピ○ミンさんを集めるのです。音羽くんも画面のカーソルを操作できるので、一緒に探してくださいますか?」

「うんっ。任せて!」

 そうして、恋と音羽の探索が始まったのだった。あっちへ行ったりこっちへ行ったり。探索を進めるうちに、次第に画面が賑やかになっていく。そうして数分経った後、恋はステージの中央へと向かい始めた。

「さて、音羽くん。ここから音羽くんにも協力していただきたいのですが……」

「僕に出来る事があったら何でも言って!」

「先程から音羽くんが操作しているカーソル、Aボタンが出ているのがわかりますか?」

「うんっ。僕もさっき押してみたけど、なんだか石みたいなのが飛ばせるよね?」

「今から敵と戦うので、私が合図したらその石を投げて援護していただけると助かります」

「おっけー。お安い御用だよ!」

 そうして、恋は敵との戦闘を開始した。ハリネズミのような姿形をした敵は、恋へと向かって自身の針を飛ばしてきた。すると、針の下に存在していたピンクの柔肌が露わになる。

「今です、音羽くん! あそこに向けて攻撃してください!」

「わかった!」

 音羽は恋の指示でボタンを連打して、敵への攻撃を開始した。程なくして、敵の頭上に出ていた円形の体力ゲージが黒くなり、その敵はバッタリとその場に倒れたのだった。

「やったぁ! ありがとうございます、音羽くん」

「えへへ、これぐらいだったら僕でも出来そう……あっ、敵がなんか吐き出したよ?」

「宇宙船のパーツですね。これで、オ○マーさんは救難信号を出すのです。それを受け取ったレスキュー隊が、オ○マーさんの救出へと向かうのですが……」

「向かうのですが……?」

「なんと、レスキュー隊の方々も遭難してしまうのです」

「みんなして遭難しすぎじゃない?」

 音羽のツッコミに合わせて、画面上でも煙を上げた宇宙船からレスキュー隊と思しき人物達が、散り散りに星へと墜落していった。

「最早、みんなの命運が尽きたと思われましたが……レスキュー隊の本部には、新人隊員がまだ1人、残っていたのです」

「成る程……その新人隊員を操作して、皆を救いに行くんだね!」

「はいっ! あ、今からその新人隊員のキャラクリですね」

「きゃらくり?」

「自分が操作するキャラクターの見た目を作る事が出来るんですっ。えぇっと、こうしてこうしてこうすれば……どうでしょう、少し私っぽくないですか?」

「ふふっ、あはは。確かに恋ちゃんっぽいかも」

「名前も決められるのですよ。今回は……無難に“REN”で行きましょうか」

 画面の向こうでは、恋のイメージカラーである青の宇宙服に身を包んだキャラクター、RENが宇宙船に乗り込んでレスキュー隊とやらが遭難した星へと向かっていた、

「なんだか、凄く壮大なストーリーだね」

「はいっ! でも、実際はとっても小さい人達の物語なんだと思うと、ワクワクしませんか?」

「確かに。あっ、無事に着陸出来たみたいだよ」

 ストーリーパートが終わり、チュートリアルが始まった。チュートリアルの内容は、着陸した新人隊員RENが、拠点に向かうという内容だが……

「あ……ここは、音羽くんは特にやることがありませんね。敵も出てこないので」

「そうなの?」

「申し訳ございません。もう少し経ったら、音羽くんの出番はいっぱい出てきますから」

「ふふっ、いいよ。恋ちゃんの好きなようにしてくれれば」

 そうして恋は、ササッとチュートリアルを終え、音羽もそれを見て大体のゲーム内容を理解した。どうやら、墜落して故障した宇宙船を修理するため、エネルギーになるモノをどんどん回収していく事がゲームのメインとなるようだ。

「それでは、早速始めのステージに行きましょう!」

「おーっ!」

 恋と音羽は意気揚々とゲームを進める。最初のステージに降り立つと、早速敵がお出迎えとでも言わんばかりに待ち構えていた。

「あ、音羽くん! あの敵に石をぶつけてください! あれはピ○ミンさんを食べてしまう悪い敵なのです!」

「えっ、そうなの!? と、とりあえず……えいっ!」

 恋の指示に従って、音羽は敵に向かって石を投げつける。程なくして敵は地に伏したが、音羽は恋の言葉の中で気になった単語を恋に問いかけた。

「それで、恋ちゃん。ピク○ンって……食べられちゃうの?」

「はい。実は、前のセーブデータではピ○ミンさんを敵と戦わせたら負けてしまって、ピ○ミンさんが食べられてしまったのです。それが凄く悲しくて悲しくて……ですので、次はそんな事がないように、先に音羽くんに敵を全員やっつけて貰おうかと!」

「成る程、責任重大だね……! 僕に任せて!」

 こうして恋と音羽は、2人で連携してゲームの攻略を開始した。恋の合図で音羽が敵を倒して、恋はその敵を回収しての繰り返し。たまにアイテムを回収しては、2人でハイタッチをしたり。いつの間にかピッタリと身を寄せ合ってゲームをプレイしている内に、ステージの探索時間が終了した。

「ふふっ、音羽くんのおかげでとても楽しかったです」

「うんっ、僕も。恋ちゃんのお役に立てて、嬉しいよ」

「……こうして、音羽くんと一緒にゲームが出来るなんて。あの時、Liella!の皆さんに打ち明けてよかったと思っています」

「僕も。恋ちゃんが何かを抱え込むことはないんだって。支えてくれる皆がいるって事が嬉しかった。勿論、僕もその1人だからね」

「えぇ、わかっていますとも。いつもありがとう、音羽くん」

 そう言って、恋は音羽にそっと身を預けた。音羽は一瞬顔を赤らめたが、すぐに微笑んでそれを受け入れた。しかし、音羽の横で何やら恋はウズウズとしているようで……

「それで……なんですけど、音羽くん。その、とても楽しかったので……もうちょっとだけ、一緒にしませんか?」

「実は僕も……思ってたより、楽しいかも」

「で、では晩御飯まで、という事で。そうだ、サヤさんに言って音羽くんの分も用意していただかないと。そうすれば、もっと長くゲームが出来ますし……」

「うんっ……あ、お母さんに恋ちゃんの家で食べるって連絡しないと」

 そうして、音羽が母親への連絡を終えた後にゲームが再開された。2人は無我夢中になってゲームを進めて行く。しばらくしてサヤから声がかかり、2人は晩御飯に舌鼓を打って、そうしてお別れの時間が……

「あ、あの。音羽くん。今晩は泊まっていきませんか? 明日はお休みですし」

「そ、そうだよね。ゲーム、楽しいもんね……じゃなくって! もっと、2人で一緒にいたいもんね」

「は、はいっ。決して2人でゲームが出来るのが楽しいというわけではなく……音羽くんとね、一緒にいたいだけですからね」

「あ、でも僕パジャマ取りに行かなきゃ……出来るだけ早く帰ってくるからね」

「はいっ。行ってらっしゃい、音羽くん」

 と思いきや、お別れの時間はやって来なかった。音羽は恋を待たせまいか、はたまた自分も早くテレビの画面の前に戻りたいのか、音羽に出せる最大限の速度で家へと戻り、必要最低限の荷物を持って恋の家へと舞い戻った。

「ただいま、恋ちゃん!」

「音羽くん! さぁさぁ、早速続きを!」

 時計の針が22時を回っても、2人が風呂を済ませて格好が寝間着に変わっても、2人の冒険は続いた。そんな2人を、部屋の扉の向こうから覗く視線が一つ。

『申し訳ございません、うちの音羽が……』

「いえいえ、お二人とも楽しそうにしていますので」

 電話の向こうとこちら側で、呆れたような溜息が重なっても、音羽と恋はそれを知る由もない。2人の、少しだけワルな夜はまだまだこれからなのであった。

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