Muv-luv Alternative -Right Stuff-   作:レイテンシー

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CHatGPTから一話当たりの情報密度が高すぎるとの指摘を受けたので文字数を少な目にしました。



第4話 Type-04 second ③ -州間95号線-

 

2014年7月26日

国連軍ユーコン基地 207会議室

ユウヤ・ブリッジス中尉

 

ハイブの中は冬の州間95号線より悪路である。アメリカを南北に横断する州間高速道路は冬になるとスリップ事故が多発する。ハイブの地下茎構造(スタブ)の表面はそれより掴みどころが無い。カチカチでデコボコである。

 

さらに平均的な傾斜は20%を超える。自家用車で入るなら4駆を使うべきだ。広さだけはあるので車高を気にする必要はない。合流に気をつけよう。

 

そんな冗談はさておき、いかにハイブが既存の陸戦戦力やG弾を除く通常戦力での攻略が難しいかを説明していきたい。通常戦力でのハイブ攻略を目指す日本帝国の真意はここを押さえなければ理解できない。

 

そもそもアメリカも通常戦力でのハイブ攻略を目指さなかったわけではない。この話は前回も少しした気がする。何も最初から局所的な重力異常を起こす事を最適解としたのではない。

 

ところでType-04 second batchの詳細を記した紙の資料は回収されてしまった。機密に類するので仕方がないが、紙の質がやけに高くて手触りが良かったので持って帰りたかった。再生紙はやはり手触りが良くない。

 

合衆国のハイブ攻略への探究は、1975年のHI-MAERF計画に遡る。74年のサイン計画の翌年である。その成果を流用していることは誰が見ても明らかであった。

 

ロッキード、ノースアメリカン、マクドネル・ダグラスの3社が参加した計画は、ムアコック・レヒテ機関を主動力とする戦略航空機動要塞XG-70の開発を目指した。

 

戦略航空機動要塞は通常戦力だろうか?主機関を動作させるのはサイン計画で回収したグレイ11である。再利用できるG弾みたいな物であった。しかし、ここでの話はG弾を除く兵器を通常戦力としているので、これは通常戦力なのだ。

 

当時の担当者に話を聞くと開発は順調に進んだらしい。誰もが人類の新しい境地に目を輝かせていたと聞く。実際、エンジニアとして誇りにできる仕事だろう。

 

しかし、開発に最大の敵が立ちはだかった。

 

「これだけ凝った機械を作るのはいいが、このエネルギーを直接ぶつけた方が話が早くないか?」

 

理屈の壁である。科学的ロマンは常にコレに邪魔されてきた。

 

XG-70にはML抗重力機関による反動重力推進が採用されていて、艦艇に匹敵する1万トン規模の莫大な質量を浮かせていた。有り余る発電能力を使ってイオン化した金属粒子を電気的に加速、集束させて打ち出す8.5TW級の荷電粒子砲を備えていた。機体周辺に重力場であるラザフォード場を生成して重レーザー級の照射を連続2分防ぐ防御システムを備えていた。戦艦を超える2700mmもの口径を持った巨大レールガンを備えていた。対空火器として多数の120mmレールガンと36mmチェーンガン、VLSが搭載されていて、これだけで戦術機大隊36機を超える火力を有していた。

 

これら全てが、ほんの少量のグレイ11を勢いをつけて押し出すコンセプトに勝てなかった。

 

人類の知恵を結集したあらゆる機構が、ほんの21gの未知の元素に負けたのである。

 

この世界はクソである。

 

アメリカはHI-MAERF計画の成果を建前上、高い機密度を持って扱ったが、それほど大事に扱わなかった。資料は学生でも取り寄せられたのである。

 

HI-MAERF計画がほとんどの工程を順調に終わらせた上で、G弾が勝った事がその有効性を何より示していた。

 

最終的に計画は、ハイブの地下茎構造を模したテスト施設で優秀なテストパイロット12名のミンチを作り出して終了した。ロスアラモスにある国立研究所では、地下茎構造テスト施設とともに保管されているXG-70を見学できる。産業界に携わるのであれば観に行く価値のポイントである。

 

これを持ってHI-MAERF計画最終レポートは、これは憎しみと愚かさの中間報告書である、と題して締め括ったのである。

 

これがアメリカ合衆国の最初の挑戦の結果であった。

 

 

突然だが、話は変わる。

 

ソフトウェア開発の世界では問題を解決する時にトップからアプローチするか、ボトムからアプローチするか、という方向性を決める事がある。ただこの概念については実際に経験してみないと何とも理解しづらいと思う。流してもらって構わない。

 

技法として大体はトップからアプローチするべしと定められている。でも大体の問題は下から湧き上がる物で、天から落ちてくるのは決まって胡散臭い物である。

 

HI-MAERF計画はまさにハイブ攻略という問題にトップからアプローチした結果だった。問題が解決した場合には素晴らしい事なのであるが、しなかったわけなので何が問題かを振り返る必要があった。

 

トップからアプローチすることの典型的な問題として、対策の応用性のなさが挙げられる。計画で開発された技術要素が何一つ、現代の陸戦兵器に応用されていない事から、なんとなく想像がつくと思う。

 

ボトムからアプローチする場合は現場の声を拾い上げて行うので、その対策は仮に失敗をしても、別の問題に応用できる場合が多い。あくまで経験則である。

 

ならボトムからアプローチするのが正解じゃない、となるのだが年長者の教えというものを軽んじてはならない。地には地面という明らかな行き止まりがあるのだが、天には限りがない。

 

ボトムから積み上げるアプローチは辞めどころを見失うのだ。そしてバベルの塔になって神(顧客)の怒りに触れる。

 

だから天井を作ってあげるのが最もいいやり方だ。

 

新人には最初ボトムからアプローチさせる。形になったところで、タイミングを見計らって、トップからは考えてみたかい?それじゃあダメだね、とそれらしいアドバイスをして一度、崩させる。そして考えさせた天井から地面に向けて作り直させるのだ。

 

日本に親より早く亡くなった子供は地獄で石積みをさせられて、積み上がった石の塔を出来上がる直前で鬼が崩しにくる、という言い伝えがある。非道もいいところだ。ただ新人を指導する時はこの鬼にならなければならない時がある。

 

トム・デマルコの本には、こんなアドバイスが山ほど書いてあるので何かに悩んだときは読んでみるといい。ちなみにオススメは「BETAとワルツを」(編注:本タイトルは邦訳版です)だ。

 

さて話は逸れたが、HI-MAERF計画がトップからアプローチするのに失敗したのであれば、次はボトムからだ。天から落ちてきた異星生物が作った怪しい結晶なんて使わず、既存の陸戦兵器から発展させて問題を解決するのだ。

 

これに相当するのは88年からスタートしたNATSF、海軍先進戦術機計画だ。そう海軍である。というのもサイン計画の成果拡散を懸念した政府は陸軍にしかグレイ物質を使用させなかった。

 

XG-70がなぜ航空機動要塞なのだろうか、その仕様は空中戦艦と呼んだ方が自然に思える。もちろん陸軍が作ったからである。海軍はボトムからアプローチするしか方法がなかった。

 

ただNATSFを説明するには、その基になるATSF、先進戦術機計画を説明しなければならない。こっちは陸軍だ。F-22を開発したプロジェクトといえば通りが良いはずである。

 

ATSFこそ陸軍が行ったボトム・サイド・アプローチじゃないのか?と思うかもしれないが、そうではない。ATSFは金のかかりすぎた失敗プロジェクトから何とか応用点を捻り出せ、と言われて陸軍が吐き出したものである。

 

ただしグレイ物質は使用しない事という本末転倒な条件をつけられて、ステルス戦術機という奇怪な兵器を生み出す事になった。

 

F-22についての解説はもちろんやっていこう。ここから先は自分で調べること、なんて話の締め方はココではしない。

 

自分は新人時代に指導教官から、ここから先は自分で調べなさい、と言われて調べて確認に行ったら、そうなんだ知らなかった、と言われたことを未だに根に持っている。

 

ただしATSFで採用を競い合ったYF-23については勘弁してほしい。不採用になったその後に展開された情報が殆どないのだ。

 

F-22について理解するにはまずステルスとは何かを知ってもらう必要がある。ステルスという用語の語源は、ある陸軍将校が記者に新世代の戦術機の目的とはと尋ねられて、ハイブにそっと忍び込むのさと答えたことに始まる。

 

当時、既存の陸上戦力でBETAと相対するのは馬鹿らしいことなのでは、という世論が生まれつつあったので、この表現は非常にウケた。結果的にこの表現が一人歩きしてステルス戦術機という概念が生まれる。

 

これ自体は納税者に対して理解を得るという点で非常に素晴らしいことである。しかし、同時にさまざまな誤解を生んだ。最たる物がF-22は対人戦術機であるという誤解だ。追って見ていこう。

 

まずステルスと呼ばれる以前のATSF機には低観測性(low observability)という言葉が当てられていた。この方が正しく機体を理解できる。陸軍はBETAに対する新世代の戦力として低観測性を要求した。

 

そもそもBETAはどうやって物事を識別しているのだろうか?誰もわからない。光学でも電波でも温度でも音でもないのだ。ただオルタネイティブ4の研究結果が情報量との相関を見出していた。

 

ブラックボックスに入れたプロセッサを2つ用意して、双方に異なる処理を行わせる。BETAは必ず処理している情報量の多いボックスの方を攻撃する。

 

この相関をどうやって見つけ出したんだかサッパリわからない。でも情報工学を修める自分からすればラットの脳細胞からホニャララ、と言われることも同じぐらい難しそうに感じるので、そうなんだと受け止めることにした。

 

情報工学で言うとたまにこの世の事象を全て確率で表現しようとする人間がいる。いわゆる変態なので速攻で通報すべきだ。ただ、BETAのそれは同じなのかもしれない。

 

これに対して陸軍が考えたアプローチは単純だった。発する情報量を極端に抑えてしまえばいい。つまりどうやってBETAが認識しているかはわからないが、ともかく静かに目立たず熱くならなければいい。

 

ただやってないこともある。それがレーダー反射断面積を抑えることだ。そう、世間ではF-22が一番やっていると思われている事を実はやっていない。

 

たまにF-22は戦術機のレーダーに映らないぞ、クソッ!という描写がフィクションであるのだが、そもそも戦術機はレーダーを積んでいない。地面を這うように動くBETAしか相手にしない戦術機はレーダーを積んでも全く意味がない。

 

戦術機のセンシングは主に光と音で行われる。電波は観ていない。これは主に地球の丸さに起因するモノで、戦術機から戦術機を探そうとする場合にも同じ理屈が当てはまる。

 

ただ、これを作者側の不理解と解釈するのはやめてあげて欲しい。フィクションの文脈上、レーダーがあることにしないと恐ろしく展開が難しいのだ。実際、見失った僚機を探すのは苦労するのだがフィクションで観たいモノではない。多分、気配とかを感じているのだ。

 

たまに公開される、戦術機が戦術士官に投影しているとおもしき画面、にレーダーのようなモノが映っている事がある。しかし、これは戦術データリンクの画面である。仲間の位置やBETAの大まかな位置をわかりやすく共有する物でセンサー画面ではない。

 

ただ秘密だが、公開する動画にレーダー画面っぽいモノを描いておいてくれと言われて描いた事がある。いわゆるディスインフォメーションである。

 

航空機のレーダー断面積を減らすテクニックは、空中で航空機の姿勢が変わらない事を前提にしている。四肢があって地面に対する姿勢が常に変わる戦術機には使用できない。

 

そもそも地形の起伏に隠れてしまえばレーダー照射は受けない。それよりも怖いレーザー照射を避けるための兵器が戦術機なのだから。

 

じゃあ何であんな尖った形しているのかと疑問に思うだろう。しかし、わからない。母に聞いたら、デザイナーの趣味じゃないかと言っていた。

 

F-22が主に注力しているのは脚だ。地面に着地する時の音に気を遣っていて、靴底のゴムだけで前世代戦術機ほどの値段をかけていることは有名である。

 

ただし、情報量として一番大きいのは熱だ。しかし、これを根本的に減らしてしまうとパワーも減ってしまう。だから2番目に大きくなる音に注力している。

 

他にも細かいテクニックだが、負担のかかる処理を後方の僚機に委譲して前面に出す計算量を減らすなんて工夫もされている。

 

F-22について触れなければならないのは、ブラックボックスになっている操縦システムにバックドアが仕掛けてあって、光学上で姿を消せるようになっているという噂だ。

 

断言するが、これはデマである。

 

仮に操縦システムがブラックボックスになっていて隠す処理が行われていたとしても直ぐにわかる。信号の入口と出口を見ておけばいいのだ。

 

入った信号からF-22を隠すという処理が行われれば出口とに差が出る。何処かで差が出る事を確認できれば、それがF-22が存在することの何よりの証拠になってしまうのだ。

 

これを信じる人は悪い事をしようとしたことがない。本当の悪人は死体を森じゃなくて墓場に隠す。増えても分からないからだ。

 

余談だが戦術士官は戦術機に余計な処理が増えることにめちゃくちゃ敏感である。日々、戦術機に乗る戦術士官は変化に物凄く敏感なのだ。アップデートで僅かでも処理が増えると苦情が殺到する。

 

F-22が処理を増やす方向でステルスを実現していたら、監視ソフトウェアなんか組まなくても、真っ先に戦術士官が気づくだろう。

 

何でも具体的に書くことが理解につながる。なので具体的に在来の機体でF-22を探す方法を書いておこう。

 

①戦術機を左に振る

②F-22がいるところだけ一瞬、処理が遅れる

③遅れたら戦術機を右に振る

 

①から③を繰り返すことでF-22を探し出せる。

 

ただ馬鹿にしているが、この噂のおかげで助かったことがある。処理が遅れると言われて現場からログデータが送られてきたのだが、理由が分からなかったのだ。

 

F-22でも通ったんじゃないですかね、と答えたら誤魔化せた。

 

さて陸軍はなぜ、こんなネガティヴキャンペーンを放置しているのだろうか?実は理由がある。それはF-22の対BETAステルスの効果がズルいからだ。

 

陸軍はF-22のステルス性について詳細な検証を行なっている。実は機体が単体で存在している場合には、F-22もF-15もBETAからの被発見率に変わりがないのだ。

 

先ほど例を挙げたようにBETAは計算量の多い方を攻撃する。つまりF-22のステルスとは、F-22とF-15が横に並んでいる場合に、F-15より攻撃を受ける率が低いという事だ。

 

なのでF-22は行動する時は非ステルス機と混ざって出撃する。F-22だけが単体で存在する部隊は、在来機で構成された部隊と比べて被発見率に変わりがないのだ。

 

これはアメリカがステルス機を門外不出としている事を考えると非常にズルい。同盟国と戦線を組んだ時に被撃墜率に差が出て当然なのだ。つまりF-22は本当に死体を墓場に隠している。ここでの墓場は非ステルス機部隊だ。

 

ただし光線級吶喊(ワイルド・ウィーゼル)にこれ程、向いた機体はない。噂でしか知らないが、非ステルス機が前線を抑えていてくれれば、レーザー級の真下に入り込んでも攻撃がこないらしい。

 

その割に陸軍はF-22を出し惜しみしている。最前線はもっとステルス機を使い倒すべきである。

 

F-22のステルス性はバックドアというチンケな理由で納得してくれているのが有り難いほど悪質なのだ。

 

話をNATSFに戻そう。予算超過プロジェクトの償却で始まったATSFは、余計に予算を喰うステルス機を開発するという皮肉で終わった。海軍はこの成果をさらに使い回そうと考えた。

 

それがNATSF、海軍先進戦術機の開発計画である。採用される予定だったのはF-22の海軍版、F-22N シー・ラプターとA-12 アベンジャーである。海軍はこの2機種でハイブを攻略しようと考えていた。

 

F-22Nについては追加で説明する点がない。計画段階では陸軍仕様と驚くほど違いがないし、結局は採用されていない。特徴的なのはA-12の方だ。

 

A-12はA-6 イントルーダーの後継にあたる大型戦術歩行攻撃機である。A-12はATSFで培ったステルス技術を盛り込んだ戦術攻撃機であるが、それよりも特筆すべきなのは小型原子炉を搭載する予定だった点である。

 

A-12の主な目的はハイブ内部でのF-22Nへの補給である。豊富な電力と溜め込んだ燃料をF-22Nへ供給する予定だった。

 

そんな海軍のハイブ攻略手順は以下の通りである。

 

①陸軍にハイブを地表から襲わせる

②陸軍が引き付けている隙にステルス機でどこかのスタブに潜入する

③スタブに必ずつながっている主縦孔(メインシャフト)を制圧する

④戦力をメインシャフトの()から補給する

⑤メインシャフトから各スタブの出口まで制圧する

 

そう、A-12は人類史上初の軌道降下可能な戦術攻撃機だった。

 

そして、これがNATSFのハイブ攻略手順。アメリカ合衆国のボトムアップ・アプローチだ。

 

これが失敗してアメリカ合衆国はついにG弾主戦論へと舵を切る。だからココを理解していなければ日本帝国が通常戦力でハイブ攻略を目指す意図を判断することはできないのだ。

 

しかし、どうだろうか?ここが本当にボトムなのか。ボトムアップもトップダウンも重要なのはその開始地点である。ここが一番高く、もしくは一番低いと判断することは最も重要で、なおかつ難しいのだ。

 

指で机を撫でる。この行為に意味はないが、脳に割り込みを与えることで思考を加速させる。どこにでもあるオフィス机は可もなく不可もなくな触り心地だ。だから触り心地の良い紙が欲しかった。

 

そうだ!まだボトムではない。本当のボトムはBETAがやってくる前だ。

 

つまり、なぜ人類は大型二足歩行ロボットを使って宇宙生物と戦争をし始めたのかであって、そして本当のボトムはBETA大戦以前の対人類の地上戦力にあるのだ。

 

これを説明しなければならない。

 

まずは歩行兵器を採用した理由だが、これはスタブに高規格道路を敷きながらは戦えないことが...

 

 


 

 

平成26年7月26日

国連軍ユーコン基地 西側事務棟 207号室

篁 唯依中尉

 

 

「考え事は自室でやったらどうだ。ブリッジス中尉」

 

巌谷中佐がブリッジス中尉に話しかける。

 

国連の事務方が説明をする中、ブリッジス中尉は明らかに目が泳いでいて考え事をしていた。

 

国連サイドの参加者が目を剝いている。そうだろう、いくら中佐とはいえ、初対面の外国人士官に話すにはキツイ表現だ。

 

しかし日本帝国側の参加者は誰一人、驚いていなかった。参加者は全員が巌谷中佐の手勢で固めていた。彼がこのように注意する人物を一人だけ知っているのだ。

 

「日本帝国はハイブを正規手順で攻略しようとしている」

 

日本帝国側の参加者に驚きが走る。全くの官僚的文書から彼は書かれていない日本帝国の真意を読み取ったのだ。全く頼んでもいないのに。

 

そして国連事務方の説明に被せながら、こちらへの確認をいくつかし始めた。

 

そう、彼は目が泳いでいて明らかに話を聞いていないように見えるのだが全て聞いている。そしてアレもできるはずだ。

 

手を動かすことだ。たまに書き物をしながら人の話を聞いているはずだ。しかし紙に書いているのは模様で文字でも何でもない。本人に説明を求めれば、脳に割り込みを与えるためにやっていることで何かを書いているわけではない、と説明するはずだ。

 

初対面のアメリカ人中尉の一挙手一投足を説明できる。その理由は一つしかなかった。

 

遠い異国の地で咲いた忘れ形見を見た。あの人のそれも思ったよりも奇行であったことに気づけた。身内だから割り引いて見えていた。これは完全に奇行だ。

 

ブリッジス中尉が巌谷中佐にモノの言い方について注意を受けた後、中尉は少し説明をして、国連サイドの担当者に話を移譲したら、また目が泳ぎだした。

 

「中尉、繰り返すが考え事は自室で、だ」

 

怒っているのではない。これは止めないと日が暮れるまでずっとやっているのだ。だから止めなくてはならない。

 

「"なるほど"」

 

中尉から思いがけない言葉が飛び出した。声色こそ違うものの、全く同じトーン、同じ速さの相槌。

 

「ブリッジス中尉、それは...、日本語だ」

 

巌谷中佐が幾分か優しい声色でブリッジス中尉に答えた。

 

たぶん彼の母親の仕業だろう。考えを中断する時はそう言えと教え込んだのだ。そしてそれはあまりに完璧だった。

 

誰も見ていない所で頬に一粒、涙が伝う。

 

今回の件から初めて巌谷中佐の申し訳なさそうな顔を見た。

 

不義を犯した父の死はここに許された。正しく資質あるものが、その後を継いだのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





アメリカはバックドアに隠れてステルスするなんてチンケなこと絶対にしない、という対米クソデカ感情を文字数にしていたら、想像以上に文字数が増えてしまいました。そのため4分割でお届けします。

作者の人間ドラマ記述能力の限界でトータルイクリプスの人間ドラマはこの話で終わります。あとはこの世界の小話やウンチクに全力を尽くします。

次の話はハイブ通常戦力攻略、T80改造エアクッション戦車にまつわるエトセトラです。

それとその次、第6話はF-14J -帝都燃ゆ アーリーデイズ-を予定しています。
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