トレーニングメモ 4月
ハルノナナクサ
彼女は素質あるウマ娘だ。しかし、困った事に彼女はレースの走り方を知らない。逃げる訳でも無いのに、最初からトップスピードで飛び出して、ぐんぐん加速していく。もちろんペースが乱れて、最後はバテて最下位になってしまう事もザラだ。抑えるように言っているのだが、どうしても我慢が出来ないようだ。困った……
サマーローズ
彼女もまた、良い足を使うウマ娘だ。安定した先行策で前に出ると、そのまま最後の方まで粘り強く走り続ける。そのまま先頭でゴール!出来れば良いのだが、最後は伸びず、5着辺りに落ちてしまう。掛かり癖があるらしく、中盤から無駄にハイスピードで前に前に行こうとしてしまう。そうなれば当然最後はガス欠になってしまう。端正してはいるが、やっぱりレースになると治ってない。困った……
オータムコード
これまた素質のあるウマ娘だ。彼女は時計で見れば、地方のウマ娘というより中央に行けそうな雰囲気さえ感じられる。しかし、その時計が続くのは前半までで、圧倒的なスタミナ不足が見て取れる。800mがギリギリでは、流石に地方でも走りきれない。周りを気にしすぎて余計に疲れているようだが、彼女の武器でもあるので両立して欲しい所だ。あとなんかヤケにレース前に眼鏡に拘ってる。困った……
フユノシラユキ
今のところ、四人の中では彼女が最強だろう。彼女は既にデビューを完了している。将来にも期待…と行きたいが、実の所彼女が一番問題山積みだ。マイペースで前を逃げて最後まで駆け抜けるスタイルは見事の一言だが、彼女は1000mより長い距離に出たがらない。訳を聞いても話してくれず、あまり信頼されていないようだ。困った……
「はぁ〜……」
トレーナー室でメモを取りながら、ガクッとうなだれる。まだまだ、チームメンバーは3/4がデビュー出来ていない。模擬レースでの戦績があんな感じなので、デビュー戦も出すに出せないのである。メモ用ノートをしまうと、外からワイワイと声が聞こえてきた。あの四人組だ。
「おーす、クールダウン終わったぞー。着替えるから出てってくれーい」
「ああ、分かった。よっこらせと」
トレーナー室と言っても、所詮は地方のプレハブ小屋。チーム全員で共有するもので、むしろチーム部屋と言った方が正しいだろう。チームでのミーティングは勿論、着替えなんかもそこで行うので、トレーナーはたびたび外に追い出される。
「ふー。今日も大変だったね!」
「うむ、お疲れ様である」
トレセン学園のジャージから、いつもの制服へと着替えていく。その間に友達同士でおしゃべり。
「はい。練習は大変ですが、着実に強くなれている実感はありますね」
「だね!今日はタイム1秒も更新しちゃった!」
「お、やるなあ!アタシは0.7秒更新だ!この調子なら、四人全員デビューの日も近いな!」
「うむ、そうだな。私達の水準は既にC3クラスはあると言っても良いだろう」
「ふふ。皆さんがC3に上がってくるの、楽しみにしてますよ」
C3クラス。デビュー戦を勝利したウマ娘は、基本的にはこのクラスからスタートする。ここで勝ち上がる事でC2、C1と上がっていき、賞金を積み上げる事で上のBクラスに昇格することが出来るのだ。
「任せてよ!…でもシラユキは凄いね。トレーナーがついてすぐにデビューしちゃうんだもの!」
「だな。アタシ達の中じゃ一番強いんじゃねえのか?」
「…デビュー出来たのは偶然ですよ。私は……」
声が小さくなり、バツが悪そうに俯いてしまう。あまり言いたくない事情があるのだろうか。ハルノナナクサ達も不思議に思ったが、言いたくないなら仕方ない。と聞かない事にしたのだった。
…
「トレーナー!着替え終わりました!」
「…あ、おう!分かった。それじゃあミーティングを済ませて解散にするか」
ミーティングと言っても、正直ただの帰りの会に等しい。明日の予定を全員に話したら、もうおしまいである。そんな訳で解散。仲良く帰っていくメンバーの一人に、惟屋は声をかけた。
「そうだ。フユノシラユキ。ちょっと時間あるか?」
「え?…はい。何かお話でも?」
「ああ。ちょっとした確認だ。時間が無きゃ明日でも良いぞ」
「いえ、今日で構いませんよ。それで、確認とは?」
今すぐここで聞いても良いが、他のメンバーに聞かれたら本人が困るかもしれない。トレーナー室で話さないかと伝える。
「えー?年頃の乙女と密室で二人きりかよ〜」
「うむ。エッチなことするんですか?」
「しねーよ!……レースについてだ。すぐ終わるから、皆は校門で待っててくれないか?」
「トレーナーがそう言うなら大丈夫でしょ!待ってよう!」
「まあ、信じて無いわけじゃねえけどよ。なんかしたらぶっ飛ばすからな!」
「ああ、その点は安心しとけ。しねーから。うん」
そんなわけで、トレーナー室にフユノシラユキと二人きりになる。ギシギシ唸るパイプ椅子に腰掛け、真っ直ぐに彼女の顔を見つめた。
「さて、確認したいことだが……君の走る距離についてだ」
「…!」
何度か問い詰めた事もあり、フユノシラユキの顔も固く強ばってしまう。やはり、よほど聞かれたくない事なのだろう。しかし、トレーナーとして彼女には聞いておかねばならない。
「あの……私それについては…」
「ああ。言いたくないのはわかる。…けど、いつまでも隠し通せるものじゃないだろ?」
「え……っ…」
「……君の担当をしてみて分かったよ。君の圧倒的なスピード。無駄のない走り。完璧な末脚。君は本当は、トゥインクルシリーズに招待されるくらいのウマ娘なんじゃないか?」
「そんな、褒め過ぎですよ…」
「嘘じゃないさ。君は文字通りレベルが違う。…けど君は、1000m以上は決して走らない。…いや。走れないんだろう」
「…トレーナーさん。気付いていらしたんですね」
「……ああ。練習してる所を見て確信したよ。君は肺か喉を病んでいる。そこを庇うために、力をセーブして走っているはずだ」
一瞬、静寂が訪れた。そして、彼女は口を開いた。
「正解です。私は喉鳴りのせいで、1000mまでしか脚が持たないんです」
喉鳴り。正式名称は喘鳴(ぜいめい)症と言い、喉の神経が麻痺して喉が狭くなってしまい、呼吸の度にヒュウヒュウと音が鳴る病気。普通に生きる分には適切な治療を施せば生活に問題は無いが、肺が生命とも言えるウマ娘には致命的な病気である。
「やっぱりか…手術はしたのか?」
「はい……完治もしたそうです。ですが……どうしても1000mを超えた辺りで…思い出してしまうんです。息が苦しくなって、倒れてしまう自分を」
「なるほど…辛いだろうな。走る事を諦める気にはならなかったのか?」
「何度もなりました。……でも。諦めたくないんです。支えてくれた家族に、治して頂いたお医者様に。私は応えたい」
「(……強い子だ。…)…俺は君を応援するよ。ただ、なんで話そうとしてくれなかったんだ?」
「…もし、私が喉鳴りの後遺症に悩んでいる事を話したら、トレーナーさんに諦められてしまうと思ったんです。走れないウマ娘なんて…担当したくないでしょうから…」
白い芦毛が、儚く電灯に照らされた。しかし、彼女の目には確かに闘志が宿っていた。諦めたくない。走れるようになりたい。その想いは、確かに惟屋に伝わっていた。
「そうだな。普通のトレーナーなら、見限るかもしれない。でも、俺は違う。君は絶対走れるようになる。俺がしてみせる!」
「…トレーナーさん…」
「…っと、まだ担当でも無いのに言い過ぎたな。とにかく、俺はそういうつもりだから。話はこれで終わりだ。引き止めて悪かったな」
「いえ……ありがとうございました」
そう言って立ち上がる彼女の顔は、ほんのりと明るかった。彼女は優しく微笑むと、友達の元へとかけて行ったのだった。
…
それから数日。フユノシラユキは普段より明るく、元気に走っていた。友達にも病気の事を明かしたらしく、もう悩まずに病気に向き合えると喜んでいた。ウンウン、と嬉しそうに頷く惟屋だったが…今度はオータムコードに異変が起こった。
「トレーナー」
「ああ、オータムコード。どうした?メガネの拭き直しか?」
「いえ。私が聞きたいのは…先日、シラユキと何をしたかです」
どうやら、よっぽど信頼されていないらしい。まあ無理もない。年頃の女の子一人連れて、個室で二人きりだ。不審がらない方がおかしいだろう。
「あーそうか…まあ俺が変な事してないか気になるって事だろ?」
「失礼ですが…仰る通りです。どうしても貴方を信じきれません」
まだ会って数週間だから仕方ないのだが、彼女は四人の中で一番惟屋と距離を置いている。なんとか彼女の信用を得たいのだが、どうすれば良いのだろうか。
「(弁明しても信じちゃ貰えないだろうしな……)……分かった。それじゃあ、今日は俺を信じられる様なトレーニングをしよう」
「貴方を信じられるトレーニング…ですか」
「ああ、とりあえずいつものスタミナメニューこなして来い。その後で、俺がお前達に対して本気だって事を証明してやる。俺を信じさせてやるよ」
という訳で、トレーニング後。惟屋がセッティングしたのは、ハルノナナクサとの模擬レース。ナナクサは惟屋が選んだウマ娘だけあって成長も早く、段々とペースを抑えるコツを掴んできている。
「コードと一緒に走れば良いんですか?」
「ああ。そろそろ本格的にデビューに向けて動いて行こうと思ってな。…コード。俺の言った通り走れるか?」
「(距離は1200m。スタミナの差でナナクサの方が圧倒的に有利だが…)…分かりました。貴方を信じましょう」
そんな訳で、模擬レースがスタートした。ハルノナナクサは教わった走り方通りに、前半は我慢してペースを抑えていく。そして、その後ろにピッタリオータムコードがつく。このレース、惟屋はオータムコードに事前に耳打ちをしていた。
『ナナクサの真後ろにつけて、最終コーナーで外から抜いて加速しろ。そうすれば絶対勝てる』
「(ナナクサは私より強い…それでも、勝てると言うなら試してやる!)」
────ドバッッッ!
最終コーナー。ダートを蹴り上げ、オータムコードがナナクサの前に飛び出した。ナナクサも抑えていた力を発揮するが、オータムコードに届かない!
「おおっ!?すげぇ末脚!」
「は、速いっ!?無理ーっ!」
そのままナナクサを2バ身ちぎってゴールした。完璧なレース運びに、見ていたメンバーたちも思わず拍手を贈った。
「やったな。良い走りだった」
「トレーナー…ありがとうございます」
彼の言った通りだった。しかし何故、スタミナが持たない自分がハルノナナクサの得意距離である1200m戦で勝てたのか。彼女は不思議がっていた。
「いくらスタミナトレーニングしてても、流石にまだ1200mは走りきれないだろ。でも、ナナクサのように後方で控える事で、足りないスタミナを補ったんだ」
「そして、上がり3ハロン(ラスト600m)の時計(タイムのこと)は四人の中で君が最速。仕掛けるタイミングが完璧なら、君がナナクサに負ける道理は無いって事だ」
「…なるほど…!」
言うなれば、完璧な作戦が足りない部分を補い、長所を引き伸ばしたのだ。こんな指導が出来るトレーナーを信頼しないのは、流石に間違っている。オータムコードも納得の一戦だった。
「どうだ?少しは俺の事、信じてくれる気になったか?」
「……信じますよ。ここまでされたらね」
「そうか、良かった。これからも何かあれば言ってくれ。担当トレーナーでは無いけど、力にはなるぜ」
そう言って、握手の手を差し出す。オータムコードもそれを受け取り、握手を交わすのだった。これにて一件落着だ。
「うわーん!負けたぁー!」
「あ、泣いちまった…ホラホラ泣くんじゃねえよ。もう中等部だろ〜」
「でも……悔しいよ〜!」
ひしっと飛びつかれる。担当して分かったのだが、このハルノナナクサ。とてもわかりやすい性格をしている。機嫌が良いと髪の毛のウェーブが収まり、サラッとしたロングヘアになる。のだが、今のように機嫌が悪いと、アホ毛がピョンピョン飛び出てくるのだ。
「悔しい気持ちは大事にしよう。そいつを糧に強くなるのが、GIを勝てるウマ娘だ」
「トレーナー……うん。私、次は勝つために頑張るよ!」
「よっしゃ、良い子だ。それじゃあ今日はこの辺で終わりにするか!」
彼女をなだめ終え、片付けを始めていると、今度はサマーローズが声をかけてきた。
「おう!…トレーナー、片付けしながらで良いから話聞いてくんね?」
「ん?どうしたローズ。悩み事か?」
「ああ。ちょっとした相談だ。……もしもだぞ?アタシら全員が無事にデビューして、チームになってさ。ナナクサも予定通り中央に行くってなったら……アンタはどっちを取るんだ?」
彼はチームいも天の担当であり、同時にナナクサの担当でもある。彼女が中央に行くなら、当然、高知で走っている残りのメンバーは置いていかなくてはならないことになる。
「……そうか。君は四人のリーダーだもんな。もうそこまで考えてたか。気遣いは嬉しいが、答えは一つだ。俺はトゥインクルシリーズのライセンスを持ってない」
「……そうなのか……」
GIを勝つには、まず間違いなく高知から離れなくてはいけない。南関東のトレセンに行くか、あるいは中央に編入するか。もし、ナナクサが中央にスカウトされるなら、ライセンスの無い惟屋トレーナーは中央に行く事が出来ない。
「まあ、中央には俺より良いトレーナーがいっぱいいるさ。君達も本当は、そういう人らに指導して貰えれば良いんだろうけどな」
「トレーナー…んな事ねえさ。アンタの指導だってすげえよ。皆の悩み聞いて、的確に指示出して。少なくともアタシは、アンタに師事されて良かったって思ってる」
「……優しいな。ありがとう、サマーローズ。全員デビューの約束、必ず果たしてみせるよ」
「へへっ。楽しみにしてる。…もし、本当にナナクサがGI取れそうになったらさ。アンタもライセンス、取った方が良いと思うぜ」
「……そうだな。その時が来たら、必ず」
二人は、足跡でボコボコになったダートコースを丁寧にローラーで慣らしていく。こうして、今日も慌ただしい一日が終わっていくのだった。
…
そして、5月。サマーローズ、オータムコードが見事にメイクデビューを勝利し、残るはハルノナナクサの勝利を残すのみとなった。二人は、次のデビュー戦に向けて、総仕上げに取りかかっていた。
「良いぞ!抑えて抑えて…」
「抑えて…っ」
「今だ!差しきれ!」
「差し切るっ!!」
ハルノナナクサの強みは、地方ウマ娘とは思えない、圧倒的なスタミナにある。ただ、スタミナ任せに走る癖があるので、前半は体力消耗を控える差しの走り方を必死に教えてきたのである。
「(並ばれたッ!)」
「おりゃああああっ!」
そして、スタミナ任せの超ロングスパートで相手を抜き去る。フユノシラユキとは対称的に、1200m以上の長距離ほど強くなる性質のようだ。ただ、その性質は、短距離走が多いデビュー戦では足枷になってしまう。
「はひー……はひー……ど、どう?トレーナー?」
「ハナ差でローズの勝ちだな。やっぱり短距離になると厳しいか…」
「ガーン……また負けた……」
バタッと倒れて、アホ毛がボサボサと横から広がる。1000m戦でサマーローズにくらいつけるなら、デビュー戦くらいなら勝てるレベルではあるが、逆に言えば、そこまで肉薄している以上、同じレベルの相手が来たら、展開ひとつでコロッと負けてしまうほど不安定ということだ。
「でも、もう一息なんかあればアタシにも勝てそうだったろ。なんか無いのか?トレーナー」
「そうだな。ナナクサも末脚が使えれば、大きな武器になるんだが……」
「末脚……」
差しという走り方は、最後の直線でどれほど加速できるかで勝敗が決まる。そこで強烈な末脚を繰り出す事が出来れば、一気に加速して前を走るウマ娘達をごぼう抜きにすることも可能だ。
「ナナクサは武器であるスタミナを上手く使いこなせて無いんだ。抑えて最後まで走れれば、末脚も使えるようになると思う」
「そっか……でも、スタミナを抑えるってよく分からないよ…」
「そうだな。前半抑えて走る事は出来てるんだが、そこに意識を割いてるせいでペースが滅茶苦茶なんだ」
「なるほどね。じゃあペースを意識しながら、しかも抑えて走らないとダメってこと!?」
「そういう事になるな。かなりハードになるが、中央に挑みたいならこれくらいは出来ないとダメだ。頑張れるか?」
「難しそうだけど……やってみます!」
という訳で、もう一度やり方を教わって併走。ところが、今度は教える前よりもペースとスタミナ配分がガタガタになってしまい、オータムコードに3バ身離されて負けてしまった。
「また負けたー!」
ふえーん、と泣きながら地面に倒れるナナクサ。意識すればするほど、逆に色々と疎かになってしまうようだ。こうなれば、下手に考えない方が得策かもしれない。
「やっぱり考え過ぎな事が足枷になってそうだな……やり方を変えよう。ナナクサ、君は走る時に何を考えてる?」
「えっと……前半はスタミナを抑える事と……後半は位置取りに…えーと…考えすぎて頭が真っ白になってるかも……」
「……OK。じゃあ、次はこんな風に考えて走ってみてくれ」
ごにょごにょごにょ。何をどう説明したのか分からないが、ハルノナナクサは納得したようにウンウンと頷いた。今度こそ行けるかもしれない。そんな訳で、今度はフユノシラユキと模擬レースを行う事になった。
「準備おっけーでーす!」
「よし、行くぞ。用意……ドン!」
パァン!と空砲が鳴り響く。それと同時に二人はスタートし、ダートコースを駆け抜けていく。別段走り方に違いは無いが、ナナクサの動きは先程よりかなり良くなっていた。
「(ちゃんと抑えられてますね…!何を聞いたのでしょうか!)」
「(よし、良い感じ!後は……!)」
最終コーナーを曲がり、最後の直線へ。前を突き進むフユノシラユキ。彼女との差は4バ身。短距離戦ならば絶望的な差だが、果たして。
「ここでドーンと飛ばすっ!」
────ダンッッッ!!
「!」
「おおっ!?」
力を込めて、一気に捲りにかかる。上手くセーブしたスタミナを一気に解放して、フユノシラユキへと襲いかかる!
「おりゃああああっ!」
「っ!」
そのままフユノシラユキに追いつくと、アタマ差で抜け出して先にゴール板を駆け抜けた!1000mまでなら四人の中でも最強と思われたシラユキを1000m地点で捉え切った!
「っっっ!か、勝った……!?」
「おおっ!やるじゃねえか!」
「ええ……お見事でした。間違いなく貴方の勝ちでしたよ」
「や……やったー!上手く走れたよ!ありがとう、トレーナー!」
「ああ、どういたしまして。やっぱりこの方が効果あったな」
「劇的な変化でしたね。何を指示したんですか?」
惟屋トレーナーが彼女に指示したのは、難しく考えないよう「グッとこらえて最後にドーン!と加速する」と言った具合に、簡単な擬音で明確な指示は出さず、自由に走らせてみるというもの。
「ナナクサは難しく考えるより、直感でやった方が良いタイプだと思ったんだ。でもって、それが上手くいった。これならデビュー戦も問題無しだな」
「やったっ!トレーナー、早速デビューしよう!」
「ああ、すぐにでもデビューさせてやるよ。一緒に行こうぜ、GI!」
「はい!」
…
そして、ハルノナナクサは無事にメイクデビューを勝利した。四人全員をデビューさせる偉業を果たしたトレーナーと共に、四人はチームとして正式に彼の元でトレーニングを行うことになったのだった。
「ハルノナナクサ、デビューおめでとう!乾杯!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
「無事に全員デビュー出来たな!って事は……」
「うん、約束通り、トレーナーさんと契約だね!」
「そうなるな。…でも、本当に俺で良いのか?違う所に行きたいなら今のうちだぞ?」
彼女達が望むなら、好きな道を歩ませてやるべきだ。トレーナーとして聞くのは当たり前の事だが、三人の顔は不服そうだった。
「……あら。冷たいことを仰りますね。トレーナーさん」
「うむ。まったくだ。ここまで指導しておいて、今更放り出す気ですか?」
「だな!今さら心変わりなんかしねーよ。最後まで責任もてよな、トレーナー」
「(こんなに信頼されてたなんてな…)…分かった。君達に望まれるなら、もちろん俺はそれに応えよう」
ハルノナナクサはもちろん、三人も彼の元でチームを組む事を承諾したのだった。
「それじゃあ改めて…四人とも、これからよろしくな!」
「「「「はい!」」」」
こうして、チームいも天は新しいメンバーを四人迎え入れた。果たしてこの中から、未来に大きく羽ばたくスターは出てくるのだろうか。楽しみであり、不安でもある。これからの未来に、惟屋は心を踊らせるのだった。