ウマ娘×俺ガイル 作:Signature
ほろほろと、零れ落ちる涙。
一度流れ始めると、もう止まることはない。
「お、おいクリーク!?」
「タマちゃん……」
縋るようにタマモクロスへと視線を向けるスーパークリークは、涙を隠すように顔を覆う。俺は何もできずに、その場に佇んでいる。
「わたし……こんなにも無力だったなんて……」
「クリーク。アンタはちょっと疲れとるだけや。今すぐに休んで……」
「いやです!」
クリークは首を振る。駄々っ子のように首を振る。
「わたし、ママなのに! ママでなきゃ、いけないのに……!」
悲愴感溢れる声は、思わず俺の心をも動かしそうになった。これほどの嗚咽を聞いて、じっとしているだけなんてできっこない。そう、何か行動を起こさなければ。
「決めたんです! この世界では、はちちゃんのママになろうって……!」
決意が引っ込んだ。
「あんなぁ、クリーク?さすがのウチも、それはどうかと思うで?」
「どうして、タマちゃん……どうして……?」
「わからんのかいっ!ウチはともかく、相手は同い年くらいの異性やぞっ!んなもんただのプレイやないかいっ!」
「そうなの、はちちゃん?」
「いや、そんなに驚かなくても」
そこは常識の範囲内で理解していただきたかった。
スーパークリークという少女は、お姉さんをすっ飛ばしている。ママである。
あのマルゼンスキーですら激マブのおねーさんを自称しているというのに、こちらと言えば、ママである。暫く元の世界に帰れそうもない俺を不憫に思ったスーパークリークが言い出したのが、件のママ発言である。
くだんの母。
……色々と危ないので自重しておく。
「その、気持ちはありがたいんだが……タマモ先輩の言う通りだ」
「せやろ?……ってか何が先輩や! さっきまでんな呼び方せーへんかったやろ!」
「いや、気持ち的な」
「だったら私がママになっても」
「いやそれとこれとは違います」
「はちちゃん……」
クリークが手を頬に当てて曰く。
「反抗期なの?」
「何をどう捉えたらそうなるんや!」
すごい、タマモクロス。
何がすごいって俺のお株を全部まるっと持っていっちゃう。
俺要る?俺ガイらない。
「……ま、まぁクリークはぶっ飛びすぎやけど。実際のところハチ、アンタはどうなんや? やっぱりその……寂しくはないんか?」
片方の脚をもう片方の脚に擦りつけつつ、視線を逸らしていたタマモクロスが、意を決したように尋ねてくる。
「そりゃまぁ……寂しくないというとウソになるけど」
だからと言って同い年の少女にママとか言えるか。
いやそもそも。それとこれとは話が違う。
「なんというかクリークは、世話を焼きたいんだな」
「別に悪意はないんやけどなぁ……」
そう言うタマモクロスはどこか遠い目をしている。在りし日を思い出すかのような視線。
「一体何が……」
「でちゅね遊び」
「悪かった。もう聞かせないでくれると助かる」
ぽん、とクリークが手を打った。
「はちちゃん。いい考えがあります!」
「その発言フラグなんだよなぁ……」
「さあ」
腕一杯広げて、こちらを待つクリーク。
「……ナニコレ?」
「ハグですよ、はちちゃん!」
「却下で」
「はちちゃん!?」
「やっぱりおかしいわ。うん、ウチは間違っとらんかった。同じ生徒とかトレーナーを赤ちゃんにしようとするのは間違いやと、あの頃のウチは正しかったんや……」
「今のウチさんはどうなんですかね、タマモクロスさん?」
「気づいた時には、もう……」
「あー、なんか悪い」
何が恐ろしいって、これが行われているのは学園の一角で、かなり人目に付く場所だってことだ。
なのに、通り過ぎていく生徒たちはああまたか、みたいな表情で一向に立ち止まりもしない。それどころか、何処からか現れた銀髪のウマ娘が、
「ハチよぉ……これが、トレセン学園なんだぜ」
としみじみ語ってるような有様だった。
「学園側に通報すべきじゃねーの? ママを名乗る不審者がいるって」
「あのなぁ、クリークは別におかしくないで?ちょっと人を甘やかそうと頑張ってるだけや」
「時と場合によってはそれが犯罪になりうるんだが?」
「大丈夫やろ、その辺はクリークだってわかっとるはずや」
耳をピコピコさせて、こちらのささやきを聞き逃さないタマモクロス。ぐっと拳を握りしめたクリークは言う。
「私は諦めませんよ、はちちゃん!」
「悪いことは言わないから諦めてくれ……」
「あ、トレーナーさん」
「おどれがすべての元凶かぁぁぁ!」
タマモクロスがものすごい勢いでスーツ姿のトレーナーに突っ込んでいく。脇腹に頭突きを喰らったトレーナーが体をくの字に折り、そのままクリークに抱き着く。
「大丈夫ですよ~トレーナーさん。今日もいいこいいこしましょうね~」
「うぅ……俺を慰めてくれるのはクリークしかいないんだぁ……」
ハハ、なんだこのカオス。
やはり、異世界転移は間違っている。早急に帰らないと、こっちがおかしくなる。
帰ろう。俺のいるべき場所へ。
「あー!ひっきーだー!」
「なん、だと……?」
ウララちゃんは天使。
「ちょお待てや! まともなのはウチだけかい!」
ボートを用意しろ。二人乗りで良い。俺はハルウララと一緒に元の世界に帰るんだ……。