担当ウマ娘になったトレーナーのお話 作:Cutterruin
勝負服を着たフジキセキが、次々とマジックを披露する。
三冠ウマ娘として人気者の彼女は、流れるような勢いで次々と成功させていく。物凄い歓声とともに、瞳を輝かせる幼いウマ娘たち。
「ところで私はね、知っての通りレースで勝つことができたけれど……実は、ワープができるからなんだ!」
ええ、本当に!? 観客のボルテージは今や最高潮である。
「じゃあポニーちゃんたちにだけ、それを披露しよう!成功したら大きな拍手を!」
フジキセキがシーツをマントのように羽織り、ふっ、と掛け声とともにそれを投げ上げる。大きく広がった白いシーツがフジキセキの姿を隠し、次の瞬間、ステージの床の上にパサ、と落ちた。
フジキセキがステージの上から消える。
ーーさて、出番だ。
タイミングを見計らう。袖に隠れているであろうフジは、どんな気持ちでこっちを観察しているのだろうか。
すぅ、と息を吸い込む。
「やあポニーちゃんたち!私はここだよ!」
声を上げると、観客が振り返る。皆の顔が驚きに染まり、喜びが爆発する。わああ、と歓声と拍手で会場が爆発した。
さて、マジックの中でも初歩的なのは、身代わりを使うことである。双子が二人一役を演じることで、不可能に見える事象は一見可能になるのだ。
フジキセキはもちろん双子ではない。
だが、担当トレーナーである俺がフジキセキと同じ姿になったという異常事態であれば、このマジックは成功するのだった。
トリの大掛かりなワープを成功させて、イベントは大成功だった。幼いウマ娘たちが興奮冷めぬまま帰っていく中、フジは俺の方に駆け寄ってくる。
「トレーナーさん、今日はありがとう。イベントは大成功だよ」
「それはよかった……とはいえ、替え玉を頼まれるとは思ってなかったけど」
「ふふ。もちろん、レースでは替え玉を使うことはないから安心してね?」
流石にそれは真似のしようがない。苦笑。
「しかし、初めてフジの勝負服を着たけど……」
「うん?」
「これ、胸が出すぎじゃない?」
フジは怒るでもなく恥ずかしがるでもなく、あはは、と快活に笑い飛ばす。
「さすがのトレーナーさんも恥ずかしい?見られて恥ずかしいような体つきにならないよう、毎日トレーニングを重ねてるんだけどね?」
相変わらず役者としてはフジのほうが上だ。
しかし、3年もの間二人三脚でやってきたのだ。少しはどうすればいいかわかっている。
ゆっくりと、正面からフジを抱きしめる。
「と、トレーナーさん?」
「たしかに恥ずかしくはない。そうだろうね。だって……」
ピンと緊張に硬直する耳に、そっと囁く。
「フジはみんなに見られたくて仕方がない、エッチな女の子だもんね?」
「なななっ……」
今度はフジが動揺する番だった。それを逃さないようにぎゅっと抱きしめると、胸と胸がぶつかり合って潰れる。
「私はそんなんじゃなくて!」
「嘘だあ。フジはエッチな女の子。見られたがりの、とってもカワイイポニーちゃんだよ」
「う、うう……」
「でも、誰にでもその無防備な姿をさらすのはいただけないなあ」
ふーっと耳に吐息を吹きかける。フジの体から力が抜けそうになっている。
「フジはエッチな女の子。だろ?」
「と、トレーナーさん……」
「大丈夫。それを知ってるのは俺だけだからね。フジは何も心配しなくていいよ」
そっと体を離す。どこか名残惜しそうにフジが寂しげな顔をする。しかし、顔は相変わらず真っ赤だ。
それじゃ、帰ろうか。声を掛ける俺に、フジが言う。
「せめて、トレーナーさんの元の顔で言葉責めしてほしかったかな……」
ウマ娘の耳は、そんな独り言さえちゃんと拾っていた。
次に赤面するのは、俺の番だった。