担当ウマ娘になったトレーナーのお話 作:Cutterruin
「トレーナーくん。思えば......君にはいつも迷惑をかけてばかりだったね」
アグネスタキオンは、しみじみとした口調でいう。
「いつも......その、私にとっては有益な実験だったが、君にとっては必ずしもそうではなかったかもしれない。後悔はしていないよ? でも......思えば君に、もっと配慮することはできたかもしれない」
だから、とタキオンは少しだけ掠れた声でいう。
「だから、それに気づけた今。本当に後悔する前に、私の大切なものを失う前に、私は......君に優しくしたいと。心からそう思う」
だから、とタキオンは言うのだ。
「だから私の白衣は返してくれたまえよ......」
「うるっさい! 今日から俺がアグネスタキオンとしていきていくんじゃあぁぁぁ!」
どうも、トレーナーです。
タキオンの実験に巻き込まれた結果、無事人間ではなくなり、ウマ娘、しかもアグネスタキオンの姿になってしまいました。
「トレーナーくん! 君は言っただろう!? 私と一緒に可能性の果てを見てみたいって!」
「ふゥん? しかし、今は! 私が! アグネスタキオンである以上、私こそが可能性の果てを探求できるということなのだよ、元タキオンことモルモットくん?」
「君怒ってるだろう!? 絶対怒っているだろう!? 頼むから無駄にクオリティの高い私のモノマネはやめてくれたまえよ!?」
「やっぱりあなたも大変ですね......」
するり、と脇から現れたのはマンハッタンカフェである。同情というかなんというか、それ以上の憐れみのこもった目でこちらに珈琲を渡してくれる。
「ああ、カフェ。ありがたくいただくよ......うん、やっぱり結構なお手前だ」
「タキオンさんの姿で言うと違和感が凄いですね......それで」
「うん?」
「それで、あなたがアグネスタキオンとしてデビューするのはいつ頃でしょうか?」
「カフェぇ!?」
気のせいか、少しだけカフェの髪の艶が増しているような気がする。
「できれば早いうちに、共有スペースの書類を少なくしてくだされば嬉しいのですが......」
「うん、カフェにも迷惑をかけてきたからねぇ。アグネスタキオンを継ぐものとして、お隣さんには迷惑をかけないようにこの白衣に誓うよ」
「新しいタキオンさんは理解が早くて助かりますね」
「こら二人とも!」
白衣の袖をブンブンと振り回しながら叫ぶタキオンに、私とカフェはため息をつく。
「......まあ、タキオンを怒るのはこれくらいにしておいて。実際このままだったら、不正を疑われたりするのはタキオンの方なんだよ?」
「それは......うん」
はぁ、と腰に手を当てながらお説教しているうちに、手を当てたところがちょうどくびれの辺りで、本当にウマ娘はスタイルがいいとわかる。タキオンは姿勢を正しつつも恨めしげに、
「自分の顔で怒られるのがこれほど屈辱的だとは......」
と少し目を潤ませていた。
「さっきの冗談はともかく、実際タキオンの体だとどこまで本物の力を発揮できるのかな?」
「ん......まぁ、遺伝的な因子は同じだから、同等くらいの能力と思われるよ? それがトレーナーとしての生き方にどれだけ役に立つかはわからないけれどねぇ」
「つまり......私を実験台にすれば、タキオンにとっての双子実験のような結果が得られると?」
「......ところでトレーナーくん、お詫びとしてこちらのサプリメントを進呈したいのだけれど」
「タイミングというものを考えなさい」
「ところでタキオンさんがしかめ面をしたり、起こったような顔をしたりする姿は、なんというか新鮮ですね」
自分のマグカップにふぅ、と息を吹き掛けながらマンハッタンカフェがポツリと呟く。
「まあ実際、私もみたことがないかな。あくまでもトレーナーになってからのことだけど」
「なんだい、私のキュートな笑顔だけじゃ満足できないとでも?」
「いやタキオンの場合、胡散臭い笑みだから」
「チェシャ猫みたいな笑顔です」
そしてタキオンは笑顔のまま崩れ落ちた。