英雄ヨウム出立の日。早朝。
ヨウム起きて! とマツリの元気な声でたたき起こされたヨウムが英雄の衣装を纏って町へ出ると、そこには信じがたい光景が広がっていた。
「なあ、リムルの旦那。ちょっと聞きたいんだが」
「何かね? 英雄ヨウム君」
「昨日までこの町はいつも通りだったよな? なんで朝起きたらこんな豪勢なパレードの準備が整ってるんだ?」
「それはだね……皆で徹夜して頑張ったからさ!」
「ははっ……もう笑うしかねぇな」
「凄いでしょ!」
「凄いのだ!」
ヨウムの乾いた笑いに対し、準備を頑張ったマツリと何もしていないミリムがどや顔を決める。
リムルはいつも通りのお気楽モードだ。
結局ヨウム出発を祝うお祭りは開催されることとなったのだ。
どうしても楽しい気持ちでヨウムを送り出したいマツリに対し、絶対にマツリに嫌われたくないリムルが強く拒否できるはずもなく、当然のようにマツリの意思が優先された。
そしてなんだかんだいってリムルもお祭り好きなので、開催すると決まればノリノリであった。
住民への通達は、あの幹部揃っての昼食の後すぐに町内放送によって行われた。
1秒も無駄には出来ないとマツリがリムルを引っ張って放送室へと連行したのだ。
昼下がり、魔物の町にピンポンパンポンと町内放送のチャイムが鳴り響く。
「皆さんこんにちは。リムルです。突然ですが町の皆さんに重大なお知らせがあります。我が国に滞在しているヨウムですが、いよいよオークロードを討伐した英雄としてファルムス王国へ凱旋──」
「もうパパ、説明してる時間はないの! マツリだよ、皆聞いて! 友達のヨウムが国に帰っちゃうんだ! 見送りは盛大に盛り上げようと思ってたのに、パパが今まで出発の日を言わなかったせいで何も準備出来てない! 明日の朝に出発だから急いでお祭りの準備をするよ!」
「……あー、そういう事だ。突然だが、ヨウムの旅立ちを盛大に祝う式典みたいなのをやるから、一晩で準備してくれ。まずは俺達が企画を練るから、町の皆は今日の夕方から準備に取り掛かれるようにスタンバイしておいて欲しい。これは最重要任務なので特別な指示がない限り全員参加とする。全力をここに注ぎ込んでくれ!」
「時間が無いけど頑張ってね! 苦情はパパが聞くから!」
慌ただしく言いたい事を言い切って、放送は終わる。
何やら色々話していたが、要するにヨウムを送り出すためのお祭りをやるという話だった。
しかも明日やるから朝までに準備を済ませろと。
常識的に考えれば、むちゃくちゃな話である。
さて住民の反応は?
「うおおぉ、お祭りだー!」
「今度こそマツリ様に私の出し物を褒めていただくのよ……!」
「準備期間1日とはまた無茶な要求だなぁ……逆に燃えてくるってもんだぜ!」
「マツリ様のお願いには全力で応えねばなりますまい!」
すっかりリムルとマツリに教育されているようで、突然のお祭り宣言にも動じないどころかやる気をみなぎらせているのだった。
かくして英雄ヨウムの出発を豪華に演出するためのお祭りと式典の準備を僅か半日で行うというミッションが始まったのだ。
そして現在。
ヨウムの目の前に広がる光景を見れば、その結果は明らかである。
町は色鮮やかに飾り付けられ、中央広場にはいつものお立ち台と『英雄ヨウム出発祝い』と書かれた横断幕が2本の支柱の間に張られていた。
昨日まで道の両サイドに並んでいた屋台は忽然と姿を消し、町のメインストリートは本来の道幅へと戻っている。
そして極めつけはお神輿である。
人が数人立って乗れそうな大きさで、その足元にはオークロードに止めを刺す瞬間のヨウムが大きな丸太から木像として掘り出されていた。
翻るマントとオークロードに突き立てられた大剣、そして鬼気迫る表情のヨウム。
躍動感にあふれる逸品である。
「旦那、俺は今からこれに乗るのか?」
「当たり前だろ? キミが主役なんだから」
「俺も一緒に乗るからね!」
「いやどう見てもコレ俺専用に作られてるんだが。元々この町にあった物じゃねえよな? まさかこれも一晩で……?」
「これに関しては俺とマツリが直々に作ったんだ。詳しいことは割愛するが、マツリが頭の中でデザインと設計をして、俺が体内で木材を加工してパーツを作ったのだよ!」
「ヨウムのカッコよさが引き立つように作ったんだけど……どう?」
「ああ、その、出来は素晴らしいと思うぜ。そうじゃなくて昨日の今日でいきなり現れたのがな……」
リムルの
遠慮をやめたスライム親子に常識は通用しないのだ。
「まあそんなわけだから、始めるぞ!」
「ほらヨウム、まずは英雄の演説からだよ! 早く早く!」
「ったく旦那とマツリちゃんには敵わねーな。いっちょやってやるか!」
「おう、その意気だ」
こうして英雄ヨウムの旅立ちを祝う大規模なお祭りが始まった。
中央広場の壇上に、主役のヨウムが立つ。
その両隣にリムルとマツリが立ち、その後ろにはファルムス王国の調査団の団員たちが直立不動で控える。
その立ち居振る舞いは英雄に相応しいもので、修行の成果が表れていた。
住民達が期待の眼差しを向ける中、派手な衣装に身を包んだヨウムが語りだす。
お祭り開始を告げる英雄の言葉だ。
「あー、えーっと、この度オークロードを倒した英雄になった……なりました、ヨウムだ……です」
本来ならここで拍手喝さいの予定なのだが……広場には静寂が訪れる。
残念そうにため息を吐くハクロウ。
それを見て青ざめるヨウム。
幸先の悪い出だしである。
「ヨウム、そんな畏まらなくて良いぞ。お前の気持ちを素直に言えば良いんだ。俺も苦手だから気持ちは分かるけどな、大事なのは言葉遣いじゃなくて気持ちが伝わるかどうかなんだよ」
ガチガチに緊張するヨウムにリムルがアドバイスを送る。
そして反対側に立つマツリもヨウムに一言あるようだ。
ねぇねぇヨウム、と肘でつついて呼びかける。
ヨウムが振り返ると、そこには太陽のように輝く笑顔。
「緊張しないで。ヨウムは格好いいから大丈夫! 俺が保証するよ!」
「ははっ、そうかよ」
マツリの激励に、強張っていたヨウムの表情がふっと和らいだ。
裏表のないマツリの言葉はストレートに心に響くのだ。
ヨウムは再び前を向く。
英雄らしく、堂々と。
すっと右手を上げて広場の喝采を鎮めると、
「俺は偽りの英雄だ。オークロードを倒しちゃいねえし、見てすらいない。全てはそこのリムルの旦那とその仲間達……つまりはアンタ達がやった事だ。旦那の為とは言えその手柄を横取りするような形で英雄になることに何も思わないわけじゃねぇ。だがこれは、旦那が俺を信じて任せてくれた役目だ。全力でやり遂げると誓うぜ。この
先ほどとは打って変わって素晴らしい演説となった。
これにはハクロウもにっこりである。
「ヨウム様ありがとうございました。皆さん、この新たな英雄に盛大な拍手を!」
あのコスプレ大会以降すっかり魔国のアナウンサーとして定着したソーカが場を盛り上げ、会場がどっと沸いた。
怒涛の拍手喝采である。
壇上のマツリもこれにはご満悦の様子。
「ヨウムだもんね。これくらいは当然だよ」
「買いかぶりすぎだって。マツリちゃんのおかげさ」
大音量が鳴り響く中、マツリとヨウムは二人だけに聞こえる声で互いを褒め合うのだった。
☆
ヨウムとマツリを乗せた神輿が町の中央を突っ切るように進んで行く。
沿道はヨウムの姿を一目見ようと集まった魔物達でごった煮の状態だ。
いや、沿道だけではない。
建物のベランダや屋根の上にまで魔物が詰めかけ、果ては空にまで飛べる魔物が押し寄せている。
凄まじいまでの盛況ぶりである。
ファルムス王国調査団のお目付け役であるロンメルは、その様子を沿道の特等席から見守っていた。
憧れの男が英雄となって祖国に凱旋する。
そして自分もその英雄の部下の一員として国に戻るというこの状況。
ロンメルは胸の高鳴りを抑えられない。
ヨウムが町中へ消えていくのを見送ったロンメルは、最後の仕事に取り掛かる。
同じく特等席から神輿を眺めるリムルへと声を掛けた。
「ではリムルさん、私は転移魔法にて一足先にファルムス王国へ戻りますね」
「ああ、ロンメルか。報告頼んだぞ」
「任せてください。ヨウムさんとオークロードの死闘を盛りに盛って報告してきますので!」
「……報告書通りに頼むな?」
ロンメルが草案として提出した『美しき魔物の姫・プリンセスマツリ』はボツになったのだった。
今ある報告書の内容はほとんどリムルが考えて決めたものである。
心血を注ぎ込んで書き上げた小説を取り上げられたわけだが、ロンメルはその恨みを忘れてはいなかった。
「ええ勿論。魔国の姫については伏せておきますよ」
「伏せるっていうか、そもそも姫じゃ……いや姫というか王子というか、国王の実子ではあるんだがな」
「じゃああながち間違ってはいないという事ですかね!?」
「この件については保留! 二ドル伯爵には絶対に言うなよ! 報告書に書いてあることだけを言うんだ! 良いな?」
「分かってますよ。二ドル伯爵には報告書通りの報告をすると誓います」
……二ドル伯爵には、ね。
心の中でロンメルはほくそ笑んだ。
原稿は喪失しているが、その内容は頭の中に残っている。
ならばまだ終わりではない。
英雄一行の仕事は、噂の流布。
テンペストという国は人類に友好的であると知らしめることがその目的なのだ。
ならば魔国の様子を語るのも仕事の内だ。
うっかりヨウムとマツリの仲睦まじい様子を語ってしまわないとも限らない。
英雄一行の言葉となれば、聞き入る者も多いだろう。
「ふふふ……私は諦めませんよ……」
小さく呟いて、転移魔法でその場を後にする。
こうしてロンメルは見事に暴走を始めたのだが、リムルがそれに気づくのは大分先の話となるのだった。
☆
「お? 見えてきたでやすね」
「うわぁマツリ君かわいーっ!」
「流石リムルの旦那の子供だよ。あのお気楽な感じがそっくりだ」
「お前らの方がよほどお気楽なんだがな」
町の出入り口となるメインストリートの終端に、ブルムンド王国の冒険者の4人組が居た。
パレードが終わればヨウム一行はそのまま旅立つことになるのだが、そのパレードの終着点がここなのだ。
最後の挨拶をするべく、フューズが部下3人を連れてヨウムの到着を待っていたのである。
「英雄ヨウム殿、ファルムス王国での啓蒙活動よろしく頼みますよ」
「ああ、任せてくれフューズさん。これでも地元じゃあ結構人気者なんだ。オークロードを倒したとあれば皆俺の言う事を聞いてくれるだろうぜ」
「それは頼もしいな。では達者で」
「ああ」
ヨウムは頷いた。
その姿は凛々しく、フューズの目から見ても英雄と呼ばれるに相応しいものだった。
「ところでオッサンたちはまだここに残るのか?」
「ええまあ。特に帰る理由もありませんからね」
「残る理由も無いんじゃねーか?」
「それはそうなのですが……ここは実に居心地が良くてですなぁ」
「……要は休暇を満喫してるって事か。ったくこっちはこれから英雄として活動を始めなきゃならないってのに羨ましいねぇ」
「ははは、もちろん仕事はしてますよ。詳しくは言えませんが、本国との連絡手段はありますからね」
「その辺は抜かりねぇって事か。まあリムルの旦那が良いっていうなら良いんだろうな」
フューズは仕事人である。
どんなにだらけているように見えても裏ではしっかりと仕事をこなしているのだ。
これでもブルムンド王国のギルドを仕切るギルドマスターである。
長期間仕事を休めるはずも無いし、なんの連絡手段も持たずに自らが森の調査に赴くはずがない。
朝晩キッチリ温泉を満喫しているし、食堂では毎日違うメニューを注文してその美味しさに舌鼓を打っているし、お祭りや宴会でもなんだかんだ言って毎回エンジョイしているが、これは全て仕事の為なのだ。
決して休暇を満喫しているわけではない。
一方エレン達3人はというと。
「あ、マツリくーん! こっちこっち!」
「エレン!」
「パレード凄かったよぉ。ヨウムさんカッコよかったし、マツリ君もすっごい可愛かったね!」
「でしょでしょ!? 今日の衣装はシュナが作ってくれたんだ! エレンの服はどうしたの? それもシュナに貰ったの?」
「そうなのよぅ。本当にここの服はオシャレで素敵よねぇ!」
「飯も上手いし、宿も綺麗」
「もうここに住んじゃいましょう!」
フューズとは異なり、エレン、ギド、カバルの3人は完全に休暇を楽しんでいるだけである。
ギルドマスターフューズの命令で同行しているが、中央都市リムルにたどり着いた時点で仕事は終わっているのだ。
次の仕事はブルムンド王国への帰還におけるフューズの護衛だが、それもいつになるか分かったものではない。
お気楽な連中であった。
いよいよヨウム達の旅立ちの時がやって来た。
町の出口でマツリとヨウムが最後のお別れの挨拶だ。
「じゃあ俺たちは行くぜ」
「うん、元気でね。すぐ戻ってきてよ?」
「ああ。冬の間は無理だろうが、雪が融けたら戻ってくるさ」
「待ってるからね」
「ああ」
2人のお別れは案外あっさりしたものであった。
また昨日のように泣くのではないかと思っていたヨウムだが、笑顔で送り出すマツリに安堵する。
これで思い残すことはない。
後は自分の役目を全うするのみだ。
ヨウムはユニコーンに跨り、森の中へと消えて行った。
マツリはヨウムが見えなくなるまで手を振り続ける。
やがて振り向いたマツリは、やっぱり泣いていた。
「マツリ君、やっぱり悲しかったんだぁ」
2人の別れを後ろから見守っていたエレンも、振り返ったマツリが泣いていることに気付く。
大事な仕事を抱えたヨウムに心配させまいと泣くのを我慢していただけで、本心はやはり悲しいに決まっている。
ヨウムに見せた笑顔は作り笑いだったのだ。
「マツリ君、ヨウムさんもすぐ戻るって言ってたし、私達と一緒に待とう? 約束を破るような人じゃないし、きっとすぐ会いに来てくれるよ」
「分かってる。分かってるけど……」
「辛いんだよね。でも大丈夫。私はまだしばらく居るし、パパも、町の皆も居るでしょ? 雪融けまでの辛抱だから、ね?」
「うん……そうだよね。俺も我慢する」
「よしよし、その意気だよ」
エレンが優しくマツリを慰める。
ヨウムが戦友なら、エレンは親戚のお姉ちゃんのようなポジションでマツリに懐かれているのだ。
その様子を間の抜けた顔で眺める男共には決して出来ない心のケアであった。
「ところでエレン」
「なぁに?」
「雪って何?」
「!? あちゃ~……」
この夏に生まれたばかりのマツリは雪を、冬という季節を知らない。
春の訪れはマツリの今までの人生よりも長い時間待たなければならないということなのだ。
しかし、それは言わぬが花だろう。
「私も分からないなぁ。でもきっとすぐ分かるよ!」
エレンは誤魔化すのも上手いのだった。
そして聞き捨てならないのだが、エレンは雪解けまで、つまりは最低でも春先までこの町に滞在する気満々らしい。
傍で聞いていたフューズも呆れた様子。だが満更でもなさそうである。
恐らく彼もしばらくこの町に滞在する気なのだろう。
彼等は既に、魔物の町に骨抜きなのだ。
☆
ヨウムが旅立ってから数日が経過した。
「おはようパパ」
「ああ。おはようマツリ」
いつものように布団から這い出す2匹のスライム。
マツリの悲しみも癒えたようで、すっかり普段の調子を取り戻していた。
いつも通り二人で朝食を食べて、ごちそうさま。
「じゃあ俺はエレンの所に行ってくる!」
「おう、気を付けろよ」
「はーい!」
スパァンと障子を閉め、とたとたと可愛い足音が遠ざかっていく。
ヨウムが居なくなれば次はエレン達と仲良くなるのは当然の事であった。
最近ではミリムも加わって良く狩を行っているそうだ。
自分で狩った獲物を食べるのが彼らのマイブームなのだとか。
「流石に御馳走になってばかりじゃ悪いですよぅ。たまには食材を持ち込ませてください」
とはエレンの言葉である。
殊勝な態度だが、ならば早く国に帰るべきなのでは? と思うリムルだった。
フォビオの一件以来、町は平和そのもの。
冬の訪れだけが心配ではあるが、配下の魔物たちは元々この森に住んでいる者たちである。
各種族ごとに越冬の方法を知っているので問題は無かった。
つまり、盟主としてはかなり暇という事だ。
という訳で朝食を食べたらしばらく自由時間なのである。
リムルは温泉へと向かう。
そこには湯船に酒を浮かべて寛ぐフューズの姿があった。
リムルに気付いて振り返ったフューズの顔は緩み切っており、ひと目でそのリラックス具合が分かる。
「いやぁ、朝から温泉とは良い御身分ですなぁ」
「そう言うフューズ君こそ、休暇を満喫しているようで何よりだよ」
「ふふふふふ」
「あはははは」
オッサンと元オッサンが温泉で不気味に笑う。
「しかし君もやり手だよね。こんなにゆっくり休んでるように見えてしっかり仕事はこなしてるんだから」
「まあ俺は事務方ですから、情報の伝達と指示さえできれば場所はどこでも構わないのです。もちろん重要な要件は自ら出向きますが、今この町より重要な案件などありはしませんからね」
「へえ、そうなのか。ところで俺達のことはまだ信用できないのか? 一体いつまで調査を続ける気だよ」
フューズはリムルが人類の敵となるかどうか見極めるのが目的なのだった。
まだこの町に滞在しているという事は、やはり疑いは晴れていないのだろうか。
リムルとしてはかなり打ち解けて来たつもりなのだが……
「いや、とっくに疑いは晴れているんですがねぇ。リムル殿もマツリ君も邪悪な存在ではないと確信しています。しかし、ここは実に居心地が良いのですよ」
やっぱり休暇じゃねぇか! とリムルが突っ込むが、フューズは全く動じない。
こんなところで歴戦の猛者の風格を出さないでもらいたいものである。
「いやホントに……ブルムンド王国の近場にこのような保養場が出来たのは喜ばしい事です。往復路の危険さえなければ通い詰めるのですがね……」
まるで仕事帰りのスーパー銭湯のような言いっぷりである。
しかしリムルとしてもその言葉に思う所があった。
この町はリムルの思うままに住みやすい環境が整いつつある。
異世界人の知識をフル活用して本気で快適な住環境を目指しているのだ。
衣食住。その全てに死角は無い。
特に衣に関してはちょっと異常なまでに文化が発展している。
そして娯楽。
ここ魔物の町はお祭りの町である。
マツリ・テンペストを筆頭にお祭り好きの魔物達が日々新しい催し物を考えては実行に移している。
いつだって魔物の町はお祭り騒ぎなのだ。
そこに人間も仲間として加えることが出来れば、元人間のリムルとしてはこれほど嬉しいことは無い。
人との共存共栄を目指す上で一つの目標となるだろう。
「──やはり道を作るのが手っ取り早いか」
「はい?」
「いや、ブルムンド王国までの道を道を整備しようかなって」
リムルは街道整備に関する構想を語った。
大規模な国家事業となる街道の整備を
その代わりリムル達が危険のない魔物だと広めてくれというお願いも忘れない。
話を聞いたフューズは感動した様子。
まさか魔物がここまで本気で人間の為に動いてくれるとは予想もしていなかったのだろう。
「町の発展のためには人間の協力も必要だと思ってる。だから俺達が往復路の危険を排除して、この町に気軽にやってこれるようにしたいんだ」
「なるほどそういうことですか。確かにこの町だけで閉じているよりは様々な国と交流を持った方が豊かな町になるでしょうし、盟主としては当然の考えでしょう」
「そして何より、お祭りに来る人が増えればマツリも喜ぶだろ?」
「結局マツリ君の為なのですね」
「まあね」
結局全てはマツリと配下の魔物達の為なのである。
その気持ちさえ理解できれば、リムルというスライムの8割くらいは理解したと言って良い。
フューズはその点で文句なしの理解者なのだった。
「リームルー! わはははは! 今帰ったのだ」
バァン! と引き戸が吹き飛ぶ音と共にミリムが現れた。
その後ろにはフル装備のエレン。
「ミリムちゃんはすごいんですよぅ。すぐに魔物を発見するので狩りが楽らくでした」
「俺も頑張ったよ!」
「マツリ君には助けられたよぉ。ありがとね」
「ふふーん♪」
狩から戻ったエレン一行が獲物を自慢しに来たようだ。
自分の食材は自分で用意したいと言っていたエレンだが、ミリムとマツリを連れて行っては自分で狩りをしたと言えないのでは?
と思うリムルだったが、気にしたら負けである。
「大量なのだぞ?」
「おなか一杯たべれるね」
ミリムとマツリが嬉しそうに笑っているのだから水を差すのは野暮なのだ。
狩った魔物を集めてあるという森の一角へと向かう。
数が多すぎて運搬が困難なのだそうだ。
そこはマツリやミリムの手を借りずに自分たちで行うつもりらしい。
恐らく自分の手で持ち込んだ方が自分の手柄っぽいなどと考えての事だろう。
小ずるい奴らなのである。
森を少し歩くと見張りをしていたギドとカバルを発見。
その後ろには魔物の死体が積まれている。
確かに大量である。
「おお、大漁大漁」
とリムルが感心したその時。
突然の殺気に同行していたシオンが反応した。
「何者です!?」
「え? あの……え?? ギド……」
「カバル……」
もちろんシオンはギドとカバルに問うているのではない。
その背後に現れた強い力を秘めた妖精──
「その人は敵じゃない」
リムルはその
「……私は
「覚えてるよ。ガゼル王が来た時トレイニーさんと一緒に居たな」
「お久しぶりでございます、盟主様」
「ああ。それより説明してくれ。その殺気……何かと戦っていたのか?」
普段は温厚なはずの
尋常ではない事態が起こっているのは一目瞭然だった。
「……ご報告申し上げます。
それは、災厄の知らせ。
強力な魔物であるドライアドがここまで慌てて報告を上げるのだからただ事ではない。
しかしトライアの報告を受けて、リムルは思う。
カリュブディスって……何?
顔面蒼白になって慌てるエレン達3人をよそに、リムルは一人呆けていた。
そして危機感の無い者がもう3人。
「カリュブディスなどリムル様の敵ではありません! 蹴散らすのみです!」
「うむ! この私が誰か忘れた訳ではあるまい? カリュブディスなど一捻りなのだ!」
「何それ面白そう! リグルドに言ってお祭りの準備をしないと!」
まるでピクニックにでも出かけるようなテンションだ。
先行きが不安なトライアは泣きたい気持ちで静かにリムルの返答を待つのだった。
現在ハーメルンでは挿絵機能が停止されている為、挿絵無しで投稿です。
一応挿絵も作ってあるのでいつか入れる予定。
挿絵なんかなくても問題はないのでしょうが、なんとなく今まで全話挿絵付きで投稿してるので、ここまで来たからには最後まで挿絵を入れようかなと思ってます。
ーー追記ーー
挿絵を追加しました。