ウマ娘×俺ガイル 作:Signature
「タキオン?アイツはロマンチストだからなァ」
タキオンとよく話しているエアシャカールならば、元の世界に戻る手はずの進捗をなにか知っているかと思ったが、そうでもないらしい。
一人称はオレ。孤独を愛しデータを信じるという、どことなくシンパシーを感じる少女で、態度もぶっきらぼうで干渉を避けるからか、お陰で話しやすい。
とはいえ、突きつけられる現実は俺にとってはエグいんですけどね。
異なる世界の、優しくも強い少女たち。その出会い一つ一つが大切だ、と安っぽいJPOPぽく結びそうになるが、まあともかく。
結局のところ俺は異邦人であって、ここに骨を埋める覚悟はない。帰るか、帰らないかと聞かれれば、俺は前者を選ぶだろう。
「そもそもオマエの出現自体、ロジカルじゃねェよ」
「つーと?」
「タキオンはどっちかってェと、薬学的な分野の実験が多い。その爆発で登場したのが別の世界から来た人間。因果関係がオカシイだろうが」
言われてみればそのとおりだ。
「これがペーパーバックの三流SFなら、爆発の影響で異なる世界との入口が開いて、そこにオマエが巻き込まれたとかなるンだろうけどなァ。それはあまりにも」
「ロジカルじゃない、か」
ああ、とエアシャカールは無情にも肯定する。
「参ったな」
思わずこぼれる独り言。
いや、本当はもっと危機感がないとマズイんだが、事態が俺のキャパシティを遥かに超えているので、なんかもうメーターが振り切れてる。
「データで言うならオマエは所謂外れ値ってトコだな。数少ない例外」
「特別な存在だって喜ぶべきか?」
「喜びたかったら喜べよ。笑ってやらァ」
はッ、と笑いながらも、エアシャカールは自作PCのキーボードを叩き続ける。
話によれば、演算やシュミレートで、俺が元の世界に帰れるようにこの件に協力させられている、という話だった。
タキオンから、学園側から。
「なんか、悪いな」
「あァ?悪ィのはあのマッドサイエンティストだろうが。自分でもよくわからない物質を混ぜ合わせて、一人の人間を異世界から連れて来るとか……」
彼女のキーボードを叩く手が止まる。ため息。
「こりゃサトノ家に協力してもらったほうが良いかもなァ……」
「サトノ家?」
「新興の大きい家だよ。学園にも導入されてるVRウマレーターとか作ってンだけど、あんぐらい高度なシュミレーションしなきゃ、難しいかもなァ……」
ブツブツ言いながら、シャカールは新たなソフトを起動する。そのフォーマットは意見具申書で、今言った内容をサラサラと文字に移し替えていく。
「オレはロジカルじゃねェものは好かないけどなァ。一応こういう手段があるンじゃねェかと提案はできる」
額をコツコツと叩きながら、彼女は言う。
「VRウマレーターの機材を使って、オマエの記憶領域に干渉して、元いた世界をエミュレーターの中で再現する。そこで得られたデータや変数を逐一記録して、後はタキオンがやらかした状況を再現する」
もっとも、ただの爆発にその変数がどれだけ使えるかは未知だけどなァ、と付け加えるのも忘れない。
「……なんていうか、凄いな」
「アァ?」
「タキオンにしろお前にしろ、とても学生の範疇に納まっていない気がする」
「ハッ、そういうのは本人のこだわりと、それを許す環境で決まるンだよ」
しかし、ここまで才能の塊を見せられると、なんとなく気まずいと言うか、俺が積み上げてきた時間は、本当に役立てられたのだろうか、と比較してしまう。
才能と、環境。なにより、異端である素質。それに耐えられるメンタル。
多分、この学園の生徒たちが大小抱えているのが、それなのだろう。
嫉妬はしない。ただ、あまりにも大きな才能の差に打ちのめされるだけだ。
だからこそ分野は違えどアスリートの側面で、努力で才能を打ち立てたミホノブルボンという少女の強さもまた、輝く。
俺はそのどちらかになれるだろうか。思わず首を振ってしまう。
その時、ドアが開いて、一人の少女が飛び込んできた。
「シャカール!ラーメン食べに行こう!」
「殿下サマ……空気読めよなァ……」
「だってシャカール、放っておいたらいつまでもパソコンしてるでしょ?ご飯はちゃんと食べなきゃ!」
「いや、ラーメンなんぞそれこそサプリやブロックより遥かに栄養価が……オイコラ引っ張るな」
乱入してきた殿下ことファインモーションに引っ張られ、シリアスな雰囲気はぶち壊される。
だが、気がつけば俺は、笑っていた。
異端の才能も、天才も、それ以前に一人の少女であることには変わりないと、そう教えてくれるから。
ふと、ある少女の顔が思い出される。
『ヒッキー!』
「ああ、そうか」
由比ヶ浜結衣。
優しい女の子。
ぎゅっと、拳を握る。
「ほら、比企谷くんも行こうよ!」
殿下に誘われて、席を立つ。二人の後を後ろから追いかけながら、思う。
色々と教えられることがある。
優しい少女たちに囲まれた、優しい世界がここにある。
だがそれでも、俺は、帰りたいと思う。
改めて、思ったのだ。