午後はメインイベント、コスプレ大会である。
ミリムやマツリの着飾った姿を生で見れるとあって、開始前から会場は大盛況となっていた。
町の未整備区画となっている広い空き地がその会場となっている。
だだっ広い敷地に一段高くなったステージが点在し、中央にはひときわ豪華なメインステージ。
元の世界で言う屋外の音楽フェスに近い形だ。
その横にはいつの間に立てたのか仮設のブティックのような建物まで建っていた。
中にはシュナ達が昼夜を問わず作り続けた衣装が用意され、誰でも衣装を身に着けることが出来るようになっている。
ちなみにコスプレ大会とは言うものの、アニメやゲームのキャラクターのコスチュームを身に着けるわけではない。
そんなものはこの世界にはないのだから当然である。
シュナの巫女服やシオンのダークスーツなど幹部と同じ格好をしたい魔物向けの衣装もあるが、基本的にはどれもオリジナルの一点モノだ。
どちらかと言えばコスプレ大会というよりファッションショーなのである。
その会場にやってきたのが、ごきげんな様子のシュナ。
……と、シュナとガッチリ手を繋いで隣を歩くリムルだ。
ぱっと見は仲の良い二人組だが、その実態はほとんど拉致のようなものである。
リムルが逃亡しようとしたためちょっと強めの『説得』をして連れて来たのだ。
「こりゃまた随分と大規模だな……」
「可能な限り大規模に、とマツリ様に要望を出しておきましたので」
「抜かりないな。そんなに俺を辱めたいのか?」
「素敵なお姿を町の皆に見せるのも主の務めですよ」
それらしいことを言うシュナだが、強制連行した理由の九割九分は己の欲望である。
「なあシュナ。せめて露出が多い服はやめないか? 俺にも男の意地というか、沽券的なものがだな……」
「ダメです」
「いや、他の服を着るからさ。出番は減らさないって」
「ダメです」
「あの……」
「ダメです」
「………………」
「ダメです」
「まだ何も言ってないけど」
無言の抗議さえ明確に否定されてしまうのだった。
いよいよ開催時刻に近づき、舞台袖の控室へと移動する。
そこには既に他の参加者が集まっていた。
リムルとシュナが到着したことで全てのメンバーが揃ったようだ。
主役のミリム。
それに加えてマツリとリムル。
この3人が立つのがメインステージである。
シオンとシュナはそれぞれ別のステージが割り当てられた。
その他にも住民の中から特に美人なゴブリナが数名参加しており、シオンとシュナの脇でその美しく着飾った姿を披露する予定だ。
「やっと来たかリムルよ! 遅かったではないか!」
「パパ、こっちこっち!」
「はいはい、今行くよ」
ミリムとマツリは既に衣装を着て楽しんでいるようだ。
ちなみにミリム、マツリ、リムルの3人の衣装は、とある理由からバニーガールと決まっている。
この町には最近、ある噂が流れていた。
以前ガゼル王が来訪しリムルと一戦交えたことがあったが、その時リムルが
まあ、それ自体は概ね真実である。しかし重要なのはこの先。
なんでも、リムルにとって
リムルはどうにかしてこのうわさが広まらないように手を尽くしたが、魔物の口に戸は立てられない。
瞬く間に噂は広がり、リムルの勝負服は
事前に行った衣装アンケートにてぶっちぎりの一位でバニーガールに票が集まったのはそういう事情があるのだ。*1
「大体マツリのせいって事だな」
「えっへん!」
「褒めてねーよ!」
今日もスライム親子は息がピッタリである。
定刻。
ついにステージに上がる時間がやってきた。
リムルは覚悟を決めるためか、鏡の前で何やらぶつぶつと呟いている。
「そう、これは魔物の主として必要な事なんだ……。重要な役目を任されているわけで、責任をもってやり遂げないといけないよな。これで皆は喜ぶわけだし何も問題はない……よな? うん、無いな。俺がちょっと恥ずかしい思いをするだけだ」
鏡に映るのはシズさん似の美少女。
これが本当に自分なのかと戸惑う時期もあった。
しかし慣れとは怖いもので、今は違和感なくこの姿を受け入れている。
「確かに恥ずかしがることは無いし、自慢できる容姿ではある……けど、やっぱり進んで見せびらかすようなことは流石になぁ」
どこまで行っても心はオッサンなのである。
しかしこのコスプレ大会、観客は身内だけ。
そしてリムルはこの町の魔物にとっては神のような存在であり、恥ずかしがるリムルをからかうような者など居るはずもない。
「うわー、パパ顔真っ赤じゃん」
「どうした
……やっぱり二人ほどいるのだが、ノーカウントとする。
何よりリムルは、見た目だけは美少女である。
シュナ達が制作した衣装のクオリティが高いことも、毎日衣装合わせをしているリムルには良く分かっている。
最高の素材が最高の衣装を着るのだから恥ずかしがることなど無いはずだ。
そう、何も問題はないのだ。本人の気持ち以外は。
そしてついにリムルは腹を括った。
頬をパシっと叩き、鏡を見ながらポーズを決める。
そこに映るバニーガールはどこに出しても恥ずかしくない美少女だ。
「よし行くぞ! 俺の最高に可愛い姿を見せてやろうじゃないか。どうせ観客はこの町の仲間たちだけだし、ここは一肌脱いで皆を喜ばせてやるとするか!」
「お、パパもその気になった」
「リムルは可愛いのだから初めから恥ずかしがる必要などないのだ!」
これにて準備は整った。
コスプレ大会の開幕である。
「それでは本日のメインイベント、コスプレ大会ー! ここはメインステージ、ミリム様とその
司会のソーカが場を盛り上げる。
その格好は濃紺の忍び装束で、つまりはソウエイのコスプレだった。
ノリノリである。
「本日は見慣れぬ方もおられるようですが、どうぞ楽しんで行ってくださいね! さぁ、それでは本日の主役の登場です! シュナ様達が心血を注ぎこんで制作した珠玉の衣装を纏う、我が町の誇る美しい魔物達をご覧あれ!」
メインステージに、リムル、マツリ、ミリムの3人が元気よく飛び出した。
それぞれの髪色に合わせたバニースーツを身に纏い、手を振りながらステージ中央へと駆けていく。
中央までやってきて3人が並べば、会場は大歓声に包まれた。
青、オレンジ、ピンクと髪色に合わせたカラフルな衣装が光り輝いている。
「みんなお待たせ! 今日は可愛い服がいっぱいだよ! 見るのも着るのも自由! おしゃれを楽しもう!」
「楽しむのだー! 今日もマツリが可愛いのだ!」
「ミリムも可愛いよ!」
マツリとミリムは安定の人気である。
日ごろからシュナお手製の服を着ているマツリはもともとファッションモデル的な存在だし、新参のミリムも似たようなポジションだった。
普段は遠目に眺める魔物達も、今日はその可憐な姿を間近で見れるとあって大興奮している。
しかし、今この会場で最も多くの視線を集めるのはこの人だ。
ミリムもマツリも今この瞬間だけは脇役なのである。
「ようお前ら! 楽しんでるか!? 今日は特別に俺の可愛い姿を披露してやる! 特別にな!」
あのリムルがバニーガール姿で笑顔を振りまいているのだ。
住人達が夢にまで見た光景である。
興奮して我を忘れる者、号泣する者、失神する者など反応は様々だが、とにかくそのインパクトの大きさは過去一番であった。
リムルは機嫌よくステージ上から観客たちを見下ろす。
想像以上の反響に少々、いやかなり面食らったようだが、喜んでもらえた満足感のほうが勝っているらしい。
身内だけのお祭りなら多少羽目を外すのも悪くないと思うリムルだった。
ちなみに観客席には大勢の人間が居り、リムルの勇姿をその目に焼き付けている最中なのだがリムルはまだ気づいていない。
「リムル様ー、お客さんっすー!」
人間の集団を引き連れたゴブタがステージ上のリムルに叫ぶ。
仕事と見せかけてちゃっかり最前列を確保するのがゴブタらしい。
しかしリムルにはそんなゴブタに小言を言う余裕などない。
全力のバニーガール姿を、あろう事か外部の人間に見せつけてしまっているのだから!
「リムルの旦那、張り切ってんなー」
「シズさんが見たらどう思うでやんすかねぇ」
「可愛いから良いのよぅ! このドレスも最高!」
「お前ら、ここは魔物の町のど真ん中だぞ? 少しは緊張感を持て!」
カバル、ギド、エレン、そして見知らぬ剣士の4人組。
「なんだぁこりゃ? 知恵ある魔物ってのは案外お気楽な連中なのか?」
「ヨウムさん、これはどう考えてもレアケースですよ」
ガラの悪い冒険者集団を率いるリーダーらしき男と、その中で一人だけ身なりの良い魔法使い。
2つのグループで総勢34名。
何故か人間の集団がコスプレ大会を鑑賞していたのだった。
「なんで人間がここにいるんだよ!」
想定外の事態にリムルが叫ぶ。
身内だけならと恥ずかしい気持ちを胸の内に押し込んで登場したリムルだが、いきなり前提が崩れてしまった。
しかも森の野良魔物が訪ねて来たならまだしも、彼らは人間である。
忘れていた羞恥心を思い出し、リムルの顔が真っ赤に染まる。
その様子を見て慌てたのが、エレン達の上司と思しき見知らぬ剣士──フューズだ。
会場からステージ上のリムルへと声を上げる。
「こちらに敵意はない! 魔物の主、リムル・テンペスト、どうか怒りを鎮めていただけないだろうか!」
敵意? 怒り?
一体何のことやら……と困惑するリムルだが、羞恥に染まったこの顔と先ほどのセリフによって、フューズはリムルが激怒していると勘違いしてしまったのだ。
リムルがオークロードを凌ぐ強力な魔物であることは既に知っており、そんな魔物を怒らせていると思っているフューズは大慌てで弁解を試みる。
しかしリムルはそれどころではない。
もう恥ずかしすぎて死にそうになっている。
「突然の訪問申し訳ない! ここは魔物の楽園、人間がいるなど許しがたいという気持ちは理解できる。しかし魔物の主よ、どうか我々の話を聞いては貰えないだろうか!」
「怒ってない! 怒ってないんだが、一旦この場から出ていってくれ!」
出ていけという言葉はもちろん自分の今の姿を見るなという意味である。
しかしやっぱりフューズには違う意味に聞こえたようで。
「わ、分かった! 俺たちは何もせずに町を去る! だから人間と敵対するのは勘弁して──」
「違うそうじゃない! おいゴブタ! その者たちをどこか適当な場所へ連れていけ! 絶対にそのまま帰すなよ!」
誤解を解くまでは絶対に帰すわけにはいかないのだ。
いつもの服装に着替えて改めて話し合いの場を設け、彼等に事情を説明しなければ。
……とリムルは考えた。
しかしリムルの言葉を聞き、フューズの顔が絶望に染まっていく。
まるで死刑宣告でもされたかのように。
「……どうやら魔物の主は俺達をただで帰すつもりは無いらしい。この馬鹿どもの話を真に受けて魔物の町のど真ん中までホイホイついてきたのが間違いだったってわけだ」
「違うと思うっすけどね?」
「いや、町を預かる主としてはこれが当然の対応だ。俺達人間だって武装した魔物が町の中心に居れば同じ対応をする。ああ、もしかするとこの場で抹殺される方がマシだったかもな……」
フューズは自分が拷問の末に死ぬ未来を見た。
そのやり取りを見ていたガラの悪い冒険者集団も顔から血の気が引いていく。
「おおーっと、ここに来てリムル様が飛び入り参加の人間と何やら揉めているぞ!? リムル様の機嫌を損ねてしまった人間達は絶体絶命! 一体どうなってしまうのかー!? 」
「おいソーカ、余計な事言うな! 違う、本当に違うからな!? ちょっと今は都合が悪いんだ! 後で相手してやるから!」
「なんとなんと、リムル様直々にお相手なさるとのこと! なんと光栄な事でしょう!」
ソーカは相変わらずノリノリで実況、しかもちょっと悪ノリして人間たちを脅かしていた。
会場は大盛り上がり。
魔物達としてもリムルの恥じらいながら慌てる姿を見れて眼福なのである。
そしてフューズ。
「人間の処刑も魔物にとってはエンターテインメントって事か……。まあ俺たちの普段の行いを考えれば当然の扱いだな」
「だから違うっすよ」
「魔物の主が直々に手を下すらしい。こりゃ万に一つも助かる可能性は無い、か」
フューズ達は一旦町の会議室へと案内されることとなった。
リムルを知るエレン達はお気楽な様子で、そしてリムルを知らない者たちは断頭台に向かう罪人のような顔でその場を後にする。
そしてコスプレ大会はもちろん続行である。
この程度のトラブルでお祭りを中断するほどこの町の魔物たちはヤワではない。
「何だったんでしょうね彼らは。 まあいいでしょう、お祭りはまだまだ始まったばかり! 次の衣装はこれだ!」
ミリムは
第二ラウンドの始まりだ。
☆
フューズが案内された部屋は、予想とは打って変わって綺麗な来客用の部屋だった。
てっきり尋問で情報を吐かされた末に始末されると思っていた彼だが、それは思い違いである。
「じゃあここで待つっすよ。オイラはリムル様に報告してくるっす」
案内役のゴブタは部下を残してこの場を去っていった。
「ゴブタ隊長、コスプレ大会見に行ったな」
「ああ、こりゃ終わるまでは戻ってこねーな」
残された部下は悪態をついているがやはり害意は感じられない。
その様子を見て、ようやくフューズは安堵に胸を撫でおろす。
思えばリムルを知るエレン達3バカは初めからこうなることを分かっていたようだった。
「だからギルマスは考えすぎなんですって」
「お前らが吞気すぎ……と言いたいところだが、今回ばかりは俺の早とちりだな。とにかくこれで魔物の主と話が出来るか。大人しく待つとしよう」
そして数時間が経過した。
どうやらコスプレ大会は盛り上がっているらしい。
しばらく待つとリムル達がやって来た。
がちゃりとドアが開き、ぞろぞろと魔物達が部屋に入る。
スライム形態のリムルとそれを抱えるチャイナドレスを着たマツリ。
バニーガール姿のミリム。
ド派手な真紅の着物を着たベニマルに、いかにも忍者っぽい格好で音もなく壁際に控えるソウエイ。
ダークスーツでビシッと決めるシオンと巫女服を着たシュナ。
マツリとミリム以外は普段着なのだが、とっても派手な集団である。
「遅くなって悪いな。俺がこの町の盟主、リムル・テンペストだ。君たちは何の用でここまで来たんだ?」
「私はフューズと申す者。ブルムンド王国のギルドマスターをしております。私の目的は貴方に会う事ですのでゴブタ殿に案内を頼んだのです」
リムルが問うと、フューズが答えた。
そしてギルドの英雄であるシズさんを弔った事への礼、オークロードの件と話が進む。
「確かにオークロードはもういない。しかしそれを成したのが魔物なのだとすると、我々人間としては脅威が去ったとは言い難いのです」
「なるほどな。ドワーフ王が来た時と同じ目的か」
オークロードを倒したリムルという存在を見極める。
それがギルドマスター、フューズの目的だ。
エレン、ギド、カバルはリムルを知る顔つなぎ役である。
「で、そっちの兄ちゃんたちは何しに来たんだ? 君らもブルムンドのギルドに所属しているのか?」
30名の冒険者を率いるリーダーらしき男にリムルが問う。
答えたのは横に控える若い魔法使いだ。
「えーと、私たちはファルムス王国の調査団です。こっちは団長のヨウム、私はお目付け役のロンメルといいます。こちらにお邪魔したのは成り行きですが、調査対象のオークロードがすでに居ないと知れたのはラッキーでした」
ブルムンドとは別の、森に面するもう一つの国、ファルムス王国からの調査団であった。
聞くところによると正規の軍隊ではないそうだ。
強欲な領主が金をケチり、更生施設に収監されていたならず者をかき集めて作った即席の調査団だという。
情報を得られれば死んでも構わないという領主の魂胆が透けて見える。
ブルムンドとファルムス、二つの国から同時に調査団がやって来たという訳だ。
オークロードもリムルも人気者である。
というか、人間にとっては見過ごせない脅威なのだ。
「ちょっといいかフューズさんとやら」
「……はい?」
「オークロードが倒されたという情報は既に知れ渡っているのか?」
「いえ、ブルムンド国王と一部の大臣だけです。一般に発表はされていません」
「なるほどな、それなら好都合だ。……ヨウム君。英雄になる気はないかね?」
とある計画を思いついたリムルが、ここでヨウムに話を切り出した。
英雄、つまりはオークロードを倒した人間としてリムルの代わりに有名になって欲しいということだ。
魔物が魔物を倒したところで、それはより強力な魔物の誕生を意味するだけ。
人間との共存を望むリムルは恐怖の対象になどなりたくないのだ。
魔物は人間によって討伐されなければならない。
その人間を英雄として祀り上げれば、リムルはオークロードを倒した謎の驚異的な魔物ではなくなるという訳だ。
そこでリムルが目を付けたのがヨウムという男である。
腕が立ち、仲間に慕われるカリスマ性を備え、顔も悪くない。
故郷の町の人々を想い、あえて危険を冒してする必要のない調査をわざわざするようなお人よしでもあった。
この会議室に居る人間の中から英雄になる者を選ぶとすれば、間違いなく彼だろう。
「オークロードに挑もうとする勇敢な若者たちを支援し、武器・防具・食料を提供した魔物たちの国。人間とも仲良くしたいウチとしてはそんなポジションが望ましいんだよね」
そう言ってリムルは説明を締めくくる。
「……その計画、ブルムンド王国も協力出来るかもしれません。私としては前向きに検討したい」
一通り話を聞いたフューズは協力を申し出た。
強力な魔物の集団が友好を求めているのだから、断る選択肢などないのだ。
そして当のヨウムだが。
「計画の要は君だ。無理強いするつもりは無いが、是非前向きに検討して欲しい」
「……ガラじゃねえよ。俺に勇者の真似事でもしろってのかよ」
「『勇者』は駄目だぞ。あれは魔王と同じで特別な存在なのだ。勇者を自称すれば因果が巡る。長生きしたければせいぜい『英雄』を名乗る事だ」
話に割って入ったのは、ミリムだった。
勇者を自称すれば因果が巡る。
なにやら意味深な発言だが、要するに英雄を名乗っておけばいいので計画に支障はない。
「じゃあそういう訳で、ヨウム君には『英雄』となってもらいたい。頼まれてくれるか?」
「考える時間をくれねぇか」
「ああ。すぐに決める必要もないし、この町に滞在してゆっくり考えてみてくれ」
こうして一旦話は終わった。
英雄ヨウムを祀り上げ、支援に回る魔物の国として人間からの印象を良くすることが出来れば狙い通りだ。
さあ、後はヨウムの返答次第……という所だったのだが、フューズが一つ懸念事項があると言う。
「計画自体に異論はありません。ありませんが……それは貴方が本当に人間の敵ではないことが大前提です。そこはキッチリ確かめさせてもらいます」
「それは当然だな」
「まあ、このお祭りの様子を見れば愉快な方々だという事はすぐに分かりましたがね。リムル殿があのステージで披露した……
「はいストップ! ちょっと待て!」
リムルが慌てて言葉を遮る。
フューズにとってはリムルとの距離を縮めるための話題作りだが、リムルにとっては地雷でしかない。
「一応言っておくが、アレはちょっとした事故みたいなもんでな? 俺は好き好んであんな格好をしてたわけじゃないんだよ」
「はは、慌てることはありません。ここは魔物の町、人間とは異なる文化を持っているのは当然のことです。人間との友好を目指すからと言って、その文化や考え方まで我々に同じである必要などありません」
「いや、違う。違うんだ。本当にアレは」
「無理をなさらずとも結構ですよ。ほら、ここに居る魔人の皆さんも華美な格好をしておられるではないですか。派手に着飾るのがこの町の文化であり、魔物たちの娯楽となっているのでしょう?」
「あ……いや……」
反論できない。
冷静に考えればフューズの言う通りなのである。
幹部達は確かに普段から派手な格好をしているし、それは住民の憧れの的だろう。
この町の一部の魔物は、『あの工房』で製作された一点モノの衣服を手に入れるために努力を惜しまないと聞く。
確実に文化は根付いているのだ。
しかし唯一違うのは、リムルが好き好んでやっているわけではないという事。
そこだけは何としても納得してもらわなければならない。
「まあ、派手に着飾るのがこの町の魔物たちの娯楽ってのは確かだし、そういう文化が根付きつつあるんだが……別に俺はそういう趣味じゃないぞ?」
「またまた御冗談を、あんなにノリノリだったではありませんか。私は良いと思いますよ、あのようなイベントも面白い」
「いや本当に違うんだよ……!」
スライム姿では表情も分からず、人間のフューズには真剣さが伝わらないらしかった。
「ま、まあ、この町にしばらく滞在すれば分かるさ。俺達が人間の敵ではないってことも分かってもらいたいしさ」
「ああ、それは助かります」
「君もな、ヨウム君」
「……ああ」
こうして魔物の町に人間が滞在することとなった。
そして、英雄ヨウムの誕生に向けて計画は動き出していくのである。
アンジャッシュ? いや違うか……。
でもこういう勘違いであわあわするのは好き。