魔法少女派遣会社   作:安野運

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その一

 

 「いっくよー!」

 

 とある日の昼下がりの事。夜凪町にある商店街の上空には2つの影があった。片方は人型でありながら、その腕にはあまりにも大きすぎる爪が生えており、化物と呼ぶに相応しい形相だった。もう片方はピンクをベースにしたドレスに身を包んだ、桜の髪飾りがよく似合う少女だ。

 

 「そーーーりゃ!」

 

 持っていたステッキを剣へと変形させ、少女は威勢の良い掛け声と共に化物に斬り込んだ。

 

 「ウガァォァァァオォァァァォ!」

 

 化物は咄嗟に腕を組み、少女の攻撃から身を守ろうした。しかし、少女はそれを見越していたのか、刀身が当たる瞬間、剣に魔力を込め、刀身を巨大化させた。

 

 「これでぇぇぇぇぇ終わりだぁぁぁぁぁ!」

 

 少女は剣を叩きつけた。いくら化物が防御力に優れた動物系の化物だからといっても、防御力できないほどの一撃をぶつけられれば、負傷は免れない。

 

 「ア、アアァァァァ」

 

 少女の一撃によって真っ二つに裂かれた化物は、体を魔力の粒へと変換しながら、天へと昇っていく。その様子は、まるで死者が天国へ導かれるようだ。

 

 「よし、お仕事完了だね!」

 

 少女はその様子を見届けた後、ゆっくりと地面へと降り立った。と、次の瞬間。

 

 「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

 「やったぁぁぁぁぁ!」

 

 今の戦闘を見ていたのか、少し興奮気味の群衆に、少女は囲まれた。群衆の中には少女に会えた事が嬉しいのか、涙を流している者までいた。

 

 「すごい、すごいよ。チェリーちゃん!まさか、動物型の魔物を、被害0で倒しちゃうなんて!」

 

 「えぇ!ほんと、おかけで助かったわ。これで店を閉じなくて済むわね」

 

 「おねーちゃん、すごーい!なんであんなにつよいの?」

 

 「あの、本当にありがとうございます。私の、祖父から受け継いだ店を守ってくれて」

 

 「いえいえ、当然です。それが──私達、魔法少女の役目ですから」

 

 様々な人が少女に感謝を伝え、少女もまた、彼らに励みの言葉をかける。その姿は、正義の味方と呼ぶに値するものであった。

 

 

 

 

 「防護人数、28名。防護件数、18社。総額───600万ぐらいか」

 

 そんな光景を見ながら、何やら意味深なことを呟く少年が一人。彼こそが、魔法少女派遣会社の社長、その人である。

 

 ☆☆☆

 

 今でも夢にみることがある。僕が全てを失い、そして、全てが始まった、あの日のことを。

 

 

 

 

 『お兄ちゃん!ごめん、学校送って!』

 

 その日はたしか、妹のひまりのそんな一言で始まった。聞けば、昨夜は遅くまで友達と電話を繋げて勉強していたらしく、寝坊をしてしまったとのことだった。その日、珍しく学校が休みだった僕はかわいい妹からのお願いのめんどくささと兄としての威厳の天秤にかけ、兄としての威厳に傾いたので、仕方なく学校に送ることにした。それが、すべての間違いだった。その時、ほんの少しでもためらっていれば、あんなことにはならなかったのに。

 

 

 『lar-lar-lar』

 

 妹をバイクの後ろに乗せ、道案内に従いながら学校へと向かっていた僕の目の前に、突然それは現れた。人間の女性のような外見をしていたそれから発せられる歌声のような音は、聞いているだけで頭痛を起こし、ひどくなっていく。

 

 『嘘っ、なんで、こんな、ところに魔獣が──』

 

 魔獣。それは、今から30年ほど前に現れた、未確認生物達の総称だ。魔獣達について分かっていることは少ないが、ただ一つ、確定しているのは、人類に敵対しているということだけ。

 

 『う、ぐぅ』

 

 『お、にい、ちゃん』

 

 歌声によって気分が悪くなる中、妹なんとかしてバイクから降り、妹を背負いながら避難しようとする。たしか、ここから少し進んだところに、対魔獣用のシェルターがあったはずだ。女性型の魔獣は、見た限り目と呼べるような部位は存在していない。僕たちが逃げても、それに気付くことはないだろう。

 

 『大、丈夫、か。ここから、少し、先に、シェルターが、ある。そこ、まで、耐えろ』

 

 魔獣の歌声の中、小声でひまりに問いかける。

 

 『うん、わかった』

 

 息も絶え絶えになりながらも、意識を失っていないひまりの返答を聞き、足に力を込めて走り出す。

 

 ───大丈夫。逃げきれるはず。

 

 そんな油断が心のどこかにあったことは認めよう。だけど、それは、そんな事は、あまりにも残酷すぎじゃないのか。

 

 『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa』

 

 突然、魔獣が歌声を変えた。と、それと同時に、先程までとは比べ物にならないほどの頭痛が襲いかかってきた。

 

 『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』 

 

 僕は、それに耐えることができなかった。背負っていたひまりを落とし、そのまま倒れこんでしまった。

 

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

 

 魔獣が唄う度に、頭痛が更にひどくなっていく。

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

 痛い。痛い。痛い。痛い。

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

 うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、病院のベッドで寝かされていた。ナースコールで看護婦を呼ぶと、すぐに両親とともにやってきた。両親は僕の顔を見るやいなや、目に涙を浮かべなから僕を抱き締めた。

 

 『良かった。本当に良かった。蓮だけでも、助かってくれて』

 

 『──え?』

 

 【蓮だけ】──蓮、というのは僕の名前だ。つまり。

 

 

  『父さん、母さん。ひまり、は?』

 

 

 両親からの反応はなかった。変わりに、僕を抱き締める力が強くなった。つまり、そういうことなんだ。ひまりは、僕のかわいい妹は、死んでしまったのだ。これから幸せになるはずの、一人の女の子は、もう、幸せになれなくなってしまったんだ。

 

 

 『は、ははは。はははははははははははははははは!』

 

 

 僕のせいだ。僕のせいだ。僕のせいだ。僕のせいだ。少しでも、僕がひまりを学校へと送るのが早ければ、巻き込まれるのは僕だけだったはずだ。僕が少しでも強ければ、頭痛なんかに負けず、ひまりをシェルターまで運べたはずだ。僕がひまりを落とさず、せめて、抱き締めて気を失っていれば、何かが変わったかもしれないはずなんだ。

 

 

 

 退院し、妹の葬式を終えて1ヶ月が経った頃。僕の家に、二人の少女が訪ねてきた。

 

 『ひまりさんのこと、すみませんでした』

 

 『私達がもう少し、もう少しでも早く駆けつけていられれば』

 

 なんでも、その二人はこの辺りを担当していた魔法少女、という存在だったようだ。あの時、僕達の目の前に現れた魔獣とはまた別の魔獣が、シェルターの目の前に出現したらしく、そちらの対処を行っていた、とのことだった。

 

 『貴女達がもう少し早く来てくれてれば!』

 

 『ひまりの、あの子の未来を返してくれ!』

 

 両親は彼女達を激しく責め立てたが、なぜか、僕はその気になれなかった。ひまりが死んでどうでも良かったのと、彼女達の目にはっきりとした濃い隈があって、見るからに疲労していたからなのだろう。彼女達は何か言うことなく、ただ黙って両親からの叱責を受け続けていた。

 

 『その、これ、どうぞ』

 

 両親の叱責が終わり、帰ろうとした彼女達の姿を見て、

同情した僕は彼女達を呼び止め、一枚の手紙と2つの飴を渡した。手紙は、魔法少女のファンだった妹からのものだ。飴は、彼女達に同情した僕からの小さな贈り物だ。

 

 『ごめん、なさい。貴方の妹を、守れなくて』

 

 『…………っ』

 

 妹の手紙を読んで泣き崩れる彼女達を見て、僕は、そこで初めて、魔獣を倒すことができる魔法少女だからといっても、彼女達は妹と同じ、守られるべきのただの女の子なんだ、と言うことに気づいた。

 

 

 ───だから、僕は【魔法少女派遣会社】を作った。

 

 これまでの魔法少女というものは、ボランティアに近いものだった。魔獣が現れたと同時に、近くにいる魔法少女達が持つ携帯端末に連絡が届く。その後、魔法少女が魔獣を倒す、というものだ。この行為に、賃金なんてものは発生しない。つまり、命をかけたボランティア、というわけだ。心優しき魔法少女達にとっては、人々からの感謝の声があれば十分なのだろう。だからこそ、人は魔法少女達に助けられて当然だと思い始める。だからこそ、助けてくれなかった魔法少女達を非難し、追い詰め始める。

 

 そこで僕は、魔法少女達を派遣会社の職員として雇うことにした。彼女達は命をかけて魔獣を倒し、人々を守る。その代わりとして、僕が守られた人々や会社、市区町村から料金を受け取り、彼女達に渡す。という仕組みだ。そうすれば、魔法少女達は命をかけて戦った分の給料を得ることができ、人々は守られて当然、なんて意識を持たなくなる。

 

 

 もちろん、数多くの人から文句を言われた。

 

 『魔法少女を使って金儲けをするつもりなんだろ!』

 

 とか。

 

 『どうせ、自分が金持ちになりたいだけに決まっている!』

 

 とか。

 

 もちろん、そんな事を一切考えていないと言えば嘘になる。だけど、金儲け以上に、僕は彼女達を助けたいという気持ちが強かった。幸いにも、同時の最強の魔法少女が僕の意見に賛同し、僕側についてくれたために、国との交渉は上手く言った(というか、この条件を飲まなければ魔法少女達は金輪際人を助けない、と脅した)。

 

 

 その翌日、目が覚めると最強の魔法少女に案内され、気付けば大きな椅子に座らされていた。

 

 

 『今日からここが貴方のオフィスです。社長』

 

 そう言いきった彼女に否定しようとするも、当時の生物最強にそんなことができるわけもなく。僕はその日、魔法少女派遣会社──通称『魔派遣』の社長になった。

 

 

 

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