「わぁー!ここが大井ウマ娘トレーニングセンター学園かぁー!」
少々クセのある桃色の髪。スラリと伸びたロングヘアの頭頂からは、アホ毛の束が一本ぴょこんと飛び出ている。小さな耳には両方に草を結んだような髪飾りを付けている。瞳の色は綺麗な桃色で、髪の毛と見事なコントラストを奏でていた。背丈はやや小さく、歳相応の雰囲気が感じられた。
「よし…頑張るぞ!目指せGI制覇!」
彼女の名前はハルノナナクサ。元気いっぱい、明るい田舎娘。目標はGIウマ娘になること。
脚部に不安がある関係で、当初は普通の学校に通っていたが、それを解消。ジャパンダートダービーの走りをあるウマ娘に見初められ、晴れて大井トレセン学園の生徒になったのだった!
「よう!やっと来たみてえだな」
「イナリワンさん!」
イナリワン。かつて平成3強としてスーパークリーク、オグリキャップらと競い合った強豪ウマ娘。現在は大井トレセンのOBとして、様々なサポートを行っている。今回、ハルノナナクサを大井に呼んだのも彼女である。
「ここに来たってえ事は、覚悟は決まったみてえだな」
「……はい。大井所属のウマ娘として走らせて頂きます」
「……分かった。アンタの部屋は用意してある。まずはそこは行こうか。あたしに着いてきな!」
「はいっ!」
色々と準備があり、トレーナーはいないので、頼れる人はイナリワンのみ。彼女から離れないように、必死に後ろを走っていった。
「ここがアンタの部屋だ。ここでは基本的に二人でひと組だ。同室の奴とは仲良くしてやんな」
「はいっ!……ええと、し、失礼します!」
バタン、と扉を開けると、そこにいたのは如何にも気難しそうな黒鹿毛のウマ娘。一瞥こそしたが、興味なさげにそっぽを向いた。
「今日からお世話になるハルノナナクサです!よろしくね!」
「………ああ」
そう言って、興味なさげーにそっぽを向く。彼女の名はカスタード。大井でも最高クラスの、Aランクで鎬を削っている猛者だ。彼女からすれば、ハルノナナクサは「よく来て、よく去っていく」者の一人にしか見えないのだろう。そんな威圧感に押されるかと思ったが。
「ねえねえ!お名前くらい教えてくれても良いでしょ!」
「……分かった。カスタードだ。甘いお菓子のやつ。覚えとけ」
「うん!よろしくね!カスタードちゃん!」
肝っ玉の座った奴だ、と関心しつつも、やはり興味無さげに寝転ぶ。せっせと荷解きをしていくと、なにやら持ってきた覚えの無い代物が鞄の中から出てきた。
『大井へ行くのでしょう。田舎者丸出しだと困りますから、せめて恥ずかしく無いように、このブローチを貴方に差し上げます。お好きな所にお付けなさい』
カミノイブキからの手紙だった。手紙と一緒に、可愛らしい高級なプローチまで用意してくれていた。彼女はそれを嬉しそうに付けると、ギュッと手の中で握りしめた。
「ありがとうイブキちゃん。私、大井でも頑張るからね……!」
黒潮ダービー以降、お互いを気遣ったせいであまり会えず、しっかりとしたお別れが出来なかっただけに、とても嬉しい贈り物だった。
「おーい、荷物は降ろせたかい?次は学園を案内するよ!」
「あ、はいっ!すぐ行きます!」
ドタバタと慌ただしく去っていくハルノナナクサ。カスタードはふんっと軽く鼻を鳴らすと、再びゴロンと布団に横になった。
…
「と、まあ。大井トレセンってえのは、こんな所だ。わかったかい?」
「押忍!よく分かりました!師匠!」
「良い返事だ。良いかナナクサ、アンタはここの、Cクラスからレースをしていく。強くなればBクラスに…って、これは高知も同じか」
「ですね。高知だとAクラス相当って言われてました!」
「なぁるほどねぇ。だが、大井は魔境だ。言っちゃ悪いが、今のアンタはただのC3ウマ娘でしかない。ここでは過去の栄光は忘れな」
「え?…分かりました!」
それはどうしてだろうか。幸か不幸か、ハルノナナクサはその意図には突っ込まなかった。彼女は高知ダービーウマ娘などの栄光にはそんなに興味が無かったからである。
「あたしからは以上だな。もう自由にして良いんだが……その前にトレーナーと合流させてやるか」
「ありがとうございます!そういえばトレーナーってどうしてるのかな?」
…
「これで移籍の書類提出は完了と」
大井ウマ娘トレーニングセンター学園、トレーナールーム。彼は移籍の書類提出に追われていたが、ちょうど今書き終わった所である。
「(…あいつらは大丈夫かな)」
思い返すのは、高知に置いてきた残りのメンバー達。チームの要である自分が一緒に移籍する事になったため、チームいも天のメンバーが浮ついた状態になってしまった。
『では、彼女達は私が預かりましょうか?』
そう言ってくれたのは、高知最強チーム、黒潮龍磨のチームトレーナーである安藤しずく。本来、最強クラスのウマ娘でなければ参加の出来ないチームなのだが、惟屋が育てた三人は既にAクラス並の力を身に付けていた。同期の馴染みという事もあって、預かってくれる約束を取り付けたのである。
「あいつらなら上手くやれるか。俺はナナクサに集中しないとな」
書類をまとめておく。大井トレセンで上手くやっていけるだろうか。そんな不安と期待とを胸に秘めながらトレーナーは部屋の扉を開けた。
「あっ!トレーナー!」
「ナナクサ。それにイナリワン」
「おう。連れて来てやったぜ。案内も終わったから、後は好きにしな」
「そうか、ありがとう。色々と世話になったな」
「良いってことよ。大井を盛り上げてくれそうなやつを招待したんだ。これくらいもてなさねえとな」
そう言って笑うイナリワンの顔は屈託がなかった。トレーナーは彼女への感謝の気持ちを抱きながら、大井での活動に胸を弾ませた。