Muv-luv Alternative -Right Stuff-   作:レイテンシー

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前回、次回の内容を予告したのは、作者にとっても効果的で何を書けばいいのかはっきりしていたためにすぐに書き始めることが出来ました。

ただ前回予告した内容のG弾についての説明で文字数とんでもないことになったので、まだ続きます。




第3話 Type-04 second ② -正規手順-

 

2014年7月26日

国連軍ユーコン基地 207会議室

ユウヤ・ブリッジス中尉

 

 

「日本帝国はハイブを正規手順で攻略しようとしている」

 

会議室で顔を合わせた日本帝国の責任者から資料が渡された。ここから日本帝国が本当は何をしたいのかが読み取れるか、と問われたのである。

 

資料を精査した結果、そのように答えた。紙には「Type-04 second batchは戦力としての冗長性や拡張性を高める」というような、典型的な官僚的表現が見られた。

 

しかしスペックの方を見たら控えめな表現とは別にとんでもないことが書いてある。この通り実現したとしたら既存の戦術機の枠組みから大きく外れることになる。正しく次世代に相応しい。

 

通常なら、資料を作成した側に疑問を持つ。一般に公開されると、ディスインフォメーションや日本帝国陸軍の無知無謀と見なされる可能性が高い。

 

ただ、この資料を渡してきた男が問題だった。

 

イワヤ・エイジ帝国陸軍中佐。漢字の方は角が5つ以上ある場合は判別しないことにしているのでよく分からないが、なんだか厳つい字が並ぶ。

 

昔クゼと言う知り合いに、漢字は角の数が多い方がエライ、と聞いたことがあるので、格式が高いのかもしれない。

 

ともあれ、Type-04の改修計画を取りまとめる統括責任者から渡された資料をデタラメと断じることはできなかった。

 

この男が会議室にいることがまず意外だった。自分が担当するType-04の改修箇所は、全体の改修計画のごく一部だと聞いていた。つまりそれほど重要な所ではないのだ。

 

少なくとも顔合わせで出張ってくるメンバーとしては異質だった。軍隊に馴染みがない人向けに説明すると、大体は大佐が大きな企業の社長に該当するぐらいの地位に当たる。中佐はその一個手前だ。

 

役職をつけるとしたら専務で、実務方としては最高峰の役職に当たる。そしてイワヤ中佐には、階級に負けないほどの実績があった。

 

日本帝国における戦術機の導入過程を調べたら、F-4の段階から顔を出す特異点の様な人物である。F-15導入の際に、F-4でF-15に勝ったとか言う伝説まである。

 

いわゆる超人(ウルトラマン)だった。

 

どの国にも専門家がいて、そのレベルを決して侮ってはならない。恥ずかしながら、会社に入社したてで万能感に浸っていた時期の自分は、取り組んだいくつかの仕事でコレを思い知らされたのだ。

 

さて、Type-04の改修計画の方に話を戻そう。戦術機の性能は大きく分けて2つの要素で大枠が決まる。

 

・跳躍ユニットの主機出力

・電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエーター)の断面積あたりの出力

 

Type-04 second batchの改修ポイントとして書いてあるこの2点は、従来の戦術機の枠を超えていた。

 

自分の専門である跳躍ユニットの主機出力の方は、まあ良いとしよう。これはこれでなのだが、まだ現実的な話が書いてある。

 

問題は電磁伸縮炭素帯の方なのだ。ここだけやけに詳しく断面積あたりの出力がグラフに書いてあるが、この通り読むとブレイクスルーが起きるらしい。

 

戦術歩行攻撃機と言う機体種別がある。これは時々、戦術機と何が違うんだと聞かれることがある。

 

軍隊での役割的な違いはさておき、機械的な意味での2つの違いは電磁伸縮炭素帯の有無だった。より正確には、攻撃機のほうは電磁伸縮炭素帯を使用していてもそれを補うために、従来の油圧などの機構もついている。

 

戦術機の枠を超える武装を保持するために、戦術機にさらに外骨格を装着していると理解しても良い。もちろん応答性が犠牲になる。

 

Type-04 second batchが採用する電磁伸縮炭素帯を全身に装備したら、戦術歩行攻撃機並みの武装が可能な戦術歩行戦闘機になる。これは正しく新世代機であった。

 

 

疑問点が山ほどあるので、専門の跳躍ユニットを切り口に話を始める。

 

「跳躍ユニットの主機に関して、米国からの技術移転を前提にしていますが...」

 

要は現実的なの?という質問を丁寧にして投げる。

 

「合成プラントに関する技術をトレードすることで合意している」

 

日本帝国は一番強いカードを切っていた。しかし米国は他国への技術移転にそれほど閉鎖的ではないが、モノがモノだった。

 

次期主力戦術機F-35用の高出力エンジン、P&W F-135と呼ばれるバケモノだ。元々はF-22に採用されているP&W F-119を改良したエンジンなのだが、機体コスト低減のために出力を大幅に強化された。

 

意味がよく分からないと思うが、F-35はコストを下げるために跳躍ユニットを1つしか装備していない。つまり単発機なのだ。なのでF-135は1基でそれなりの出力を得られる様にざっくり2倍のパワーを持っている。

 

Type-04 second batchはこれを2基積むと言っている。それはつまりF-22の4倍のパワーを持つことになるのだ。

 

実際の推力が2✖️2だ、4倍だぞ!と単純に言えるかは、まあ色々あってそうもいかないのだが、スペック表で見たらとんでもないことだけは確かだ。

 

自分の改修における担当範囲である、Type-04へのGE F-110のインテグレートの目的がわかってきた。アメリカ製エンジンと日本帝国製機体のマッチングをここで試そうとしている。

 

元々、日本帝国もF-4やF-15でアメリカ製の機体を経験してはいる。しかし、Type-04では主機も含めて国産化しているので、片隅にアメリカ製主機とのマッチングを考えてはいただろうが非機能要件であったはずだ。

 

開発をやるとわかるが非機能要件とはいざとなったら忘れても良いリストである。日本帝国へのBETA侵攻の間際にロールアウトしたType-04がそこまで及ばなかった可能性は十分にある。

 

惜しむらくは今のType-04に適合する主機がGE製しかないことだ。ただアメリカ軍機ではP&WとGEの主機をコンパーチブルで選べる様になっているので、大きな問題は出ないはずである。

 

最新技術の塊である最新鋭エンジンの封をアメリカが解くか、と言う疑問があるかもしれないが、他国からの印象よりも合衆国は秘密主義ではない。

 

特に日本帝国が民生技術を差し出した点がよくわかっている。アメリカは世界一の軍事大国ではあるが、軍隊とは民の生活を豊かにするための物である、という前提を忘れていない。

 

軍事技術の民間への転用には合衆国はおおらかだった。特にプラント船と呼ばれる移動式の合成プラントには大きな興味を示すはずだ。

 

だから跳躍ユニット主機の方は、とんでもないことは確かだが、それでも現実的だった。燃料の問題を気にしたいところだが、こっちは液体である都合上、どこにでも収められるし、それに年々、燃費は向上している。

 

なんとかなるのだろう。日本帝国の専門家がそう言っていることを無下にはできなかった。そもそも戦術機全体のデザインは、また少し自分の専門領域とは異なるので口が出しづらい。

 

同じくらい口が出せないのが電磁伸縮炭素帯だ。これはもうサイエンスの世界なので、エンジニアからはさっぱり分からないのだ。戦術機開発の現場では入力(電気)に対して出力(伸縮力)しか評価していない。

 

でも実現性について考えることはできる。日本帝国は電磁伸縮炭素帯における素材分野のトップランナーだった。

 

元々、彼らがBETAをすり潰し始めたのは食べるためでなく、新しい素材を見つけ出すためだった。BETA粉末から新しい味覚まで見つけた日本帝国なら革新的な電磁伸縮炭素帯を作り出す可能性は十分にあった。

 

 

「機体単価もかなり高くなると予想しますが、これについては...」

 

要は現実的なの?という質問を丁寧にして繰り返す。

 

「日本帝国はこの計画の実現のために戦艦を手放してもいいと考えている」

 

帝国陸軍中佐の発言を間に受けることはできない。ただ、あらゆる上限を設けない、という趣旨なのだろう。海軍の資産を勝手に陸軍が売り飛ばすという話ではない。そうなったら戦争になる。

 

しかし手段そのものには実績があった。欧州連合はアフリカへの基盤移転の費用を捻出するために艦艇を売りに出している。おかげでアフリカ連合は海軍力に困らなくなった。

 

宇宙生物との総力戦体制において兵器の値段とは、というのはかなり難しい問いになる。それでも総力戦だといえば工員がご飯を食べなくなるわけではないので、物の値段という概念は生き続ける。

 

結局のところ、兵器の商品としての側面はBETA大戦の前後でもあまり変わりはなかった。それと軍需産業は世間のイメージほど悪どくはない。貰いすぎたら返したりもしている。

 

そういえば商品としての戦術機は自分が日本帝国製戦術機について理解を深めるキッカケであったな、と思い返す。始まりはルーツ探しの一環だった。

 

新人社員には良くあることだが身の程を知らされたのだ。自分で言うのもなんだが、高く伸びた芽はどこかで摘んでおかないと他の葉の成長が悪くなる。

 

才能に依拠したプライドは折れた時に戻りが悪い。伸びる方向が正の方向に向かった経験しかないので原点を知らないのだ。だからオリジナリティ(原点)を知ろうとした。

 

その時のガムシャラな試行錯誤を、今ならそう思い返せる。

 

思いついたことが日本製品について調べること、自分の仕事の中では日本帝国製戦術機について調べることだったのだ。

 

そこに他国にはない様なスペシャリティがあれば、そこにこそ自分の知るべきオリジナリティがあるのではないかと考えたのだ。

 

結果的にそんなものはなかった。誰もが自分に配られたカードを使ってゲームをするしかない。新聞にも書いてある単純な事実であった。

 

そんな日本帝国製戦術機、Type-04とType-10については追々、触れることがあるかもしれない。それはページの余白のために取っておこう。

 

 

さて、最初の発言に戻るが、なぜこの設計案から導き出された日本帝国の目的が正規手順でのハイブ攻略になるのだろうか?

 

と、その前になんで大事な目的を文書にしっかり書かないんだ?という点について触れておこう。この問題は国に関わらずたまに起きるのだ。

 

民間の製品開発でも、効率化や機能追加、部品見直しによる値下げなんかは新製品の題目として上がることが多い。しかし、新しい製品の目的はこれだと言われている場合には大体、裏があった。

 

真の目的は、ライバル企業へのカチコミと市場独占である。もしくは既にトップなら支配を継続するための継続努力である。

 

ただ、ここまで下衆なことを文書にしてはっきり書くことはできなかった。いや、内部ではしっかり検討されているのだろうけど、表には出せないのだ。

 

でも、エンジニアが行う開発作業は、表にはできない隠された目的を意識する必要がある。新人エンジニアはこの矛盾に時々、頭を悩ませる。

 

単に顧客を喜ばせたいならタダで配ればいいのだ。それができないのは隠された目的があるからである。なんの意味もなく単価をチマチマ計算している訳ではない。

 

日本帝国の戦術機改良計画にも表だった題目と隠された目的が存在した。それが最初の質問と回答だ。

 

これが、打倒アメリカ帝国主義、とかであればちょっと電話が、と言って会議室から抜け出すのだが、そうではなかった。

 

つまりハイブの正規手順での攻略である。

 

正規手順とは、通常戦力だけでハイブを制圧することを示す。簡単にいうとG弾を使わない、ズルをしない、ということだった。

 

なぜズルなのかは一先ずおいておいて、ハイブ攻略におけるG弾の有効性について説明しよう。

 

知っての通り、剛田超臨界即発反応境界面破壊モデルによる五次元効果爆弾、通称G弾はBETA由来元素であるグレイ11を使用した新型爆弾である。

 

何が知っての通りなのだろうか?こんな長い名前の爆弾は、少なくとも学校で教わったりはしない。と言うのも、グレイ11から破壊効果の前提となる剛田モデルも含めて、アメリカは追試可能な情報を公開していない。

 

ここで挙がっている言葉は、国連から「人類に敵対的な地球起源種(ALFA)」になるかを迫られたアメリカが渋々、公開したものである。人類はサイン計画の成果を公開しなかった米国に敵になるか否かを迫った。

 

具体的にはカナダとその宗主国が怒っていた。まあ、カシュガルの悲惨な状況を踏まえたとして、隣国に自国の半分を帰還困難地域にされて怒らない国は居ない。戦争にならなかっただけ穏当である。

 

国連が米国を敵対勢力として認定する寸前で、それは回避された。ちなみにALFAはAmerican-Led Force Against humanity の略らしい。

 

全く追試可能な情報を提供せずに国連が納得することもあり得ないはずなので、なんらかの非公式な試料提供があったとも言われる。

 

ここまでの歴史を少しまとめておこう。色々な情報が出ているので混乱しているかもしれない。

 

1960年代のBETAとのファーストコンタクトについてはいいだろう。人類が孤独ではないことを知ったが、隣人がイカれている場合は孤独なほうがマシであることも知った。月面での攻勢を受けて、多額の予算をかけて軌道防衛計画に基づく軌道防衛網の建設が始まる。

 

1973年の時点で未完成の軌道防衛網は、これをすり抜けた落着ユニットにより中国領カシュガルに落着し最初のハイブが建設された。複雑な国際情勢はこれに真剣に対応できず、人類はユーラシア大陸へのBETA浸透を許した。

 

1974年の7月にカナダのアサバスカに落着しようとしたユニットをアメリカは戦略核を使って迎撃した。大気圏内での衝撃伝搬効果を狙った核爆発はほとんどが地表面での爆発になったため、結果的にカナダは半分が人が住めなくなった。

 

同時にカナダ北東部アルバータ州と北西部サスカチュワン州を電撃占領した北米総軍はアサバスカの落着コロニーの調査を開始する。いわゆるウィリアム・グレイ博士の指揮する敵性先進技術研究、サイン計画の始まりである。

 

同年10月に中国領カシュガルから西に1500キロ長駆侵攻したBETAが、イラン領マシュハドに2つ目のハイブを建設する。人類はハイブが分化することに驚愕した。

 

軌道防衛網による早期迎撃が実現すれば、BETAが半径100km程度のハイブ影響圏より外に広がることはない、とするアメリカの主張が崩れた。米国はこれまで世界中から膨大な予算を集めてきた軌道防衛計画の責任を追及された。不合理にも思えるが、BETAを地球に広めないための防衛計画、という意味では明らかに失敗しているので致し方ない。

 

1975年には国連はカナダ不法占領とサイン計画の非開示を理由にアメリカ合衆国を非難した。本格的に国連とアメリカとの対決姿勢があらわになった。同時に国連は米国から軌道防衛計画を接収し、これを統合していわゆるSHADOWを構築する。アメリカはこれを非難した。

 

1976年には西進する一方であったBETAは北進を始め、当時存在したもう一つの超大国、ソビエトを脅かすことになった。3年にわたるBETA制圧地域の被害の詳細が明らかになり、意外に思われるが、それまで地震やバッタの大量発生と同程度のトピックであったBETA侵攻が緊迫度を増す。焦っているのは月面で敗北した米国とBETA制圧地域だけであることに気づく。

 

1977年には米軍はカナダから完全に撤退、国連からの要請を受けたサイン計画の情報開示にも渋々、応じるようになった。公開情報を元に日本の帝国大学の物理博士により剛田超臨界モデルが示された。

 

今後のBETA対応への国際的な一致団結とカナダでの悲劇を忘れないために、バンクーバーで国際協定を締結する方針が示された。当時まだバンクーバーはアメリカ基準での活動可能な空間線量を上回っていたが、すべての外交官が正装でこれに参加する予定であった。

 

バンクーバー77と呼ばれるはずであった協定の予備会合は、キリスト教恭順派の襲撃を受けて各国に多数の死傷者を出す。テロリストの構成員は全員がアメリカ人であった。

 

そして1979年1月1日にアメリカを含む国連加盟国の全会一致でオルタネイティブ宣言に合意した。

 

78年に何があった!

 

なぜ77年の状況から1年で情勢が回復するのか、全く理解できない。

 

当時、歴史を教わったクラスメートたちで78年を空白の1年とした。教師や親も全く答えられないので、何が起きたかを推理したのである。

 

神が降臨した説、ガンマという第3の地球外起源種と接触した説、G-GUY魂の演説が人々の心を一致させた説など様々な仮説を立てた。しかし、結果は分からなかった。教科書に何も書いてないからである。

 

まだアメリカが全世界と敵対した、という結果になっている方が理解できた。ここまでで明らかに世界中からヘイトを買っている。しかし結果としてアメリカの態度は軟化していたし、世界は過去を許していた。

 

82年にはこれまでの常識ではありえない決定である、ソビエトへのアラスカ租借が決定する。なぜこれを決定してクーデターが起きなかったのかが理解できなかった。あまりに色々な感情を無視している。

 

しかし、この歴史が現在につながっているのである。それを認めるしかなかった。

 

 

忘れかけていたが、このスレッドはG弾に関するものであった。returnしなければならない。あまりに話がそれるとスタックもあふれる。

 

G弾はグレイ11の反応開始から消失まで剛田超臨界即発反応によって反応境界面が球場に広がっていく。この境界面ではあらゆる物体が重力偏差の潮汐力によるスパゲッティ効果で引き延ばされて、それに触れたあらゆる物体が原子レベルで破壊される。これが剛田超臨界即発反応境界面破壊モデルである。

 

サイン計画での発見者から剛田モデルではなくムアコック・レヒテモデルという名称を使うべきという意見も国内から挙がったが、いかんせん、名前が長くなって呼びづらい。サイン計画の情報を開示していなかった方が悪かった。

 

国内では意地でもMLモデルにするべきではという意見があったが、結局G弾には剛田氏の名前が使われてしまった。5次元効果からとってF爆弾だとすると燃料気化爆弾になってしまうし、F弾では放送禁止用語の方をなんだか連想してしまう。

 

こうしてG弾という言葉は成立した。

 

G弾の歴史の方も見ておこう。米軍がG弾を戦力化したのは90年代である。初めて起爆に成功したのは87年のモーフィアス実験であるとされる。さらにその大元は79年に大統領へ当てられた覚書であり、開発されたのはそれによって開始されたサンタフェ計画である。

 

しかし、79年までG弾が構想すら浮かばなかったのだろうか?

 

そんなことはない。おそらくG弾の概念そのものは74年のサイン計画の極初期から存在したはずだ。

 

というのも人類は核分裂反応にまつわる技術ツリーで原子炉と原子爆弾というセットを経験している。79年にリアクターに当たるムアコック・レヒテ機関が超臨界に達していることを考えると、ボムに当たるG弾の発想はそれよりも前に同時に存在したはずだ。そしてそれを利用するG弾主戦論も同じく誕生していたはずである。

 

主観ではあるが、2000年代までの米国の様々な戦力整備計画はG弾主戦論を否定するために提案され続けたのだと確信している。

 

ではそもそもなぜハイブ攻略にG弾でなければダメなのだろうか、またなぜズルいのだろうか。

 

それはG弾の破壊効果が地形を貫通するからである。G弾の効果が既存の核兵器などと異なる点は、反応点から球場に広がる反応境界面は、間に装甲や地殻など何を挟んでいても効果を発揮するのである。

 

先ほど反応境界面にあって、あらゆる物質を原子レベルで破壊すると言ったが、その表現には少し誤解がある。反応点の中心近くでは確かにその通りなのだが、そこから離れるほど重力偏差による力はわずかに弱くなる。

 

結果的に地殻や丈夫な構造物でできた建物などは、原子の結びつきを解くほどには破壊されず、反応点から離れるほど被害は出なくなる。そもそも言葉通り、球場にあらゆる物質を破壊してしまうなら、横浜には巨大なすり鉢状のクレーターができるはずであるがそうはなっていない。

 

しかし、反応境界面とその中に居る生物には致命的な被害が出る。と言うのも生物は原子的な結びつきでできた回路によって動く精密機械である。ナノレベルで発生した重力偏差から受ける影響は計り知れない。

 

人間からBETAまでを含めて、あらゆる生物がG弾の反応境界面の内側では生存を許されない。ちなみに電子回路も同様である。

 

ここでG弾の異常性を引き立たせるために核兵器との比較をしておこう。横浜で使用されたG弾の効果半径はおよそ1-2km程度であると推測される。当時フェイズ2であった横浜ハイブの影響範囲がその程度だからだ。

 

この効果半径だけを見て、G弾が画期的新兵器であると言えるだろうか?

 

そんなことはない。

 

効果をどのように定義するかにもよるが、一般的に1-2km程度の爆発効果半径は戦略核としてそれほど大袈裟な威力ではない。

 

では汚染に目をつぶれば横浜ハイブ攻略は核兵器を使用しても良かったのではないか?という疑問が出る。

 

仮にあらゆる困難を排してハイブの主縦孔(メインシャフト)の最深部で核兵器を起爆出来たとしてどの様な被害をハイブに与えるだろうか?

 

実はほとんど被害が出ないのである。

 

爆発の衝撃はメインシャフトを通じてほとんどが上に逃げてしまう。そして頑丈なハイブの地下茎構造物(スタブ)はほとんど被害を受けない。そこにいるBETAも同様である。

 

BETAが肺呼吸する生物であれば事情はちょっと違った。急激な気圧変化で呼吸器系に大ダメージを与えることが出来たかもしれない。しかし、いかんせん連中は月面でもピンピンしている。

 

それとスタブ各所にある門(ゲート)が上手く気密をコントロールするのではないか、という仮説も実は存在する。人間で言えば肛門に当たることを考慮すると、固形物、気体、液体を分けて排出できることに想像が難くない。

 

なので核兵器は少なくとも地下に張り巡らされた頑丈な地下構造物を破壊することには向いていないのだ。

 

G弾以前のほとんどの人類の兵器は、地表面にいる敵を倒すために設計されている。ハイブの様に地下に逆に刺さった市街地がある様な戦場は想定していないのだ。それは地獄の戦場である。

 

ここでハイブ攻略の大問題について明らかにしておこう。仮にハイブ周辺の地表からBETAを排除できたとしても、問題はBETAの主力のほとんどが地下に残っていることである。

 

ハイブ攻略にはどうしても地下のBETA主力を殲滅する必要がある。ハイブ中心部にあるリアクターを破壊すれば活動が収まるのではないか、という見方は楽観論に過ぎない。

 

核兵器が地下数百mにいる生物を殺傷する能力を持っているだろうか?持っていないのである。これには直接殺しに行くか、地形貫通効果を持つG弾を使うしか方法がないのだ。

 

ハイブ攻略にはG弾が必要で、それが最も効率的な方法であることは自明なのだ。

 

ではなぜズルいのだろうか?それはG弾に核兵器と同じ汚い兵器としての側面があるからである。

 

当初G弾はクリーンな戦略兵器だと考えられていた。少なくとも放射線を放出する様なことはない。重力偏差の影響もグレイ11の消失とともに収まることが確認できていた。

 

しかしナノレベルで重力偏差を受ける影響を、もう少し真面目に考えるべきだったのである。例えばの話、G弾の影響を受けたにも関わらず奇跡的に無事であった建物があったとしても、ナノレベルであちこち力が加わった物に住みたいだろうか?

 

問題は影響がどこに出ているのか、細かすぎて計測できないことにあるのだ。結局のところG弾投下地域で影響を受けた構造物は全て一新しなければならない。これでは核兵器と大差ないのだ。

 

また想定外の副次効果が出る事がある。G弾が初めて使用された横浜ハイブ攻略戦では、瞬間的な大気剥離現象が発生した。横浜上空の気圧は一時的に100hPaを切ったのである。

 

これは当時設定されていた安全領域にいる人間にも影響を及ぼした。外側で気密に守られていなかった将兵を一瞬で殺傷したのである。また、中心部に吹き込んだ暴風によって、あらゆるものが飛散しそれによる死者も発生した。

 

結果的に、新型爆弾を使用したハイブ攻略作戦は成功を収めたが、万単位の死傷者を発生させたのである。この想定外の事態に対し、当事者の日本帝国と作戦に参加した東亜連合はアメリカを非難した。

 

G弾脅威論が吹き上がるのもやむを得なかったのである。しかしG弾についてアメリカは対BETA戦略では代替案なし(no alternative )であると言う立場を崩していない。

 

ちなみにナノレベルでの重力偏差の影響が残留して、使用地域での植生に影響を与えるとの話があるが、少なくとも植生に関しては、G弾を使用するまでBETAが占領していた影響の方が大きいと考えられる。

 

「正規手順、と表現していることから、日本帝国のハイブ攻略の基本的な戦略は理解してもらえていると考えても良いかな?」

 

イワヤ中佐が問いかける。

 

「米軍では横浜でのG弾の成功...」

 

----------- ガンッ ————-

 

机に衝撃が走った。イワヤ中佐が机を蹴ったのだ。

 

「すまない、足が当たった、続けてくれ中尉」

 

流石に何が言いたいのかわかる。言葉に気をつけろだ。

 

「横浜にて確認されたG弾の効果をもとに米軍は...」

 

理解したポイントについて訂正した説明を続ける。

 

イワヤ中佐は優秀なネゴシエイターでもあった。仕様調整なんかに参加するとわかるのだが、相手の失言や誤りをその場で訂正することは非常に重要な交渉のテクニックである。

 

どれだけ正しいことを指摘しても会議の後から言うとトラブルになることは多い。

 

しっかりした説明が必要だと、気を引き締めることになった。

 





この話で特に明言できていないのですが、原作との明らかな相違点で、横浜ハイブ攻略戦でG弾を使用することに事前の了解はあったことにしています。流石に、何の予告もなく新型爆弾を使ってその効果で人員を殺傷したことにすると、戦争が不可避だと考えるからです。

次回は日本帝国のハイブ攻略手順、特になぜ通常戦力でのハイブ攻略が難しいかについてです。

細かく英訳しているので、英語版も比較的すぐに投稿できると思います。
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