転生したら子供が出来た件   作:座右の銘

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魔王の胃袋を掴め

 前略 マツリが魔王を連れて来ました。

 今俺の目の前に居ます。

 訳が分かりません。

 

 誰に対するでもなくリムルは心の中で心境を呟いた。

 

 何かの冗談だと思いたいが、目の前にいる少女のでたらめな魔素量を見ればそれが本当だと信じざるを得ない。

 オークロードもガゼル王もまるで相手にならないだろう圧倒的な力だ。

 

 なるほどこれが天災(カタストロフ)

 打ち倒すどころか身を守る事すら叶わない、ただ敵対しないことを祈るしかない存在。

 大自然の脅威などと同じくくりになるのもうなずける。

 

「さて、ワタシは自己紹介したぞ。お前は何と言うのだ?」

「あ、えーっと、リムルだけど……」

「そうかリムルか! お前もマツリと同じくお友達ということで良いのだな?」

「は? 友達?」

 

 混乱から抜けきらないリムルは思わず聞き返した。

 その声には否定のニュアンスが含まれていたのだが、それは咄嗟に声を発した際の不可抗力である。

 ミリムを拒絶するつもりなど毛頭なかった。

 

 しかし、聞く者はそういう事情は考慮してくれないものだ。

 

「ねぇパパ、もしかしてミリムと友達になるの嫌なの?」

「ち……違うのか?」

 

 マツリが不機嫌そうにリムルを睨み、ミリムは不安げな表情で聞き返す。

 罪悪感を煽る光景である。

 

 しかしおかしな点がある。

 ミリムの右手が何故か拳の形に握られているのだ。

 突き出すのに丁度良い位置に構えられたそれには膨大な魔力が籠められている。

 

 その意味を理解したリムルは戦慄した。

 

 え、何、殴るの!?

 魔王の力で!?

 死ぬよね? 俺絶対死ぬよね!?

 

 そして大慌てで死なないための模範解答を述べる。

 

「違わない違わない!! 俺達は友達だ!!」

「うむ! 友達なのだ!」

 

 一転して笑顔になり、拳を下げるミリム。

 こうしてリムルもミリムのお友達となったのだった。

 

(リムル様、お取込み中の所申し訳ありません)

(ソウエイか)

 

 互いの自己紹介がひと段落着いた頃、リムルに思念伝達が入った。

 仕事の出来る男は話に割って入るタイミングも完璧である。

 

(その少女から非常に巨大な魔力を感じるのですが一体……)

(こいつはマツリが連れて来たお友達なんだが、何でも魔王らしくてな。ミリムって言うんだけど)

(……!? 流石はマツリ様です。魔王ミリムと交友関係を持つとは)

(誉めて良いのかなぁコレ)

 

 仲良くお喋りするマツリとミリムを眺めつつリムルは考える。

 どう考えても厄介事である。

 凄い事は凄いのだが、同時に極めて危険でもあった。

 

(しかしリムル様。もしマツリ様以外の者が邂逅しミリム様の機嫌を損ねるようなことがあれば、この町……いえジュラの大森林が焦土と化していた可能性もあります)

(確かにな。強力な魔王と敵対せずに交友関係を結べたのはファインプレーと言って良いか)

(その通りかと。とにかく怒らせないことが第一ですので、もてなすべきです。俺はシュナ様にこの事を知らせてきます)

(ああ、頼む。なんとしても魔王の胃袋を掴んでくれよ)

 

 食事会に料理を提供するシュナも、まさか魔王が来るとは思っていないだろう。

 

 魔王を町でおもてなし。

 不興を買えば町どころかジュラの森が滅ぶ。

 とんでもない事態になったものである。

 

「どしたのパパ?」

「折角ワタシが遊びに来てやったというのに元気がないなリムルよ」

「はぁ……大人には色々あるんだよ」

 

 悩みの種であるミリム本人から元気が無いと心配されるリムル。

 思わずため息をついてしまうのも当然だった。

 

 ミリムを引き連れてリムルは首都リムルへ向かう。

 町の入り口に立ち、目の前に広がる建設途中の町の光景にミリムは目を輝かせた。

 

「凄いのだ! 町なのだ!」

「良いでしょ。俺もパパもここに住んでるんだ」

 

 町に向かう道中でリムルはミリムにふたつの約束をしていた。

 勝手に暴れないこと。

 そしてリムルの傍を離れないこと。

 

 分かったのだ! と元気の良い返事を貰ったが、ミリムのはしゃぎっぷりを見るに守られるかどうかは怪しいとリムルは考えていた。

 その予想は当たるのだが、現実はそんな生易しいものではなかった。

 

「さてミリム。約束通り暴れず、俺の傍を離れないでくれよ?」

「分かっているのだ! さあ行くぞマツリ!」

「おい待て! 約束はどうした!」

 

 リムルが叫んだ直後にはミリムとマツリの姿はもう無かった。

 マツリの手を掴んで猛然と走り出していったのだ。

 

「マジかよ……」

 

 一人取り残されるリムル。

 

 足元を見れば石畳のタイルが割れ、土の地面が露わになっていた。

 ミリムが駆け出す脚力に耐えられなかったらしい。

 相変わらずでたらめなパワーである。

 

 そしてこれが、ミリムによる町の損傷被害の第一号となる。

 

 マツリはミリムに手を引かれ、物凄いスピードで流れていく景色を見ていた。

 

 うわあ早い

 魔王ってすごいんだなぁ

            まつり

 

 呑気なものである。 

 ホブゴブリンであれば骨折は免れない程の力で腕を引かれるのだが、そこはスライムの柔軟性で事なきを得ている。

 痛みも無い。

 

「これは何なのだ?」

「井戸だよ。水をくむところなんだ」

 

 ガコガコと井戸のポンプで遊ぶミリム。

 バキィ。

 損傷被害の第二号である。

 

「綺麗な器なのだ」

「工房で作ってるんだよ」

「あ」

 

 パリン。

 

 一事が万事、この調子だ。

 町で見慣れない物を発見するととりあえず触り、大抵は壊れてしまう。

 ドアは枠から外れて飛んで行き、踏みしれられた地面は抉れ、陶器やガラスの破片が宙を舞う。

 有り余る力で破壊の限りを尽くすのだった。

 

 町がどんどん壊れていく

 魔王ってすごいんだなぁ

            まつり

 

 そして町づくりの大変さを知らないマツリはやはり呑気に眺めるのだった。

 

 一方リムルは町を駆け回るミリムを必死に追いかけていた。 

 町の主として責任をもって暴れさせないつもりだったのだが流石に相手が悪い。

 必死の努力も空しく、ミリムが町の各地でやらかすのを遠目に見る事しか出来なかった。

 

 そんなミリムの様子を見て、リムルは思う。

 

 魔王と言うからどんな奴かと思ってみれば……見た目通りの子供だな。

 力はあるがそれだけだ。

 物を壊されるのは困るが、普通に良い奴だな。

 

 破壊は破壊だが、悪意のある攻撃ではない。

 直情的で不器用なだけなのだ。

 一通り町を周る頃にはミリムに対する警戒心はほとんどなくなっていたのだった。

 

 やがてミリムの興奮が冷め、ようやく町の住民へミリムを紹介することに。

 走って追いかけて来たリムルも合流して3人で中央広場へと向かう。

 

「ギャラリーが多いのだな」

「俺のお友達だからね」

「今日ミリムが来ることは皆知ってるし、ここでお披露目をやるのも周知してあるんだよ。まさか魔王が来るとは思ってないだろうけどな」

 

 マツリのお友達のを受け入れるにあたり、準備をしていたのだ。

 実は昨日、こんなやり取りがあった。

 

『ねぇパパ。皆俺のお友達がどんな人か気になってるみたいだから、皆の前で友達を紹介したら面白くない? 色々質問する感じで』

『トークショーってことか、面白いな。お前の事だから魔国の王子って事はまだ言ってないんだよな?』

『言ってないよ』

『じゃあ町で壇上に立たせてそういうの諸々全部含めてバラしちまおうぜ。良いドッキリになるだろ』

『リグルド!』

『手配しておきます』

 

 マツリと食事の約束をした友達という事で話題になっていたため、多くの住人がその様子を見たがっていた。

 ならばという事でマツリが企画したのがお友達のお披露目を兼ねたトークショーである。

 

 これは本来ならお友達に対するサプライズだ。

 しかし相手が魔王ミリムとなれば、驚かされるのはこちらだろう。

 そこだけは計算外なのだった。

 

 広場の中央にはかつてマツリを紹介した時に使用したお立ち台が用意されていた。

 壇上に上がるのはリムル、マツリ、ミリムの3人だ。

 

 司会のリムルの声が()イクで増幅され、広場に響く。

 

「コホン、それでは紹介するが、驚かないで欲しい。こちらはマツリのお友達のミリム。そう、あの魔王ミリム・ナーヴァその人だ。くれぐれも粗相の無いようにな」

 

 リムルがミリムを一通り紹介し()イクがミリムへと渡る。

 そしてミリムの第一声なのだが、驚きであった。

 町の住民もリムルもまさかミリムがこんなことを言いだすとは予想だにしなかっただろう。

 

「ミリム・ナーヴァだ。今日からここに住むことになった。よろしくな!」

 

 開口一番に移住宣言である。

 自由奔放にも程がある。

 

 オーディエンスからはどよめきの声が上がっている。

 マツリのお友達の正体が魔王で、しかもこの町に住むというのだ。

 無理も無い。

 

「おい待てそりゃどういう意味だ!?」

「ミリムもここに住むの?」

 

 ぎょっとするリムルに、嬉しそうなマツリ。

 全く予定にない魔王の移住という案件に、リムルはトークショーの司会であることも忘れて頭を抱える。

 

「パパが考え事しちゃってるから俺達でお話しようか」

「うむ、そうだな! 何でも聞くが良い!」

 

 少々予定とは異なるが、司会無しでトークショーの開幕である。

 

「ミリムは何歳なの?」

「数えてないから分からないのだ」

「好きな食べ物は?」

「さっき食べたリムルさまんなのだ!」

「今は何処に住んでるの?」

「あっちの方なのだ」

 

 会話の内容は別に面白くもなんともないのだが問題はない。

 容姿の良さと魔物としての格の高さを考えれば、壇上に立つマツリとミリムを生で拝めるだけで十分に価値があるのだ。

 

 壇上の2人には広場からの声が届いていた。

 

 ミリム様可愛い!

 マツリ様も嬉しそうだねぇ

 本当に2人は仲が良いんだな

 俺はシュナちゃん一筋、俺はシュナちゃん一筋…………

 

 様々な感想を抱く住民たち。

 概ね好意的である。

 

「じゃあそろそろご飯の時間だから俺達行くね」

「うむ、行くのだ!」

「じゃあパパも……」

「あ、パパは駄目だからね」

 

 トークショーは大歓声に包まれながら終わりを迎えるのだった。

 

 

「さて、ミリムがここに住むと言い出したわけだが」

 

 いつもの会議室でリムルが切り出した。

 集まったのはリムルと、シュナを除く幹部たち。

 ミリムへの対応を話し合わなければならない。

 

 ちなみにミリムとマツリ、そしてシュナは客室にてお食事会の真っ最中である。

 同席を改めて拒否されたリムルは血涙を流しながら悔しがっていた。

 

「いきなり魔王が来るとは思ってなかったが、まぁ何とかなりそうだよな。ただの子供だし」

 

 ミリムが滞在することについてはそれほど問題は無い。

 物的被害は出るだろうが、それだけだ。

 

 しかし政治的な面で問題があると、カイジンは指摘する。

 

「いや、しかし……気になるのは、他の魔王の出方じゃないか?」

 

 魔王は複数名存在し、互いに牽制し合う関係なのだ。

 ジュラ・テンペスト連邦国という一大勢力が魔王ミリムと仲良くすることを他の魔王が許すだろうか?

 

 もし他の魔王に攻められでもしたら……

 『他の魔王? 蹴散らせばよいのだ!』

 ミリムはきっとこう言うのだろうが、町を守る立場にある盟主としては看過できない事態だ。

 

「しかし実際にですぞ、魔王ミリム様を止めようとしても無理でしょう?」

 

 リグルドの言う通り、絶対に無理である。

 戦争が起きようが何だろうが無理なものは無理だ。

 

 初めから結論は出ているようなものだった。

 

「ではミリム様の御相手は、リムル様とマツリ様に全てを任せるという事で、皆さん異存はありませんね?」

「「「異議なし!!」」」

 

 ベニマルが良い笑顔で言い放ち、幹部一同が賛成する。

 リムルはため息を吐いてそれを了承したのだった。

 

 

 リムル達が会議室で会議をしている頃、マツリとミリムは客室にいた。

 

「それではミリム様、マツリ様、お食事をお持ちしますのでここで待っていてくださいね」

「はーい」

「はいなのだ!」

 

 いよいよミリムの待ちに待ったお食事会である。

 

「なあマツリ! 今日は何を食べさせてくれるのか? サンドイッチか!?」

「ふふーん、それは来てからのお楽しみだよ。ていうか俺も知らないんだ」

 

 シュナへのオーダーは『美味しい料理』である。

 ミリムが『美味しい料理が食べたいのだ!』と言ったので、そのまま伝えたのだ。

 

「あの時食べた『サンドイッチ』という奴はスバラシイ味だったのだ。マツリはいつもあんな美味しいものを食べているのか?」

「サンドイッチくらいで驚いてたら大変だよ? もっと美味しい食べ物がいっぱいあるんだから」

 

 ミリムがサンドイッチにこだわるのは、マツリからもらったサンドイッチが美味しかったからだ。

 初めてマツリに出会った時にマツリが持っていたのがサンドイッチだったのだ。

 

 ミリムは当時を振り返る。

 

 クレイマンに紹介された、水晶球に映るオークロードと戦う謎の魔人。

 そんな面白そうなオモチャの存在を知ったミリムは森へ突撃する。

 そこで例の魔人よりも先に、マツリを見つけたのだ。

 

 あの魔人も面白そうだったが、こっちも良い。

 他の魔王に先駆けて唾を付けておこうと思い立ったミリムは、とりあえず挨拶することにした。

 

 まずは驚かせてやろうと妖気を少しだけ解放してその前に降り立つ。

 

「初めまして! ワタシは、魔王ミリム・ナーヴァだぞ。お前がこの辺りで一番強そうだったから、挨拶に来てやったのだ!」

 

 抑えているとはいえ魔素は膨大で、名乗るのは魔王の肩書。

 普通の魔物なら腰を抜かすところである。

 

「そうなんだ。俺はマツリ、よろしくね」

 

 不思議な奴だった。

 自分の魔素量を見てもまったく恐れを抱かず微笑みかけてくる。

 明らかに生き物としての本能が欠落していた。

 

「お前……ワタシが怖くはないのか?」

「怖いって何?」

「へ?」

 

 キョトンとした顔でマツリが聞き返す。

 予想外の返答にミリムも同じ顔で固まってしまうのだった。

 

 しばし無言で見つめ合う両者。

 シュールな時間が流れる。

 先に静寂を破ったのはミリムだ。

 

「まあいい。お前結構強そうだから、ワタシと戦うのだ!」

「え、やだ。俺戦うの好きじゃないし。今からお昼ご飯なんだよね」

 

 ミリムが挑発するも、マツリはどこ吹く風。

 すたこらと歩き出してしまった。

 

 とりあえずミリムも付いていく。

 

 いつの間に取り出したのか、マツリの手にはランチバスケット。

 向かう先はすぐ近くの花畑だ。

 

 草原の中に背丈が1メートルほどもある花が群生していた。

 マツリが腰を下ろせば、頭まで隠れてしまう。

 天然の個室とでも言うべき空間がそこにあった。

 

【挿絵表示】

 

「ミリムもそこ座って」

「分かったのだ」

 

 バスケットからマツリが取り出したのはサンドイッチだ。

 美味しそうにかぶりつくマツリの姿に、ミリムの目が吸い寄せられる。

 

 何なのだあの美味しそうな食べ物は。

 ワタシも食べたいのだ!

 

 目をキラキラと輝かせてサンドイッチを見つめるミリム。

 マツリがそれに気づかない筈も無く。

 

「はいこれミリムの分ね」

「ありがとうなのだ! お前は良い奴なのだ!」

「お前じゃなくてマツリだよ。ミリム、今日から俺達友達だね!」

「友達……。うん! 友達なのだ!」

 

 こうしてミリムはマツリと友達になったのだ。

 柔らかい草原に腰を下ろし、二人仲良く並んでサンドイッチを頬張る。

 あの時食べたサンドイッチの味はずっと忘れないだろう。

 

 その後なんやかんやあってマツリの住む町へ行くことになり、そこで美味い料理を一緒に食べる約束をしたのだった。

 

 コンコン、とドアをノックする音でミリムは回想を終える。

 

「ミリム様、マツリ様。お料理をお持ちしました」

「来たのだ!」

「この匂い……カレーだ!」

「うふふ、マツリ様、正解です」

 

 ミリムとマツリの前に、ほかほかと湯気を立てるカレーが置かれた。

 シュナの力作である。

 

「いただきまーす」

「いただきますなのだ!」

 

 さあ、果たしてシュナは魔王の胃袋を掴めるのか。

 




ミリムとマツリがサンドイッチを食べた天然の個室は画像生成AIさんの発案です。
元々は草原でピクニックの予定だったのですが、AIさんは何度言っても草原を書いてくれませんでした。なので本文の方を合わせることにしました。
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