ウマ娘×俺ガイル 作:Signature
すぐ自分を卑下する。その一点で、ナイスネイチャは俺に奇妙なシンパシーを感じているらしい。
同年代の少女というより、スナックで働いていそうな彼女。
実際実家が商店街で客商売をしているというのだから納得だが、それにしてもずいぶん達観しているものだ。
とまあ、そんな聞き上手な彼女がポロリとこぼした言葉。反射的に、いや、似てねえよ、と答えたものだ。
理由なんて、言うまでもない。
「ほらほら、がんばれ男子ー」
神社へと続く急な階段を一息で駆け上がったナイスネイチャと、マチカネタンホイザ。ほっ、よっ、とか奇妙な音頭をとりながら踊っているゆるふわ女子の横で、ネイチャが励ましてくる。
「お前ら……」
「もー、八幡遅い!」
「悪かったなツインジェット」
生憎俺には尻尾もウマ耳もないのだ。我慢してほしい。
息を切らしながらようやく踊り場に差し掛かったところで、他のメンバーと同じくジャージ姿のイクノディクタスがメガネを押し上げながら恐ろしいことを言う。
「ふむ、根本的なスタミナは埋められませんね……」
「だろ?」
「ええ。トレーニングメニューを増やさなければ」
大事なことなので二度言う。
恐ろしいことを言いやがる。
「とはいえ、比企谷くんもよく引き受けてくれましたね、トレーニングの補佐を」
いつの間にか、どうやってか、率いる生徒たちに合流している、このチームカノープスのトレーナー、南坂さん。
彼の言うように、今回俺はカノープスのトレーナー補佐として参加させてもらっていた。
結果?ご覧の有り様だよ。
「おー、おつかれー」
「ヒッキーくん、私が買ったペットボトルを贈呈しようぞー」
「次はどうする?ターボはね!」
「ターボ、休憩しないと比企谷さんが死にます」
「タフですね貴方の教え子」
ははは、と苦笑しながらも否定しない南坂トレーナー。一人スーツで、なおかつ汗をかいていないようにみえる。十分に異質だ。
「みなさん、レースに勝つ、と気合い十分ですから」
個性的な教え子に振り回されているように見える彼だが、メンバーについて語るとき、そこには誇らしげと言うか、可能性を当たり前に信じている、不思議な爽やかさがあった。俺は足に手をつきつつ、なるほど、と答える。
ナイスネイチャがストレッチをしている横で、タンホイザがアイドル系のダンスで体を温めている。イクノディクタスは黙々とスクワットをこなして、ターボは……その場でピョンピョン跳ねたあといきなりムーンウォークを始めた。何気に上手い。
「で……あと何往復すればいいですかね?」
「駆け下りるのはさすがに危険です。せっかく神社に来たことですし、ちょっとお参りしていきましょう」
これがいわゆるアメとムチというやつなのかもしれない。ターボが腕をぐるぐる回す。
「よーし!ターボはお賽銭に100円入れる!」
「なんと!では私は50円で勝負だっ!」
「財布を見なければわかりませんが、10円を整理したいところです」
「神様なんだから、ご縁がありますように、じゃない?」
わいわいと境内のなかを駆けていくチームカノープス。その背中を見送るこちらは、少しばかり複雑だ。
スピカ、リギル。俺が知っている他のチームは、最もレベルが高いといわれるG1を獲得している。しかし、カノープスはまだそこにたどり着いていないという。
大敗するわけではない。善戦する。あと一歩のところまで戦い抜く。このチームに所属する全員が、G1を狙えるだけの実力を持っている。
足りないものはなにもない。南坂さんは言う。熱意も、実力も、努力も本物で、疑う余地はない。
では、紙一重の勝敗を決するのは、なんだというのだろう。俺にはわからなかったが、南坂さんも、わからないようだった。
他の三人をまとめ上げているナイスネイチャへと視線を移す。こちらに気づいたネイチャがわざとらしく笑いながら、
「どうしました比企谷さん、ネイチャさんの魅力に気づきましたか」
「なに?見とれてたとでも言うべきなの?」
「え!ネイチャ凄い!」
「おお~!若き二人に幸あれ、ですね!」
冗談だっての。
ただ、思ったのだ。彼女がお賽銭を投げて自分の願いを伝えているとき。その真剣な面差しに。
全然似てねえだろ、と。
キラキラしたいかどうか、それは知らない。だが、貪欲に勝ちを求めて、そのための策を練る。健全な闘争心を、確かに秘めている。
口では卑下するようなことを言う。だが諦めていない。手を抜いていない。いつだって全力だ。卑下しても、諦めていない。自分の力を信じている。
それのどこが、俺に似てるって言うのか。
彼女の誠実さに関して言えば、俺とはまったく比べるまでもないと、誰もが言うだろう。
姦しい少女たちが木陰を探して境内をぶらつく。自分の番が回ってきたので、俺もターボに倣って100円を入れておいた。
いつもなら、テキトーにお願いをしているところだが。
三女神というウマ娘の神様がいるらしいから、彼女たちに。
チームカノープスの、みんなの夢が叶いますように、と。
らしくもなく、願ってしまうのだった。