「脚部不安が再発してますね」
「えぇー!?」
ここは品川の病院。先生に出走不可の押印をされたのは、ピンクの髪のウマ娘。ハルノナナクサである。帝王賞が終わった後、脚に違和感を覚えた為に病院に向かったのである。
「安静にしないとダメですか?」
「はい。安静は絶対です。これ以上脚に負荷をかければ、最悪の結果に繋がりかねません」
「そうですか……ナナクサは競走生活を続けても大丈夫でしょうか?」
「正直に言うなら、引退も視野に入れるべきでしょう。脚部不安が慢性的になってしまえば、競走生活が終わっても治療を行っていく事になってしまいます」
引退という言葉を聞いて、顔を青ざめるハルノナナクサ。まさか引退させないよね?と言った顔でトレーナーの方を見る。
「わかりました。引退も視野に入れて話し合ってみます」
「そんなー!?」
病院を後にした二人だが、空気は重苦しいままだった。引退も視野に入れる。その言葉がハルノナナクサにはとても重くのしかかっていた。
「ねえトレーナー。本気で引退させるつもり……?」
「君の事を想うなら、引退が一番かもしれないな」
「やっぱり…でも私、もっと走りたいよ!GI勝つまでは諦めたくない!」
「ああ……それも分かってる。だからどうにか妥協点を探してるんだ」
引退はしないが、脚のことを考えて今後について決断する。今回の脚部不安は、ブリリアントカップからの連戦が原因だろう。となれば、出走数を減らさなくてはならない。地方のレースは間隔が狭い事もあって脚への負荷が強まってしまったのだろう。
「少し間隔を開けて、次の目標は年末の東京大賞典にしようか」
「うん!そうする!」
「ただし、暫くは安静にしないとダメだぞ。ちょっとでも悪化の傾向が見られたら、引退してもらう」
「はーい…大人しくしてます……」
「うん、偉い子だ」
そんなわけで、再び安静生活が始まった。同じく脚部不安を抱えているカスタードと共に過ごしたりしながら、脚が元に戻るのを待った。そんなある日の事であった。
コンコン、と寮室のドアが叩かれる。
「はい、どうぞー?」
誰だろう。と思いつつ、部屋で安静にしていたナナクサは返事を返す。扉を開けたのは、なんとも意外な人物であった。
「よーす、元気にしてたか?」
「えっ!?ローズ!?」
やって来たのは、高知所属の友人サマーローズ。オータムコード、フユノシラユキも一緒だ。
「それに皆も!どうして大井にいるの?」
「見舞いに来てやったんだよ。退屈だろうと思ってな」
「皆……!」
チームいも天、ここに勢揃い。彼女らの来訪はナナクサの心に大きな安堵をもたらし、メンタル面での回復に大きな力を与えた。彼女らとの交友も深まり、更に仲良くなっていくのだった。
「帝王賞は惜しかったですね。2着に入れたのは流石と言えますね」
「ありがとう。でも、惜しいとは言いきれない結果だったかな……だいぶ離されちゃったし」
「うむ。それでも2着なら見事なものですだな」
スマートファルコンに離されたとはいえ、中央勢を相手に勝利したと言っても良い2着。ハルノナナクサがGI級の力を持っている事の証明になっただろう。
「東京大賞典も応援に行くからよ!脚、しっかり治してくれよな!」
「うん!応援楽しみにしてるね!」
こうして、見舞いに来てくれた友人達との談笑に花を咲かせるハルノナナクサであった。ちなみに、高知組もかなり順調に駒を進めており、三人はそれぞれ高知のAクラスを走っているとのこと。場合によっては、ハルノナナクサとぶつかる可能性のあるライバルとして成長していた。
…
数ヶ月が経過し、ハルノナナクサは再び復帰する事に成功した。復帰初戦のAクラス戦を快勝すると、そのまま東京大賞典に直行する事を発表した。
「脚も問題なし!これなら東京大賞典も大丈夫だよね!トレーナー!」
「ああ!今の君なら問題無く東京大賞典を走れるはずだ」
既に12月。東京大賞典に駒を進めた面子も揃っており、今年度は14人立てで行われる事になった。今年度ダートの総決算。帝王賞での激走が評価されてか、ハルノナナクサは地方勢の中で一番の3番人気。幸か不幸か、スマートファルコンはチャンピオンズカップの方に出走しており、東京大賞典は回避となった。役者不足の懸念もあったが、怪我から復帰したハルノナナクサやカスタードが出走する事もあって、ファン達も大いに盛り上がった。
「そう言えば、カスタードちゃんが1番人気なんだね」
「そうだな。彼女は復帰戦にJBCクラシックを使って、まさかの勝利を収めたからな。期待も大きいはずだ」
同室にして最大のライバル。GIを勝つ上で、乗り越えなくてはならない相手の一人だ。怪我を乗り越え、中央勢を押さえ込んでの一番人気は見事なものだ。
「でも、私だって3番人気だから!カスタードちゃんには負けないぞ〜!」
「…そうだな。必ず勝って、GIを制覇しよう」
「うん!」