「サキ、今日はここでとっくんだ!」
「はぁ、しょうがないわね。でもこんな公園じゃあ誰か使ってないかしら?」
一週間後に男バスとの試合を控えた慧心学園女子バスケ部のメンバー、三沢真帆と永塚紗希は近所の公園に来ていた。
「もうすばるんの力は借りれない。あたしたちだけで勝つんだ」
「そうね、長谷川さんの練習メニューをこなしても勝てるかわからないものね」
「そうそう、ところでさ、やっぱみんな呼んでとっくんやったほうがいいのかなぁ」
「うーん、でもトモはいつも自主練してるんだし、愛莉もひなも今日は用事があるって言ってたんだし、しかたないわよ」
二人がバスケットボールを抱えてゴールのある広場に向かっていると低い怒鳴り声と喧嘩する高い声がした。
「ここはみんなの公園だよ!あなたたちが好き勝手にしていいところじゃない!」
「「「「「そーだ、そーだ!」」」」」
「ウルセーぞガキ共!俺たちはお前らと違って上手いんだからいいんだよ!」
二人がゴールのある広場に着くとそこには籠球と書かれたジャージを着た男子が三人と小さな子供たちを守るように立っている小学生くらいの女の子が喧嘩をしていた。
女の子は帽子を深々とかぶり眼鏡を掛け、夏が近づいているにもかかわらず長袖を着ている。
中学生の一人は今にも口げんかを辞めて暴力をふるいそうな勢いだ。
「た、大変だわ、早く大人の人を呼んでこないと」
「じゃあボクと勝負して!」
「「「はあぁぁ?」」」
「あなたたちが強いからここを使えるんでしょ?だったらボクのほうが強かったらボクたちが使っても文句ないでしょ?」
「いい度胸だ、チビ。じゃあ俺たち三人と勝負して一点でも取れたら俺たちはここから消えてやる。」
中学生はボールを小学生に投げる。
「おねーちゃーん!がんばってぇ」
「あんなおじさんたちたおしちゃえ!」
「さっさとこい!」
バム、バム、バム、
女の子はボールを跳ねさせる。
バン、バン、バン
ゆっくりと歩きだすが中学生は動こうとしない。
おそらく舐めているのだろう、小学生相手に三対一を挑むなど大人げないにもほどがある。
中学生たちは三人で小学生に向かって順に突っ込む。
バムバムバムバム
女の子は加速しながらドリブルする。
中学生の前に来た瞬間、ボールを強く叩きつける。
頭上にボールを通された中学生は全力疾走があだになったのか反応できず小学生の横を通り過ぎ、はでに転倒した。
隙間を通りジャンプしボールをキャッチするとそのままリングにボールを叩きつけた。
「おおーーー!」
「おねえさんかっけーーー!」
見事なダンクシュートに真帆は飛び出し小学生に抱きつく
「すっげー!ねえねえ、いまのどうやんの?」
「えっと、あの、その……」
「こら、真帆!いきなり抱きつくなんて。この子困ってるじゃない」
「あ、そっかそっか。ごめんね」
「本当にごめんなさい、真帆っ、ちゃんと謝って」
「とってもごめんなさい」
「いや、平気だから土下座までしなくても………」
喜んでる子供たちから少し離れたところで中学生たちが立ち上がった。
「おい、待てガキ」
子供たちは全員中学生のほうを見る。
「今の勝負は無効だ」
「ああ、俺たちが負けるなんておかしいよな?」
「今、てめーは俺らに足をかけた。反則だろ?」
近づきながらいちゃもんをつけてくる中学生。
その間に入るように紗希と真帆が前に出る。
「ちょっと待ってください、この子は反則なんてしていません!」
「そうだそうだ!負けたんだからやくそく守れ!」
「んだと?このガキ共!」
「やめろ!」
いきなり低い大声が響く。
広場にいた全員がその声の方向を向く。
そこには背の高い大柄な男の人がいた
「お前等、勝負に負けたんだから素直に譲るのが筋だろう。そもそも公園を占領していたお前らが悪いだろ!」
「万里先輩………」
「だれ?」
「知らないわ」
「悪かったな、君たち。こいつらは俺が連れて行くから」
「はい、ありがとうございました……あっ」
女の子がお礼を言い、頭を下げる。
すると帽子が取れ、白い髪の毛がふわりと広がる。
長さは肩ぐらいで帽子が取れたことで顔がよく見えた。
眼鏡の奥の瞳は宝石のように紅い。
女の子はあわてて帽子を拾う
しかし高校生は先ほどの三人の中学生を連れて公園を出て行ってしまった。
しばらく呆けていた三人は素に戻ると真帆は女の子に質問する。
「そうだ、あたし三沢真帆。ねえねえ一緒にバスケしよ?」
「え、えっと。ボクはゆき、石狩雪」
「学校は?」
「一応、慧心学園」
「え?」
真帆と紗希が驚く。
「え?何組?ってか何年生?」
「六年生、でも転入は明日から」
「ああ、そうなんだ」
「もしかして二人とも慧心学園の生徒?」
「そうよ」
「もちろん!」
「よかった~、今日学校に用事があったんだけど道に迷ちゃって……、案内してくれない?」
「え~っと、そこの道をまっすぐ行けばいいはずなんだけど………」
真帆は公園の近くの道を苦笑して指す。
「あれ?」
「もしかして方向おんちー?」
「ち、違うもん」
雪は真っ赤になり頬が膨れる。
「そ、その、あ、ありがとう。もう行くね?」
「うん、じゃーね。ゆきのん」
「じゃあ明日、会いましょう?」
「うん」
雪は急いで真帆の指差した道に走って行った。
残された紗希と真帆は公園で特訓を終了し、ベンチに座っていた。
「びっくりしたわね。あの子、ヒナより小さいのに同い年なんてね」
「でもあんなに上手ならぜったいバスケ経験者だよ、仲間になってくれれば………」
「愛莉が泣かないといいけどね……」
慧心学園初等部。職員室
大柄な男性教師が資料を読んでいた。
「ふむふむ、石狩雪。か」
「おや、ヤマ先生。それは何ですか?」
やせ形のカマキリのような先生がやってきた。
「ああ、小笠原先生。明日から転入してくる生徒の健康調査票ですよ。本来なら明日学校に来た時でもよかったのですが必要な書類を今日すべて持ってきてくれましてね?」
「真面目な生徒ですな、でも確か転入生はヤマ先生のD組ではなくC組ではなかったですか?」
「ええ、そうなんですが今日は日曜日ですから篁先生きていないんですよ、ですから私が代わりにチェックを」
「担任が篁先生になってこの真面目な子が変にならなければいいのですが………っとここ間違えてますね」
「え?一体どこが間違いなんですか?」
「いや、この性別の欄なんですが………」
「本当だ、男に丸がついていますね、真面目な子だと思いきやうっかり屋なところもありそうですね」
「まあ、こういうところは子供らしいですね」
「自分の性別を間違えるなんてねぇ、こんなかわいい子が男の子のはずがないじゃないですよね?」
「はは、まったく」
「そういえばC組はきれいどころがそろっていますよね、女バスの子や男バスの竹中君も将来有望なイケメン君ですし」
「はぁ、まさかこの子、女バスに入ったりしませんよね?」
「体格的にはスポーツ得意には見えませんけどね、しかもこれは……」
などと冗談を言いながら性別の記入欄を修正する先生。
しかしそれは間違いでもなんでもなかったのであった。
「へくちゅっ、誰か噂してるのかな」
石狩雪、
十一歳、
性別……………、男