ウマ娘×俺ガイル 作:Signature
指がつりそう。
「ヒッキー!いいカンジデース!」
と、こちらの事情はお構いなしに、トレセンのガンマン、あるいはカウガールは、自分のことのように喜んでいる。
ぎこちないガンスピンの何が彼女を楽しませているのか、ほとんど検討はつかないのだが。
それでもタイキシャトルは、カウボーイハットを軽く押し上げながら、往年の西部劇のようなガンスピンを披露し、難なくホルスターに仕舞いこんだ。
フロンティアスピリッツを謳ってきたアメリカという国だが、その実人工的に作られた新興国だ。だから彼らにとっての騎士というのは、銀色に輝くぴかぴかの銃を持つガンマンなのだ。
何より銃は、自分の身は自分で守る、という「伝統」のシンボルでもある。
だから実際、アメリカ人の銃に対する愛と、馴染みのない国のガンマニアとの間では、文字通り重みが違うかもしれない。
それはそれとして、学園の中庭。ベンチで(多分勝負服用の)モデルガンを整備している姿を見かけた俺は、何となくその様子を眺めていた。
と、タイキシャトルがこちらを見つけて、ピョーンと飛び付いてきたのである。
「ヒッキー!」
懐かしい、と思うまもなく柔らかな、温かいハグに捕らえられ、びいんと固まってしまう俺。顔に血が集まるのがわかり、体はガチガチに動けない。
「久しぶりデスね!滅多に会えないから、会えたらラッキーだって聞いてマス!」
「だからといってハグする理由にはならんだろ…」
そもそも俺はなにか、はぐれメタルかなにか?
ヒッキー逃げないから、落ち着いて離れてほしいな。そうしてくれたらちょっと用事を思い出す予定だから。
と、そんな言い訳がタイキシャトルに通用するはずもなく。
「誤魔化さなくてもダイジョーブデス!ヒッキーも、モデルガンが好きデスヨネ?」
「ああ……ま、ほら。そいつは世界でもっとも高貴な銃らしいしな……」
そして始まるガンスピン講座。
何がどうしてこうなった。
「なあ、俺のスピン、めっちゃぎこちないって言うか……指ちぎれそうなんだけど?」
「練習あるのみデス!指の筋肉が鍛えられたら、しっかり回せるだけの力もつきますカラ!」
店で買えば万単位で請求されそうな精巧な代物は、ほとんど実銃と重さが変わらない。タイキシャトルはそれを楽々と回転させ、宙に投げ上げて再び手の中で回転させる。
「落とした時のことを考えたら、とても投げあげるとか無理だろ」
「継続は力なり、デスよ!」
横のスピン。指の関節にひっかけるようにして、遠心力で銃の位置をキープしているようだ。これも、回転が止まってしまえば即座に地面に落ちる。
「練習初めは布団の上で練習するとよい、と聞きマス!」
「あー、落とすの前提なのね…」
ウマ娘には固有、と呼ばれるスキルがある。なにそれかっこいい。
実際は、当人がもっとも力を得られると思う心象風景をイメージして、自分の力に変える、というもののようだ。俺も欲しい。
誰だ今山積みになったマックスコーヒーが落ちてくる光景とか言ったやつ。
その情景は各々によって違い、タイキシャトルの場合は、荒野の決闘をイメージするのだとか。
「つまり、これもイメトレの一種ってとこか」
「exactly!ヒッキーわかってマスね!」
「だがどうしてそこに俺が加わる必要がある」
「ヒッキー」
タイキシャトルは遠い目をしながら、俺の肩に手を載せる。
「ガンプレイがウマいと、女の子にモテモテデスヨ!」
「嘘乙」
せいぜいミリオタの集いか西部劇世代への隠し芸にしか使えない気がする。
と、即座に突っ込んだ俺に対して、ブー、と本場アメリカ流のブーイングと共に頬を膨らませるタイキシャトルさん。
「というか仮に、ここでモテモテになったところで、帰り道が違うってのに」
「帰り道?」
今度は首をひねる。何かこう、体を動かすたびにこう、ご立派なものが上下するのは正直目に余る。動きが全部小動物っぽいから、その動きになおさら。
「ほら、いつか元の世界に戻らなきゃだし……」
「じゃあ、帰ったらヒッキーモテモテ!」
「お前モテモテ言いたいだけなんじゃね?」
ヒッキー知ってるよ。こう、距離感が近くてなおかつ「モテたらいいね!」と笑顔で言ってくる女子に距離感をバグらせてはならない。
これはそう、「お前には一ミリも興味ねえから。ま、誰か拾い食いする悪食もいるんじゃね?」みたいな意味合いだ。
……でもここまで純粋な笑顔を前にそこまで言ったらなんか罪悪感が芽生えてくるんだよね……。
……本当に、優しい女子は苦手だ。
そんな女子は例外なく魅力的なんだから。
「ヒッキー?」
ずずい、とタイキシャトルが顔を寄せる。栗毛の髪の隙間を縫うようにしてぴょこん、と耳が飛び出す。
いつの間にか腕を組んでいた目の前の少女は、僅かに眉に皺をよせ、
「……まさか、ヒッキー。自分は帰らないといけないから、ここの女の子を好きになれない、なんて言いませんヨネ?」
「あー……いや、それはない」
ほら俺、モテないのがデフォだから。
なんて、自分でもわかる嘘をヘラヘラ呟きつつ、吸い込まれるようにタイキの目から視線を逸らせない。
むーっ、とこちらを覗き込んでいたタイキは、突如、一旦ホルスターに戻したリボルバーを、服の裾を払うように大きく宙へと跳ばした。くるくると回る銀色のそれが太陽の光を吸い込んで、ギラギラと陽を射してくる。
難なくキャッチして、反動を殺すように回す。ぴたり、とガンスピンを止めれば、グリップがこちらに向けられている。
……ナニコレ?
戸惑いつつも、差し出されたそれを受け取ろうとして手を伸ばし。
「Bang!」
タイキの手首が閃くと、こちらに向けられていたグリップが手の中に戻っていて、俺は銃口を突き付けられていた。慌ててホールドアップする俺の額にちょんと銃口を押し付けて、イタズラっ子のように笑う。
「時に、オトコノコは、自分の野望のために世界のルールを壊すくらいの方が、主人公っぽくてステキデスカラ!」
あれか、いわゆる上条さんの、「その幻想をぶち壊す!」みたいな?
タイキシャトルは胸に手を当て、リボルバーを抱えるようにしながら、両手を広げてすべてを受け入れるような、太陽のような笑顔で。
「だから……ヒッキー? たとえここでも、本当に好きな女の子ができたら、連れて帰るくらいのアタックをしなきゃデスよ!」
じゃないと、ずっと良い人止まり。
気が付けば、タイキシャトルに抱きしめられている。硬直するこちらの緊張をほぐすように、とん、とん、と背中を撫でてくる。
「そうすれば、ワタシだってヒッキーラブになるかも……しれませんカラ!」
にへへ、と浮かべる満面の笑みに、こっちの力も抜けていく。
いつも何かを教えてくれる少女ばかり。
まったく、ウマ娘というのは、本当に魅力的な女の子ばかりだ。