ウマ娘×俺ガイル 作:Signature
明白な勝敗、才能の差を際立たせる競技は、残酷だと思う。
才能は平等には与えられない。その差を埋めるはずの努力さえ、一種の才能とも言えるなら、なんでもない凡人は、一体どうやって、才気溢れる怪物たちに勝てると言うのか。
それでもスポーツと言う奴は、努力をやたらと重視するーーあたかもそれだけが唯一の突破口であるかのように。
模擬レースの合間、新米からベテランまで、見習いトレーナーに混じって、間近でウマ娘たちの走りを見る。俺には一生縁のないはずのスポ根物語。
自分の能力の売り込みを越えて、早くもライバルを見つけ出した者もいる。一着と言わずとも、好走のはてにトレーナーに見初められた者もいる。各々の出会いがそこに詰まっている。
観客用の席からその様子を見送って、何となく胸がざわついていることに気づく。本気で走り、精一杯の今をぶつけてくるウマ娘たちの熱に浮かされたとでも言うのだろうか?
「……バカバカしい」
勝者がいれば敗者がいる。華々しい強さの裏に、一体幾人の涙があるのか……考えるだけで、残酷だ。
「勝つウマ娘ちゃんにも、負けてしまったウマ娘ちゃんにも、どちらにも感情移入してくれる。あなたのような人がいるから、ウマ娘ちゃんたちは走ることができるんですよ!」
「うお!?」
隣に人の気配を感じたと思えば、にょき、と視界の下から生えてきたアグネスデジタルが力説する。
曰く俺はーー彼女の同志なのだ、と。
「走るのを諦めようとしていたあたしを説得して、芝とダート、どちらでも走ればいいと言ってくださったのは同志ではないですか!八幡さんも、心の内を隠すことなく、ウマ娘ちゃんたちを応援しましょう!」
「いや、俺のはそういうのじゃなくて……」
「はぇ?となると……ハッ!もしかしてデジたんのトレーナーになってくれるとか!?」
「それはもう断っただろうが」
俺とはまたベクトルの違うぼっち……と思われていたアグネスデジタルは、今やバ場を選ばず走る「勇者」として人気者だ。そこでキョドっている辺りにシンパシーを感じるが、他人とのコミュニケーションを拒んでいるわけではないので、結局は次世代のハイブリッド・ぼっちなのかもしれない。
「うう……残念ですねぇ。八幡さんと二人三脚だと、楽しく走れそうな気がしたのですが……」
「や、ほら、事情は説明しただろ。俺はトレーナーじゃねえから、ほら……知識とかないし」
「知識も経験も二の次ですよ」
アグネスデジタルは、胸の前で拳を握る。
「あたしたちウマ娘のことを、勝った時だけでなく、負けてしまった時のことも考えてくれる。そういう、同じペースで歩いてくれる人こそ、本当にトレーナーに向いていると、あたしはそう思ってますよ」
レースに絶対はない、という。
それでもウマ娘たちは勝つためにレースに出て、残酷な順位付けを受け入れる。
繰り返し、繰り返し。
裏を返せば、他のウマ娘が走っている姿を特等席で観戦できる、一緒に走れることを喜びとするアグネスデジタルが特殊なのだ。
「あ、それから、タキオンさんから伝言です。いつものように、放課後にでも共同スペースに来るように、とのことです」
「……わかった」
この瞬間も、勝利に沸くウマ娘と悔しそうに唇を噛み締めるウマ娘とがいて、俺はなんとも言えない気持ちで、トレセン学園の校舎の中へと足を踏み入れた。
ブレザーが、風でなびく。
「やあやあ異邦人のモルモットくん。ずいぶん遅かったねえ」
ハイライトの消えた瞳が細められ、ニヤニヤと笑っている。全ての元凶である、アグネスタキオン。
「とりあえずは心電図と採血をやっておこうか。後は君の……スマホのデータの分析を……」
余計なことばかりにリソースを奪われそうで、牽制のために楔をうつ。
「元の世界に戻れるように、実験用の道具集めの方は?」
「そう急かさないでくれたまえよ。足りない分は早急に送ってもらえるよう連絡済みさ。機材が届くまでの間、私の探求心を満足させるべく、いろいろと協力してほしいものだねぇ」
この世界に俺を呼び寄せた元凶、走りや勝敗に興味を見せないウマ娘、アグネスタキオンはそう言って、にんまりと笑った。