担当ウマ娘になったトレーナーのお話 作:Cutterruin
「おそろいです。マスター」
尻尾をブンブン振って犬のように懐いてくるブルボンには悪いが、今すぐに着替えたい。
体はブルボンと同じものになっている。それは事実だから仕方ない、認めよう。
だが何を思ったかブルボンが勝負服を引っ張り出してきて、一緒に着ましょうと提案してきたのは、解せない。
体に貼り付くような服だし、ブルボンの体つきもかなりしっかりしているから、油断していると内側から弾け飛びそうだ。そして何より、体に貼り付いてくるという時点で、すうすうして心もとない。
デザイン的にも結構攻めているこれを、ブルボンはよく着ていられるなーーと感心したり恥ずかしくなったり。
「ううう……」
気がつけば服の裾を引っ張って何とかスースーする箇所を隠そうとするのだが、今のところ失敗していた。
「マスター?どうかされましたか?」
「いや、ブルボンって凄いなあって思って」
首を傾げたサイボーグは、その曖昧な表現に自分なりの解釈を返す。
「凄いと言われても、私が築き上げた実績はマスターなしにはあり得なかったものです。ミホノブルボンというウマ娘そのものがマスターの功績となるよう、これからも研鑽を重ねるつもりです」
いい子すぎて泣けてくる。
そうじゃない。ブルボンの出した答えに対してこっちが言いたかったことがあまりにもちっぽけすぎる。
「ブルボン」
「はい、マスター」
「年頃の女の子が、こんな格好するの、お父さん許しませんよ!」
尻尾の動きが止まる。故障したロボットのようにぱちぱちと瞬きして、ブルボンが口を開く。
「マスターは父とは違います。そして、こんな格好とはどういうことでしょう。これは、私の思いの詰まった大事な勝負服です」
「うん、そこを批判するつもりはないんだけどな。なんていうか、その……」
ブルボンと同じ顔をした少女は、ガリガリと乱暴に頭を掻く。
「この服な?いざ男が着てみると気になると言うか恥ずかしいんだわ」
「ですがマスター。今のマスターは私と同じ姿です。似合わないはずはありません」
「俺、ブルボンほど堂々とできてないんだけどなぁ」
この服を着ても、彼女と同じ体つきになっても、ブルボンと同じことができるとは思えない。ブルボンのようにレースの途中で技量や駆け引きを発揮できないし、ダンスはブルボンのほうがモノにしているはずだ。
瓜二つに見えても、天と地ほどの差がある。
「ブルボン?」
「はい、マスター」
ぽんぽんと頭を撫でて、頷く。
「うん、やっぱり偽物と本物は違うな」
「……?」
「ま、それはともかく、ブルボン。どうして俺に、君の勝負服を着せたんだ?」
へにゃ、と力を失っていた耳がピンと持ち上がった。ブルボンはあまりにも無垢な目で、自分と同じ姿になったトレーナーに言う。
「本来、誰かが他の誰かに変身するなどということはありえないと思います。例外はマスターですが、それはともかく」
「確かにそうだな」
「そして、私と同じ姿になったのなら、私の決意の現れである勝負服を着てもらい、同じようにこの場に立つことができる。そうすることで、よりマスターに私を、ミホノブルボンを知ってほしかったのです。私は、マスターとより一心同体になりたいのです」
なるほど、と頷く。
そう言われれば、納得できるような気がする。できるかどうかはともかく、ブルボンに近づけている、かもしれない。
「そう言ってもらえて嬉しいよ、ブルボン」
「マスター」
「……でもな、やっぱりこの勝負服、少なくとも俺が着る分には恥ずかしいんだ」
「……?」
ちょっと何をいっているかわからない。
そんな顔の純真無垢なサイボーグの頭を、仕方ないなとぐしゃぐしゃと撫でてやった。ブルボンは、満足そうにむふー、と息を吐き出した。