「愛莉! 」
最初に駈け出したのは昴だった。
審判の中断の笛も待たずに飛び出したが状況が状況なだけに審判は咎めようとせず、すぐさま笛を吹き試合を中断させる。
すぐさまコートの中にいる。仲間も駆け寄る。
美星は冷静に近くで舐めるような視線で試合を見ていた養護教諭、羽多野先生を連れ来た。
雪は理沙を置いて体育館の二階部から飛び降りてコートに走る。
すぐに浮ついた顔から真剣な面持ちになった羽多野先生が愛莉の足を見る。
「羽多野先生、愛莉は………」
「そこまで酷い怪我じゃないわ。でもこの足じゃあ………」
その言葉で昴はすべて悟った。
もう、愛莉は試合に出れない。
すなわち、この試合は……。
「はっはっは、これはもう試合どころではありませんなー、篁先生。もう試合はやめましょう」
「あんた、何笑って――」
「やめろ昴」
思わず手が出そうになったすばるを美星が抑えた。
「今のは事故ですよ。こっちの責任じゃあない」
カマキリは笑いながら昴を、愛莉を見た。
ぶつかった少年はずっと下を向いている。
「とにかく、試合は終わり、結果はまあそちらの選手が出られないからそちらの負けで良いですよね?」
「てめー、それが狙いでアイリーンを―――」
「やめなさい、真帆。そんなこと言ったって無駄よ」
「わたし、できます。まだ試合できます! 」
「駄目、愛莉ちゃん。その怪我じゃあ試合なんてとても……」
「そうよ、愛莉。無理しちゃだめ」
「長谷川さん……、お願いです………」
「無理だ、許可できないよ」
「それでは交代選手もいないですしこれで―――」
「まってください! 」
帰ろうとしたカマキリに向かって雪は叫んだ。
「ボクが出ます! 」
「何?」
「雪………」
雪はカマキリを睨む。
「この人は、――――みんなにはぜったいに負けてほしくない」
「しかしだな、君は女バスの部員じゃあ―――」
「雪の入部届ならもう受け取ってるから後はあたしが判子押すだけだ……」
美星はズボンのポケットから紙と判子を取り出してみんなの前で判子を押す。
でもその紙、うっすらとPTA総会出欠票って書いてあるんだけど………。
「これで良し。じゃあ試合を再開するとしますか」
「っち。わかりました。君、早く支度してくれないか?」
「ほれっ、雪の体操服」
「なんでそんなに準備いいんだよ、ミホ姉」
「雪、そっちの倉庫で着替えるぞ。昴も来い」
雪と昴を連れて美星は体育倉庫に入った。
五分後、試合が再開された。
智花のフリースローで得点は 19‐22
まだ3点差で女バスが負けている。
男バスの攻撃を何とか真帆がカットし、雪にパスする。
「よし、いいぞ真帆。昴?きちんと見てろよ、雪のバスケを」
「ああ、あんな事言ってたんだ。期待してるぞ?」
「いいかい?石狩さん」
「雪で良いですよ?」
「ああ、雪。俺は君がどんなことができるかわからない。だから第三クォーター。次の休憩までの残り時間、君は休むことなく全力でプレーして欲しい。大丈夫かい?」
「問題ないです。でも昴さん、ボクは初心者です。何が反則かもよくわかりません。トラベリングの名前しか知りません。だからできるだけ早く指示がほしいです」
「わかった。じゃあ――――」
「ワンプレーでボクのすべてをお見せます」
雪はパスを受けると同時に走り出す。
「来たぞ、雪を止めろ」
「わかってるけどどうすればいいんだよ! 」
「あんなの止められるか! 」
男バスの選手は全員が雪と一戦交えている。
そのおかげでどういうプレーをしてくるかは分かっている。
しかしわかっていても止める方法がない。
雪はスピードこそないが中々上手なのドリブルでぎこちない動きの男バスを抜き去り、そのままいつものようにダンクシュートを決めた。
「おいおい、あの子本当に小学生か?普通あんなに飛べないだろ。しかもあんなに小さな体で……」
「いやー、あたしも少し不思議に思ったんだけどなー。あの子、細いけど筋肉すごいんだ。たぶん鍛えてるんじゃないか、体重あるしあいつの部屋にトレーニンググッズが転がってたし。それに嬉しいんだろな、全力で体を動かせる事が」
「いや、それでも異常すぎる。とりあえずタイ『タイムアウトおおおぉおぉぉぉぉぉ』をと……」
昴がタイムアウトを取ろうとした時、小笠原が吠えた。
昴は心の中でガッツポーズをとる。
これで相手はもうタイムアウトを取れない。
第三クォーター
得点21-22
残り時間 三分三十秒
スポーツの試合では無断で入ると基本的に監督でも処罰を受けますがそれはそれ、これはこれ。