担当ウマ娘になったトレーナーのお話 作:Cutterruin
「ほら、トレーナー!うまぴょいやってよ、うまぴょい!」
ダンスレッスン。一面鏡張りの部屋で、ニマニマ笑うのはトウカイテイオーである。
ダンスレッスンでは、モチベーションを上げるために勝負服を着た状態で踊らせることがある。
そして、もちろん、指導する側が踊れなければ話にならないので基本トレーナーは踊ることができる。
だが。
「ほらー。『恥ずかしすぎる』って言ってたうまぴょいを、ボクと同じ姿になった今こそ、完璧に踊るべきだよね」
勝負服+トウカイテイオーの容姿+うまぴょいの達人と化したテイオーの監修の下。
鏡に映る俺は泣きそうな顔のトウカイテイオーで、手を頭に当てるうまぴょいを、早速踊らされていた。
モチベーションを上げるためと踊らせていたダンスの中で、初めのうちささやかな抵抗を見せていたのがまさに、件の電波ソングうまぴょい伝説である。
恥ずかしいー、と顔を覆うテイオーをどうやって説き伏せたのか、詳しくは思い出せないが、苦労したのは覚えている。
そして、テイオーはその屈辱を忘れていなかったらしい。
レッスン指導のジャージより遥かにすうすうする、テイオーご自慢の勝負服で、無理やり踊らされている。
「はいそこ!腕は中途半端に折らない!ぴしっと伸ばす!」
「観客が見てるってイメージで!恥じらってたら、動きがぎこちなくなって完成度が落ちるんだから!」
まさに経験者は語る、だ。トウカイテイオー改めボウクンテイオーと化したテイオーはいたずらっ子のように目を輝かせている。
畜生、大の大人が恥ずかしがっている姿を見て楽しいのか。しかも、自分と同じ顔なのに。
「ふっふん!このテイオーさまが味わった屈辱を、今こそ返すのだー!」
「え?屈辱だったの?」
「あ、いや……トレーナーと二人三脚で頑張れたことは嬉しいけどさ……」
途端に口ごもるテイオー。
根は素直なのである。
「それはそれとして!ボク、トレーナーが恥ずかしがる姿を見たいんだよ!」
「自分と同じ顔なのに?」
「働き次第では影武者にしてやろうぞー」
謹んでお断りする。
それにしても、である。
「本当に、ウマ娘は……テイオーは凄いんだなぁ」
ダンスの表現力はまさにプロ根性で、アスリートとしても一流。身体能力は人間のそれと全く違うとはいえ、華々しい勝負服を着て激しいダンスまでこなすのだから脱帽である。
「そうそう!もっとこのテイオーさまを褒めるが良いぞー!」
とまあ、担当ウマ娘はご機嫌である。帝王陛下のご機嫌はたいへん麗しい。
やれやれ。
軽く頬を叩いて、スイッチを入れる。声までテイオーなので、違和感がつきまとうが、今は無視する。
いいだろう、無心で踊ってやろうじゃないか。
ラジカセのCDに合わせて、一心不乱に踊る。鏡の中で踊るテイオーは、愛想の欠片もなく、キレキレのダンスを踊る。
あー、これは確かに本物との表現力の差だな。
一応一通り踊り終えると、テイオーがはちみーを差し入れてくれた。ありがたく頂戴しながら、鏡の中のテイオーの改善点を頭の中でリストアップしていく。
「よし、テイオー。課題は見つかったぞ。ビシバシ鍛えてやるから覚悟しろ!」
「トレーナー、それ鏡!鏡だから!」
「鏡が何だ。この経験はテイオーとのトレーニングに活かせるかもしれないのに!」
「そればっかじゃん!」
まあこんな感じで。
まるで学生時代に戻ったような懐かしさに、少しだけ感謝した。