転生したら子供が出来た件   作:座右の銘

8 / 28
新しいお友達

 調印式の二日後。

 リムルがスライム形態のマツリを抱っこして散歩していると、ガゼル王がやって来た。

 

「さあ、約束通り来てやったぞリムル、そしてマツリよ!」

「一昨日帰ったばかりじゃねーか!?」

「兄弟子が来てやったのだ、素直に喜ぶがいい」

 

 ガゼル王は何を思ったのかたったの二日で護衛も連れず戻って来た。

 魔都からドワーフ王国まではペガサスで1日かかるという事だが、どうやら向こうに着いてからほとんど間を置かずにこちらへ戻って来たらしい。

 大国の王らしからぬフットワークである。

 

 ガゼル王の訪問に気付いたカイジンが慌てて駆けつけた。

 リムルとカイジンがガゼルを問い詰める。

 

「王よ、まさか城を抜け出されたのですか!?」

「何か火急の用事でもあったのか? 護衛もつけずに来るなんて」

「フン、弟弟子が剣の修行をサボってないか確認しにな。マツリも剣の修行を始めるという話だったが、あれから剣鬼殿と話はつけたのか?」

「は!? そんなことで来たのか!? いや、えーっと、修業はまだやってないけど」

「何をもたもたしておる。こうと決めたら即行動に移すべきだろう。マツリよ、リムルのこういう所は真似するでないぞ。王たるもの、即断即決が重要だ」

「分かった」

 

 相変わらず兄弟子風を吹かせたがるオッサンである。

 

 それはそうと剣の修行云々はちょっとした冗談であり、ガゼル王が急いで戻ってきたのには別の理由があった。

 ガゼル王が担いでいる荷物がその理由なのだが──

 

 どさっと地面に投げ出された袋の中身を見て、カイジンが叫んだ。

 

「ベスターじゃねーか!」

「誰これ?」

 

 マツリにとっては初めましての相手である。

 ベスターとはドワーフ王国の元大臣であり、カイジンの元部下でもある男だ。

 

 以前リムルがドワーフ王国を訪れた際にカイジンがベスターを殴ってしまい、裁判沙汰になったことがある。

 悪いのは殴ったカイジンなのだが、昔からカイジンの事を良く思っていなかったベスターは、ドワルゴンの大臣という立場を使って不当に重い罪をカイジンとリムルに擦り付けようとしたのである。

 カイジンがドワーフ王国に居た頃はベスターから度々迷惑を掛けられていたという。

 貴族であるベスターは平民であるカイジンが上司であることが気に食わなかったらしいのだ。

 

 そうした事情を知るリムルとしては、ベスターの印象はあまり良くない。

 そのベスターが袋詰めにされ、今目の前に転がっているのである。

 カイジンはベスターのことを悪人ではないというが、果たして……

 

 ちなみに当の本人は全く状況がつかめていない様子。

 一晩中袋に詰められていたのだから当然である。

 目を回し、泡を吹いている。

 

 ガゼル王が威厳たっぷりに、ベスターにも聞こえるようにこう言った。

 

「有能なこいつを遊ばせておくのはもったいないのでな。ここで働かせるべく連れて来た」

 

 ガゼル王はベスターの働きに期待していたのだ。

 

 ガゼル王の言う通り、本当は有能な男なのだ。

 カイジンへの嫉妬心から道を踏み外してしまったのが本気で悔やまれるほどに。

 

 王の言葉聞き、ベスターの目の色が変わった。

 

「お、王よ! 今度こそ、今度こそご期待に応えて御覧に入れます!!」

 

 地面に転がっていたベスターは飛び起きて、真っ先にガゼル王に誓った。

 そして振り返り、かつてのいじわる大臣だった頃とは別人のように真摯な眼差しで言い募る。

 

「リムル殿、あの時は本当に済まなかった。良ければ私をここで働かせていただけないだろうか。思えばあの頃の私はカイジン殿への醜い嫉妬で自分を見失っていました。せっかく得た汚名返上のチャンス、無駄にしたくはないのです。どうか!」

 

 カイジンに嫌がらせをしていた頃からは考えられないようなセリフの数々。

 自分の過ちを認め、心を入れ替え、この地でまた一からやり直すと決意したのだ。

 誰にでもできる事ではない。

 本当に、本当に立派なものである。

 

 ……その真摯な眼差しがマツリに向いていなければ、完璧であった。

 

「なんの話?」

「ベスター、件のスライムは俺のことだよ。そっちはマツリ。俺の子供だ」

「あ、ああ、貴方がリムル殿ですか。申し訳ない。えーと、ここで働かせて欲しいのですが……」

 

 締まらない男である。

 真面目な雰囲気も台無しであった。

 

 この場でスライムに見える魔物と言えばリムルに抱っこされたマツリしかいないのは確かだ。

 しかし色が違うので間違えるはずはない。

 

 ドワーフ王国に居たあの頃、ベスターの目にはカイジンしか映っていなかったのだろう。

 リムルの顔、というか色など記憶になかったのだ。

 王宮への立ち入りも禁止されていた彼は、謎のスライムがつい最近2匹に増えていたことも、リムルが人の姿を得たことも知らない。

 

「というか、子供が出来ていたんですか!? 貴方お一人でも周囲への影響力は計り知れないというのにもう一匹──」

「あー、その話はもうガゼル王たちとしたからいいよ」

「え? ああ、えっと、そうでしたか。これは失礼しました……」

 

 そんな締まらない男、ベスターだが研究者としての腕は一流である。

 ガビルがヒポクテ草を栽培している封印の洞窟に研究所を構え、回復薬の研究者として働くことに決まったのだった。

 

 

 

 ベスターが仲間に加わり平和な日常が戻ったある日のこと。

 リムルはマツリを連れて食堂へと歩いていた。

 日は傾いており、もうすぐ夕飯の時間である。

 

「今日は草原の方を探検してきたよ」

「そうか、何かあったか?」

「うん。新しいお友達が出来たんだ。今度こっちに遊びに来るって言ってた」

 

 マツリの行動範囲は広い。

 

 本来は危険なジュラの森だがマツリにとっては庭のようなものだ。

 冒険者たちがエリアボスと呼ぶような強力な魔物でさえ、マツリにとってはカブトムシくらいの可愛さである。

 むしろ誤って殺さないように気を付ける程の実力差があった。

 そんなわけでマツリは普段から単独行動を許されているのである。

 

 ちなみにカブトムシと言えば、この世界にも蟲型魔獣(インセクト)──魔蟲が存在する。

 ある時マツリが「助けてあげて」と連れて帰ったのが、二匹の死にかけの魔蟲であった。

 

 一匹は甲虫。

 カブトムシとクワガタを足して割ったような、何とも心擽る格好いい姿。

 しかしサイズはリムルが知るカブトムシの10倍ほどはある。

 Bランクに位置する弧刃虎(ブレードタイガー)を倒すほどの戦闘力があり、極めて危険な魔物だ。

 

 もう一匹は蜂。

 サイズはやはり巨大で、体長が30センチほどもある。

 リムルの知る数センチ程度の蜂でさえ人間には恐れられているのだから、これだけ大きければ戦闘力は相当なものだろう。

 

 どちらも強力な魔物だった。

 まあ、それでもマツリにとっては撫でれば死ぬような儚い生き物なのだけれど。

 そんな二匹の魔蟲をリムルとマツリが保護し、配下としたのだった。

 

 マツリのおかげで出来た縁は他にも沢山ある。

 森の各地に遊びに行っては友達を作って帰るのがマツリの日常だった。

 

「へえ、今度の友達はこっちに来るのか。じゃあ上手い飯でも用意した方が良いか?」

「うん、美味しいものを食べたいって言ってたからシュナにご馳走を作ってもらうつもり!」

 

 楽しそうである。

 

 マツリの友達となれば歓待すべきだろう。

 リムルは意気揚々と宴のプランを練り始める。

 盛大にやって、喜ばせてやるのだ。

 

「良いな。新たに開発した酒も出して、宴会でも──」

「あ、パパはダメ。お友達と二人だけでお食事会だよ」

「……は? いや、ちょっと待て。パパが何だって?」

「パパはダメ」

 

 マツリからの予期せぬ拒絶の言葉を聞き、リムルは固まってしまう。

 

「な……い、良いだろ? パパも一緒に食べたいなぁ」

「だからダメだって」

「そうか酒か。酒がダメなんだな? お友達は子供なんだろ? だったら普通の食事だけにして──」

「二人きりじゃなきゃ嫌なんだってば!」

 

 今度こそ止めの一撃であった。

 明確にお友達と二人きりで食事すると言いきられ、取り付く島もなくなってしまう。

 ゲームオーバーである。

 

 リムルはふらりと倒れそうになる体を根性で支え、最後に町の主としてマツリに確認する。

 

「わ……分かった。でも一応この町に入れる前に紹介だけは頼むぞ。パパには盟主……いや王としての責任があるんだからな」

「そんな悪い奴じゃないと思うけどなぁ……まあいいや、町の外れで待ち合わせだからパパも来る?」

「ああ! 絶対に行く!」

 

 こうしてマツリの新たなお友達を町に招待し、二人きりでの食事会をすることになったのだった。

 

 

 

 食堂で夕食。

 リムルとマツリが席に着くと、既に着席していた幹部たちの視線が一斉にリムルの憂鬱そうな顔へと向けられた。

 

 一体何があったのか?

 心配そうにシュナが声をかける。

 

「リムル様大丈夫ですか? 何やらご気分が優れないようですが」

「え? 俺はなんともないぞ?」

「とてもそうは見えませんが……」

「パパは俺とご飯が食べられなくて拗ねてるだけだから大丈夫だよ。実はね──」

 

 マツリがリムルとのやり取りを説明すると、幹部たちは『ああそういう事』とすんなり納得したのだった。

 リムルが親バカなのは周知の事実なのだ。

 

「それにしてもマツリ様と二人きりなんて羨ましいっすねー。オイラも可愛い女の子とデートしたいっすよ」

「おいゴブタ、マツリは絶対にやらんからな?」

「いや、そういう意味じゃないっす。全然狙ってなんかいないっす」

「あ゛? マツリが相手じゃ不満だってのか?」

「これ何て答えれば良いんすか」

 

 どう答えてもリムルの不興を買ってしまう。

 紛う事無きパワハラである。

 

「デートってなに?」

「知らないんすかマツリ様? こう、可愛い女の子と一緒に遊んだり、飯食ったり、とにかく楽しいんっす」

「へー。じゃあ俺のもデートって事になるのかな」

 

 デート。

 恋仲にある二人が楽しいひと時を共にするアレ。

 

 マツリの言葉を聞き、リムルがピクリと肩を震わせる。

 

 ……もしかしてそういう事なのか? 

 パパ抜きで二人きりでご飯を食べたいって、やっぱりそういう事なのか? 

 リムルは不安に駆られる。

 

 そんなリムルの様子に気付くことなくゴブタは話し続ける。

 

「そのお友達って女の子なんすか? ていうか、マツリ様の場合は男の子が相手でもデートになるっすかね?」

「誰でも良いんじゃない? 俺は性別無いらしいし」

「じゃあ選り取り見取りっすね!」

「でも恋愛とか良く分からないしなぁ」

「まぁ二人きりで楽しめればデートっすよ。性別とか関係ないっす」

「じゃあやっぱりデートだ」

 

 じゃあやっぱりデートなのか……

 リムルは気が重い。

 

「なあマツリ、一応聞いておくんだが……その相手ってのはどんな奴なんだ?」

「気になるっすねぇ。マツリ様とデートが出来る果報者が一体誰なのか」

 

 幹部ですらマツリと二人きりで食事など滅多にないのだから、この町の住民にとっては夢のような話だ。

 そしてリムルにとっては悪夢のような話でもある。

 

 相手は一体誰なのか。

 この場の皆がそれに興味を持つのは当然の事だった。

 

「とっても可愛い女の子だよ!」

「子供なのか?」

「俺よりちょっと大きいけど、子供だね」

「その……どんな感じでお前を見てたんだ?」

「なんか戦うのが好きみたいでね、俺が強いからって言って戦おうとしてきたんだよ。でも俺は戦うの好きじゃないしもっと面白い事あるよって言ったら、『ワタシも仲間に入れるのだ!』って駄々をこねてた」

「じゃあお前の事が好きとかそういう感じじゃないんだな?」

「好き……ではあると思うけど」

「どういう意味で?」

「もちろん友達として!」

「……なら良いんだが」

 

 その後もリムルの気が済むまで尋問は続いた。

 そんなことをするとマツリ様に嫌われますよ、などとは言わずにじっとその様子を眺める幹部たち。

 

 リムルの尋問により浮かび上がって来た人物像は、上位魔人の少女だった。

 かなり力のある魔人で戦いを好むという。

 外見は非常に美しく、かなりキワドイ格好をしているのだとか。

 

「まあなんにせよ会ってみないことには分からないな。もしマツリの事を狙ってるようなら力づくでお帰り願うが」

「そんなことしたらパパとは絶交だからね」

「すまん間違えた。全力でおもてなししないとな」

 

 デートの日までまだ数日ある。

 その日が来るまでリムルは悶々とした気持ちで過ごすのだった。

 

 

 

 約束の日。

 良く晴れた空に、夏の湿った空気がスライム肌に心地良い。

 絶好のデート日和りだ。

 

 お友達を迎えるべく、マツリはリムルと共に町の外れの平野へとやってきていた。

 

「もうすぐ来るよ」

「何度も言うが、危険な奴だったら帰ってもらうからな? 町とお前の安全が第一だ」

「それもう10回くらい聞いた」

「大事な事なんだよ。何回でも言うぞ。……ん? 何だあれ?」

 

 空に一条の光の筋があることにリムルは気付いた。

 その光は真っ直ぐ頭上へと伸びてきている。

 

(見たことない光だな。流れ星……ってわけでもないようだが)

 

 異世界特有の気象現象だろうか?

 ピンク色の光が真っすぐに伸びている様子は見ていて綺麗だ。

 

 しかし呑気に眺めていられるのもここまでだった。

 その光の筋は上空で急降下を始めたのだ。

 向かう先は…………リムルたちが立っているこの場所だ。

 

「おいおい、落ちて来るぞ!」

 

 その光は数十メートル離れた地面に激突。大爆発を引き起こした。

 音の聞こえた方向を振り返ると土煙がもうもうと巻き上がっている。

 

 リムルは思わず身構えた。

 その土煙の中からとんでもなく強大な妖気を感じたからだ。

 あそこに誰かがいる。

 

(大賢者! あれはなんだ!?)

《解。上位魔人と推定。測定可能な下限段階で魔素量が10倍以上です》

 

 大賢者さんの報告を聞けば、いかに危険な相手かが分かるだろう。

 もし戦いになれば勝ち目など無い。

 

 あのヴェルドラにも匹敵するほどの存在感を放っている。

 

「マツリ! 町へ戻れ! こいつは俺が相手する!」

「いや、パパ。あれは──」

「何してる! 早く逃げろ!」

「お友達の──」

「ああーっもう! お前はいつも緊張感が無いな! 魔物と見ればすぐお友達になろうとしやがって!」

 

 『どう考えても非常事態だろうが!』と怒鳴りつけたくもなるが、敵の前で冷静さを失うほど愚かではない。

 すぐに気持ちを切り替え着地地点を観察する。

 

 やがて土煙は消え、その正体が明らかとなる。

 現れたのは幼さの残る美少女。

 桜金色(プラチナピンク)の髪をツインテールに纏め、無い胸を反らして仁王立ちしている。

 

 やってきたのはただ一人の竜魔人(ドラゴノイド)にして、『破壊の暴君(デストロイ)』の二つ名を持つ者──魔王ミリム・ナーヴァだった。

 そして、マツリの新しいお友達である。

 

【挿絵表示】

 

 ミリムの姿を確認したマツリはぱぁっと表情が明るくなり、一目散にミリムの下へと駆け寄った。

 リムルも慌てて後を追いかける。

 

「久しぶり、ミリム!」

「おい、もしかして今日来るお友達って……」

「ふっふっふ、驚いた?」

「驚きを通り越して呆れてるよ……。とにかく、敵じゃないんだな?」

「悪い奴じゃないって何回も言ってるでしょ」

 

 ドッキリ大成功であった。

 派手な登場もマツリがミリムに頼んでいたのだ。

 

「ミリム! 良い登場だったよ!」

「わっはっは、これ位朝飯前なのだ! マツリのパパも慌てていたな!」

「心臓が止まるかと思ったよ。そんなもの無いけど」

「マツリよ、約束は忘れてないだろうな?」

「もちろん! 美味しいごはんを準備してるよ!」

「では行くのだ! っと、その前にマツリのパパに自己紹介をせねばなるまいな」

 

 自分以上の力を持つ魔人に見据えられ、緊張するリムル。

 一体何者なのだろうかと思いながらミリムの言葉を待つ。

 

 対するミリムは実に軽いノリでこう言った。

 

「初めまして。ワタシは魔王ミリム・ナーヴァだぞ。マツリのオトモダチだから遊びに来た!」

「はあ!? 魔王かよ!」

 

 そう、魔王である。

 




画像生成でミリムの服を再現するのは無理でした……
でも可愛く描けてるのでヨシ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。