担当ウマ娘になったトレーナーのお話 作:Cutterruin
「やだやだやだ!使い魔、あんたがいきなさいよ!」
尻尾よりも大きく揺れる首。大きな帽子のつばをぎゅっと握って、駄々をこねる。
「スイープ……俺が行ってもしょうがないと思うよ?」
「補習なんて受けないの!アタシはぜえったい行かないから!」
とほほ、と肩を落としながら駄々をこねる魔女っ子を、制服を着たもう一人の少女がなんとか諫めようとする。
その姿は、わがままな双子の妹と、世話焼きな姉といった姿である。
ただ、その「姉」の姿はひどくすすけている。参ったなぁ、と艶のある髪を撫でながら、スイープトウショウの姿になってしまった担当トレーナーは肩を落とす。
同じ姿になった自分を否定するわけでもなく、むしろ距離を詰めてくれるのは、本当に懐が広い、と思う。
だからと言って「変身魔法!」などと言って身代わりにするのはやめてほしいのだが。
「そもそもスイープ、俺が代わりに補習に出ても、『はいトレーナーさんはおとなしく本人を連れてきてくださいね』って感じで。バレちゃってるんだけど」
「じゃあもっとアタシに似せなさいよ!」
「ええー……こんな感じ?」
制服を着たスイープトウショウが、コホン、と咳払いする。きっと睨みつけるように同じ顔をした自分を睨むと。
「やだやだ!なんでスイーピーがそんなことしなきゃいけないのよ!」
「なっ……使い魔のくせに生意気よ!」
「どうしろとスイーピーさんや」
とほほ、と再び肩を落とす。ふと、自分の制服の裾が、ぎゅっと握られていることに気づく。
「スイープ?」
「……あの、今のだけど。その……アタシ、アンタの中ではあんな感じなの?」
「俺の中というかスイープのモノマネをしたらあんな感じになったというか……」
「ふんっ! アタシはそんなわがままじゃないもん!」
「ええ……」
どうしたものか。
腕を組み、考えているところに、ひょいと後ろから抱き上げられる。
「はいはい、悪いけれど、時間切れね」
「なっ……フジさん!?」
すぐさま逃げようとするスイープも掬い上げるようにして掴まり、二人なかよく教室へと連れていかれる。
「なんで俺も?」
「あはは……『もう一人の自分』が『サボって』たら、『ズルい』でしょ?二人だったら仲良く勉強してくれるんじゃないかなと思ったんだけど」
「そうなの?」
「うー……」
ぶらん、とネコのように持ち上げられたスイープトウショウがそっぽを向く。フジキセキがふふ、と笑いながらトレーナーに囁く。
「トレーナーさんが今の姿だからこそできた方法だから。これはトレーナーさんのおかげだよ?」
「この姿になったのは事故なんだけどな……」
「まあまあ、運も実力のうちってね」
ひょい、と教室に放り込まれ、ドアが無情にも閉まる。教師が獲物を見つけた肉食獣のような顔で二人を見据える。
「ひっ……」
「ではスイープトウショウさん。今日こそ、ちゃんとテストを受けてもらいますからね!」
「あ、あの、俺はトレーナーの方で……」
「スイープさんがトレーナーさんのふりをしている可能性もあるので、二人とも合格することを条件にします!」
「ぶ!?」
とんでもないところに飛び火した。だらだら、と脂汗が流れ落ちる。
「つ、使い魔? アンタ凄い汗だけど、一体……?」
「スイーピーさんや。俺が世界で一番苦手なのが何なのか知ってる?」
「な、なによ?」
「……世界史なんだ……」
「はあ!?」
決死の告白に、スイープトウショウが怒鳴りつける。
「世界史って、魔法の知識とか呪文みたいな単語がたくさん出てくるじゃない!なんでアタシと同じ顔をしてるのにできないのよ!?」
「いや顔は関係ないから」
「とりあえず! アタシがソッコーで終わらせるからわからないところは早く言いなさい!アンタのせいでいつまでもトレーニングできないなんて、絶対イヤなんだからね!?」
……数分後。
このおバカ!というスイープの、心の底からの絶叫が廊下まで響いていた……。