国際GIレース、サウジカップ。キングアブドゥルアジーズレース場。左回り、ダート1800m。天候は晴れ。バ場状態は良バ場。今年も14人のウマ娘が、このビッグレースを勝たんと世界中から集まっていた。
「世界の強豪が相手かぁ……でも、負けるつもりは無いよ!」
「その意気だ。今回は相手もコースも初めて尽くしだが、今のナナクサなら上手く対応出来るはずだ」
今回は外国のレース。走る相手もコースも、日本のそれとはまるで違う戦いになる。これまでの常識に囚われず、レースに適応して行かなければならない。
「そう言えば、ナナクサは普段通りだな。移動も大変だってのに……」
「そうかな?まあ、特に困ってることは無いって感じかな。レースには問題なく臨めるよ!」
「それは良い事だ。俺なんてまだ時差ボケがあるぞ……」
トレーナーは辛そうだが、ハルノナナクサは問題ないと言った感じ。これだけ元気なら、レースも大丈夫だろう。
「さて、今回のレースで気を付けたいのは、ライバルのエンブレムロードだ」
「エンブレムロードさんだね。どんな走りをするの?」
エンブレムロード。キングファイサルカップを制覇したアメリカのウマ娘で、実力は今回のウマ娘の中でも一番抜けているという評価だった。彼女に勝てなければ、今回のレースを拾うのは難しいとの判断だ。
「彼女は先行策で力強く抜け出すと一番前をキープして走る。いわゆる横綱相撲のレースが得意だ」
「なるほどぉ。エンブレムロードさんが逃げ切る前に差さないとダメって事だね」
「そういうことだ。ナナクサなら出来るとは思うが、念の為マークを徹底して気を付けてな」
「うん!気をつけるよ!」
今回の作戦は、一番人気のエンブレムロードをマークして差し込む。スマートファルコンを下した時と似たような作戦になる。これならば、ハルノナナクサも問題なく実力を発揮出来そうだ。
「そろそろ時間だな。気合い入れて行ってこい!」
「はい!行ってきます!」
……
『さあ!本日も世界最高峰のレースに世界中から多くのウマ娘が集まりました!サウジカップ!』
大歓声に迎えられながら、ハルノナナクサはパドックに降り立った。彼女は日本代表として、多くのファンから背中を押されている。
「初めまして、日本のチャンピオン」
「あっ、初めまして!」
そんなハルノナナクサに声をかけたのは、本日の一番人気。アメリカ代表のエンブレムロードだ。日本語で話しかけられたので少しビックリする。
「今日は宜しくお願いします」
「うん、よろしくね!」
ガシッと握手。ライバルとして、負けられない。そんな想いが伝わってくる邂逅だった。ちなみに、ハルノナナクサは五番人気。やはり世界の一流相手には不利と思われているのだろう。
『さてさて!ついにメンバーが揃いました!間もなくパドックから本バ場入場を行います!』
パドックでの準備運動も終わり、ウマ娘達はゲート入りの準備を始めていく。今回、ハルノナナクサは有利な内枠。ゲートの中に手早く収まり、出走の瞬間を静かに待ちわびる。
「(よし……準備万端!)」
『最後に14番のライムジャンプが入りまして態勢完了……!』
────ガコン!
「ふっ!」
『スタートしました!ハルノナナクサこれは良いスタート!後方集団に並びます!』
後方集団に入ると、そのまま先行集団を行くエンブレムロードをマークする。周りは一番人気の彼女を警戒してか、様子を見るようなペースでレースは流れていく。
「(警戒されているな。だが、この程度ならば問題ない)」
エンブレムロードは落ち着いた様子で、先行集団を進んでいく。ハルノナナクサはそんな彼女を見てか、よりマークを強めて近付いていく。
「(気にしてないって感じだね……でも私は簡単には逃がさないよ!)」
向こうもその執拗なマークに気付いたのか、少しリズムを変える。簡単に追撃はさせないという意志を感じる走りだった。
『さあ流れるようなペースでレースが進みます!先頭は変わらずライムジャンプ!その後ろを行くのがエンブレムロードだ!』
「(そろそろ仕掛けるか……!)」
────ダンッ!
残り800m。まだ仕掛けるにはかなり早いタイミングだが、ここでエンブレムロードが仕掛けた。ハルノナナクサもそれに気付き、先頭を行かせない為に進出を開始する。
「(そのままは行かせないよ!エンブレムロードさん!)」
「(来るか……日本のチャンピオン!)」
中団で加速を開始した二人は、最後のコーナーを曲がる頃には、一、二番手に変わっていた。
「おおおおおおおおっ!」
「はあああああああっ!」
二人は声を荒らげながら、最後の直線を駆け抜けていく。ここではロングスパートが功を奏したか、ハルノナナクサの方が僅かに早く走れていた。
『さあ!最後の直線です!先頭はエンブレムロード!続いてハルノナナクサ!』
「はぁ……はぁ……(遠い……でも、届かない訳じゃない!)」
「はぁ……はぁ……(ここまで着いてくるとは……流石だな……)」
二人は無我夢中になりながら、最後の直線を駆け抜けていく。これが世界の頂点だ。ダート戦線を駆け抜ける誰もが夢見る、世界の走り。それを今、ハルノナナクサが行っている。その事実に、トレーナーは思わず泣き出してしまいそうだった。
「行けー!ナナクサー!」
「はああああああああああっ!!」
『内からハルノナナクサ!抜けた!抜けたぞ!世界一になったのはハルノナナクサだ!今ゴールイン!』
「「「ワァァァァァッ!!」」」
大歓声に包まれて、ハルノナナクサは先頭を堂々とゴールした。祝福の声に包まれながら、息を整えていく。
「はぁ……はぁ……勝った……!」
「おめでとう。ハルノナナクサ」
「ありがとう!エンブレムロードさん!」
「こちらこそ。最高のレースをありがとう」
「どういたしまして!」
再び握手。今度は互いを讃え合うやわらかな握手。ファンはその光景に思わず拍手を贈るのであった。
……
サウジカップも終わりを告げ、日本へと帰国したハルノナナクサ。帰国と同時に、仲間達から祝福の嵐を受け、これでもかと喜びの顔を見せるのであった。
「皆ありがとう!私、世界一のチャンピオンになったよ!」
その報告をする彼女は、とてつもなく嬉しそうであったとか。これからも、彼女は走り続けていく。瞳の先にある、ゴールだけを目指して。