担当ウマ娘になったトレーナーのお話 作:Cutterruin
「トレーナーさんも私になったのですから、共にバクシンしましょう!」
「言ってる言葉が狂気でしかないぞバクちゃん」
おでこの眩しいサクラバクシンオー、俺の担当ウマ娘に引っ張られて、校舎を駆け抜けていく。何事かとこちらを見送るウマ娘が、突進する2人のバクシンオー、つまり俺と本人の姿に目を見開く。
もっとも俺は手を引かれて引っ張られてるので、あんまり自分の意志とは関係ないのだが。
とはいえ、いつもならバクシンオーに引っ張られてバランスを崩しているところだが、さすがはウマ娘の体。息切れなくついていけるだけでなく、重心がまったくぶれない。
「ええい、この脳筋委員長サマが……」
「なんとひどい!私はただ、トレーナーさんに走ることの楽しさを知ってほしいだけなのに!」
「毎回筋肉痛を起こすこっちの身にもなってみろ!」
「今なら大丈夫でしょう!なんと言ってもトレーナーさんと2人で鍛え上げたこの体なので!」
走る。走って走って、そこに一切の加減はなく、まさに名前通りの驀進。
そして同じ体になった俺がついていけるという驚き。
「って、ちょわーっ!」
「はい!?」
出会い頭に何者かの影を認めたバクシンオーが急ブレーキをかける。急に止まれるはずもなく、俺とバクシンオーはバランスを崩して倒れかける。
受身を取ることを意識しながら、バクシンオーを抱き寄せる。そのまま怪我のないように、ゴロゴロ転がりながら、廊下を転がる。
「いてて……転校生なら絶対入れ替わってたぞ……」
「私になったトレーナーさんが私と入れ替わるというのですか!?」
「双子が入れ替わるくらい違いがわからんぞそれ……」
まあ、お互い何事もなかったらしく、よきかなよきかな、といったところ。
それにしても廊下は走るもんじゃねーな、本当に。
「で、バクちゃんさんや。君は俺をどこに連れて行こうとしているのかね?」
「それはもちろん、走る楽しさを伝えることができる場所へと」
「いやだからどこなのよ」
「競争できる場所です!」
「ターフだろそこ」
んで、到着した頃には2人仲良くスタミナ切れである。
「おまっ……走る前に疲弊してどうすんの……っ」
「おかしいてますね……ちょっとテンションが、上がってて……」
「テンション上がる要素あったか?」
「ありますとも!トレーナーさんが私と同じ姿になった。それだけがすべてです!」
「仮に俺がお前の立場なら、絶対そんな風に肯定的にはなれんのだが」
「うーん、ウマ娘の性でしょうか。競争、それも自分とできるなんて、めったにないですから!」
「滅多どころじゃないからね?」
「では早速!併走しましょうトレーナーさん!」
いつの間にか競争させられることになっている。
同じ体になっているとはいえ、馴染んでもいない俺が勝てるはずもないと思うのだが、どうもそのへん、ウマ娘たちは高揚の中でそれをすっかりわすれているっぽい。
まあ俺としても、二人三脚をさらに深められるという意味で悪い気はしない。
髪をさっとかきあげる。ぴょんぴょんとその場ではねて、準備する。
ずっと応援席で見ていたバクシンオーの、走り出す前の構え。
スタート地点に並んで、2人視線を合わせる。
どちらともなく、笑う。
「よーい、ドン!」
抜きつ抜かれつ、何度も視線を絡ませ合う。にっとバクシンオーの笑みが後を引く。直線コース、息の入れ方など、細かいコツさえ求められなければ、割とついていける、はずだった。
まあそれでも負けたけどさ。
「ふふふ、では次は、私がトレーナーさん指導する番ですね!」
眼鏡をかけたバクシンオーがストップウオッチを握る。
俺をレースに出してどうする。
なんてツッコミを入れつつ、走るのが、楽しくなってきた。
タイムを縮める試行錯誤。
バクシンオーにわからせられつつ、気がつくと、負けたのが悔しくて本格的にトレーニングに励んでいた。
「次は負けないからな……」
「いいでしょう、全力で迎え撃って差し上げますよ!」
互いの手をパンとぶつけ合いながら、二人して獰猛な笑みを浮かべた。
鏡みたいに見えてんだろーな。知らんけどさ。
でも偽物なりに、いつかは勝ってみたいものだ。