ウマ娘×俺ガイル 作:Signature
購買でたまたまマックスコーヒーを見つけたとき、めんたまが飛び出るかと思った。
まさかの異世界での再会である。そのままぎらぎら出走しようと急ぎ棚から救いだし、小銭をもって保護したのだが、不幸なことがあった。
「ぬるい……」
熱燗じゃねーぞ。人肌にしても誰も喜ばん。
その時はこちらに来て日が浅く、さらに歩き回った後で喉が渇いていたので、さすがに常温で飲むのは躊躇われた。
こうなったら特例で貸してもらっている部屋に持って帰って冷やすべきか、しかし、今飲みたい。
そんな葛藤をよそに、すっと缶を取り上げる手があったーー。
マックスコーヒーを缶から抜き出し、シェイカーに入れる。明らかに乳製品とわかる彩りの液体が、缶から流れ落ちるのはちょっと驚く。え、こんなもの飲んでたっけ、みたいな。
シェイカーの中には、ロックアイスが鎮座している。早くも氷で結露が始まったそれを慣れた手付きで包み込み、素早く上下させる。
中の氷がシェイカーにぶつかって金属的な音を立てるが、「彼女」曰く、騒々しくするのは悪手なのだとか(要約)。氷が暴れてるわけだから、ぶつけるというのは、氷を溶かすのと同義だ。
素早くーーそれこそ、十回往復させるかどうか、で十分らしい。
そうしてカクテルグラスに注がれる量は、缶から差し引いてもかなり少量であるーーしかし、磨き抜かれたグラスを通せば、そのマックスコーヒーはまさに至宝。すっと体の内側に染み渡ると、遅れて頭痛がやってくるほどだ。
「これが、うまさ……コーヒーの、うまさ……」
思わず呟く俺に、脇から一言。
「これを、コーヒーというのは……認めたく、ありません……」
「フッ、深淵の美酒とは、グラス越しにあるもの……メーテルリンクの鳥籠、それこそがワタシが演出するものだ!」
「さすがギムレット先輩!」
……まあ、なんだ。
横には俺と同じ(強調)コーヒー党のマンハッタンカフェ、カウンターを挟んだ向かいには、モクテルの代わりにこれをやってくれたタニノギムレット。そして、渋い顔のマンハッタンカフェの隣にはBOTと化したウオッカである。黒の組織の一員かな?
「でも珍しいっすね、先輩がシェイカーを、飲み物を冷やすためだけに使うなんて」
「シェイク、ノットステア。シェイカーの中と、それを飲む客には調和が求められる……オリジナリティを求めて、相手が望まないものを押し付けるのは、愚の骨頂」
「つまり……比企谷さんが求めていたのは、マックスコーヒーだったから、と……?」
「その男が叫んでいた……テイク・ミー・ホーム……故郷に帰りたい、と。ワタシはそれを注いだまで」
「くうっ~!なにも言わずに察する!先んじて読み取ることも大事ってことっすね!」
少々賑やかすぎるバーだ。マックスコーヒーを買う度に、ここに招かれる。
本音を言えばちょっと居づらい。ギムレットの言い回しは、なんと言うか節々に刺さる。なんかこう痒くなってくる。
なにより、騒がしい。
顔ぶれはいつも同じと言うわけではない。だがウマ娘たちは少女たちだ。大抵賑々しく、今を震わせている。
刹那のやり取りをやってのけるからこそ、なのかもしれない。
いつの間にか、彼女たちのやり取りにも慣れてしまった俺がいる。周りを取り巻くあり方を、脇役として楽しんでいる俺がいるのだ。
……だとしてもちょっとうるさいわ、うん。もうちょっと落ち着いて、静かに飲みたい。
「おやおや、こんなところにミニバーが。ネイチャさんもお邪魔させてもらいましょーか」
「おー!それカフェオレ!?おいしそう!ターボも飲みたい!」
なんか増えた。
もっとうるせえ。
「マスター、そこの……ツインジェットにマックスコーヒーを」
「ほう……オマエもわかってきたな」
「全然わかってない!ターボの名前ちゃんと覚えてないじゃん!」
「比企谷さん?女の子の名前をわざと間違えるのは良くないと思うんですよね」
「あー、ここまでムキになられると、つい」
「まあ、気持ちはわかりますけどね」
「もー、ネイチャ!」
「はいはい、ごめん」
「……比企谷さん、やっぱりこれ、コーヒーじゃありません……」
「俺はわりと……あ、いや。悪くない、かなっ!」
「あまーい!おいしー!おかわりー!」
「比企谷さん?あんまりターボに変なの教えないでくださいね?」
ええい、賑やかすぎる。
とはいえ、さよなら一言でこの場を去ることができないのは、きっと。
さよならを言うことは、少しの間死ぬこと、だからなのかもしれない。