日曜日、女子バスケ部対男子バスケ部の試合当日。
篁先生が体育館にいると思ったボクは直接体育館にむかったのだが。
「え?まだ来てないの?」
「うん。長谷川さんが何か頼んでいたみたいで」
「長谷川さん?」
愛莉ちゃんが聞きなれない人の名前を言っている。
「おー、おにーちゃん。だよ?」
「えっと、私たちのコーチをしていただいてる人」
しばらく話していると中学生くらいの男の人がやってきた。
「あれ?愛莉、友達か?」
「は、はい。同じC組の雪ちゃんです」
「こんにちは、石狩雪です。えっと、女子バスケ部のコーチさんですか?」
「ああ、長谷川昴だ。よろしく」
昴さんか………、背も高くてカッコイイな……。
ってあれ?どこかで見たような……
「ミホ姉、………篁先生に用があったのか?」
「はい、今日書類を持ってくるように、と言われたので」
「わざわざ試合の日に持ってこさせるなんて、また何か企んでんな?」
昴さんと話していると、しばらくして篁先生がやってきた。
真帆ちゃん、紗希ちゃんも一緒らしい。
「おーっす遅くなった」
「あ、篁先生。これ」
持ってきた書類の封筒を先生に渡した。
すぐに向こうから小笠原先生がやってきた。
「おや、ようやくのご到着ですか、篁先生。さんざん啖呵を切っておいて、生徒を置いて逃げだしたのかと思いましたよ」
ボクはなぜか怖くて昴さんの後ろに隠れてしまった。
「おはよー! お、真帆、デコに米粒ついてるぞ。――はむっ。……これはコシヒカリ!」
「ぎゃー! みーたんにデコチュー奪われた! 責任とって!」
先生。無視しないほうが………。
そんなボクの考えを知らずに篁先生は小笠原先生の話を無視し続ける。
昴さんは何な篁先生を冷たい目で見ていた。
「おはようみんな。……最後の打ち合わせがしたい。どこか女バスだけになれる場所、ないかな?」
「おはようございます。倉庫で良いですか?散らかっていて汚いですけれど」
「みんなさえ良ければ問題ない。――よし、行こうか」
「って、ミホ姉は来ないのか?」
「作戦知っちゃったら、つまらないだろ」
「……そか。じゃあ、後でな」
「雪ちゃん。また後でね?」
「うん、愛莉ちゃん、真帆ちゃん、紗希ちゃん、智花ちゃん、ひなちゃん。頑張ってね?」
ボクはみんなに手を振り、みんなは倉庫の中に入っていった。
「じゃあ先生ボク上で見てますね?」
「ん?別にベンチに座ってみててもいいぞ?」
「いえ、大丈夫です。それに夏陽君がこっち見ててなんか怖いですから」
たぶん女子バスケ部の手伝いをすると思っているんだろう。
うん、ちょっと睨んでる。
「そっか、まああいつにとってもこの試合は重要なものだからな」
「じゃあ先生、ボクはこれで」
ボクはそういって階段のほうに向かう
試合が開始されすぐに愛莉ちゃんは三連続でシュートを決めた。
すると愛莉ちゃんのすぐそばに二人男子が移動してきた。
確かこれをマークっていうんだっけ?
すると愛莉ちゃんは上手くシュートできなくなってしまった。
男子バスケ部は愛莉ちゃんの失敗した後すぐにゴールを決める。
すかさず昴さんが叫んだ
「行け、真帆っ」
「待ってたぜー」
ゴールの右側にいた真帆ちゃんに智花ちゃんからボールが渡る。
すかさず真帆ちゃんはシュートを放つ。―――入った。
「マークは三沢だ。あのシュート、まぐれじゃない」
すぐに真帆ちゃんに一人のマークが付いた。
これで愛莉ちゃんに二人、智花ちゃんに二人、真帆ちゃんに一人で紗希ちゃんとひなちゃんがフリーだ。
男子バスケ部がシュートを外すとゴール下のひなちゃんから紗希ちゃんにパスが通った。
「よっと」
紗希ちゃんの難なくシュートを決めた。
小笠原先生の顔が蒼くなってきている。
夏陽君の話だとみんなまともにパスすらできないって言ってたのに。昴さん、すごいなー。
真帆ちゃんがマークされれば紗希ちゃんが打つ、紗希ちゃんがマークされれば真帆ちゃんが打つ、二人にマークが付くと愛莉ちゃんか智花ちゃんが楽々得点する。わかってはいるものの止められない、ひなちゃんはいつもフリーだが得点されたボールを素早く前に送るという地味だがとても重要なことをしている。しかし男子バスケ部はそれに気が回らないらしい。きっちりと点を決めるがなかなか追いつけないようだ。
気が付けば応援している人たちはみんな女子バスケ部の味方らしい。女子が得点すれば湧き、得点されれば声が少なくなる。男子は完全にアウェーだ。
気が付けば前半終了。
得点は16‐10で女子バスケ部が六点リード。
「すごいね?雪ちゃん、みんな勝ってるよ?」
隣で試合を見ていた理沙ちゃんが話しかけてきた。
「う、うん。そうだね」
「どうしたの?ひょっとして男バス応援してるの?」
「ううん、違うよ?愛莉ちゃんたちには勝ってほしいから。でも……」
木曜日、夏陽君が言っていたことが引っかかる。
それが不安で仕方ない。
「でも?」
「い、いやー、これで男子が負けたらまた小笠原先生が篁先生ともめていやだなぁって」
「ああ、そうだよねー。確かにそうかも」
大丈夫だよね、うん。
頑張って、みんな。
後半は誰が見ても一方的な展開だった。
女子バスケ部が押されている。
「みんな、辛そうだね」
理沙ちゃんがみんなを心配そうに見ている。
「男子は最近できた女バスとは違って前から練習してきたんだもん、体力の差は出てくるよ」
「大丈夫かなー?」
「あのコーチさんなら何か考えてくれていると思うけど。でもやっぱりみんな辛そうだね」
そういってボクは大きく息を吸う。
「みんなー! がんばってぇぇぇ! 」
理沙ちゃんも頷いた後に叫んだ。
「女バスー! ファイトー!」
「がんばれー! 」
「頑張って! 」
みんなが女子バスケ部を応援している。
そんな後半に二分を過ぎたとき、事件は起きてしまった。
最初に雪が叫んだ時、まったく動じなかったのは体育館の中でたった一人、男バス顧問のカマキリだけだった。勝負事では気も手も抜かない美星も、バスケでは誰よりも集中する昴もほぼ全員が雪のほうを見た。
雪から始まった応援の嵐で女バスは少し勢いを取り戻し、男バスは動きが変わった女バスに驚き動きが鈍った。しかし男バスのポイントガードはあまりの焦りにコーチであるカマキリのほうを見た。カマキリはこれはチャンスだと思わんばかりに最初のミーティングで教えていたサインを出した。
「―――――万が一、香椎がきちんとしたプレーをすることができれば負ける可能性がある」
男バスの誰もがわかっていることだ。いくら相手が初心者でも身長差20㎝は大きすぎる。だからあらかじめカマキリはこう決めていた。
愛莉がまともにプレーできないようにラフプレイで怖がらせろ、と。
ポイントガードの少年は分かりました頷く。
大丈夫だ。ちょっと体当たりして転ばせるだけ。
そう考えて愛莉に向かって走る少年。
しかしすっかりおびえている少年が力の加減などできるわけもなく、さっきの応援で気持ちが上がってしまった愛莉に怪我をさせない転び方ができるはずもなく、
バコンッ!
派手な音を立てて転倒してしまった。