転生したら子供が出来た件   作:座右の銘

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激戦を終えて

 カリュブディスを撃破し、無事にフォビオを救出したリムル達。

 今はけが人の応急処置やメガロドンの死体や飛散した鱗の回収・運搬など戦の後始末が行われている。

 

 そんな中、リムルとマツリとミリム、そして幹部達やトレイニーさんまで現れて一人の魔人を取り囲んでいた。

 その魔人とは、勿論フォビオだ。

 魔国に災いをもたらした張本人である。

 

「スマン! ……いや、スミマセンでした!」

 

 そのフォビオは目覚めると同時にリムルに土下座し、平謝りを始めた。

 

「今回の件は俺の一存でしたこと。魔王カリオン様は関係ないんだ。何とか俺の命一つで許して欲しい……!」

 

 とのことである。

 カリオンがフォビオを使って魔国への侵略を始めたのではないかという意見も出ていたが、そうではないようでリムルとしては一安心だ。

 尤も、カリオンに魔国との戦争の意思が無いと決まったわけではないし、目を付けられているのは確実なので油断はできないのだが。

 

 魔王カリオンへの警戒は続けるとして、今はフォビオの処遇だ。

 まあ、カリオンの心証を良くするためにわざわざ助けたのだから殺すなどもってのほかだろう。

 俺の命一つでとは言うが、ここでフォビオを殺せば魔王カリオンと魔国の関係も悪くなることが目に見えていた。

 ここは無事に返して、カリオンに感謝される方が良い。

 

 という訳でフォビオは無罪放免。

 リムルの中では最初から決定事項なのだった。

 

「貴方はなぜカリュブディスの封印場所を知っていたのですか? あれは勇者から託された我らドライアドしか知らぬ場所。偶然見つけたとは言わせません」

「……教えられた。仮面をかぶった二人組の道化に」

 

 トレイニーの問いに、フォビオが答える。

 

 そして始まった取り調べから明らかになったのは、中庸道化連と名乗る何でも屋の存在だ。

 今回のカリュブディス復活は勿論、オークロードによるジュラの森侵攻にも関わっており、ベニマル達が住んでいたオーガの里を襲った中にもその姿が確認されているのだとか。

 明らかにジュラの大森林に害をなす存在であり、要注意人物としてマークされることとなった。

 

 そしてその流れでミリムの口から語られたのが、魔王クレイマンによる暗躍の可能性である。

 オークロード魔王化計画にはミリムを含む4名の魔王が関わっているが、会合の場で中庸道化連の名前など出なかったというのだ。

 つまり、その何でも屋への依頼は秘密裏に行われていたわけだ。

 となれば計画を遂行していたゲルミュッドか、あるいはゲルミュッドの後ろ盾となっていた魔王であるクレイマンが怪しいという事になる。

 ゲルミュッドは既に死んでいるが、クレイマンに関しては要注意である。

 

「じゃあフォビオ、お前も気を付けて帰れよ」

「元気でね」

 

 取り調べは終わり、フォビオを返そうとするリムル。

 マツリも手を振ってお別れモードだ。

 

「……は!? いや俺は許されないだろう!!」

「まぁ無罪ではないけどな。真犯人に利用されていたみたいだし、幸いにも人的被害はないしな。ミリムもそれでいいだろ?」

「うむ! 一発殴ろうと思っていたが許してやるのだ! マツリも怒っていないようだしな」

 

 未だに死ぬつもりでいるフォビオだが、カリオンの部下である以上リムルとしては殺す方が大問題なのである。

 さっさとお帰り願いたいと思うリムル。

 早く庵に帰ってマツリとおしゃべりでもしたい気分なのだった。

 ミリムも許すと言っているし、これでお開きで良いだろう。

 

 ──と、誰もが思ったのだが。

 

「カリオンもそれで良いだろう?」

 

 ミリムが森へ視線を向けて言う。

 まるでそこに魔王カリオンが居るかのように、ごく自然に語り掛けたのだ。

 そして木陰から出てくる大きな人影。

 

「やはり気づいていたか。ミリム」

 

 王者の風格を漂わせながら登場したのは、やはり魔王カリオンだった。

 

「よう、そいつを殺さずに助けてくれたこと、礼を言うぜ」

「カリオン様……!」

 

 フォビオが跪くのは当然として、魔王の登場にその場にいたほとんどの者が緊張感で動けなくなる。

 実際はもっとヤバい魔王が中央都市リムルには住んでいたりするのだが、なんというかこれは違う。

 リムルやその配下にとっては、初めて本物の魔王を見た気分なのである。

 

 そんな威厳たっぷりの登場だった魔王カリオンだったが、敵意は無いようだった。

 それどころか威圧感に負けじと強がるリムルを見て気に入ったと笑ったり、果ては自らの非を認めて謝罪までしたのだ。

 力を誇示するだけではない、誠実さも持ち合わせた魔王だと誰もが思った事だろう。

 今回の件は借り一つにしておくというカリオンに対し、リムルが不可侵協定を持ち掛けると、そんなことで良いのかとあっさりと承諾。

 どこまでも器の大きいカリオンに対し、ただただ感服するリムルだった。

 

「ところでミリムと仲良く遊んでるお前さんは、報告にあったリムルの子だな?」

「うん、俺はマツリ。よろしくね、カリオン!」

「ふはははは! こいつは愉快だな。この俺を前に全く気負わずに話しかけてくるか」

「面白いだろう、カリオン? こやつはワタシのマブダチなのだ!」

 

 どんな恐ろしい相手を前にしても全く物怖じせずに話しかけるのは、マツリのお家芸である。

 ミリムでも怖がらないのだから、カリオン程度で動じるはずもない。

 

 マツリがカリオンに取った態度だが、普通なら魔王相手に不敬と取られても仕方がないものだ。

 しかしそこは魔王カリオン。この程度で気分を害することも無い。

 むしろ面白いものを見れたと上機嫌になるほどだった。

 

「面白い奴だ。こりゃあ、ミリムが気に入るってもんだぜ」

「カリオンもそう思うか!? やっぱりマツリは可愛いのだ♪」

 

 カリオンに褒められ、ご機嫌なミリム。

 

「ほう、マツリの可愛さに気付くとは、話が分かる魔王じゃないか」

 

 そしてリムルはお得意の親バカでカリオンの評価を上方修正するのだった。

 幹部一同が諦めたようにため息を吐くが、リムルもマツリもどこ吹く風である。

 

 カリオンはその後、お仕置きとばかりにフォビオをぶん殴って気絶させて連れ帰った。

 獣王国ユーラザニアとの不可侵協定については後日使者を通しての話し合う事に。

 その内仲良くなって国交を結べれば──などと夢を膨らませるリムルなのだった。

 

 ☆

 

「ただいまエレン!」

「マツリくん! 無事で良かったよぅ!」

「ははは、感動の再会でやすね」

 

 町には既に避難していた住民が戻っており、祝勝会の準備がリグルドの指示で進められていた。

 客人であるエレン達4人組もちゃっかり祝いの席に参加するつもりらしく、魔物に交じって準備を手伝っている。

 そこに戦場から帰って来たマツリがやってきて、一目散にエレンに駆け寄って抱き着いたのだ。

 

 リムルはその様子を見て何か負けたような渋い顔になっている。

 パパより嬉しそうだな……と一人呟くが、愚痴を聞かされるのも嫌なので誰も応じる者はいなかった。

 

「宴の準備だね! 俺も張り切らないと!」

「リグルドさんがマツリくんの事待ってたみたいだから、早く行ってあげた方が良いかもねぇ」

「もちろん! 俺は魔物の国のお祭り大臣なんだから。じゃあね!」

「うん、また後で!」

 

 マツリは息つく間もなく駆け出した。

 リグルドが指揮を執っているだろう中央広場に向けて軽快に走るマツリの耳には、マツリ様! マツリ様! と途切れることなく次々と歓声が聞こえてくる。

 カリュブディスの接近に恐れを抱いていた魔物達も宴にはしゃぐマツリの姿を見て一安心。

 恐怖していたことなどすっかり忘れ、お祝い気分に上書きされてしまうのだ。

 

 マツリはそんな町の中を意気揚々と駆ける。

 そして中央広場に到着すると、そこにはリグルドと一足先に戻っていたソウエイとハクロウが待っていた。

 

「リグルド、来たよ!」

「お待ちしておりましたぞ! さぁ、こちらへ」

 

 リグルドが案内した先の区画では、持ち帰ったメガロドンが横たえられていた。

 メガロドンとはカリュブディスが召喚して従えていたサメ型の魔物である。

 20メートルほどもある巨体はドラゴンの鱗に守られて並みの攻撃は通さず、魔力妨害で魔素を乱すため魔法もほとんど効かない厄介な魔物で、その強さはAランクに達する。

 カリュブディスの前座としてそんな強力な魔物を13匹も倒した上に、その一匹を夕飯の為に持ち帰ったという。

 

 持ち帰ったメガロドンはソウエイが操妖傀儡糸(そうようかいらいし)という技で操っていた個体のため損傷はほとんどなし。

 なんと、今も生きているというのだから驚きだ。

 

 マツリがちょんと触ると、メガロドンがビクッっと跳ねる。

 その巨体の先にある尾ひれが地面を打つと、まるで地震のような衝撃と共にドォンという爆音が響いた。

 

「美味しそうだね!」

「はい。俺が生きたまま捕らえておりますので鮮度は抜群です。こちらはこれからハクロウが捌くのですが、是非ともマツリ様にその音頭を取っていただきたく」

「ほっほっほ、マツリ様直々の音頭となれば盛り上がるでしょうし、ワシのこのつまらぬ特技にも価値が生れるという物。ワシからもお願い申し上げますじゃ」

「分かった!」

 

 祝勝会のメイン料理はメガロドンで決まりである。

 そして始まる解体ショー。

 

「じゃあ、やって!」

「承知した!」

 

 オーク数名の手で空中に放り投げられたメガロドン。

 そのメガロドンが地面に落ちるまでのわずかな時間に、ハクロウが仕込み刀を目にもとまらぬ速さで振るう。

 投げた先の地面には綺麗に3枚におろされたメガロドンが横たわっていた。

 

 巻き起こる拍手喝采。

 マツリは満足げに頷いて、リグルドと共に次の現場へと向かうのだった。

 

 

 宴の準備が終わる頃には日が落ちていた。

 町の中央広場にて、宴の始まりを告げるリムルの言葉が壇上から贈られる。

 

「今回のカリュブディス騒動も皆の協力のおかげで無事乗り切ることが出来た。かつてないほどの危機だったがわけだが……お前達の顔を見ればもう心配いらないか。俺の話なんかより早く飲みたいって顔してるもんな」

「そうだよパパ。早く始めないと。……みんなお疲れ様! 今日は美味しいメガロドンの料理でお腹いっぱいになってね!」

 

 町の魔物達はもうすっかりいつもの調子を取り戻している。

 ビールの注がれたジョッキを手に、今か今かと乾杯の瞬間を待ちわびている様子だ。

 

 それを見た二人から、どちらからともなくふふっと笑い声が漏れる。

 一体誰に似たのか、お題目など何でも良いから早く騒ぎたいという気持ちでいっぱいな魔物たち。

 それを一段高いところから見下ろす二人には手に取るように彼らの気持ちが分かるのだった。

 

【挿絵表示】

 

 待たせるのも悪いよね、そうだな、と小声で話す。

 そして前を向いて、乾杯の音頭だ。

 

「それでは、カリュブディスを無事に撃退できたことを祝して……乾杯!」

「乾杯!」

 

 いつもの広場にいつものお立ち台。

 リムルとマツリが並んで、いつも通りの乾杯の音頭。

 何度やってもこの瞬間は良いものだとしみじみ思いながら、リムルはジョッキを掲げる。

 隣のマツリは何も考えず、見た目通りに楽しい気持ちでいっぱいだ。

 

「それじゃあマツリ、俺達も楽しむとするか!」

「うん!」

 

 壇上から降りるリムルとマツリ。

 魔物達でにぎわう中央広場を縫うように歩いて行く。

 幹部達がテーブルを囲んで待っているので、そこに合流するのだ。

 

 町の広場とそこから4方向に延びる大通りが会場となっており、敷物も敷かずに地面に座って魔物達が飲み食いするというのが今回の宴会の形式である。

 というか形式でもなんでもなく、何も考えずにただ魔物を集めた結果、椅子もテーブルも用意できていないだけだった。

 急ごしらえの宴会なので正式な会場なども無く、適当に広場付近に魔物を集めて即席の料理と酒をふるまっているだけなのである。

 それでもリムルとマツリが宣言すれば宴として成立するので何も問題など無い。

 

 広場の一角ではリグルの指揮する警備隊が大鍋でメガロドン汁を作っている。

 大鍋と一言で言うがその大きさは常軌を逸しており、体長20メートルのメガロドンの身が余すことなくその鍋で煮られている。

 人が何人も入って泳げるようなサイズの鍋なのである。

 

 火力を提供するのはキャンプファイヤーのように丸太を組んで作った即席のコンロ。

 こちらはカリュブディスとの戦闘で倒れた木々を再利用している。

 冬を目前に控えたこの時期に燃料の無駄遣いは出来ないのだ。

 しかし火力は十分で、数メートル離れた場所でも肌が焼かれるような熱気を感じるほど。

 

 鍋も食材もとにかく巨大で、豪快な料理風景であった。

 そんないつもと違った風景を眺めつつリムルとマツリは幹部達の待つテーブルへと向かう。

 

「ほう、居心地の良い宴会場でやる宴会も良いが、たまにはこういう雑なやり方も悪くないな」

「俺知ってる。こういうの、非日常って言うんだ」

「難しい言葉を知ってるなぁ。流石は俺の子だ」

 

 わしゃわしゃとマツリの頭を撫でつつ幹部一同が待つテーブル席に二人で座ると、主役の登場に場の空気も盛り上がる。

 宴の始まりだ。

 

「さて、まずは一杯」

「俺も一杯」

 

 毒無効で酔えない二人にとって酒はあまり美味しくないだけの飲み物なのだが、雰囲気重視である。

 美味しそうな顔をして飲めばなんとなく美味しい気がするものなのだ。

 マツリもリムルの英才教育によってそのあたりが良く分かっている。

 

「しみるー」

 

 などと言っているが、内心では果物のジュースの方が美味しいと思っているのはパパには内緒なのである。

 

「じゃあマツリ、パパはちょっと大事な話があるから好きに遊んで来い」

「分かった!」

 

 そう言ってマツリを遠ざけるリムル。

 マツリはいつものようにふらふらと宴会場を縦横無尽に歩きまわるのだろう。

 今日はまずリグルの所でメガロドン汁を貰いに行くようである。

 

「よし、行ったな。じゃあ本題に入るか」

「はい」

 

 そう、大事な話があるのだ。

 酒を飲んで美味い料理を食ってわいわい楽しくやりたいところなのだが、少しだけ真面目な話をしなければならない。

 これでもカリュブディス討伐という大仕事を成し遂げた後である。

 話し合っておかなければならないことがいくつかあった。

 

「まずはドワルゴンへの説明だよなぁ」

「ええ。彼らはミリム様の一撃を魔法兵器によるものと勘違いしておられるようです。……あんな兵器我々に作れるはずがないですし、あれば最初から使ってるんですがね」

 

 めんどくさそうにつぶやくリムルにベニマルが答える。

 当然の話だった。

 一撃でカリュブディスを葬れる兵器があって、何故10時間もけが人を出しながら戦闘を継続する必要があるのか。

 考えれば分かりそうなものだとリムルは愚痴をこぼす。

 

「しかしリムル様。開戦直後にミリム様が倒していたならまだしも、10時間という時間が逆に魔法兵器の存在を疑わせている可能性があるのではないでしょうか」

「どういうことだ? ソウエイ」

「あの手の魔法兵器はドワルゴンやその他国家も保有しているらしいのですが、威力が高い兵器は魔力の充填や魔法の詠唱に時間がかかるというのがセオリーなのです」

「なるほどな。カリュブディスを確実に倒せるまで威力を高めてから発射したと……ドルフさんはそう考えているわけだな?」

「恐らくは」

「って事は俺達、ドルフさん達をその時間稼ぎに使ったと思われてるんじゃないか!?」

「……恐らくは」

 

 リムルは大きなため息をついて机に突っ伏した。

 こんな状況では美味しいはずのシュナの料理も楽しめない。

 そのまま目を閉じ、当時の状況を思い返す。

 

 フォビオからカリュブディスを引き剥がしたリムルに真っ先に話しかけてきたのは、ドワルゴンからの援軍であるペガサスナイツの団長、ドルフだった。

 表面上は穏やかに、しかし確実に怒気を含んだ声でこう言ったのだ。

 

「説明してもらえますでしょうか?」

「いや、その……だな。実は、この少女は魔王ミリムといって、ね?」

「ははは、リムル殿は冗談がお好きなようだ。あのような高出力の魔法兵器を所持していたのなら、最初にそう申して欲しかったですぞ! この件は後程、正式に説明を求めさせて頂きます」

 

 確か、こんなやり取りだった。

 一応笑顔なのだが目は笑っていなかった。

 

 当のミリムが「私は魔王なのだ!」と言い募るも見た目が幼い少女では強がりにしか見えず、ドルフから温かい目で見られるだけ。

 一緒に居たマツリも怒っているのか頬を膨らませてドルフを睨んでいたが、リムルとしてもただただ可愛いなぁとしか思えない状況だった。

 ドルフが勘違いしたのも無理はないのだろう。 

 

「あれって、魔法兵器を秘密にしてたことに対する怒りかと思ってたけど、ドルフさん達を囮にした作戦について怒ってるって事になるよな?」

「間違いないでしょうね。同じことをされれば、俺ならその場で喧嘩を吹っ掛けてますよ」

「おいベニマル……冗談だよな?」

「ご想像にお任せします」

 

 リムルとしてはやめて欲しい気持ちでいっぱいだが、ベニマルは多分やるだろう。

 

 それはそうと、これはドワルゴン側への説明が必要な案件だ。

 元々するつもりだったが、ペガサスナイツの味わった屈辱を考えれば、その優先度はかなり高い。

 この話がガゼル王にまで伝わるのは確実なのだから。

 

「はぁ……ガゼル王、怒ってないと良いなぁ」

「その時はこのシオンが剛力丸でズバッと──」

「せんで良い!!」

「違うよシオン。こういう時は可愛い洋服を贈って……」

「ガゼル王が可愛い服なんか着るか!」

 

 問題児だらけのテンペスト。

 手元のビールをグイッと飲み干すリムルだが、毒無効で酔えないリムルは酒に逃げることも許されないのだった。

 

 魔法兵器、もといミリムの件に関しては問題だが、ドルフとの会話で出た話題は悪い事ばかりではなかった。

 

「これは独り言なのですが──」

 

 と前置きしたドルフが声を潜めてリムルに囁いたのだ。

 その内容は、リムルにドワルゴンに来て欲しいという物だった。

 ベスターが暗躍したあの裁判で国外追放になったのはリムルに加えてカイジン、ガルム、ドルド、ミルドのドワーフ4名だ。

 これらの国外追放措置は既に解除されているとのこと。

 

 それに何より、前回の訪問があのような形になった事をガゼル王が気にしていると言うのだ。

 これは再度訪問してガゼル王の心のつかえを取り除いてやるべきだろう。

 リムルとしてもエルフのお姉ちゃん達が待っているドワルゴンは思い出の地なので、二つ返事で了承を返したのだ。

 

「ってわけで、俺は多分ドワルゴンに正式に招待されることになる。今回の件の説明はその時にすることになろうだろうな。そしてさらに、この魔物の国、魔国連邦(テンペスト)の事を大々的に宣伝してドワルゴンとも友好関係にあるのだとアピールすることも出来るはずだ」

「リムル様が直々に出向かれるので?」

「ああ。迷惑をかけるが、留守の間はよろしく頼むな。魔国の王子としてマツリも連れて行くつもりだ。他のメンバーは……まあ後で決めるか」

 

 マツリにとっては初めての国外旅行である。

 しかも王族としての訪問だ。

 

 問題は従者として誰を連れて行くかだが、話に上がったドワーフ4人の他にベスターにも声を掛けるべきだろう。

 その他には……目をキラキラと輝かせてリムルを見つめるシオンは一旦保留として、シュナが居れば心強いかなというところ。

 誰を連れて行くべきか非常に悩ましいのでこの問題は後回しにするリムルだった。

 

「よし、これでドワルゴンへの対応は決まりだ。それで次なんだが……もう一つ忘れちゃいけない国がある」

「獣王国ユーラザニアですね?」

「そうだ。これは完全に偶然なんだが、あの場にカリオンが現れてユーラザニアと不可侵協定を結ぶことになった。そこで細かい取り決めなんかを互いの国から使者を出して話し合う事になったんだよ。そのまま仲良くなって国交とか結べたらいいなって俺としては思ってる」

「なんと! あの誇り高き魔王が治めるユーラザニアと国交ですか」

 

 大げさに驚くのがリグルドらしい。

 しかしこれはそれだけ大きな前進なのだ。

 ドワルゴンに続き、ユーラザニアとも国交を結べるかもしれないとなれば、魔物が興した新興国としては素晴らしい成果と言えるだろう。

 

「まあそんな感じだから、ユーラザニアに送り出す使者を決める必要がある。これも追々会議で決めるとしよう。ユーラザニアについてはこんな感じだ」

 

 これにて重要な議題は全て片付いた。

 後はゆっくり話し合って決めれば良いのだ。

 優秀な幹部たちの事だから、すぐに良い案がまとまるに違いない。

 

(マツリ、終わったぞ)

(じゃあそっちに行く!)

 

 緊急の会議も終わったのでリムルはマツリを呼び寄せる。

 駆け寄って来たマツリは勢いそのままにジャンプし、スライム姿に居なってリムルの胸へダイブ。

 リムルはそれを優しく受け止めて微笑んだ。

 

「パパ、会議はどうだったの?」

「良い感じだったぞ。これからもこの国はどんどん良くなっていくはずだ!」

「じゃあいっぱいお祭りしないとだね」

「ははは、そうだな。お祭りも大事だな」

 

 最終的には娯楽の充実が目標なのだ。

 誰もが笑って暮らせる豊かな国。それこそがリムルの目指す先なのである。

 はるか遠い目標に、一歩ずつ確実に近づいているという実感がリムルにはあった。

 

 マツリを撫でながらビールをグイッと飲み干すと、リムルは星空を眺めながら語り始める。

 

「俺としてはさぁ、魔物が国を興したところで国として認められるまでには何十年もかかるって思ってたんだよ。これがあっという間にドワルゴンとユーラザニアに国として認められるなんて思っても無かったんだよな。しかもファルムス王国ではヨウム一行が噂を流してくれる手筈になってるし、ブルムンド王国もフューズがいろいろ手を尽くしてくれてるみたいだし、なんだか順調すぎて逆に怖いくらいだ」

 

 それは、嬉しい悲鳴であった。

 次々と思わぬ方向からのトラブルや来訪者がやってくるが、そのすべてが魔国の地盤固めに有利に作用しているのだ。

 

 ドワーフ王との盟約に始まり、ブルムンドとファルムスから調査団の来訪、そしてフォビオの暴走も結果的に魔王カリオンとの親交を得るという結果になった。

 ミリムは……ただ迷惑なだけな気もするが、今となっては良い友達、いや親友(マブダチ)だし、きっと他の魔王からの侵攻に対する防波堤にもなってくれているのだろう。

 本当に良い出会いに恵まれている、とリムルはしみじみ思うのだった。

 

「そんなわけだからさ、これからも皆よろしく頼むな!」

「はい、勿論です!」

「マツリもな」

「うん!」

 

 そして真面目な話を終えたリムル達は、美味しい酒と料理を楽しみながら楽しい夜を過ごすのだ。

 




真面目な話になるとマツリが空気になってしまう。せっかく考えたオリキャラなのに出番が……。
会議や話し合いが多い転スラではマツリみたいな子供はどうしても蚊帳の外になりがちです。出発点からしてミスってる気がしないでもありません。
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