ウマ娘×俺ガイル 作:Signature
トレセン学園の中、ウマ娘たちはアスリートとしていつも走っているイメージがあるが、実際のところそうでもない。
ライブ会場が併設されている。というのも、レースの後は、ファンへのサービスとして歌とダンスを披露するからだ。
全力疾走後に?と言いたくなるのは俺だけだろうか。
とはいえ、こちらの世界にやってきたばかりの時、慰撫も込めて特別にそのライブを見せてもらったことがある。
センターは発案者。脇をシンボリルドルフとアグネスタキオンという責任者と騒動の元凶が固めて、それはもう一気にイメージにヒビが入るような電波ソングを披露してくれたものである。
そして今、ゲリラライブが行われている。なんとなく立ち止まって、ぼんやりそのステージを見上げる。
踊っていたのは我らがアイドル、スマートファルコンだった。
俺への歓迎として、ライブを提案してくれた張本人でもある。
さて、何から語るべきなのか悩むが、スマートファルコンは、ウマドルを目指しているらしい。
とはいえそれに全集中というわけではなく、戦績も馬鹿にできない。ダートという戦場では敵なしとすら囁かれる実力者だ。
アスリートとして、ウマドルとして。
スマートファルコンは、今日も活動しているらしかった。
観客席にはぼちぼち人が集まってきている。ファル子の顔が少しだけ嬉しそうに上気する。アイドル風の勝負服に身を包み、キレキレの踊りを披露する。
アイドルと言うほどではないが、ゴールドシチーというウマ娘も、確かモデルをやっていたはずだ。
二人のすごいところは、どちらにも妥協しない点にあるだろう。
「みんな、ありがとー!」
決めポーズとともに一旦舞台袖へ引き返していくファル子。俺はその余韻を味わうように、観客席に座っていた。
「八幡さん!どうだった?」
「うお!?」
さっきまでステージにいたと思ったらいつの間にか隣で、水分補給を欠かさない。ツインテールがぴょんと揺れて、甘い香りが隣から漂ってくる。
「あ、えーと……いいんじゃねえの?」
「そう?」
「ダンスも上手いし……ウマ耳に尻尾だろ?俺の世界では引っ張りだこだな」
スマートファルコンの苦笑。
「でも、ファル子は行けないかな……ここでしかできないことがたくさんあるから」
「レースのことか?」
「うんっ」
ニコニコと笑うスマートファルコン。ふと視線をずらせば、アグネスデジタルが嫉妬のような、あるいは羨ましいと言わんばかりの視線を向けてきていた。
ゲリラライブの予定まで把握しているらしい。
「八幡さんは、この世界でしかできないこととか、あるの?」
「……どうかな。俺はどこに行っても、俺でしかないし」
「えっと……この世界のことは、好き?」
「……きらいじゃない」
捻くれ者の、精一杯の言葉。それにさえ、ファルコンは笑みで返す。
「良かった」
ぶらりぶらりと足を揺らして、こちらを覗き込んでくる。
「八幡さんは、好きなアイドルとか、いるの?」
「その方面には全く詳しくないな」
どんなアイドルも、過酷なトレーニングを積むウマドルの前では蹴散らされてしまうだろう。
どこかのアイドル育成ゲームのように、スタートラインが違いすぎるのだ。
そんな事を考えている俺に、ファルコンはゴソゴソとポケットを探り、何かを取り出す。
そこそこ良い紙が使われた、ウマドルファンクラブの会員証。丸っこい文字で、比企谷八幡と、俺の名前が書いてある。
「大事にしてね?」
そっと笑って、ファルコンが立ち上がる。俺はその背中を見送った。
カワイイだけじゃない、誰かを元気にするウマドル。
それこそがスマートファルコンという少女だった。
ポケットに仕舞う。
また、大切なものが増えた。