ウマ娘 ハルノナナクサ   作:ウマ侍

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第5話 届かない

「全然届かなかったー!悔しいよー!」

「ちくしょー!アタシも悔しいー!」

二人揃ってトレーナーに泣き付く。初めての重賞挑戦は、2着、3着と、順位だけで見ればなかなか上々な滑り出しとなった。だが実際は6バ身差。完敗と言っても良かった。二人を慰めながら、トレーナーは伝えた。

「確かに負けたが、二人ともよく頑張った。2着と3着に入れたのは、二人がきちんと成長出来てる証拠だ」

「「でも〜!」」

あれだけの差を見せつけられたのだ。レースに本気で挑んでいる二人には余程悔しかったのだろう。二人には存分に泣かせてやる事にする。

「……そうだな。悔しい気持ちはよく分かる。ただ、君達はまだジュニア級だ。今の時期は肉体の完成度に個人差があるからな。どうしてもその差は縮まらない。技術を磨いて、掲示板に来れただけでも立派だ」

ウマ娘は、個々人で成長のペースに差がある。早熟な者や成長が遅い者、ある時期を境に急に覚醒したりする者など、その幅はかなりの個人差がある。カミノイブキは、早熟にあたる。ジュニア級の大レースを勝つウマ娘は、このタイプのウマ娘がほとんどだ。

「だからこそ……君達はクラシック級でやり返すんだ。成長して、強くなって、その身体で彼女を超えるんだ」

「そうですね。私達は間もなくクラシック級。肉体の成長が最も大きい時期だと言われています」

「ですだな。そこで大きく成長すれば、カミノイブキにも勝てるかもしれない」

「シラユキ、コード…そうだよな!アタシ達の成長はこれからだ!よっしゃ、ナナクサ、次こそ負けないように頑張ろうぜ!」

「もちろん!一緒に頑張ろう!」

えいえいおー、と掛け声を上げる四人。相変わらずやる気に満ちていて、頼もしい限りだ。けれども、トレーナーの顔はあまり明るくは無かった。彼女達に、本当の事を伝えなかったからだ。

 

 

 

 

 

「……参ったなあ」

「惟屋さん。こんばんは」

「安藤さん。今日は優勝おめでとう」

「ありがとうございます。惟屋さんも惜しかったですよ。あそこまで食らいついて来るとは思いませんでした」

「はは、そりゃどうも。俺の指導の賜物かな」

そう言って空を見上げる惟屋の目は、相変わらず暗かった。安藤はこの目を知っている。高知に来る人物は、決まってこの目をする。ウマ娘も、トレーナーも、分け隔てなく。

「なにかあったんですか?」

「……伝え損ねちまった」

「伝え損ねた…」

その目は、安藤も知っている。それは言ってしまえば、諦めの表情。高知に来るウマ娘には、様々な事情を抱えている。中央で勝てなかった。怪我からの復帰で。中央に合格出来なかった。地元から中央へ。その事情から抜け出せなかった人達が、高知には沢山いる。才能が無かったが故に燻り、やがて希望の炎は消え失せる。そして、目から光は消えてしまう。

「……高知の現実を……ですか?」

「ああ。高知のウマ娘は伸び代が薄い。施設面はもちろん、才覚の面でも。それを正直に伝えるのが、彼女達のためと言えるのか?」

「………言わない優しさも、あるかもしれませんね」

「……ありがとう」

本当は分かっている。言わないことはその場しのぎでしかない事を。けれども、彼はそれを伝えられない。夢見る彼女達の、未来に壁を作る訳には行かなかったから。

「それでも……君なら或いは」

その目は、まだ死んではいなかった。

 

 

 

 

 

ハルノナナクサの次の目標は、黒潮皐月賞。中央のレースで言う皐月賞に該当するレースで、高知に所属しているクラシック級のウマ娘達が参戦する。ただし、高知のメンバーだけが参加する訳では無く、園田などの他地方のウマ娘達が参戦してくる事もある。

「はあああああああっ!」

「よし、良い感じだぞ!」

ハルノナナクサはより精度を高め、黒潮皐月賞に向けてトレーニングを続けていた。もちろん、目標はライバルのカミノイブキ。黒潮の三冠を目指す彼女を越えられ無ければ、GIレースを勝つなど不可能だと言われたからだ。

「はぁ……はぁ……ふぅ…!」

「よーし休憩!……アレ、見てても良いぞ」

「はーい……!」

アレ、というのは、全日本ジュニア優駿への招待待ち。一応、全日本ジュニア優駿は、各レースで2着まで招待される可能性がある。と言ってもこれは大井などの強豪が優先される為、ハルノナナクサが招待されるのは、正直言って難しい。

「うーん、やっぱり来ないかなぁ」

「…はい。難しいかもしれませんね。やはり順調に、黒潮ダービー制覇を目指すべきかもしれません」

「そっかぁ……じゃあじゃあ、ダービーに直行するのはどう!?」

「その間にレースの感覚を忘れるかもしれませんよ。真面目にやらないとダメです」

「はぁい……」

シラユキに怒られてしょんぼりしつつも、真面目にトレーニングする決意を決める。次の目標は、黒潮皐月賞。ダート1400m。ジュニアチャンピオンシップと同じ舞台。場が同じであれば、どこまでカミノイブキにくらいつけるかの勝負となる。これで距離を詰められ無ければ、GIはかなり厳しいものになる。

 

しかし……

 

『強い強い!カミノイブキはペースを保ったまま!黒潮ジュニアチャンピオンシップに続いて、黒潮皐月賞も制しました!またしても二着はハルノナナクサ!』

 

真面目にトレーニングを積み、身体も仕上がってきたというのに、またもや2着。それもそのはず。ハルノナナクサが仕上がっているのと同時に、カミノイブキも身体が仕上がってきているのだから。

 

「ぜぇ……はぁ……また…負けたっ……」

「ふぅ…貴女に……負ける訳にはいかなくてよ。私は高知三冠を手に入れるのですから……!」

また届く事は無かった。けれど、単に前回の再現という訳では無かった。ハルノナナクサはなかなかの成長力を見せ付け、前回は6バ身も離されていた所を、3バ身差にまで縮めていたのだから。

「そっか……イブキちゃんは強いね。でも私も負けないよ!次こそGIへの切符、掴むからね!」

「……期待しておりますわ」

彼女の陣営としても、今回の結果は笑っていられる状況では無かった。わずか半年で、三バ身。ハルノナナクサの成長力は、高知のウマ娘のそれとは次元が違った。このまま彼女が育てば、高知優駿までには。

「よくやった!この調子なら、黒潮ダービーで追い付けるはずだ!」

「ほんとー?私も強くなったけど、向こうも、もっと強くなってるよ」

「ホントホント。同じ距離で三バ身も詰められたんだ。距離が伸びれば、必ず追いつく事が出来る!」

「トレーナーが言うなら信じるけどぉ……」

連続で負けた事で、すっかり自信を失ってしまったようだ。彼女は惟屋トレーナーが担当するウマ娘の中では、一番の伸び代を見せているのだが、それでも、カミノイブキが強すぎるのだ。なにか策を用意しなければ、彼女に勝つことは不可能だろう。

「次こそ君を勝たせる。だから、諦めるな!ナナクサ!」

「……うん……」

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