担当ウマ娘になったトレーナーのお話   作:Cutterruin

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2022-12-19pixivにて投稿したもの。


「エアグルーヴ、私とトレーナー君を間違えたことはあるかい?」

 

「呼び出すような真似をしてすまないね」

「いえ、少しでも会長の負担を減らせるなら光栄です」

 

 

 生徒会室にて、シンボリルドルフとエアグルーヴがそれぞれ弁当を広げていた。二人仲良く手を合わせてから箸を進める。相談があると誘ったシンボリルドルフは卵焼きをつまみながら、

 

 

「相談というのも、私のトレーナー君のことなんだ」

「会長の......?」

 

 

 いぶかしむエアグルーヴに対して、ルドルフは小さく相槌を打つ。

 

 

「エアグルーヴ。正直に答えてほしいのだが......君はあの事件以来、私とトレーナー君を間違えたことがあるかい?」

 

 

 す、と手を差し出すシンボリルドルフに、エアグルーヴもまた箸を置き、暫し考え込む。そっと顔色を伺うように視線を向けたところにばっちり目があってしまい、らしくもなく視線をさ迷わせる。

 

 

「すまない。困らせるつもりはなかったんだが......」

「いえ、即答できなかった私が悪いのです。会長と、会長のトレーナーを見間違えたことがあるか、ですね」

 

 

 歯切れも悪く、エアグルーヴは答える。

 

 

「......正直に申し上げれば、危うく声をかけてしまいそうになることは、ありました......」

「やはり、エアグルーヴもそうなのだね」

 

 

 罪悪感に俯くエアグルーヴとは対照的に、シンボリルドルフの声色は明るい。

 

 

「実をいうと、私自身時折間違えそうになるくらいだよ。先にトレーナー君が部屋にいる時など、こんなところに鏡が? なんて一瞬考え込んでしまうくらいだ」

「......さすがにそれはないのでは?」

 

 

 冗談か本気かわからず、思わず口を挟むエアグルーヴだが、シンボリルドルフは苦笑と共に手で制す。

「そこで、もうひとつの質問になるのだが。君は、トレーナー君についてどう思う?」

 

 

「どう、とは」

「第一印象と、今の彼に対する印象を教えてほしいんだ」

 

 

 弁当を半分ほど食べ終え、一旦脇に押しやった彼女は、じっとエアグルーヴの回答を待った。

 

 

「......初めて会ったときは、意外という一言です。少々頼りなく見える様子に、会長の負担になるばかりではないか、と」

「なるほど、今はどうかな?」

「皇帝のトレーナーとしてふさわしいと、真剣にそう思います。もちろん本人には言えませんが」

「君らしいね」

 

 

 くつくつと喉を鳴らして笑うシンボリルドルフは、ややあって、その笑みを消した。

 

 

「アグネスタキオンの実験によって、彼が私の姿となってしまってから三ヶ月も経つ。生徒に周知してあるとはいえ、彼のプレッシャーは私でさえ計り知れない」

「私も当初、皇帝の威厳を失墜させるような真似だけはするなと口を酸っぱくして言った覚えがありますが......今思えば杞憂だったように思えます」

「私と見間違えることさえあるから、かい?」

 

 

 実はそこが悩みなんだ、とシンボリルドルフは明かす。

 

 

「聞けば、彼は学生時代演劇に打ち込んでいたらしい。その本領を今発揮しているとすれば、トレーナー君はその才能を十全に発揮している」

「それは喜ばしいことではないのですか?」

「エアグルーヴ。三ヶ月も他の人間を演じ続けるなんて、少なくとも私には不可能だよ。私と彼とは明らかに別の人間なのに、徹底的に私に寄せてくれている現状、私は彼の良いところが、私を演じることによって塗りつぶされてしまうのではないかとさえ思ってしまうんだ」

 

 

 その言葉に、エアグルーヴは考え込む。確かに、私生活さえ直結しているこのトレセン学園の生徒たちの前で、自分を殺して他の人間を演じ、他の人間になりきるというのは想像を絶する。自分はてっきり、事件を機にシンボリルドルフに相応しいトレーナーとしてのあり方を確立したのかと思っていたのだが。

 

 

「......言われてみれば、確かに」

「もしも彼がそれを負担に思っているならば、申し訳ない。だが、それを負担に思っていないとしたら、私は彼を尊敬すると同時に一種の恐ろしささえ覚えてしまう。その悩みをどうしたものか、君の意見を聞いてみたくてね」

 

 

 エアグルーヴは考える。しかし、考えるまでもなく勝手に口が言葉を紡いだ。

 

 

「それはやはり、正面からトレーナーにぶつけるべきではないでしょうか」

「と、いうと?」

「トレーナーの感じるプレッシャーは、トレーナー本人にしかわからないのであれば、相手を慮ってお互いに悩むより、不安を共有するべきだと、少なくとも私のトレーナーならば言うと思います」

 

 

 なるほど、とシンボリルドルフが頷くのと同時に、生徒会室の扉が開かれた。

 

 

 シンボリルドルフとそっくりな顔をした話題の当人、トレーナーが、スーツ姿で部屋に入ってきた。

 

 

「おや。二人でお話し中、お邪魔したかな」

「いや。ちょうど悪巧みも終わったところだよ、トレーナー君」

「ならいいのだがね。そうだ、ルドルフ。学園で迷っていた新入生を案内してきたのだけれどね。私を君と勘違いして礼を言ってきたから、悩みがあれば生徒会室まで、なんて言ってしまったのだけれど」

「それで構わない。いやはや、迷惑をかけたね、トレーナー君」

 

 

 向かい合う二人は鏡のように見える。知らず知らずにエアグルーヴは、この状況に固唾を飲んでいる。

 

 

「しかし、姿形だけではなく対応さえ完璧に演じられてしまうとはね。そのうち私がお役ごめんとなるのも遠くないかもしれない」

 

 

 シンボリルドルフと同じ、形のよい眉がひそめられた。

 

 

「ルドルフ。確かに私は今、アグネスタキオンの実験によって君と同じ姿になって、君に迷惑をかけてしまっている」

 

 

 けれどね、と静かに、生徒を諭すような口調でトレーナーはいう。

 

 

「トレーナーというのはあくまでも、裏方の仕事だ。そういった裏方が名声を得ようとするのは間違いだと私は考えているよ。努力と、それに見合う名声はアスリートである君たちのもので、私たちが手を出すべきではない。私はたとえ、これからどんな姿になろうとも、その認識を変えるつもりはないよ」

「......トレーナー君。君はその......私と同じ顔になって、プレッシャーというものを、感じたりはしないのかい?」

「いいや」

 

 

 彼は即答した。

 

 

「私がシンボリルドルフを演じているとするなら、それは私にとって理想の君の姿であり、君の現在の姿だ。そのように振る舞えることは私にとって、喜び以外のなにものでもないよ」

「......トレーナー君」

 

 

 エアグルーヴは、弁当を引き寄せた。視線をあげずにもくもくと食べ続ける。この二人なら心配はなさそうだ。

 

 

 

 同時に、思う。

 弁当を食べている途中なのにどうしてお腹一杯なのだろうか、と。

 

 

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