前回のあらすじ
浴衣を着て串焼きを食べてパパと一緒に寝て親指を食べた。
広場の中央に立てられたやぐら。
リズミカルな太鼓の音と熱のこもった掛け声。
周囲を踊りながらゆっくりと回るたくさんの魔物たち。
夏祭りのメインイベント、盆踊りである。
そしてここに一人、盆踊りに人一倍の情熱を燃やす男が居た。
名をガビル。
魔物の町随一のお祭り男(自称)である。
やぐらのすぐ下に作られた特設ステージにガビル以下数名のドラゴニュートが集まっていた。
「良いか皆の者! 今回こそはリムル様に我らのBON-DANCE*1を見ていただくのだ! 前回の踊りは惜しくもリムル様に見ていただくことが出来なかったが、今回こそは我々の努力の結晶をご覧いただくのである!」
「ガビル様かっこいいー!」
「然り!」
「諦めないその姿勢、流石だぜ!」
ガビル達の気合の入りようは凄まじい。
ヒポクテ草の栽培の合間を縫って時間を作っては、BON-DANCEの特訓に明け暮れた。
細部まで振り付けにこだわり、徹底的に磨き上げた。
(前回の雪辱を果たすべく、なんとしてでもリムル様に褒めていただくのである!!)
ガビルの悲願。
それが今日、果たされるのだ。
「さあ、行くぞ!」
決意を胸に、ガビルはステージに立つ。
いよいよ始まる。彼らの晴れ舞台。
音楽が流れ始める。太鼓の音が体に響く。
心が、体が昂っていく。
いざ! BON-DANCE!!
「ねぇパパ。あれ何?」
「気にしなくていいぞ。ああいうのが好きな奴等なんだ。ほっとけ」
凄まじい熱量で踊り狂うドラゴニュート達を遠目に眺める二人。
リムルは冷めた視線を向けながらマツリの疑問に答えた。
「マツリ、振り付けは覚えたか?」
「見てれば分かるよ。簡単簡単」
「じゃあ行くか」
リムルとマツリが踊りの輪に加わった。
慣れた様子で踊るリムル。
それに対し、一歩後ろを行くマツリはややぎこちない様子だ。
「どうしたマツリ? 簡単なんじゃないのか?」
「うっさい! もうちょっとでマスターするから!」
「ははは、頑張れよ」
「ぐぬぬ……!」
なんとなく覚えたつもりでもいざやってみると出来ないマツリだった。
しかしそのぎこちない動きも初々しく、ギャラリーの目には可愛らしく映る。
「マツリ様あんなにはしゃいで。あの笑顔、我々が守らねば」
「オイお前どっち派? え、マツリ様? ……お前とは分かり合えねーわ」
「何言ってんだ、マツリ様の良さが分からないとかちょっと意味が分からない」
「どっちも可愛いで良いだろ!」
ガビルの踊りを見る者はほとんどいない。
皆リムルとマツリに見入っている。
やがて盆踊りもひと段落。
BON-DANCEを踊り終えたガビル達は、息も絶え絶えにリムルへと駆け寄ってくる。
その純粋な瞳は自身の活躍を一ミリも疑っていない。
「いかがでしたかな、我らの踊りは? リムル様の為、全力で祭りを盛り上げて見せましたぞ!」
「ああ、お疲れさん。お前ら楽しそうだったな」
「そうだね。ああいうのもまぁ、アリかな?」
そっけない返事を返し、リムルはすぐに興味を失ったようだった。
ああ、そんな馬鹿な。ついにガビル一派の魂の籠ったBON-DANCEをリムル様にご覧いただいたというのに、いささかも感動しておられないとは!
これには流石のガビルもその場に崩れ落ちてしまう。
一々大袈裟なリアクション。愉快な奴なのだ。
「おお……おお……なんという事だ。これほどの舞をもってしてもリムル様の御眼鏡にはかなわないというのか! …………このガビル、精進が足りませんでした! 来年こそは更なる豪華絢爛な舞を披露」
「せんで良い!」
「ぬわんですとぉ!」
出来るだけ派手に、出来るだけ仰々しくというのがガビル一派の共通理念だ。
いやセンスというか、あるいは本能とでも言うべきか。
とにかく悪気は無い。
がっくりと項垂れるガビルとその取り巻きたち。
悲壮な雰囲気が漂っている。
しかしガビルの事だ、恐らく数分後には完全復活してまた騒がしく祭りを堪能するのだろう。
リムルもそれを分かっているので特に慰めたりはしなかった。
しかしマツリはガビルの事を良く知らない。
一々大げさなガビルの落ち込み方にも反応してしまうのだ。
「ねぇガビル。大丈夫?」
「マツリ様……?」
「褒めて欲しかったんだろ? リムルが褒めないなら俺が褒めるよ。カッコよかったよ、ガビル!」
マツリは屈託のない笑顔で言い切った。
困っている仲間は放っておけないのがマツリなのだ。
笑顔を作ることに喜びを感じる、所謂お人よし。
褒められた(もちろんお情けで)ガビルは、まるで地上に降りてきた神か何かを見つめるように目を潤ませた。
「ああマツリ様! 評価してくださるのか、吾輩たちの努力の結晶を! やはり誠心誠意心を込めれば伝わるのだ! 今後とも我々一同精進を重ねる次第であります! 次の夏祭りでは──」
「うんうん、頑張ってね」
やはり非常に騒々しいのだが、マツリは気にしない。
ガビルが嬉しいならそれで良いやとあっけらかんとした様子で応えるのだった。
☆
「意外と揺れないもんだな」
「リムル様とマツリ様を乗せるのですから当然です!」
「カイジンさん達の設計ですからね。ほら、手を振ってあげてください。上に立つ者の務めですよ」
巨大な
リムルを模った壮大なオブジェは某夢の国のパレードにも劣らぬクオリティだ。
リムル、マツリ、シュナ、シオンがその上に立ち、沿道に手を振っている。
山車が通る先の道沿いには多くの魔物たちが集まっている。
マツリの姿を一目見ようと詰め掛けているのだ。
いつの間に作ったのか、「マツリ様御誕生おめでとうございます」と書かれた横断幕まで用意されていた。
よいやさ! ほいさ!
山車を引くホブゴブリン達の野太い掛け声。
巨大なリムルが町のメインストリートをゆっくりと進んで行く。
沿道から見上げれば、山車から身を乗り出して手を振るマツリの姿。
恥ずかしそうなリムルとは対照的に、元気いっぱいに手を振ってギャラリーに笑顔を振りまいている。
お祭りの雰囲気が楽しくて仕方が無いのだ。
「こんだけ喜んでもらえりゃあ、俺も気合入れて作った甲斐があるってもんだ。それにしてもリムルの旦那もマツリの坊やもめかし込んでて気合入ってるなぁ」
「そうだな。まあ俺はシュナちゃん一筋なわけだが」
「まだ何も言ってないぜ、兄貴」
「……」
山車制作の設計を担ったカイジンとドワーフ3兄弟が沿道からリムルたちを見上げている。
町の中でも特に美人な4人が笑顔で手を振っているのだから、目が吸い寄せられてしまうのは仕方がない事なのだ。
やがて山車はカイジンたちの前を通り過ぎる。
「さてお前ら、最後の大仕事だ。気張れよ?」
「ああ」
「任せとけ」
「……」
余韻に浸る間もなく工房へ戻っていった。
最後のイベント、花火大会の準備のためだ。
お祭りを盛り上げるには準備も大切なのである。
☆
夜空に花火が広がった。
鮮やかな水色だ。
「リムル様ー!」
町の広場ではリムル様コールの大合唱。
玉屋鍵屋はこの世界には存在しないが、なんとなくノリで好きな名前を呼んでいる。
好きな名前とはつまり、リムル様の事だ。
「マツリ様ー!」
オレンジ色の花火にはマツリ様コール。
この町の花火の掛け声はリムルかマツリのどちらかなのだ。
「パパー!」
これはリムル様コールにカウントされる。
マツリ専用コールだ。
「マツリー!」
マツリを呼び捨てに出来るのはリムルだけ。
その叫び声は誰よりも気合が入っている。
やがて最後の花火が打ち上げられる。
ひときわ大きなリムル型の花火が夏祭りを締めくくるのだ。
一瞬だけ眩しく光り、さっと消えてなくなった。
空を見上げていたリムルは視線を落とす。
隣には目も口も開いたまま夜空に見入るマツリの姿。
空を見上げたままマツリは言う。
「パパって人気者なんだね」
「まあな。ちょっとむず痒い感じだが」
「俺も負けないから」
「そうかよ」
食べ物、お面、
何処を見てもリムルばかりのお祭りだった。
次の祭りではマツリの色も加わるのだろう。それどころか、リムルを差し置いてマツリが祭りの主役になってしまうかも知れない。
マツリが生まれる直前、リムルは確かにそう願った。
「綺麗だね、パパ」
マツリはまだ空を見上げている。
何もない夜の空。
「花火はもう終わったぞ」
「うん。今のが最後なんだよね」
「ああ、だからもう空を見たって何にも──」
そこまで言ってマツリが何に見惚れているかに気付く。
「──ああ、これは確かに綺麗だな」
星だ。
花火が消えたそこには、視界一杯に小さな光の粒が散らばっている。
「綺麗だよね」
「そうだな」
スライムとして異世界に転生して早……10ヶ月くらい。
意外と短い。いや短いからこそ大変だった。
洞窟を出たと思ったら、あれよあれよと村の守り神に祭り上げられ。
シズさんを弔い人の姿を得て。
オーガと仲間になったと思ったらオークの大群が森に押し寄せて。
やっと森が平和になったら街づくりに没頭して。
あまりに忙しかった。
ゆっくり夜空を眺める余裕なんて無かったのだ。
「なあマツリ」
「なに?」
「なんかありがとな」
「良く分からないけど、どういたしまして?」
町づくりが軌道に乗り、やっと安定した暮らしを手に入れた。
このタイミングでマツリが生まれてきたのは偶然だろうか?
リムルにはどうしてもそうは思えなかった。
「生まれて来てくれてありがとう」
「そういう事ならこっちこそ産んでくれてありがとう」
そう言って笑い合う二人だが、リムルのは照れ笑いだ。
恥ずかしい台詞を言ったものだ。
マツリが居ればこの先の生活も退屈しないだろう。
花火が終わった後の夜空。その美しさにマツリは気付いた。
その鋭い感性は今まさに自分に必要なものだ。
そんなことを思いながら、マツリの手を引いて庵へと帰るリムルだった。
☆
翌日の会議室にて。
「──リムル様にマツリ様、何かお考えはあるでしょうか」
「え?」
突然意見を求められ、固まるリムルとマツリ。
ぼけーっと幹部たちを眺めていたので話など全く聞いていなかった。
(やべっ聞いてなかった! 大賢者、今何て?)
(俺も聞いてなかった! カイ! 教えて!)
そして何食わぬ顔で答える。
全く面の皮の厚いスライム親子である。
「いいんじゃないか? マツリにぴったりだ」
「やりたいやりたい! 絶対俺がやる!」
リムルは幹部たちの提案に膝を打つ。
その隣のマツリは前のめりでその提案に乗る。
こうしてこの町に新たな役職が生まれることとなった。
「という事で、マツリ様にはお祭りを担当する役職についていただきましょう。リムル様、役職名はいかがいたしましょう?」
「うーん、お祭り大臣とかでいいんじゃないか?」
「お祭り大臣! 良い響きですな!」
決まりである。
魔物の町のお祭り大臣、マツリ=テンペスト。
仕事は町で開催されるお祭りを考案する事。
何か思いついたらリムルやリグルドに言えばいい。
翌日には企画が上がり、その数日後には注文通りのお祭りが開催されることになるだろう。
「よかったなマツリ。これからもどんどん楽しい事やろうな!」
「うん! 皆もよろしくね!」
幹部一同、笑顔で応えた。
魔物の町を楽しく活気のある場所に。
マツリならばやってくれるに違いない。
孤独と退屈を嫌い、仲間と楽しい時を過ごすことに何よりの喜びを感じるマツリならば。
当のマツリはあごに手を当て、何かを考えている様子。
もう次のお祭りの事を考えているようだ。
町はこれからも発展していく。
いずれは国になるかもしれない。
他の国と国交を結んだり、貿易をしたりするかもしれない。
しかしこの町の本質はきっと変わらない。
「じゃあ早速なんだけど――」
ここは魔物の町。
絶えずお祭りが開催される愉快な場所なのだ。
リムルが分身体に名付けをしちゃった!
という安易なネタでしたが何とか最後までそれっぽく書ききれて良かったです。
短編として当初考えていた部分は書ききりましたが、終わるのももったいないのでここから長編にスイッチして続く予定です。のんびり書きます。