ウマ娘 ハルノナナクサ   作:ウマ侍

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第2話 私のトレーナー

「……はあ。今日のレースもやる気ねーのばっかだなあ…」

高知レース場第2R。C3クラス戦。ローカルシリーズはどのレース場もA、B、Cの三つにクラスを分けており、その中で更に数字の1、2、3でクラスを分けている。クラスは、稼いだ賞金やレース結果に応じて振り分けられる。Aに近い程レベルが高く、1に近いほどレベルが高い。つまり、C3とは最弱クラスのこと。このレベルはかけっこ気分で参加しているウマ娘も少なくない。

「つーか、観客俺だけ?いくら平日の昼間に開催してるとはいえ…」

トゥインクルシリーズが土日に開催される関係で、客足を伸ばす為にローカルシリーズは平日に開催されている。しかし、その時間は皆仕事してたり学校だったりで、基本的に客席はガラッガラ。いるのは暇な老人と……

「俺みたいなスカウトに来た地方のトレーナーだけって訳か…」

こんな観客数では当然赤字で、レースの賞金もしょぼくなるし、トレセンの設備費すらも賄えない。賞金がしょぼいと上のクラスに行くのも一苦労なので、地方のウマ娘は自然と出走回数が多くなってしまうのだ。そのため、勝てない子などが真面目に走ると、出走が多すぎて靴や足がボロボロになってしまう。そのため、手抜きで走る子まで出てきてしまう始末だ。

 

もちろん、そんなレースに迫力もクソもない。てきとーな走りで、湧き上がる観客はいない。ただヒマなじいさん達が、冷暖房を浴びにサテン感覚で来てるだけ。そんな場所だ。

「はーい、スターターあがりまーす」

ラジカセから流してんのか、と言わんばかりの音質のファンファーレが鳴り響き、そのあとにレース開始。しかし、トレーナーはウマ娘達のやる気のないスタートを見るなり、もう興味無さそうに観客席に寝っ転がった。

「この調子じゃ、高知も潰れるのも時間の問題だな…ハルウララの時はここが満席だったと聞いたが、とても信じられねえよ」

かつて、高知レース場が潰れかけた際に、ハルウララという一人のウマ娘が現れた。彼女は中央トレセン在籍でありながら、何度も高知に来て走っていた。彼女は決して強いウマ娘では無く、生涯で勝てたのはほんの一度きりだが、その愛嬌と負けっぷりに熱狂的なファンが生まれた。その影響で潰れかけていた高知レース場にファン達が押し寄せ、運営資金が潤った。そして、高知レース場は現代まで生き延びる事が出来たのだ。

「今日はこの後もCクラス戦ばっかりか……見てても仕方ないな。トレセンの新入生でも見に行くかぁ」

この男、高知トレセンに所属している地方のトレーナー、惟屋(これや)トレーナーである。白のキャップ帽子がトレードマーク。筋肉質で、熱血スタイルな男…なのだが、高知のやる気の無さに絶望してしまい、今は堕落してこのザマである。

「今年は熱血なのが集まってるって聞いたし、ちょっとは期待して良いかもだな!」

高知トレセンに向かい、自分が借りているトレーナー室に入る。トレーナー室と言っても部室のようなもので、プレハブの物置小屋にロッカー、ホワイトボード、机とパイプ椅子が置かれている程度だ。

 

ちらっと、机に置かれた写真を見る。去年まで自分達が担当していたチームの写真だ。チーム名は「いも天」。先代のトレーナーが最初に担当したウマ娘の好物をチーム名にしたらしい。惟屋は先代の元で一年間サブトレーナー(要するに補助)をしていたが、先代が引退したので、正式なトレーナーとして、このチームを受け持つ事になった。

「ま、チームと言ってもメンバーゼロ人だけどな!まずは一人でも担当ウマ娘を見つけないと…!」

先代の引退と同時に教え子達も学園を卒業し、チームメンバーは0人となった。と言っても、実は担当が一人でもいればチームとして成立する。その理由として、地方ウマ娘は移籍率が高いのである。例えば、高知のAクラスで無双しているウマ娘はそれ以上高知にいても伸び代を無駄にするだけなので、大井などの他の強い地方に移籍する。そのため、チーム内に常に一定人数を確保する事が難しいがための措置である。とはいえ、ゼロ人だと流石に存続を認められない。

「そろそろ授業も終わる頃だな。うっし、探しに行きますか!」

白いキャップ帽子を被り直し、意気揚々と学園内を歩き回る。ウマ娘達は午前の授業が終わると、午後はレースの練習を行う。いわゆる、スポーツ校のようなスタイルだ。本来ウマ娘達は午後にレース練習をするのだが…

「はぁー、終わった終わった!かえろーぜーい!」

「帰る帰るー。つか、社会の先公かったるくね?」

「わかるー!あのハゲジジイ説教なげえんだよ!」

「髪の毛は短ぇのにな!」

「「ギャハハハハハ!!!!」」

ゲラゲラと笑いながら横を通り過ぎて行く芦毛と金髪のウマ娘達。

「……うん、まあ、底辺校って感じだわな……」

ゾロゾロと帰宅していくウマ娘。この学校は午前で授業が終わるので、それを利用して帰って遊ぶウマ娘も少なくない。こんな環境ではスターが出ないのも納得である。

学園内のコースに降りて、真面目にトレーニングしているウマ娘を探す。いくらレベルが低いと言っても、一部のウマ娘には才能とやる気はある。Aクラスを走る子ともなれば、強いチームに所属して鎬を削っている。自分もそんなウマ娘が欲しい所である。

「一年は……あれか」

ハルノナナクサ達四人組と、複数人やる気のあるメンバーがグラウンドに集まっていた。今日はトレーニング初日なので、教官(担当が付くまでの間、ウマ娘を見ててくれる人)が全員に説明を行っていた。

「説明は以上。夕方に模擬レースを行うから、それまで各自、好きなように準備運動を行うこと」

「はーい!」

元気の良い新入生達だ。あのような夢あるウマ娘達であっても、半分以上はメイクデビューを勝利する事さえ出来ず、苦悩して学園を去っていく。勝負の世界の厳しさだ。しかし、それでも彼女達を応援するのが自分達トレーナーの仕事だ。

「見せてもらうぜ。君達の走り」

 

 

 

 

 

 

 

各自、自由に準備運動。ハルノナナクサ達は四人一組で、コースを軽く周回していた。彼女もすっかり、この四季組に慣れたようである。

「そう言えば、模擬レースってなんのためにするの?」

「それはアレだ。あそこにいる人達、見えんだろ?」

「うん、あの人達は?」

「アレが教官の言ってたトレーナーさ。あの人達に選んで貰って、強いチームに参加する事が最初の目標だ」

サマーローズの説明に、二人も後から付け加える。

「トレーナー達に実力を示す機会が、この模擬レースの目的と言っても良いだろう」

「もちろん、強いチームに入れば、それだけ質の良いトレーニングを積めますからね。GIを目指すなら良いチームに入るのは必須ですよ」

「そうなんだ!それじゃあ、模擬レースで良い所見せないとだね!」

「うむ。私達が目指すべきは……やはりチーム『黒潮龍磨』になるな」

チーム黒潮龍磨。高知トレセンで最強のチームであり、Aクラスに所属しているウマ娘達が複数人集まっている最強チームだ。彼女らを一纏めに担当しているのは、元中央トレセントレーナー、安藤しずく。若い女性トレーナーで、皆からの注目も熱い。彼女も、新入生を求めて視察に来ていた。

 

 

 

 

「おーっす、安藤さん」

そんな彼女に、気安く声をかける惟屋。というのも、地方はトレーナーが少なすぎるので、強い弱い関係無しに自然と仲良くなるのである。

「惟屋さん。貴方も新入生の視察に?」

「ああ。レース場から探してみようと思ったがダメだ。やる気ねーのばっかり。こっちで見た方が良いと思ってな」

「良い判断ですね。やる気のない子を叩き直すよりは、やる気がある子を育てた方が伸び代もありますから」

「それは同感だな。…どう?安藤さん的には見所ある子はいる?」

「そうですね…彼女。あのツインテールの子でしょうか。フォームがしっかりしています。それに体つきも既に競走ウマ娘のそれです。もしかしたら…と思ってます」

安藤が指さした彼女のゼッケンには「カミノイブキ」と文字が書かれていた。よく見てみると、彼女が注目するのは納得だった。よくいる素人達と違い、既にレースというものを理解した走り方が出来ている。今年の高知三冠を狙えそうな雰囲気さえある。

「確かに良い娘だ。まあ、安藤さんがマークしてんなら俺のとこには来ないだろうな。俺は他を探すかぁ…」

「いも天もいいチームだと思いますけどね…あ、そろそろ始まりますよ」

「いよいよか。さて、どんな素質を持った子が出てくるか……」

 

 

 

 

 

 

模擬レース。新入生達はゲートに入ると、ソワソワとスタートを待つ。ゲートは狭くて少し怖いので、ウマ娘達にも得意不得意があったりする。入るのを躊躇ったり嫌がったりしながらも、なんとか全員がゲートに収まる。

「(私が入ったら、すぐにゲートが開くんだよね…よし!)」

最後にハルノナナクサがゲートイン。これで体制完了だ。ぐっと脚に力を入れ、ゲートが開くのを待つ。今回のレースは1200m。地方のレースだと、よく走る距離のレースだ。

 

────ガコンッ!

 

「(よし、開いた!)」

各ウマ娘、揃ってゲートを出る。ハルノナナクサは抑える事を知らないからか、最初からハイスピードで突き進み、前から二番手につく。乾いた砂を蹴りあげながら、スタートしてすぐの第一コーナーを曲がっていく。

「(ちょ、ちょっと待って!コーナー走りにくい!)」

スパートをかけて高スピードで駆け抜けているため、身体に遠心力がかかってしまう。振り回されるように大きく距離ロスしてしまい、一気に5、6番手に後退してしまう。

「(な、なんでぇっ!?)」

フルスパートで駆け抜けているので再びぐんぐん上がっていくが、いくらなんでもそんなペースで走ればスタミナが持たない。再び3番手に上がったナナクサに、最後のコーナーが再び遠心力として襲いかかる。

「あわわわわっ!?」

「(仕掛けますわ…!)」

 

────ダンッッ!!

 

そして、安藤トレーナーの見込み通り。最終コーナーを曲がったところでカミノイブキが上がってきた。先頭を走っていたフユノシラユキを抜きさると、一気に2バ身の差を付けて先頭を駆け抜ける!

「っ……!?」

それの遥か後方から、ハルノナナクサはゼーゼー息を上げながら追いかけていく。

「うわわっ!?っとっと!…追いかけないと!……あれ?あ、脚が……!?」

しかし、1000mにわたる超ロングスパートでもう体力はゼロ。前を追いかける力も無く、後退した順位を上げられないまま、5位に撃沈した。1位はカミノイブキ。一緒に参加していたサマーローズ達も無事撃沈している。

「ぬわー!負けたー!!」

「ぜぇ…ぜぇ……5着…ぜ、全然ダメだった……!」

カミノイブキは2着のサマーローズに4バ身つけての圧勝。その下に、3着オータム、4着シラユキ、5着ナナクサと掲示板に入っている。結果としては上々だが、高知最強チームの黒潮龍磨にアピールするにはちょっと残念な結果になってしまった。

 

「やっぱり伸びてきたか。新入生の中では頭一つ抜けてるって所だな。早速スカウトに?」

「ええ。惟屋さんも一緒に行きます?」

「……いや。俺は別の子が気になった。あの子は譲るよ」

「そうですか?では、お先に失礼します」

そんな訳で、安藤トレーナーは彼女の元へと向かっていった。他のトレーナー達も、彼女の素質に目を見開いて、我先にとスカウトに向かっていた。惟屋トレーナーはと言うと、カミノイブキの後ろでへばっていたウマ娘達の方へと歩いて行った。

「そこの君!良い走りだった。俺と一緒に走らないか?」

「え……私!?」

「ああ。ピンクの髪の君だ」

なんと、惟屋トレーナーが指名したのは2〜4着のサマーローズ達ではなく、5着のハルノナナクサ。指名されたことに驚き喜ぶが、ふと我にかえる。なぜ、1着のカミノイブキでは無く、5着の自分に声をかけてくれたのだろうか。

「えっと…嬉しいです…けど、なんで私なんですか?」

「なんとなくだが…俺は君に才能を感じた。序盤から最後まで、終始掛かり気味みたいなあのペースで進んで5着に収まるのは見事なもんだ」

「え、えへへ……ありがとうございます…」

「君の脚なら、上手く行けば黒潮ダービー制覇だって夢じゃない!」

「……?」

彼女の思考回路が停止する。黒潮ダービーとは一体どんなレースだろうか。日本ダービーっぽいけど、もしかして関係あるんだろうか。ハルノナナクサは後ろを振り返って聞いた。

「黒潮ダービーってGI…?」

「GIでは無いですね」

「えーっ!?じゃあ私、そんなに期待されてない…?」

まあ5着だしなあ、と本人も納得気味ではあるが、そうでは無い。惟屋は彼女が良い!と心に決めて声をかけたのだ。誤解を解くように彼は話した。

「違う違う!黒潮ダービーってのは、君達の世代の中から高知最強を決めるレース。いわば高知最強決定戦だ」

「高知最強……!」

「もし、君がそこで勝てる程強いウマ娘なら、君の言うように、GIレースに続く道を進む事だって出来る。黒潮ダービーってのはそれくらい凄いレースなんだ」

中央レースにはクラシック三冠と呼ばれる、皐月賞、日本ダービー、菊花賞というGIレースがある。これはクラシック級(現ルールで3歳の馬、ウマ娘だとシリーズに参加した翌年)のみが参加出来る世代最強決定戦であり、勝った者には最高の栄誉が与えられる。

 

地方にもそれぞれ、その名前にあやかって「地方三冠」と呼ばれる重賞レースがあり、そこを勝てるウマ娘は、その地域で最強のウマ娘となる。同時に、中央に挑戦出来るほどの力があることの証明にもなる。黒潮ダービーは、その名の通り二冠目、日本ダービーに該当するレースだ。

「GIを目指してるんだよな?なら俺と組もう。君の才能はピカイチだ。その才能、俺が必ず花咲かせてやる。そして君を、GIウマ娘にする!」

「…!」

才能があると言われて、もう堪らなく嬉しいナナクサ。そして、自分の夢を応援してくれる大人。彼となら、自分の夢を叶えられるかもしれない。GIを勝たせてくれるかもしれない。早速この人と一緒に…

「ちょっとまちな!いくら自信満々に言ってても、トレーナーとして腕がショボかったらナナクサは教わり損だぜ」

「うっ、そこを突かれると否定できないな…」

「だから、今すぐ契約じゃなくて、仮の契約を結ぶくらいにしとけ」

それもそうだ。ウマ娘には中央と地方で格差があるように、トレーナーにもレベルの差がある。最弱のトレセンに勤めているトレーナーのレベルが高いとは思えない。それなのに気軽に契約を交わしてハズレを引いてしまえば、才あるウマ娘も一生燻ったままである。

「そうだね。ローズの言う通りかも。……じゃあ、仮の契約でよろしくお願いします!」

「…まあ仕方ないな。わかった、仮契約でよろしく!俺は惟屋だ。君の名前は?」

「ハルノナナクサです!」

「縁起の良い名前だな。ゴールまで元気いっぱいに走ってくれそうだ」

うんうん、と頷いてから、ふとナナクサの後ろにいた三人も気になった。サマーローズも、オータムコードも、フユノシラユキも。カミノイブキには届かないにしても、そこそこ良い走りをしていたのだ。

「そういや、俺のチームに来るとなると友達とはあまり会えなくなるけど大丈夫か?」

「え!?そ、それはちょっと困るかも……です…」

なんせナナクサはまだ学園をよく知らない。先生役の三人と離れたら、知識不足からトレーナーにもいらない迷惑をかけそうだ。

「そうか……なら、君達も一緒に来ないか?俺のチームに」

「ええっ?」

「悪くない提案ですが、賛成しかねますね。行くとしても彼女のように試験的な参加になると思います」

「じゃ、それで良いぞ!君ら全員纏めて、一流のウマ娘に育ててやる!」

「はぁー?…と、行きてえ所だが。面白ぇじゃねえか。乗ってやっても良いぜ。その賭け」

「ふふ、奇遇ですね。私も同じ気持ちです。…ですが、言い切るからにはきちんと指導して貰えますよね?」

「ああ、約束したって良い。君達全員デビューさせてやるよ。出来なきゃ君達のトレーナーは諦める!」

勢いに任せて言ってるが、なかなかに無茶な約束だ。新人のトレーナーで、それも簡単になれる地方トレーナー。でもって、性質がバラバラなウマ娘四人をデビューまで持っていくなど、まず現実的ではない。

 

だが、ウマ娘達から見れば、これが現実的なラインだ。デビューも出来ないようなダメトレーナーについていては、この先も勝てるはずが無い。これは言うなれば、トレーナーになる為の最低条件だ。

「気に入ったぜ。そこまで言うならさせてもらおうか!メイクデビュー!」

「ああ、ドーンと俺に任せときな!」

四人全員デビューできれば御の字。出来なければ全員を手放してしまう。一世一代の大きな賭けだが、この四人は素質あるウマ娘だ。絶対になんとかデビューさせてみせる。そう意気込む惟屋トレーナーだったが、すぐに世の中はそんなに甘くない事を知らされるのだった…

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