担当ウマ娘になったトレーナーのお話   作:Cutterruin

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2024-01-09pixivに投稿したもの


「併走しましょう、トレーナーさん」

 

「とりあえず走りませんか?」

 

サイレンススズカに手を引かれて、転けそうになりながらなんとか踏みとどまる。これも、ウマ娘の体がなせるものなのだろう。

 

「今のトレーナーさんはウマ娘ですから、走ったらきっと気持ちいいはずです」

「正確に言うなら君の姿なんだけどね」

 

担当ウマ娘、サイレンススズカになった件。

 

学園側に報告したりスズカと親しいウマ娘たちに色々と事情を説明しないと、とこちらが段取りを決めている中、スズカの頭の中にはもう、併走しかないらしかった。

 

走る気持ちよさを伝えたい。スズカにとって、それがすべてなのだろう。

 

というよりも、他の根回し一切合切を完全に忘れているフシがある。

 

それが彼女の良さであり、支えがいがあるといえる。

 

いやでも、俺までスズカになって走ることしか考えなくなったら、他にトレーナーが必要になるのでは、とちょっと嫌な想像が駆け巡る。

 

「あの、……いや、でしたか?」

 

黙り込む俺の顔をスズカが覗き込んでくる。首を振ると、栗毛の髪がサラサラと流れる。

 

「よかった」

 

スズカは透明な笑みを浮かべ、こちらの手を取って、ターフへと走り出す。

 

「……なあスズカ?俺と併走したいのか?」

「はい」

「なんとなくそんな予感はしたが……問題があるぞ?」

「え?」

 

俺は自分の服を見下ろし、言う。

 

「お前と同じ体で、着替える必要があるんだ」

 

パチパチとまばたきして、あ、と思い出したように呟く。

 

「どうしましょう……目隠しして、着替えてもらったらいけるかしら?」

 

ああ、併走をやめるという選択肢はないんですね。

 

あれよあれよという間に着替えさせられて、仲良くジャージ姿になったサイレンススズカが鏡の中に2人。同じシューズを履いて、準備は万端である。

 

スタート地点に共に並ぶ。前代未聞の併走、あるいは競走に、聞きつけたギャラリーたちが集まってくる。刺すような視線を意識してしまうのは俺だけらしい。スズカは軽く、その場で小さく跳ねている。

 

「用意……ドン!」

 

合図とともに、見慣れたスタートダッシュを切る。俺はといえば、若干出遅れた。やはり指導するのと実際に走るのとは違う。長い髪をなびかせて、スズカがどんどん差を開いていく。

 

その背中を追って、俺はより深く踏み込む。足先まで踏み込んで、芝を後ろに蹴るようにして体を前へと送り出す。さすがのスペックと言うべきか、みるみるうちに、スズカとの距離が縮まっていく。

 

出遅れても立て直せるスズカの身体能力に、思わず舌を巻く。

 

とうとう肩を並べると、スズカがこちらにちらりと視線を向けるのがわかった。位置取り争い。抜きつ、抜かれつ。

 

この光景を真正面から見れば、なかなか愉快な画になっているに違いない。

 

スズカの息遣いが、すぐ横で聞こえる。どくんどくん、と自分の鼓動が耳の中で暴れている。スズカと視線を交わして、どちらともなく笑い合う。

 

「でも、先頭の景色は、譲りませんよ……!」

 

ロケットのように再点火して、スズカが一気に距離を離す。同じように後を追おうとしたけれど、彼女の身につけた技術まで模倣できるわけもなく、俺は大差をつけられてゴールを通過した。

 

先に息を整えていたスズカが、ふう、と頬を緩める。土に汚れた体操服のまま、ぎゅうと抱きついてくる。妙なところで甘えたがりだ。

 

「やっぱり、スズカは速いよ」

「ふふっ。トレーナーさんも練習をすれば、すぐに追いつけるようになりますよ」

 

緑の耳当てをピクピク揺らしながら、スズカが胸を張る。

 

いや俺は元に戻りたいんだが、という本音を飲み込んで、すっかり同じ高さになってしまったスズカの頭を撫でる。

 

「また、やろうか」

「はい。お願いしますね」

 

スズカは屈託のない笑みを浮かべて、俺はなんとなく、仕方ないなあ、と。そんな気分にさせられた。

 

 

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