トライアの報告を受け、リムルはすぐに幹部を会議室に集めた。
突然の緊急招集に高まる緊張感の中、
「なんと! あの「天空の支配者」が復活ですと!?」
「アレは遥か昔に封じられたはず。理由もなく封印が解けるなど考えられませぬが……」
「事実でございます。我が姉トレイニーが足止めを行っておりますがあまり長くは保ちません」
リグルドとハクロウが信じられないといった様子で驚くが、トライアは毅然とした態度でそれが事実だと言い切った。
ドライアドは森の管理者としてその公明正大な振る舞いが世界的にも有名な種族である。
トライアが言う事は紛れもない事実であり、つまり魔物の町にとんでもない化け物が接近しているという事が確実なのだ。
事の重大さを理解した幹部達が一斉に慌て始め、会議室は騒然となる。
魔国の幹部や要職を任される者たちでさえ、慌てふためくほどの脅威。
それが
あのオークロードにも引けを取らないどころか、魔王にも匹敵する暴威なのだ。
一方、配下たちの慌てっぷりとは対照的にリムルとマツリは落ち着いた様子で会議室の様子を伺っていた。
というよりも、事態の深刻さが理解できていない様子。
「ねぇパパ」
「どうしたマツリ」
「カリュブディスが何かは知らないけど、なんかヤバそうじゃない?」
「ああ。カリュブディスが何かは知らんが、確実にヤバいだろうな」
しかし『なんかヤバそう』という雰囲気はしっかり伝わっており、話に取り残されまいと小声でこっそり相談している。
そしてやはり、自らの相棒に頼るのがこの二人である。
(大賢者!
(教えてシンラ。
素直に知らないと言えば良いものを、見栄っ張りな二人は便利なスキルでこっそりお勉強をするのである。
思考加速も用いた結果、そのお勉強は1秒もかからずに終わった。
「あー、皆一旦落ち着いてくれ。
「俺も知ってるよ! 空を飛ぶデカいやつね!」
たった今聞きかじった知識で堂々と見栄を張る。
ズルいというか、なんというか。
ところがこの二人の面の皮の厚さが、今回ばかりは役に立った。
強大な敵に怯えず飄々と場を仕切るリムルとマツリを見て幹部達に余裕が戻ったのだ。
つまり、結果オーライなのである。
流石はリムル様マツリ様と幹部たちから褒められることがちょっとだけ後ろめたい二人なのだった。
「さて、ここで一度情報のすり合わせと行こうか」
死亡しても一定期間で復活する性質を持ち、勇者により封印されていた。
物質を持たない精神生命体である為その復活には屍などの依り代を必要とする。
……というのが大賢者とオトモダチに教えてもらった
さらにドライアドが言うには、なんと
リムルもヴェルドラの魔素から発生した魔物であることを考えれば、兄弟と言えなくもない関係である。
情報のすり合わせは終わった。
勇者の封印を破って復活し、知性が無いのに一直線に魔物の町を目指しているなど不審な点はある。
しかし今は迎撃体制の構築が急務という事で、原因の追及は後回しとなるのだった。
会議が終わるとリムルは可能な限り多くの住民を町の中央広場に集めた。
いつもの場所にいつものお立ち台を出し、マツリと二人で壇上に立つ。
「いきなり呼んですまないが、ちょっと緊急事態なんだ。みんな、聞いてくれ──」
強力な敵が町に接近しているので、こちらから出向いて迎撃する。
決戦予定地は整備途中の街道になるだろう。
町も安全とは言い切れないので非戦闘員はリグルの指示に従って森へ避難すること。
あえて
無用な混乱は避けるべきなのだ。
「以上、慌てず騒がず行動開始!」
説明が終わり、住民は速やかに避難を開始した。
イベントやトラブルの多いこの町の住民は多少の事では動じないのである。
リムルが見守る中、非戦闘員の住民が続々と列を成して移動していく。
問題なし。開戦前に避難は完了するだろう。
そして隣には避難する住民に笑顔で手を振るマツリ。
こちらは問題ありである。
リムルは一つため息をついて、お説教を始める。
「マツリ、一応言っておくがこれは──」
「お祭りじゃない。分かってるよ。
「分かってるなら良いんだが……本当に頼むな? 危なくなったらちゃんと逃げるか戦うかしろよ?」
「大丈夫大丈夫! 俺だって修行で強くなったんだから!」
だったら楽しそうな顔をするなよという言葉をリムルはぐっと飲み込む。
怖がるよりは楽しんでくれた方が何倍もマシではあるのだが、少しは緊張感という物を身に着けて欲しいと思わずにはいられないのだ。
そんな親子のやりとりをしていると、今度はフューズが話しかけて来た。
「リムル殿」
「そうか、フューズ達もいたんだった。悪いな、せっかく休暇を楽しんでいたってのに。良ければ君も彼らと一緒に避難してくれ」
「……なぜ逃げないのですか」
フューズが問う。
リムルを見つめる眼差しは真剣そのものだ。
「なぜって……」
今更なぜこんなことを問うのかとリムルは不思議に思った。
敵が来た。だから倒す。
そこに他の選択肢を検討する余地は無いように思えたのだ。
「
勝てるか分からない危険な戦いに飛び込んでいく必要は無く、逃げれば良いと、そう訴えているのである。
いかにも冒険者らしい自由な考え方であった。
「知恵がないってことは、つまり
などと見当違いな反応を返すマツリは一旦脇に置き、森の盟主としてリムルが答える。
「……俺が負けたらみんなには逃げるように言ってるけどな。だけど一回ぶつかって負けても諦めるつもりは無い。まぁ万が一の場合はブルムンドでの住民の受け入れについて検討して見てくれよ」
「万が一って……! ……いえ、そうか、貴方はここの魔物達の主……でしたね」
リムル一人なら逃げるのも簡単だろうが、リムルを必要としてくれる仲間達を置いて逃げるわけにはいかない。
今やリムルは国の主として、そして父親として、多くの物を背負っている。
自分が助かるために彼らを見捨てるなど断じて認められない話なのだ。
「そういうことだ。それに魔王に匹敵すると聞いたらなおさら退くわけにはいかないな」
「それはどういう……」
ここでリムルはスライムから人型へと姿を変える。
そう、シズから受け継いだ人間の姿へと。
「俺はシズさんとは同郷でね。彼女の意思を継いだんだ。魔王レオンをぶん殴るためにはカリュブディスなんぞにビビってるわけにはいかんのだよ。この姿に懸けて、な」
「その姿……ああ、正しくあの人の……」
イフリートの暴走によってシズエ・イザワは亡くなり、彼女の亡骸を捕食したリムルがその姿を受け継いでいる。
エレン達3人からそう報告を受けていたフューズだが、半信半疑だった。
しかし初めてリムルを見た瞬間にそんな疑いも綺麗さっぱり吹き飛び、シズの姿を受け継いだのだと深く納得したのである。
以来、リムルが人の姿を取る度にこうして感慨に浸るようにその姿見つめるのだ。
(またこの反応か……。聞けば彼はシズさんに世話になっていたというし、懐かしい気持ちになってるのかね)
悲しいような嬉しいような、複雑な感情が渦巻いて呆然と立ち尽くすフューズ。
しかしそれも仕方のない事だった。
息を呑んでリムルを見つめるフューズの瞳には、今は亡き憧れの英雄が映っているのだから。
「……おっと、今は故人に思いを馳せている場合ではないですね。私も役に立てれば良かったのですが……ここは避難させてもらいます」
「ああ、気を付けてな」
ひとつ大きく息を吐いて気を引き締め直す。
そして避難を始めている非戦闘員に合流するべくその場を後にするフューズだが、突然何かに気付いたように歩みを止めて振り返った。
速足でリムルの所へと戻るフューズ。
まだ何かあるのだろうか?
「リムル殿。一つ確認したいことが」
「どうした。何か不安要素でもあるのか?」
「不安要素、というほどの事ではないのですが……一つ気になった点がありまして」
「なんでも良い。言ってくれ」
重要な戦いを前に歴戦の勇士からの助言は聞いておくべきだとリムルは思った。
だからこそ真剣な面持ちでフューズの言葉を待つのだ。
こんなことを言われるとは夢にも思わずに。
「今日はラビットマンの格好ではないのですか?」
「は? ラビッ……はぁ??」
こんなことなら聞かなきゃ良かったと思ってももう遅い。
意味不明な質問に固まるリムル。
フューズはフューズでリムルの反応が想定外だったらしく、二の句が継げずにいる。
2人揃って黙り込んでしまい、しばらく無音の時間が流れた。
「……いやその、リムル殿にとって、ここ一番の勝負服といえばあの衣装だと町の魔物達から聞いていますが、その格好のままで宜しいのですか? 出過ぎた真似だとは思いますが、兵士たちの士気にも関わるかと思いまして……」
この上なく余計なお世話であった。
割と本気で心配しているのだから質が悪い。
「何かと思えばそんなことかよ! 気を張って損したわ!」
「いえいえ、私は真面目に聞いているのですけどね?」
「うっさい! これが俺の戦装束なんだよ! これが!」
「はぁ、なるほど。戦う時は意外と地味な格好なんですねぇ」
「おいフューズ!? 何ちょっと残念そうな顔してんだよ! ……こらこらマツリ服を出すのをやめなさい! バニーガールの衣装は今いらないから! いや、フリフリのドレスも駄目!」
途中までは良い雰囲気だったのだが、最後は締まらない感じで戦地へと向かう事になるリムルだった。
☆
夕刻。
日が落ち始めて少し暗くなったジュラの森に静かに響くのは、マツリとミリムの可愛らしい声だ。
「アリが1匹」
「2匹」
「3匹」
「いっぱいなのだ」
「ちゃんと数えてよミリム。あ、ほら4匹目」
「……263921匹」
巣に隠れているアリの数だって一発で分かるのだ。
「ああーっ! また
「良いではないか! 一匹ずつ数えるなどめんどくさいのだ!」
「しょうがないでしょ。暇なんだから。ほら5匹」
「6匹。……ああもう、つまらないのだ! ワタシも戦いたいのだ!」
「それはパパに駄目って言われたじゃん」
リムル率いるテンペスト軍が上空のカリュブディスとドンパチやっている頃、地上では暇を持て余したミリムとマツリがアリの巣から出てくるアリを数えていた。
地面に仲良くならんでしゃがみ、じっとアリの巣を見つめる。
かれこれ1時間くらいはこの状態である。
何故この緊急時にこんなことをしているのかというと、この2人は訳あって戦闘から外されているからだ。
時は開戦前に遡る。
整備途中の街道に迎撃部隊を待機させ、後は
その待ち時間を使ってトライアから
そこで自信満々に名乗りを上げたのが、ミリムだった。
「ふっふっふ、何か忘れているのではないか?」
「お弁当はちゃんと持ってきたよ。ポーションも胃袋にいっぱい入ってるから心配いらないね!」
どやぁ……。
胸を張るマツリ。
「マツリ、そうじゃないのだ。……リムルよ、私が誰だか覚えていないとは言わせぬのだ!」
「ミリム!」
そうかミリムが居たかと喜ぶリムル。
ミリムはさらにその上を行く
頼もしい友達を持ったものである。
「デカいだけの魚などこのワタシの敵ではない!」
ミリムはマツリにも負けないどや顔で戦いへの参加を要求した。
友が強敵の出現に困っていて、自分はその敵を倒せる。
助けて当たり前だろうとミリムは考えたのだ。
ところが話は思わぬ方向へと進んで行く。
「そのような訳には参りませんミリム様。私達の町の問題ですので」
「そうですよ。友達だからとなんでも頼ろうとするのは間違いです。リムル様がどうしても困ったその時はぜひともお力添えをお願い申し上げます」
なんと、シオンとシュナがミリムの参戦を拒否したのである。
そのままシュナは、ミリムの隣に居たマツリにもこう言った。
「マツリ様はミリム様係として、ミリム様の御供をお願いしますね」
「うん分かった」
そして最後の決め手は、リムルの見栄だ。
「そうだぞミリム。まぁ俺を信じろ」
ミリムの
しかし空気の読める子であるミリムは友の面子を立ててやることにしたのである。
「リムルが言うなら仕方がない。じゃあマツリ、私たちは遊びに行くのだ」
「うん!」
そして相変わらず呑気なマツリを連れて、陣から離れた安全な場所へとやって来たわけだ。
そこから戦闘が続くこと実に10時間。
何もない森の中ではお弁当を食べるかアリを数えるくらいしかやることが無かった。
「ちょっと遠くに行ってみる? 人の国の方とか」
「ダメだぞマツリ。リムルに叱られるのだ」
「えー、いいじゃん暇だもん。カリュブヂュチュ……カリ、カルブヅツ、……アレもまだ倒せそうにないよ」
「マツリよ、カリュブディスなのだ。まあ確かにこのペースだと数日はかかるだろうな」
今度こそ正しく
カリュブディスの体力は半分くらいまで減っているようだ。
しかしテンペスト側の消耗を考えれば、この先攻撃の手も緩まっていくだろう。
故に残りの半分は10時間では削りきれず、
というのがミリムの見立てである。
「良く分かるね。ミリムは凄いや」
「ふふーん、この程度見れば分かるのだ」
このレベルの思考を直感だけでやってのけるのは、流石というしかない。
まるで将棋の棋士が詰将棋を見ただけで答えを閃くような速度感である。
長き時を生きるミリムだからこそなせる業だ。
「ねえミリム、お腹空いてない?」
「空いてはいないが、うまーなご飯が食べたいのだ」
「じゃあそろそろご飯の時間だし、パパの所に行こうか」
夜ごはんの時間になったので、マツリはミリムを連れてリムルの所へやって来た。
見ればリムルは空中を飛び回りながら
危険な役目を務めるリムルだが、相手の単純な動きに慣れて来たのかかなり余裕をもって対応している感じである。
目から放たれる光線を難なく躱し、嵐のように舞う
ということでマツリは遠慮なく話しかける。
「パパ。調子はどう?」
「ああマツリか。いい子にしてたか?」
今まさに
「アイツは中々しぶといみたいでな、すぐには倒しきれないと思う。もう夜だしお前たちは避難民の所に行って夕飯にするか?」
「ワタシは戦いを見届けるのだ! マブダチが戦っているというのに自分だけ逃げるわけにはいかぬ」
「じゃあ俺も残る」
「はあ……好きにしろ。流れ弾に気を付けろよ」
リムルの許しを得て、戦いの見学が始まった。
とは言えやることはシンプルだ。
飛び回るだけのリムルと、攻撃を続けるだけの地上部隊。
もはや戦いというより作業に近い。
「ほう! あれが
「ミリム知ってるの?」
「当たり前なのだ! これでも長き時を生きて来た魔王なのだぞ?」
「おお、凄い……」
これでもミリムは物知りなのでカリュブディスについても知識があった。
それをマツリの前で惜しげもなく披露し、自慢する。
素直に尊敬するマツリのおかげでミリムは上機嫌である。
「もうちょっと近づいてみるか」
「えー、パパに怒られない?」
「ワタシが守るから大丈夫なのだ」
ミリムはマツリを引っ張ってカリュブディスへと接近する。
「でかいねー」
「でかいのだー」
すぐそばまで寄ってみれば、視界がカリュブディスの鱗で埋め尽されるほどの大きさである。
中々お目にかかれない大きさの生物を目の前にして二人のテンションは上がっていく。
ぺたぺたと鱗を触ってみたり、ちょっとはぎ取って観察してみたり。
遠足気分でやりたい放題の2人だった。
カリュブディスの背中で遊びだすミリムとマツリにリムルは呆れ果てる。
おいおいここは戦場だぞ?
何を呑気に遊んで──
と心の中でぼやきはじめたリムルだが、いや違うかもなと思いなおす。
リムルが森の魔獣を敵と思えないのと同じように、ミリムもカリュブディスを単なる面白い生き物としてしか認識していないのではないか。
何かあれば乗っているカリュブディスにげんこつでも喰らわせて一撃で仕留めるのだろうし、心配するだけ無駄なのだろうとリムルは納得する。
しかし問題が無いわけではない。
ミリムの隣で無邪気に鱗をはぎ取るマツリを見てリムルは思う。
──だけどマツリ。お前は違うよな?
今はミリムが傍にいるから良いけど、本来ならこれは自殺行為だろ。
リムルだってカリュブディスの攻撃は避けるか無害化しているのが現状だ。
怪光線は確実にダメージを受けるだろうし、飛び交う鱗はダメージこそ受けないだろうがまともに食らえば体がズタズタに引き裂かれるだろう。
一瞬で回復できるとは言え、そんな目に遭うのは御免なのだ。
もしマツリがそんな目に遭ったらと想像するとリムルは冷静ではいられない。
──カリュブディスの野郎、絶対にぶっ殺してやる!
まだマツリは無傷だが、謎の被害妄想によってリムルの殺意は上昇することとなるのだった。
再びカリュブディスの背を見れば、ミリムがはぎ取った2枚の鱗をカンカンとぶつけてリズムを取り、マツリがそのリズムに合わせて何やら歌を歌っていた。
微笑ましい光景に頬が緩むリムルだが、今は戦闘中。
すぐに気を引き締めてこの二人を戦線から遠ざける決断を下した。
ミリムが居る以上二人の安全は確保されているのだが、このままでは攻撃に巻き込んでしまう恐れもあるのだ。
やはり二人には避難所に居て貰うべきなのである。
そう思い、リムルがミリムとマツリに声を掛けようとした……その時。
不気味な声が、大森林の上空に響き渡った。
『グ・グギョ、グガ、が。お、おのれ、マ──』
カリュブディスが喋ったのだ。
音声が不明瞭なため何を言っているのかは分からないが、明らかに言葉を紡ごうとしている。
『おの……れ、マ、マツ……マツリめ!!』
続く言葉はリムルにもはっきりと聞き取れた。
「マツリ!? 今マツリって言ったのか!? 知性は無いって話じゃなかったのかよ。というか、どうしてマツリの名前がでてくるんだ?」
謎は深まるばかりである。
一方その頃、カリュブディスの背中で遊んでいたマツリとミリムもその声を聴いていた。
「あれ? ミリム俺の事呼んだ?」
「この声か? これはワタシではないぞ。カリュブディスが喋ったのだ」
「そうなんだ。おーいカリュブディスさん、俺はここに居るよ。どうかしたの?」
背中をぺちぺちと叩いて律儀に応えるマツリだったが、反応はない。
「マツリ。こやつ、よくよく見てみると、あの時お前を殴った魔人を依り代にしているみたいだぞ。確かフォビオとかいう奴だったな」
「ああフォビオね。俺の事キライっぽかったし、仕返しに来たのかも」
「ははーん、なるほど? ワタシのマブダチを一度殴るだけでは飽き足らず更なる危害を加えようというのか。死にたいらしいな?」
これにてカリュブディスが一直線に魔物の町を目指してきた理由が判明。
依り代となったフォビオの怒りがそのままカリュブディスの破壊の衝動となってマツリに向けられていたのだ。
そのことに気付いたミリムが即座にオーラを開放して戦闘態勢に入る。
『グギョ!? ミ……ミリム! ミリムめ!!』
今度はミリムにも反応する。
フォビオを伸したのはミリムなので、ミリムも復讐の対象になっているようだ。
「おいおいマジか? マツリだけじゃなくてミリムにまで喧嘩を売るのかよ」
上空で一連の言葉を聞いたリムルは、誰に言うでもなくそう呟いた。
そしてすぐさまミリムの所へと飛んでいく。
「おいミリム。こいつはどうやらお前の客らしいぞ?」
「うむ。ワタシのマツリを殴ったフォビオとか言う奴だな。今から殺すから離れているのだ」
「ほ……ほどほどに頼むぞ? あ、あとフォビオって魔人、魔王カリオンの配下なんだろ? 素体部分のみを残して他を吹き飛ばすって出来そうか? できれば生かして、助けてやりたいんだが──」
「その程度造作もないのだ。しかし……殺しては駄目なのか? こいつはマツリを殴ったのだぞ?」
「俺だってこいつを許せない気持ちはあるが……カリオンと敵対するわけにもいかないんだ。頼む、生かしておいてくれ」
「リムルが言うならしょうがない。半殺しで許してやるとするのだ」
いよいよ殺気立ってきたミリムをその場に残し、リムルはマツリを連れて退避する。
ベニマルや援軍に来ている
カリュブディスへ攻撃を仕掛けていた魔物や騎士たちが一斉に散って行く。
(よしミリム、こっちの準備は終わったぞ!)
(うむ。任せるのだ)
避難が完了したことを確認し、リムルが思念伝達で合図を送る。
そして次の瞬間。
「死ぬが良い!
「殺さないって言ったよなぁ!?」
青白い光がミリムの手から放たれた。
その光は星のように瞬きながら尾を引き、四方八方へと散ってからカリュブディスへと収束する美しい軌跡を描く。
そして着弾と同時に起こる大爆発。
50メートルを超える巨体は完全に爆炎に飲み込まれ、跡形もなく消し去られたのだった。
「一撃か……こりゃフォビオごといったかな?」
「パパ、あれ!」
空中に残る爆炎から細かい破片がぱらぱらと落ちていくが、そこに交じって人型の物体が落下していくのをマツリが見つける。
リムルがキャッチするとそれはやはり依り代となったフォビオだった。
しかし無事とは言い難く、カリュブディスとの融合がかなり進んでしまっているようである。
フォビオの心臓のあたりにカリュブディスの核が癒着しているのだ。
地面に横たえられたフォビオだが、意識が戻る気配はない。
それどころか大賢者の解析では1時間程度でカリュブディスが復活してしまうという。
「ねぇパパ。もうフォビオは助からないの?」
「普通はもう無理だろうし、お前を殴った以上は死をもって償うのが当然なんだが……ここは助ける。安心しろ。俺はマツリのパパなんだぞ? なんとかするに決まってるさ!」
「パパ!」
パパの見せ場である。
「いいか? 俺は今からフォビオからカリュブディスを切り離す。そうするとカリュブディスは逃げようとするだろうから、逃げる前にお前が食べるんだ。分かったか?」
「わかった!」
「よし、じゃあ行くぞ!」
「いただきまーす!」
リムルとマツリの持つユニークスキル
強者を取り込めばその分強くなれるという半ばチートのようなスキルなのだ。
そしてカリュブディスは栄養分として申し分ないので、リムルとしては是非ともマツリに食べさせてやりたいのである。
という訳で、今日のマツリの夜ご飯はカリュブディスだ。
「旨いか?」
「なにこれめっちゃ美味しい。もっと頂戴!」
「まだまだあるぞ。ほら、たんと食え!」
フォビオの胸からカリュブディスが少しずつ分離され、黒い靄のようなものが漂う。
それをマツリが片っ端から集めて吸い取ってゆく。
全てを食べ尽くすのに、数分とかからなかった。
「ごちそうさまでした!」
「よし、これでフォビオも無事だし一件落着ってところかな」
「お疲れパパ」
「マツリも残さず食べて偉いぞ」
美味しい夕飯に満足気なマツリと一仕事終えて達成感に浸るリムルが向かい合ってあははと笑う。
未曽有の危機から来る緊張の糸が、たった今切れたのだ。
「リムル様、お見事でした」
ソウエイが陰から現れる。
「わーっはっは。リムルなら当然なのだ!」
「ミリム様も流石ですな。一撃で倒してしまわれるとは」
空から、ミリムとガビル。
その後も続々と集まるテンペスト軍の面々。
10時間以上にも渡る戦闘の後だが、一切疲れた様子を見せずに笑顔を見せている。
本当に頼もしい配下たちである。
「皆、お疲れ。さっさと後片付けして、俺達の町に帰ろうぜ!」
リムルの締めの言葉に、わぁっと歓声が上がる。
トライアの報告から始まった
今はベニマルの指揮の下、配下の魔物達が意気揚々と
ふう、と一息ついたリムルは、マツリを撫でながらその様子をまったり眺めるのだった。