12月後半。大井レース場、ダート2000m。右回り。西日が射し込むダートコースは、パンパンの良バ場。
「カスタードちゃん!」
「ナナクサ。遂にこの日が来たな」
「だね。どっちが上か、勝負だ!」
「ああ。どちらが大井で最強に相応しいか…決めるぞ」
コツン、と拳をぶつけ合い、二人はパドックへと歩いていく。向かうレースは東京大賞典。大衆に見守られながら、大井代表の二人が歩いていく。
「ナナクサー!頑張れよー!」
「負けんなよ!カスタード!」
互いにファン達の応援を受け止めながら、パドックでの準備運動を済ませる。14人の精鋭が続々とダートに降り立っていく。
「(必ず勝つ!)」
「(……勝つのは私だ!)」
『さあダートに14人が揃いました!大井11R、東京大賞典!いよいよゲートインが始まります!』
続々とゲートに収まるメンバー達。ハルノナナクサは集中しすぎたからか動けずにいたが、係員に促されてゲートに入っていく。
『14人が無事にゲートに収まりました!係員が離れまして態勢完了!東京大賞典!』
────ガコン!
「はっ!」
「ふっ!」
『スタートしました!カスタードこれは好スタート!ハルノナナクサも上手くゲートを出ました!ややバラついた出だしとなりました!』
カスタードは得意の先行の位置に着く。ハルノナナクサは、それをマーキングする形で、中団を駆け抜けていく。
「(カスタードちゃんに勝つには完璧にレースを運ばないといけない。慎重に展開を探ろう……)」
展開を探る形で走ったのが功を喫したか、ナナクサは逃げのウマ娘が異様にハイペースで逃げている事に気が付いた。おそらくは先行策のカスタードを潰す為の自己ペースの逃げだろう。
「(ハイペース……だったら私は後ろに下がろうかな!)」
ハイペースで流れた場合、前で走っているほどスタミナを消費してしまい、不利になる。ハルノナナクサはそれを読んで、後方に陣取る形となった。
「(……なるほど。高速展開に持ち込んで私を潰そうという訳か)」
カスタードもそれを理解し、僅かにペースを落とした。あくまでも得意な先行の位置からは動かず、逃げのペースに釣られない形で走る事になった。
「(そんな策程度で私を倒せると思うなよ……!)」
カスタードの信じられない威圧感が、逃げのウマ娘を襲う。流石に一番人気を背負うだけの事はある。その圧力に、思わず気圧されてしまいそうだ。
「(まだロングスパートには早いかな……?)」
レースも中盤戦。残り1000mを通過する。相変わらず逃げのウマ娘が単独でハイペースを作っているが、後方勢はそれに乗ってこない。一人旅状態だが、それでもカスタードは追い付きそうな脚色を見せていた。
『残り1000mを通過!相変わらず先頭はグロウアップ!二番手三番手にカスタードが並んでいます!』
ハルノナナクサは後方に待機していたが、あまりに前が遠くに離れて行くのを見て、やや焦りが生じる。まだ仕掛けるには早いが、身体は行きたがってしまう。
「(どうしよう……行きたい…仕掛けないと追い付けないかも……)」
しかし、今仕掛ければスタミナが持たずに負けてしまう可能性が高い。どうにかならないかと考え込むナナクサに、トレーナーの言葉が浮かび上がってきた。
「良いかナナクサ。相手にどれだけ離されても、落ち着いて自分の走りを思い返すんだ。途中でどれだけ離されようが、最後にゴール板を一番で駆け抜ければ良いんだ」
「(そうだ…私の走り……!)」
トレーナーの言葉を思い出し、グッと我慢を続ける。そのままレースは続き、残り800mを切り、ハルノナナクサは得意のロングスパートを仕掛け始める。
「(これが……"ハルノナナクサ"だ!)」
────ダンッ!
砂を蹴り上げ、中団で固まっていたウマ娘達を外側から一気に追い抜いていく。じわじわと加速する彼女の姿に、ファンは大歓声を上げて応援していく。
「行けー!ナナクサー!」
「そのまま先頭取れるぞ!」
『いよいよ最後の直線だ!先頭は変わらずグロウアップ!しかし後続も迫ってきている!』
「……勝つのは私だ……!」
逃げウマ娘のペースだったはずが、肝心のカスタードは抑え切れていない。先行策で好位置をキープし、ラストの直線で溜めていた脚を全開放する。
『さあ来たぞ!カスタードだ!グロウアップに並び……並ばない!抜かして先頭に立った!』
「はあああああああああっ!!」
咆哮を上げながら、ゴールへ向かうカスタード。その末脚は信じられない程に速く、他のウマ娘を寄せ付けなかった。
たった一人、例外を覗いて。
『抜けたぞカスタード!後方勢も上がって来るがやはり厳しいか!……いや!一人上がってくるぞ!』
「(行くよ、カスタードちゃん!)」
後方から上がってきたのは、ハルノナナクサ。温存していたスタミナを存分にふるって、カスタードを猛追していく。
「(来たか…!来れるものなら来てみろ!)」
「やああああああああっ!!」
ハルノナナクサも声を荒げる。身体に入っているもの全部を振り絞ったかのような、怒涛の末脚。残された距離は300m。果たして、カスタードに追い付けるか。
「っ……あああああああああっ!!」
「はあああああああああっ!!」
段々と距離が詰まっていく。ゴールまで残り200m。残り100m。遠かった背中も今や真横に並んでいる。どちらが勝ってもおかしくない。それほどまでに接戦となった。
『並んだ並んだ!外からハルノナナクサ!カスタードも粘っている!二人並んでゴールイン!』
大歓声を浴びながら、ゴール板を駆け抜けた二人。果たしてどちらが勝ったのだろうか。掲示板には、写真判定の文字が浮かんでいた。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ…」
二人は固唾を飲んで、掲示板の結果発表を待った。それから何分が過ぎたであろうか。掲示板に勝者の番号が表示された。
1着 4番 ハルノナナクサ
2着 2番 カスタード
「……!私、勝ったんだ!」
「……負けたか……」
「GI……制覇出来たんだ!やったやった!やったー!」
大きく喜びの舞をして、疲れからか思いっきりダートに寝転ぶハルノナナクサ。大井に来ていたファン達から、あたたかい拍手を浴びせられて祝福される。
「ナナクサー!おめでとー!」
「最高のレースだったよー!」
彼等の祝福を受け取りながら、ハルノナナクサは空を仰いだ。どこまでも透き通るような青空は、とても綺麗に見えた。
「……ナナクサ」
「?」
「……おめでとう。お前の勝ちだ」
「ありがとう!カスタードちゃん!」
ライバルからの祝福も受けて、ハルノナナクサは幸せいっぱいに染まっていた。ついに目標としていたGIレースに勝利し、夢のチャンピオンとなった。それがあまりにも嬉しすぎて、暫くは彼女から笑顔が絶えなかったという。