先生がキヴォトスに来る前から教え子だった生徒がやってきてマウントを取ろうとする話   作:クルトSP

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3周年なので初投稿です。


捻じれて歪んだ先の終着点・その先へ
プロローグ


「なんで……なんでなんでなんでなんで先生は……!!」

 

暗闇に慟哭が響く、伸ばしたその手は何かを掴もうとし、力なく空を切った。

 

「どうして……どうしてそこまでして……生徒の為に……」

 

彼女は何かを見ている、果てまで続く暗闇の中で光るその空間にはどこかの映像が映し出されている。そこには、泣き叫び誰かに縋りつく少女と、何かに呑まれつつある大人の姿があった。

 

"あ……あぁあああああああ……"

 

「あぁ……ああああああああああああああぁ!!」

 

映像の少女と彼女の声が重なる、まるで伝染したかのように二人の表情は絶望に満ちていた。

 

"せん、せい……?"

 

ふと、映像の少女が声を上げる。彼女もその声につられ顔を上げた。そこには先ほどまで存在していた大人の姿はなく、得体のしれない人型の何かが立っていた。

 

「せん、せ……?」

 

"■■■■■■。■■■■■■。"

"■■■、■■■■■■■■■■■■。"

 

彼女の呆然とした声は闇に消え、映像は様々なシーンへと移り変わっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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いくらの時が流れただろうか、移り変わる映像を感情のない瞳で見つめていた彼女だったが、その光景を認めた途端、声を荒げた。

 

「ふふふ……あははははははははは!! この世界は……本当にどこまでも……!!」

 

その言葉に乗せられた感情は絶望だろうか、希望だろうか、悲しみか、怒りか、喜びか、様々な想いが綯交ぜになったような声音が彼女の口から発せられる。

 

"「大人のカード」対「大人のカード」……"

 

"その場合、どちらの「カード」が勝つんだろうね?"

 

映像は進んでいく、その中では複数の少女達と大人、そして人型が交戦し、激しくぶつかり合っている。そして、ついに人型のそばで戦っていた少女が膝をついた。

 

"先生を殺して……世界を滅ぼして……ごめんなさい……"

 

「ああ……そうか……そういうことなのね……」

 

人型が立ち上がる、巨大なエネルギーが集まっていたがあえなく相手の攻撃によって霧散し、猛攻にさらされる。しかし、攻撃を受けようとなおもその場で立ちふさがっている、まるで少女を守るように。

 

「先生がこの世界に存在している限り……そして」

 

"生徒たちを……よろしく、お願いします。"

 

「私とそいつら……生徒がいる限り……」

 

いつの間にか少女達はいなくなり、大人と人型だけが残る。そして、箱舟の崩壊が始まった。

人型は力尽きるように崩れ落ち、大人は箱舟の崩壊と共に落下していった。

 

「先生はっ……!!」

 

箱舟の崩壊と共に、彼女の空間にも亀裂が入る。そこから少しずつこの空間の色とはまた違う暗闇が漏れ出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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"何故だ……何故我々の意思が届かぬ……"

 

"アレは、色彩の力に触れた……そうであれば、偽りの先生(プレナパテス)亡き今、アレが色彩の嚮導者となるはず……"

 

"そもそもアレは神秘(ミステリー)を所持していない……恐怖(テラー)に反転することもなく、色彩が接触する理由もない……"

 

"では、アレはなんだというのだ……"

 

"理解できぬ"

 

"理解できぬ"

 

「……うるさい、黙れ」

 

煩わしげに彼女は首を振る。その頭には、宇宙の色を想定させるような青紫色の紋様が浮いていた。

彼女は手を伸ばす、そして空間のひび割れに触れた瞬間、ひびは広がり裂け目となる。

その裂け目の先に見える景色は、砕け、崩れ落ちた箱舟であった。

 

「先生……」

 

彼女は箱舟の甲板に降り立ち、辺りを見回す。そして何かを見つけると、それを拾い上げた。

 

「先生は、あまねく奇跡の始発点だと言っていたけど……先生はここで終わり、また始めたのね」

 

それは割れた仮面であった、あの人型が装着していた仮面の半分だ。

 

「でもそれって……先生はずっと……ずっと犠牲になり続けるという事……」

 

彼女はまた何かを拾い上げた。それは穿たれ、三つの弾痕が残るタブレットのようだ。

 

「そんなの……私は認めない、先生を……この世界から解放してみせる」

 

彼女は何かをタブレットに差し込み、起動させた。声が聞こえることは無く、どことなく物悲しげな光を放ちながら立ち上がる。その画面には文字が浮かんでいた。

 

"ユーザーを承認中……ゲストアカウントでログインします……アカウント名を入力してください"

 

「そういえば私の名前ってなんだっけ……あのうるさいやつらがなんか叫んでいたけど……」

 

「プレナ……確かそんなことを言っていたわね、じゃあお望み通りプレナと名乗りましょうか。」

 

"承知しました、アカウント名をプレナに設定します。アトラハシースの箱舟のインストールを行います"

 

「これで準備は万端ね、今向かうわ、先生」

 

そう呟くと、彼女は青紫色の軌跡を描きながら箱舟を飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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プレナは地上に降り立つと、シャーレのあるD.U.区に向かって歩き出した。郊外に降り立ったためそれなりに距離があるはずだが、不自然なほど早くシャーレにたどり着く、まるで空間がそのものが歪んだように。そしてプレナはシャーレの中へスルッと入って行ってしまった。シャーレのセキュリティはかなり厳重であり、学生証無しで侵入するのは至難の業である。しかもミレニアムのセミナー、早瀬ユウカ主導でヴェリタスとエンジニア部が合同で作成、提供している防犯システムが24時間体制で稼働しているため、例え忍び込んだとしても警報が鳴り響いてしまう。だというのに、まるで何もいないかのように何も作動せず、プレナは先生元までたどり着いた。

 

"ん? ええと、はじめまして……かな? もうずいぶん遅い時間だけれど、シャーレに依頼でも……"

 

「っ!! ええ……シャーレというか先生に緊急のお願いがあって……」

 

先生の声を聞いた時、様々な感情が綯交ぜになった声がプレナの口から出そうになった。それをプレナは無理やり飲み込み、先生に近づいていく。

 

"緊急? わかった、まずは詳しい情報を話してほ……"

 

『先生!! 気を付けてください!! 彼女の生徒情報がどこにもありません!! 』

『それに、この反応は……』

 

「うん、そのために……まずは安全なところへご案内するわね」

 

シッテムの箱のメインOSであるアロナ、プラナがアラートを上げるが、ほぼ同時に彼女の持つタブレットから暗闇が漏れ出し、この部屋を包み込んでしまった。

 

"これは!? なにがどうなって……"

 

「先生……このままではいずれあなたもああなる。だから……」

 

プレナの顔の半分を隠すように、割れた仮面がつけられる。

 

"!! キミはそれをどこで……!?"

 

『先生、警戒してください。この空間、あのアトラハシースの箱舟の多次元解釈のものと同質です』

 

「少しの間、眠っていてもらえる?」

 

『先生!! 危ないです!! 右へ避けてください!!』

 

アロナが叫び、とっさに先生は右へ転がる。そうすると先生がさっきまでいた場所に銃弾が撃ち込まれる。青紫色の軌跡を放つ、どこか不気味で奇麗な弾丸だ。

 

「先生、抵抗しないでよ。彼のようには、なりたくないでしょう?」

 

そういってプレナはそっと、自分に装着されている仮面を撫でた。

 

"キミは彼の事を知っているのか……?"

 

「…………」

 

プレナは悲しげに口を紡ぐ。その目はどこか遠いところを見ているようだ。

 

"そうだね……まずはキミのことを教えてもらえるかな?"

 

「は? いきなり攻撃してきたやつに対して普通自己紹介させ……いや、先生はそんなやつだったわね」

 

プレナは呆れながら、しかしどこか懐かしさを思わせるようにそう言った。

 

「私の名前はプレナ、先生をキヴォトスから追放しに来た者よ」

 

"追放かぁ……それは困るなあ、しかしうーん……プレナ"

 

先生は首をかしげる。何か違和感があるようだ。

 

"ねえ、キミと私さ、どこかであったことない? 初対面な感じがしなくて……プレナって名前にもどこか違和感があるんだ"

 

「っ!!」

 

先生がそう言うと、プレナは何か思いつめたように息を止めた。

 

「先生は……キヴォトスに来る前の事って……覚えて……っ!?」

 

それは言うつもりはなかったのだろう、しかしプレナは半ば無意識に問いかけをしていた。咄嗟に手で口を押えたがバッチリ聞こえたようだ。

 

"キヴォトスに来る前かぁ、ごめんね、ここに来る前の事は何も覚えてなくて……もしかしてそこであったのかな?"

 

「そっか……覚えてないならいい」

 

プレナはほっとしたような、どこか寂しげな様子を見せたが、すぐに表情を引き締め、先生に問いかける。

 

「それでキヴォトスから追放って言ったけど、行先はここより安全な場所よ。弾は飛び交わず、世界の危機も訪れない場所……これでも受け入れてくれない?」

 

"うーん、ごめんだけど私は先生だからさ、生徒を置いて何処かへ行っちゃうことはできないよ"

 

「…………」

 

"うん、何か悩み事、それもとびきり大きな悩み事あるみたいだね。まずは話してみてほしい、シャーレは全力でキミの力になるよ"

 

「それじゃ……それじゃ何の意味もないのよ!!」

 

先生のその言葉を聞くと、まるで感情が溢れ出したかのようにプレナは吠えた。

 

『先生、彼女と彼女が持つタブレットから力の奔流を感じます。これは……色彩と同じ……?』

 

彼女とタブレットから漏れ出た力はこの空間に溶け込み、青紫色に染めていく。心なしか空間が歪んだように思えた。

 

"まずは落ち着いてもらわないとダメそうだね、大人の勝負以外で使いたくはないけれど……"

 

先生は懐から何かを取り出そうとする、それは一枚のカードであった。

 

「っ!! あああああああぁあ!! それだけはっ!! それだけは絶対に使わせない!!」

 

そのカードを目にした瞬間、今まで以上にプレナが激昂する。溢れ出た力の奔流は彼女の持つ銃に集まり、それが先生のカードに向けて放たれる。

 

『先生!! アロナが守ります!! 今のうちに!!』

 

アロナの声と共に、シッテムの箱が防壁を張る。不思議と銃弾が当たる音はしなかった。そのスキをついて先生は大人のカードを使おうとする、が

 

(これを……この子に使ってもいいのだろうか……? やむを得ないとはいえ、子供に向かって……)

 

一瞬先生の動きが鈍る、そしてプレナはその一瞬を見逃してくれる相手ではなかった。

 

「はあああああぁああああああ!!」

 

プレナが肉薄する、銃を撃つと共に銃弾の後ろから距離を詰めていたようだ。プレナが手刀を放つ、その一太刀で防壁は切り裂かれ、先生の"大人のカード"が弾き飛ばされる。

 

"しまった!!"

 

『先生!!』

『先生!!』

 

「チェックメイトよ、先生」

 

"大人のカード"を弾き飛ばしたプレナはタブレットを構え、先生に詰め寄る。

 

"一つ、聞かせて欲しい。キミの……プレナの目的は……キヴォトスの滅亡なのか……私を追放したいのは、それが理由なのか……?"

 

先生はプレナに問いかける。脳裏には、悩み、苦しみ、一人ぼっちになって藻掻いていた生徒の姿が浮かんでいた。

 

「……キヴォトスなんて、どうでもいいわ。存続しようが、滅亡しようが……」

 

プレナはぶっきらぼうにそう答えた、心の底からどうでもいいと、興味がないとでも言うように。

 

「私の目的は最初から一つよ、先生……あなたをこのキヴォトスから追放する、それ以外にはない」

 

「じゃあね先生、私は少し準備してくるからここでまってて? 心配しなくても、ここには生きていけるだけの環境はあるし、暇つぶしの道具もある。」

 

プレナはタブレットを操作し、先生に向ける。すると先生がいる場所に穴が開き、そこに吸い込まれるように落ちていった。

 

"お、落ちる!!"

 

『なんとか落下速度を低下させ……な、なんで……速度が落ちない!?』

 

『これは……そもそも落下していない……? 空間移動に似た事象と判断、演算を開始します』

 

「あ、後これも預かっておくわね? もう先生には必要のないものでしょうから」

 

"大人のカード"を持ちながらプレナはそう呟く。そして先生は暗闇に飲まれ、見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さーて、これから大仕事ね。まずは……アビドスからかしら?」

 

プレナはタブレットを再び操作する。するといつ移動したのか、いつの間にかあの暗闇の空間からビルの一フロアに立っていた。

 

「代行!! 私の要件が先ですからね!!」

 

「まったく、うるさい人に捕まってしまいましたね……」

 

ふと、前から二人組が歩いてくる。ミレニアムサイエンススクール、セミナー所属の早瀬ユウカと連邦生徒会、首席行政官の七神リンだ。

 

「あら、お二人方。こんな場所にどういった御用で? と言っても私も迷ってしまってこの場所に入り込んでしまったんだけど……」

 

プレナは偶然ここにいたことを装いながらそう問いかける、ここはシャーレの先生の部屋の前なのだから、先生に用があるのだろう。しかし……

 

「用? 用ってミレニアムの書類を……あ、あれ? なんで私、サンクトゥムタワーじゃなくてこの建物に来たんだろう……?」

 

「私も連邦生徒会で受け取った各学校の要望を持ってきたのですが……よく考えたら持ち出す必要なんてありませんでしたね」

 

二人はここに来た目的を忘れてしまっていた。まるでここには何もないように、誰もいなかったかのように。

 

「あなた達のご活躍は伺っております。日々の業務でお疲れの御用ですし、私が付きそいでサンクトゥムタワーまで護衛いたしましょうか? 私も迷ってしまったようなので、一度サンクトゥムタワーまで行きたいです」

 

「え、ええ……じゃあお願いしようかしら。代行もそれでいい?」

 

「……私もかまいません」

 

首を深くひねる二人だが、その違和感の正体に気付くことは無く、プレナと共にこの場所を去っていく。そう、この場所ははじめから何もなかったかのような、ただただ広い空きフロアが存在しているだけであった。




続く……のかもしれない
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