担当ウマ娘になったトレーナーのお話 作:Cutterruin
「先輩!一体何を?」
掲示板の前にいたエアグルーヴに後輩ウマ娘が声をかける。
「ポスターの貼り換えの確認をしていたのだがな。まだ期限もある上、少々歪んでいるのが気になってしまってな」
「先輩、真面目ですね……」
一旦外したポスターの高さを調整して、皺なく伸ばす。四隅のピンを目立たないよう、なるべくポスターに傷をつけないよう注意をして、少し離れた場所から確認する。
「ふむ……どう思う?」
「ほう。貴様にしては、随分丁寧にやれるものではないか」
エアグルーヴの尻尾が、大きく跳ねる。ギギギ、と油の切れたロボットのような動きでフル返った彼女は、本物の女帝の、凄みのある笑顔を見た。
「や、やぁ。エアグルーヴ?」
「さっきまでの、後輩相手の態度はどうした、女帝?」
まったく、と額を押さえながら二人目のエアグルーヴが並ぶ。腕を組みながら、横目で自分の姿になったトレーナーを見る。
「ふん……私がいる前ではそのメッキがはがれるらしいな」
「だって、本物の女帝がいるのに、いつも緊張しているわけにもいかないだろ?」
「まったく。『一人でいる時はどっちが本物かわからない』くらいには言われているのに、私と並んだ時はこれか……」
カメラでも仕掛けてやろうか、と本気で呟く担当ウマ娘に、変身してしまった側のトレーナーが冷や汗を浮かべる。
「そもそも貴様は、しゃきっとした態度が『緊張』なのか?」
「うん、やっぱり俺はほら、慣れないからさ。この見た目だから、エアグルーヴの評判を落とすような事はしないようにしてるけど、偽者は所詮偽者だからね」
自虐的な言葉に、彼女は眉を顰める。少しだけ呆れの吐息を漏らし、腰に手を当てた。
「なんなら、私のイメージを壊さない程度であれば、容姿を変えてもいいんだぞ?わたしと同じ姿になったからと言って、間違えられるたびに私のふりをするのも一苦労だろうに」
「いやー、それはなんていうか……」
頬を掻きつつ、上目遣いに、エアグルーヴがもう一人の自分を見上げる。
「なんだ」
「――正直、俺の理想の女帝を、他ならぬトレーナーである俺自身が演じられるって言うのは、ある意味光栄だな、とも思ってるんだよ。だからその、変な話になるけど……エアグルーヴと間違えられた時は、女帝としてできるだけのことをしたいし、演じたいと思ってる」
どうかな、と呟くように言うトレーナーに、今度こそエアグルーヴは大きなため息をついた。
「……勝手にしろ。最も、貴様の理想の女帝よりも、私の方が常に一歩先を行ってる」
「うん、そうだね」
「何を嬉しそうに。……まったく」
二人は並んで歩いて行った。行先は生徒会室であり、ターフであった。文字通りの一心同体だった。
そんな彼女に、後輩のウマ娘が声をかける。
「あ、エアグルーヴ先輩……って、トレーナーさんも!?」
「「ん、どうした?」」
揃って振り返る女帝は、どちらが本物なのか、後輩の目には見分けることができなかった。