転生したら子供が出来た件   作:座右の銘

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前回のあらすじ
マツリ誕生祭が終わりマツリが仲間に加わる。お祭り大臣に就任。


酢ダレと黒ミツとバニーガール

 大きな円卓の中心に蝋燭の明かりを灯した薄暗い部屋。

 武装国家ドワルゴン、謁見の間だ。

 

 そこに集うのは英雄王ガゼル・ドワルゴと王国の首脳陣。

 今まさに国の命運を決める重要な会議が行なわれているところだ。

 ここ数日、休む間もなく続いている。

 

 事のはじまりは数か月前。

 森の各地を調査する暗部から魔法による報告書が届けられたのだ。

 

 報告書にはこうあった。

 

 オークロードは討伐され、戦争は終結。

 勝利したのは例のスライムとその配下と思われる魔物の集団。

 

 ガゼルは暗部に更なる調査を命じた。

 彼らはドワルゴンに牙をむく存在か? それが重要だった。

 もしそうなれば、オークロード以上の脅威となってこの国に災いをもたらすだろう。

 

 絶対に判断を誤ってはいけない。

 情報が必要だった。

 

 そして現在。

 暗部の調査が一区切りついたので、会議を開いたという訳だ。

 しかし数日の話し合いの末、魔物の集団への対応策は決まらなかった。

 

 英雄王ガゼル・ドワルゴが厳かに言う。

 

「見極める必要があろう。あのふてぶてしいスライムの正体をな」

「王よ。それは王が直接出向くという──」

「無論だ。余以外に誰が判断できるというのだ」

 

 首脳陣も納得せざるを得ない。

 王を信じてすべてを任せるしかないのだ。

 誰も、何も分からないのだから。

 

 仕方のない事だった。

 この数か月の暗部の調査結果は信じがたい物ばかりだったのだ。

 

 戦争終結後、オークは暴れることなく各地へ散った。しかもハイオークに進化して。

 魔物の集団が大規模な町を建設中。住民はお凡そ1万。その大多数がゴブリンが進化したホブゴブリン。

 オーガの生き残り数名が鬼人に進化し、例のスライムに仕えている。

 これらの魔物の進化には例のスライムが関与している模様。

 

 こんな現象は未だかつて経験したことがない。いや、歴史上にも類を見ないだろう。

 もはやガゼル王たちの理解の範疇を超えていた。

 

(オークロードを退け、魔物に進化をもたらすスライム……か。此度の件、対応を誤れば国が亡ぶやもしれぬ)

 

 ガゼル王は気を引き締めた。

 

 

 

「それはそうと、スライムと言えば……酢ダレだな」

「は?」

 

 ガゼル王の唐突な発言に騎士団長ドルフは困惑した。

 いや、分かってはいるのだ。ガゼル・ドワルゴとは本来軽いノリの人物なのだと。

 しかし事の重大さを考えればこのような冗談を言っている場合では──

 

「恐れながら王よ。私は黒ミツ派です」

「俺は王に賛成だ。良く冷やして一味も欲しいな」

 

 暗部の長であるアンリエッタと、軍部の最高司令官であるバーンも乗っかる。

 ああなんということだ。国の存亡をかけた会議だというのにこの緩さ! 

 連日の徹夜で皆はおかしくなってしまったのか? 

 

「まて貴公ら。スライムの話をしているのだぞ。ジェーン殿も何か言って欲しい」

「あたしも昔っから黒ミツだねぇ」

「…………」

 

 宮廷魔導士のジェーンは、黒ミツ派であった。

 もはやドルフには返す言葉も無い。

 

「して、ドルフよ。お主は何派なのだ?」

「いや王よ、そんな事を言っている場合では……」

「どちらかと聞いておる」

「黒ミツ……でございます」

 

 ドルフの一言が決め手となり、黒ミツ派が優勢となる。

 多数決で敗れた王はあからさまに悔しがった。

 

 良いのか、本当にこんな会議で? 

 オークロード以上の脅威が森に出現しているのだぞ? 

 生真面目なドルフはどうしても納得が行かないのだった。

 

 呆れるドルフを置き去りにしたまま会議は続く。

 そこへ、暗部から更なる報告が舞い込んだ。

 

「王よ、暗部からの緊急報告です!」

「申せ」

 

 動揺するアンリエッタの様子を見て、これはただ事ではないと誰もが思った。

 重要な会議を遮ってまで王の耳に入れるのだから余程の事なのだろう。

 アンリエッタは、しばらく言い淀んでからその内容を口にした。

 

「…………スライムが、2匹に増えた、との報告です」

 

 謁見の間に静かな衝撃が走る。

 1匹だけでも国の存亡を考えるほどの騒ぎだというのに、もう1匹? 

 ドルフは全身から冷や汗が噴き出すのを感じた。

 

 王を見やる。

 やはり、相当に動揺しているようだ。

 普段は冷静な王が、目を見開いている。

 

 そして、やはり厳かにこう言った。

 

「ならば…………酢ダレと黒ミツ、両方いけるな」

「だな。気が利いてるぜ」

 

 同じく酢ダレ派のバーンも鼻息荒く答える。

 

 勝ち誇る黒ミツ派。

 九死に一生を得た酢ダレ派。

 そして彼らをげんなりした表情で見るドルフ。

 

 この国は大丈夫なのだろうか。

 ドルフの心労は絶えない。

 

 ☆

 

「おはよう、マツリ」

「おはようパパ。結局寝れなかったね」

 

 リムルの庵。

 並べて敷いた布団の中で寝る練習をしつつ、やはり夜通し語り合った二人。

 朝が来たので練習は切り上げ、おはようの挨拶だ。

 

 ぽよん、ふよんと二つの丸い弾力が布団の上で転がる。

 ぶつかったり、優しく触れたり、鏡餅のように重なってみたりする。

 親子の戯れだ。

 

 リムルとしては3日間も洞窟の中に閉じ込めてしまった負い目がある。

 マツリとのスキンシップは大事な時間なのだ。

 

 平和な朝。

 オークの大群も居ないし、衣食住も満たされている。

 特に衣服に関してはリムルの想像以上の充実ぶりだ。

 

「今日の服はどうしようかな~」

 

 暴食者の胃袋に収めた衣服を漁るマツリ。

 シュナやガルムたちが異常な熱量で制作している衣服が大量にある。

 

「よし、これにしよっと」

 

 人型に擬態したマツリが纏うのは、可愛いワンピース。

 リムルには恥ずかしすぎて、着るのを躊躇う感じの。

 

「パパもこれ着る?」

 

 元は分身体だったマツリは、その胃袋をリムルと共有している。

 マツリが気に入った衣服を溜め込めば、リムルもそれを取り出すことができるのだ。

 そしてマツリに提供される服といえば、大抵がシュナやガルム達が猛プッシュする可愛い系のものなのだ。

 

 適当に服を取り出すのは止めたほうがいい。

 間違えてドレスなど選んでしまったら大変だ。

 

「いや、今日はスライムのままでいるよ」

「パパももっとおしゃれを楽しんだほうが良いよ?」

「服の趣味が合わないんだよな……」

 

 まあ、こんな会話も平和だからこそだ。

 

 リムルは一人、縁側で空を見上げる。

 どこまでも続く水色の空間に白いふわふわがまだらに浮んでいた。

 これは……晴れ? それとも曇りかな? 微妙なラインだなぁ。

 

(いやぁ、平和って素晴ら──)

(リムル様、緊急事態です)

 

 突然ソウエイからの思念伝達が入った。

 しかも緊急? 

 どうしたのだろう。

 

(何があった? ソウエイ)

(北の空に武装集団を確認しました。その数およそ500。一直線にこちらに向かってきています)

 

 ただ事ではない。

 武装集団だと? しかも空から? 

 

 この世界における航空戦力は初めてだ。

 どれほどの実力なのか、どんな戦い方をするのか、全くの未知。

 しかし空に陣取る相手が厄介なのは考えなくても分かることだった。

 

 飛べるだけでもそれなりの実力なのは明らかなのだ。

 非常に危険な相手なのは間違いない。

 

「パパ!」

「マツリも聞いてたか。何やら危ない連中がこっちに向かってるらしい。とりあえず俺が出て対応するから、マツリは町の中で大人しくしててくれ」

「分かった!」

 

 マツリへ避難を指示すると二つ返事で了承が返る。

 怯えていないようで一安心だ。

 リムルを見つめる瞳はキラキラと輝いて──

 

 輝いて? 

 

「で、それってどんなお祭りなの?」

 

 良い笑顔でマツリが言う。

 全く事の重大さを理解していないようだった。

 ソウエイからの報告をレクリエーションか何かだと思っているのだろうか? 

 

 なにせ、スライムである。

 しかも前世の記憶があるリムルとは違い、何も知らない。

 生存本能さえ持っているのか怪しいくらいだ。

 

 これはリムルが責任をもって教育しなければならないだろう。

 

「おいマツリ。勘違いしてるようだから言うけどな、これは緊急事態なんだぞ? お祭りじゃないんだ」

「どういう事?」

「どうもこうも、武装したやつらがこっちに向かってるって言ってただろ。危ないって事だ」

「危ないって何?」

 

 恐怖を知らないマツリは、危ないという言葉だけでは状況を理解できない。

 リムルは大きなため息をついた。

 

「戦いになって誰かが死ぬかも知れないし、この町が無くなる可能性だってゼロじゃない。そんなの嫌だろ?」

「絶対に嫌だ」

「じゃあ、大人しくパパの言う通りにしてくれ。この町は俺が守るから」

「分かった」

 

 ここまで言わないと分からないのだ。

 純粋すぎるのも考え物である。

 

 マツリをリグルドに預け、リムルは町の外の開けた平野へと向かう。

 武装集団が着陸すると大賢者が予想した地点である。

 上空で円を描くように旋回しながら着陸態勢に入っているようだ。

 

 町の幹部たちも集まり皆で空を見上げる。

 すると武装集団もこちらを確認したようで、ゆっくりと降下してきた。

 戦闘の意思は無いようである。

 

 武装集団の正体は、ガゼル王率いる極秘部隊『天翔騎士団(ベガサスナイツ)』だった。

 曰く、ジュラの森に現れたオークロードを退ける謎のスライムの正体を見極めに来たらしい。

 リムルからしても、もっともな話だった。

 

 しかし話をする間もガゼル王は何かを探すように辺りを見渡している。

 謎のスライムはここに居るのだが、一体何を気にしているのだろう? 

 

「酢ダr……もう一匹のスライムはどうした?」

「なんだ知ってたのか。出来れば隠しておきたかったんだけどな」

 

 一瞬酢ダレと言ったように聞こえたが、きっと聞き間違いだ。

 気にしてはいけない。

 

 バレているなら隠す理由もない。

 彼らの信用を得るためにも、いざという時の戦力としてもマツリが居た方が良いだろう。

 

 リムルが呼ぶと、マツリは影異動で瞬時に現れた。

 

「パパ、俺は避難するんじゃなかったの?」

「ちょっと事情が変わってな。そこにいるガゼル王が俺とお前の本性を知りたいんだと」

「そうなんだ。俺はお祭り大臣のマツリ。よろしくね」

 

 マツリはガゼル王に挨拶した。

 フリフリのワンピースで可愛く着飾り、屈託のない笑顔を咲かせている。

 そこに緊張感など欠片も無かった。

 

 これにはドワーフ一同、驚きを隠せない。

 

 スライムが出てくると思ったら、驚異的な力を秘めた魔人が現れた。

 武装をしないどころか動きづらい服装に、敵意が全く感じられない笑顔。

 ドワーフたちからすればあまりにも意味不明な展開である。

 

 王の後ろに控えるドワーフたちの緊張感が高まる。

 軍部の最高司令官であるバーンなど、背負った剣に手をかけ今にも斬りかかってきそうな気迫だ。

 

「静まれい! 余はそこのスライムを見極めに来たと言ったであろうが」

 

 王の一喝でドワーフたちは静まり返る。

 さすがの貫禄だった。

 

 これを機と見たリムルは畳みかける。

 

「まず名乗ろうか。俺の名はリムル。スライムなのはその通りだが、見下すのはやめてもらおう。これでも一応ジュラの森大同盟の盟主なんでな」

 

 そして、人の姿へと擬態する。

 するとドワーフたちからどよめきの声が上がった。

 なぜかシュナとシオンの声も混じっている。

 

「これが本性ってわけでもないんだが、こっちの方が話しやすいだろ?」

「ほう……人の姿か。親子そろって服の趣味が似ておるのだな」

「はぁ? 一体何を──」

 

 ガゼル王の言葉にリムルは困惑した。

 

 服の趣味? 似ているわけが無いだろう。

 マツリはカッコいい服も可愛い服も関係なく着るが、俺は……いや待て。

 

 なぜか足元が異様にスースーすることに気付く。

 肩も少し肌寒いような気がする。

 頭に感じる重量と締め付けは一体何だ? 

 

 ……まさか!

 

(大賢者! 魔力感知で俺の姿を見せてくれ! 大至急だ!)

《了。視点を切り替えます》

 

 思考加速を用いて全速力で己の姿を確認する。

 ガゼル王に対峙して偉そうなセリフを吐いていたのは、なんとバニーガールの少女! 

 いつもの服と剣は何処に行った!? 

 

(なるほど、これは似た者親子……じゃねーよ! なんでこんな格好に!?)

(パパ似合ってるね! リムル様に着せてくださいってシュナに頼まれてたんだ)

《取り出す瞬間に私がすり替えておきました》

 

【挿絵表示】

 

 犯人はマツリ……とそのオトモダチのエイコであった。

 主犯はシュナで、実行犯がマツリという事か。

 胃袋にあるいつもの装備をこっそり入れ替えていたらしい。

 

「すまん! 今すぐ着替える! ちょっと間違えたんだ!」

「良いじゃんパパ。似合ってるよ?」

「これじゃメンツが立たないんだよ!」

 

 威厳などとっくに崩れ去っているのだが、リムルは諦めないのだった。

 

 一旦スライムに戻り、胃袋を良く確認して装備を選ぶ。

 ようやくいつもの人型形態になったリムル。

 動きやすい軽装で、腰に剣を下げるスタイルだ。

 

 その剣に、ガゼル王が目ざとく反応した。

 

「……剣を使うのか」

「ああ」

「なるほど、ならば貴様を見極めるのに言葉など不要。この剣一本で十分だ。……獲物を抜けい!」

 

 ガゼル王は剣による一騎打ちがお望みらしい。

 話が早くて助かるというものだ。

 ややこしい話は不要で、ただ戦えばいいのだから。

 

 リムルは腰の愛刀に手をかける。

 それを引き抜こうとして……しかし躊躇した。

 

(デコレーションとかされてないよな?)

 

 いざ構えたら派手に装飾されていたなんてことが無いとは限らない。

 

 ちらっとマツリを睨んでみるが、首を横に振った。

 どうやら大丈夫らしい。

 

「どうした、怖気づいたか?」

「ちがう! こっちにも都合があるんだよ!」

 

 戦いが始まるというタイミングでの逡巡はどう考えても悪手だった。

 盟主としてのメンツはもうボロボロだ。

 

 その後ドライアドのトレイニーさんまで現場に現れ、リムルが邪悪な存在でないことはガゼル王たちにも伝わった。

 しかしガゼル王の興味から一騎打ちは強行される事となる。

 結果はリムルの勝利。とはいってもガゼル王の攻撃をたった一撃防ぎ、それをもってガゼル王が降参しただけなのだが。

 リムルの剣の腕はガゼル王の足元にも及ばないのだった。

 

「ほっほっほっ。お見事でしたなリムル様。ですが打ち込みの方はまだまだ。明日からもっと厳しくせんとなりませんな」

「うへぇ」

「……失礼ですが剣鬼殿ではありませんか?」

 

 リムルが試合を見ていたハクロウと話をしていると、ガゼル王が割り込んできた。

 なんとハクロウはガゼル王の剣の師匠だというのだ。

 あれから300年になりますか、などと昔話に花を咲かせている。

 

 リムルが圧倒的に格上のガゼル王の剣撃を受け止められたのも、ハクロウと太刀筋が似ているからなのだった。

 

 ガゼル王の背後に控えていた騎士たちも警戒を解いた様子でやり取りを見守っている。

 そこへ一人悠然と歩いていくのは、マツリだ。

 

「はじめまして! 俺はマツリ。皆は何て言うの?」

「……」

 

 騎士たちは困惑するばかりだ。

 どう返事しろと言うのだろう。自己紹介でもすれば良いのか?

 

 そこへシュナが申し訳なさそうに駆け寄り、マツリの手を引いた。

 

「マツリ様、さぁこちらへ。……皆さま、お騒がせしました」

 

 柔和な笑みを向けるシュナだったが、額には冷や汗が浮かんでいる。

 取り繕ってはいるが内心では慌てていることだろう。

 手のかかる子供とその母親……ではないのだが、そんな感じの光景であった。

 

「まぁ、少なくとも過激な連中ではないんだろうぜ」

「だな」

「そうですね」

 

 こうした様子もリムルたち魔物の集団の印象を良くする一助となっていたのだが、そのことを知る者はいないのだった。

 

 ガゼルはリムルとすっかり打ち解た様子で会話を弾ませる。

 

「さぁ早く案内してくれリムル。上空から見た限りじゃ美しい街並みだったぞ? 上手い酒くらいあるのだろう?」

「……まぁあるけど。裁判の時と比べて軽すぎない?」

「なぁに、こっちが素よ。はっはっは」

 

 同じ師を仰ぐ弟弟子と知った途端に気安く話しかけるガゼル王。

 すでに警戒心は無い。

 一人の剣士として、そして兄弟子としてリムルと対等に言葉を交わしている。

 

 リムルはガゼル王のお眼鏡に適ったのだ。

 邪悪な存在ではなく、友誼を結ぶに値する人格者として。

 

 そして場所を移し、ドワーフ王国とジュラの森大同盟との間で詳しい話し合いが行われることとなるのだった。

 

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