ついにリムルが目覚め、マツリとご対面。
「へあぁ!?」
リムルのアホみたいな叫び声が洞窟にこだました。
驚くのも無理は無い。
自分の知らない間に子供が出来ていて、その子供が自分を抱えているのだから。
「びっくりした?」
「ああ、これ以上ないくらいにな……」
マツリの第一声も効果的だった。いたずら成功、とばかりに満足気な表情を浮かべている。
このリアクションを狙っていたのだ。
リムルを気遣って優しく声かけをすることも出来た。
「俺が誰だか分かる?」「魔素は大丈夫?」等、目覚めた時に何と声を掛ければ良いか色々考えても居た。
しかしマツリが選んだ第一声は、元気いっぱいに「はじめまして、パパ!」である。
父親とのファーストコンタクトは面白おかしく! というマツリの希望によるものだ。
洞窟暮らしはマツリにとって暇すぎたので、その反動だろう。
(いいリアクションだったな。パパって面白い人なのかも)
マツリの直感は間違っていない。
このスライム、物語の主人公を張れるくらいには魅力的な人物なのだ。
「えっと……色々聞きたいことはあるんだが、他に誰かいないのか?」
「は、こちらに。シュナ様とドラゴニュート達がリムル様とマツリ様の世話をしていました」
「おお、ソウエイ。状況を教えてくれ」
リムルは人型になり、状況を把握しようと配下を探す。
すると音もなくソウエイが現れた。
頼りになる男だ。
ソウエイから一通りの説明を受け、とりあえず町へ戻ることに。
シュナ、ガビルと合流し、ソウエイから詳細を確認しつつ洞窟の出口へと向かう。
道中では魔物に遭遇するが、そこはマツリの出番だ。
「ねえパパ」
「なんだ?」
「アレ食べて良い? パパも食べたい?」
「ん? ああエビルムカデか。俺はもう飽きるほど食ったから要らないな」
「じゃあ貰うね。いただきまーす」
並みの冒険者では束になっても敵わないエビルムカデだが、この親子にとっては食い物でしかない。
旨いか? まあまあだね、と気楽に言葉を交わす二人の魔人。
後ろを歩くシュナ達はその常識外れのやり取りに苦笑いだ。
マツリは上機嫌に魔物たちを葬り去っていく。
そこに躊躇は全くない。エンカウント即いただきますである。
(マツリの奴、容赦ないな……。やっぱり人間の精神を持った俺とは感覚が違うのかもな)
リムルが生まれたばかりの頃はもっと慎重に魔物と戦っていた。
自分より遥かに格下の相手であっても恐怖心を抱き、距離を取っての『水刃』で切り刻む用心ぶり。
そういった行動は人間の感性によるものだが、マツリにはそれがないのだ。
マツリがまた一匹魔物を倒した。装甲トカゲだ。
一度『粘鋼糸』で相手の動きを封じ、『身体装甲』を纏った腕で殴り飛ばした。
そして最終的に『暴食者』で食べる。
もはや戦闘ではなく遊びだった。
いかに華麗に獲物を仕留められるかを楽しんでいるようだ。
事を終えたマツリはその場でぴょんっと跳ねるように振り返り、キラキラと輝く瞳でリムルを見る。
「パパ、見てた!? 今の倒し方カッコいい?」
「うんうん、センスあるんじゃないか? ソウエイみたいでカッコよかったぞ!」
褒められたマツリは今日一番の眩しい笑顔で笑って見せた。
次は吸血蝙蝠が現れた。
と思った次の瞬間にはマツリの放った『水氷大魔槍』で貫かれていた。
で、捕食。アッという間の決着だった。
そして振り返ったマツリは満面の笑みでまたリムルに聞くのだ。
「どうだった?」
「魔法も使えるのか。って俺の分身体だったんだから当然か」
「えへへ」
次は巨大な蜘蛛。
「パパ!」
「うん、良いんじゃないかな」
次は……
エンドレスだった。
それはマツリの子供心によるもの。パパとお話がしたい一心なのだ。
魔物を倒すごとに振り返り、それはそれは嬉しそうな笑顔を咲かせている。
対するリムルはどうかと言えば、これが結構満更でもなさそうだ。
返す言葉こそ簡素になっていくのだが、なかなか嬉しそうである。
子が子なら親も親なのだ。
そうこうしている内に洞窟の出口へとやって来た。
眩しい光が洞窟へ差し込んでいるのを見つけると、マツリは居ても立っても居られずに駆けだしていった。
余程外に出られるのが嬉しいのだろう。
(おーおー、見事にはしゃいでらっしゃる)
遠ざかる後ろ姿を眺めるリムルもつられて笑顔になった。
マツリに遅れて洞窟の外へ出る。
爽やかな陽光。木々の緑。小鳥のさえずり。森の澄んだ空気。
見ればマツリは魔力感知をフル稼働させて3日ぶりのジュラの森を感じているようだ。
生まれたばかりのマツリには見るものすべてが鮮烈なのだろう。
「パパ! 森!」
そんなマツリが後に続いたリムルに嬉しそうに振り返ったのは言うまでもない。
洞窟を出れば町まではもうすぐだ。
和気藹々と談笑しつつ豊かな森の中を歩くリムル一行。
ふとリムルは気になっていた問いを投げかけた。
「なぁマツリ。さっき魔法使ってたけど、呪文の詠唱はどうした?」
呪文なしでの魔法の発動。
ユニークスキル『大賢者』を持つリムルには可能だ。詠唱破棄の能力がある。
しかしマツリがそれを出来るはずがなかった。
(考えてみればおかしいんだよな。分身体に『大賢者』は使えないはずだぞ……?)
マツリがリムルの分身体を基にしているなら『大賢者』は持っておらず、詠唱破棄など出来ないはずなのだ。
となると、何らかの方法でその能力を獲得していることになる。
マツリは答えた。
「エイコが代わりにやってくれるんだよ」
「エイコ? 誰だそりゃ」
リムルの知る限り、そんな名前の者はいない。
シュナ、ソウエイ、ガビルも同様で、リムルが聞いても首を横に振るだけだ。
エイコとは一体何者なのだろうか?
「マツリ、俺はそんな奴知らないんだけど……」
「それはそうだよ。だって俺の中に居るんだもん」
「え? それってどういう事だ?」
「洞窟の中で暇をつぶしてたら、なんかいきなり声が聞こえたんだ」
それは洞窟に籠り始めてから丸一日が経った頃の出来事だ。
マツリは暇を持て余していた。
眠りこけるリムルの周りをうろうろしながら何か面白いことは無いかと思案していたその時。
(あー暇だなー。シュナもガビルも優しいけどなんかよそよそしい気がするし。友達欲しいなー)
《確認しました。ユニークスキル『
唐突に「世界の言葉」が響いたのだ。
マツリの願望はスキルとなってその身に宿る事となった。
孤独と退屈を嫌うマツリならではのユニークスキル。それが『
「──だから俺の中にはオトモダチがいるんだよ」
「ユニークスキル『
「もういいよ。そんな事よりシュナが言ってた。町に戻ればきっと退屈しないって。色んな魔物が居るんでしょ?」
「ああ。そこは期待してもらって構わないぞ。俺たちの町にはいろんな種族の魔物が住んでるんだ。それだけじゃない。このジュラの森に住む沢山の種族で同盟を結んでいるんだぞ。そしてなんと、パパはその盟主なんだ」
「おおー!」
ここぞとばかりに自慢するリムルだった。
ちなみにユニークスキル『
思考加速:通常の千倍に知覚速度を上昇させる。他のオトモダチも同様。
解析鑑定:対象の解析及び、鑑定をカイが行い、結果を教えてくれる。
詠唱代行:魔法等を行使する際、代わりにエイコが呪文を詠唱してくれる。その他魔力感知を始めとしたスキルの実行や調整もやってくれる。
森羅万象:この世界の、隠蔽されていない事象の全てをシンラが教えてくれる。
解析鑑定の「カイ」、詠唱代行の「エイコ」、森羅万象の「シンラ」と3人のオトモダチが脳内に居る。
このオトモダチがマツリの話し相手となり、助けてくれるのだ。
リムルの持つ『大賢者』にも匹敵するとんでもないスキルなのだった。
☆
町ではお祭りの準備が整ったまま開催の時を待っていた。
既に予定日は2日も過ぎているのだが、リムルが寝込んでしまったため延期となっているのだ。
住民たちは皆リムルの復帰を心待ちにしている。
そんな中、町中にリムルの声が響き渡った。
「あー、あー、リムルです。町の者は速やかに広場に集合してください。繰り返します。町の者は速やかに広場に集合してください」
久しぶりのリムルの声に住民が沸き立つ。
町のあちこちからリムル様! と歓声が上がり、ぞろぞろと魔物たちが広場へと集まって来た。
広場の中心には人が二十人は乗れそうな大きなお立ち台が用意されていた。
その上に立つのは、盟主リムル。
そしてリムルより少し小さい少年。リムルと瓜二つの顔をしている。
ざわざわ。
あの子供は誰だ? リムル様と同じお顔をしているぞ? リムル様に懐いているようだが……?
謎の魔人の出現に広場は騒然としている。
壇上のリムルは広場に住民が集まって来たのを確認し、話し始めた。
それと同時に広場の話し声がぴたりと止む。
「皆、聞いてくれ。この子は俺の子供、マツリ=テンペストだ。今日からこの町に住むことになった。よろしく頼む」
冗談を言っている雰囲気ではない。
横に立つ子供も確かにリムルそっくりの見た目をしている。
やがて広場の住民たちはそれぞれリムルの言葉の意味を理解し──
「おめでとうございます!」
「なんとめでたい日だ!」
「マツリ様ー!」
「リムル様ー!」
割れんばかりの大歓声が沸き起こった。
それを受けるリムルは慣れた様子で手を振り、隣のマツリは高々と上げた両手を振って応えている。
場の興奮は凄まじく、再び静かになるまでに数分を要したのだった。
「ではマツリからも一言」
「俺はマツリ=テンペスト。パパ、じゃなくてリムルの子供です。よろしくお願いします」
「よしよし、よく言えたなぁマツリ! 偉いぞぉ」
やや緊張気味に自己紹介するマツリをリムルがわしゃわしゃと撫でる。
その姿は誰の目から見ても親バカで。
「そういう訳だから皆も仲良くしてやってくれよな。泣かせたら許さんからな」
「ねぇパパ? みんなを怖がらせるのは良くないと思うな」
「いいや、お前を泣かせる奴が悪い。ここは断固として譲らないぞ」
まだ誰もマツリを泣かせてはいないし、そんなことをする者がこの町に居るはずもないのだが、リムルは譲らないのだった。
「さて、話は変わるが祭りは延期になっていたんだよな? 悪かったな、俺のせいで楽しい時間を我慢させちまった。もう俺は大丈夫だから思いっきり楽しんでくれ」
おおーと歓声が上がる。
魔物の町はお祭り騒ぎが大好きなのだ。
「でだ、今回のお祭りのお題目は確か、第一次都市計画完了兼大浴場開設兼第三農場開墾兼クロベエ鍛冶工房新設兼ヒポクテ草ノルマ達成兼第六回ゴブリン邂逅祭その他諸々の記念だった……はずだが」
詰め込み過ぎである。*1
何やらリムルの背後から「吾輩による編纂のポエム集完成記念が抜けてますぞ!」という声が聞こえてくるが、あっても無くても似たようなものだ。
騒げればなんでも良いというやけくそ感が漂っている。
しかし今回は違う。
「マツリが生まれたことを祝して、盛大に祝おうじゃないか! 名付けて、マツリ誕生祭だ! これから毎年やるからそのつもりでな!」
こうして魔物の町にマツリ誕生祭というお祭りが誕生したのだった。
マツリのための祭りである。
「という訳で、今日いきなりってのは難しいと思うから、明日が祭りの本番だ! しっかり準備しておいてくれよ!」
準備の事を考え明日の開催にしようとするリムル。
しかしマツリは何やら不服そうな顔をしている。
マイクを握ったまま、呟いた。
「えー、明日ぁ?」
「やっぱり今から前夜祭だ! 楽しむぞぉ!」
マツリが可愛くてしかたがないリムルなのだった。