ジョセフ・ジョースター来日!
「なんじゃあこの巨大なスタンドは!」
「あ、どもっす」
俺がぺこりと一礼すれば、ジョセフはびっくりしたように目を見開いた。
「現在空条承太郎のスタンドやらせてもらってます。元流れ者スタンドのアルカナテラーです」
「……ず、ずいぶんとこう、見た目のイメージの違うスタンドじゃな」
「何をしに来た、おじいちゃん」
「おお承太郎!わしは急にスタンドに目覚めたお前が心配できてやったんじゃぞ!」
絶賛反抗期というかなんというか、承太郎はジョセフをちらりと一瞥しただけだった。
後ろで所在なさげにしているアヴドゥルが哀れだ。
どうやら俺が承太郎のスタンドになったという話をホリィさんから聞いて来たらしい。
大金持ち特有の素晴らしいフットワークで大した手荷物も持たず──後から送ってくるように手配しているのかもしれないが──遅れてやってきたホリィさんと熱い抱擁を交わしあっている。
パパー!ホリィ!とラブの詰まった様子に承太郎はやれやれだぜと呟いた。
俺の立場でもあの熱量の親がいたらちょっと引くかもわからん。
空気がひと段落すると、アヴドゥルが恐る恐る俺に声をかけてきた。
「それより、先ほど君のスタンドは元流れ者、と口にしたな。それは一体……」
疑問に答えたのは承太郎だ。
「そのままの意味だ。アルカナテラーは元々俺のスタンドじゃねー。元はエジプト人の女スタンド使いに憑いていたらしい」
「そんなことありうるのかね、アヴドゥル」
こっちだ、と話もそこそこに居間へと移動しながら、ジョセフは眉をひそめてこちらをみやった。
当然の疑問だ。
一人歩き型のスタンドはジョジョ作中でいくつか登場しているが、それでも珍しいことに変わりはない。
「独り歩き型のスタンド……直接は見たことがありませんが、噂なら聞いたことがあります。
死んだ男のスタンドがそのまま残ってその地で災いを引き起こしただとか、そのような話程度ではありますが」
「承太郎は大丈夫なのか」
「問題ない。アルカナテラーもアマを手伝って家事手伝いしてる程度で、害も何もねー」
「そ、そうか。ならいいんじゃが」
ほっと一安心すると同時にジョセフは不安げに目を落とす。
「ではお前自身のスタンドが目覚めたわけではないんじゃな」と思わず出たというような独り言。
それを聞き逃さなかった承太郎は、怪訝な様子で聞き返す。
「俺自身のスタンド?」
無論、それはスタープラチナのことを指す。
俺はあくまで一人歩き型のスタンドが承太郎へと取り付いているだけで、今現在承太郎自身はスタンド使いではない扱いだ。
だから俺の姿は見えてもアヴドゥルのマジシャンズレッド、ジョセフのハーミットパープルを視認することはできない。
繰り返すが承太郎は今、スタンド使いではないのだ。
「おう、承太郎自身のスタンドは別にある。それが目覚めるのはもうちょっと先になるな。具体的には6ヶ月ぐらい」
「なぜわかる?」
「俺の能力だからさ。未来視のスタンドがこの俺、アルカナテラーだからな」
ドギャーン、というようにジョジョっぽく体をくねらせてポーズを決めれば、ジョセフとアヴドゥルがおののいたようだった。
満足満足。
「他にも見えるぜ、あんたらがこれから何を喋るか、何を危惧してきたのか、血筋の因縁、星の定め、100年の負債」
「いつもはクソみたいな助言しかしねーじゃねーか」
「そりゃ承太郎がガチな助言を求めてないからだよ!まじに役立たずなわけじゃねぇから!」
「……」
「あっその顔信じてねーな!?」
などと漫才に勤しむ俺らをよそに、ジョセフは俺の能力を考察してかシリアスな声色だ。
「……未来予知、か。本当なら恐ろしいスタンドじゃわい」
「私の立場がありませんね。アルカナテラー、神秘を語る者ですか」
「これを話すのも時間の問題だと思っとった。なら予定が少し早まるくらいいいじゃろう。DIOのことを承太郎へ話そう」
「ええ」
大男が揃いも揃ってぞろぞろ広い廊下を歩き、到着したのは空条邸の大広間だ。
広い居間は流石金持ち日本風豪邸の一言に尽きる。
家政婦さんも数人いて、一人じゃ到底行き届かない掃除周りをやってくれている。
庭師さんも定期的に入っていて庭木のお手入れをしてくれているらしい。
ジョセフは持っていたカバンから無造作にカメラを取り出す。
なんとも古めかしい──この時代においては最新の機種だろうが──大きなカメラを机の上に置く。
価格帯にはとんと鈍いが、万を下るってことはあるまい。
それが一瞬でおじゃんなのだから、そりゃ燃費の悪いスタンドだと思っても仕方あるまい。
ジョセフが腕にハーミットパープルをまとった。
あの例の有名なシーンだ。俺はちょっとワクワクしながらそれをのぞき込む。
「うぉりゃあああああっ!」
バキャッと凄まじい音を立ててカメラが殴り壊された。
どうでもいいけど素手でカメラを叩き壊す波紋使いの肉体すげーな、御年いくつだよ。
バラバラになりながらも健気に吐き出された写真をジョセフが拾い上げる。
じわり、じわりと写真が色を載せていく。
そこに写っているのは、こちらを怪しく睥睨するDIOその人の姿であった。
視線に気がついているのだろう、その目は鋭くコチラを見ている様にも感じられる。
「わしのスタンド、ハーミットパープルは念写のスタンド!」
「……この写真がどうした。男が写ってるみてーだが」
「それを話すにはまず、ジョースターの家に伝わる因縁の話をせねばいかん」
「それならもう承太郎には話してるぜ。ジョナサン・ジョースター関連のあれこれとかな」
ジョセフは俺の言葉に驚いたように目を見開いた。
「なぜスタンドがそれを知っておる!?承太郎!」
「過去ってのはいつかの未来だ。世界は一巡するからして、過去は未来にもなり得る……みたいな」
「と、いつもこんな感じだから俺もようわからん」
承太郎がやれやれと言った感じに首を横に振った。
つまりプッチ神父が全部悪いんだが、説明が難しいんだよな。
「まぁいいわい。わしの祖父ジョナサン・ジョースターについてどこまで聞いておる?」
「DIOってクソヤローを兄弟に迎えて苦労して、父親暗殺未遂を暴いたはいいものの遂には新婚旅行までメチャクチャにされたって話くらいか」
「全部どころかわしより詳しい可能性が出てきよったんじゃが」
「恨むんならあの蛇のお喋り具合を恨みな。ちなみに、前話してた究極生命体とかいう与太話もマジだったんだってな」
「与太話ぃ!?そんなふうに思っとったんか承太郎ォ!?」
「あの話のどこを信じろってんだ」
ジョセフは孫の言葉に憤慨したようだった。
まぁ闇の一族とかエイジャの赤石とかガチガチのファンタジー物語っぽいもんね。
これまでの経緯のついでにジョセフの無念を晴らそうと承太郎に2部の話をしておいて正解だった。
俺の能力ならジョセフも知らない波紋使いの歴史やら柱の男の動向やらを史書レベルで詳しく語れるからな。
気を取り直したのか、ジョセフが咳払いした後承太郎へと写真を見せる。
「ならこの写真の男が誰だかは分かるか?」
「……」
写真に写る星型のアザがある男は怪しげに嗤って口端をゆがめている。
原作開始より6か月前の写真だからか、あの時の蠅が写った写真と異なる服装をしている。
というか裸ではない。ギリ首元は見えているが、やはりDIOだって裸族というわけではなかったんだろう。
いや、偶然服を着ている時を引いてしまっただけとかかもしれない。
「この男こそDIO!わしの祖父ジョナサン・ジョースターの肉体を奪って蘇った吸血鬼!」
「……おい蛇、てめー知ってたからあんな中途半端な語り口だったな」
「どうせジョセフさんに聞くから良いだろと思って」
「めんどくさがってんじゃねぇ」
「なんじゃこれも知っとったんか。つまらんのぉ」
「ジョースターさん、そういう問題じゃありませんよ」
ワイワイ締まらない空気にアヴドゥルさんは困った顔をしている。
ジョセフさんだけでなく俺もいるんだ。シリアスな話なんて望むべくもないってことだよ!
「あー、でだ。恐ろしいことが起こっておる、ということは理解したな?そして、お前が近い将来スタンドに目覚めることになる理由も」
「このDIOって野郎がスタンド使いだからとでもいいてーのか」
「その通り。わしらの血族は不思議な絆で繋がっとる。わしがスタンドに目覚めたのもそれが理由だ」
ジョセフが星型のアザを見る。承太郎も同じように。
それを見て、俺も静かに能力を発動した。
視界が黒と白の永劫続く宇宙の如き景色に染まり、そこに俺ただ一人が浮いているようにも感じる。
ぽつり、とそこに幾多の未来が浮かび上がってくる。
幾重にも続く虹色の橋とも、煌めく流星群の軌跡とも形容できるたくさんの線がこの目を焼く。
この線一つ一つが世界であり、未来だ。
合流したり分岐したり、一つの主流となって大きな「運命」を形作ったり。
見れば見るほど美しい未来の景色。
それを俺は能力でもって確認する。
ぱちり、と視界を閉ざす。
俺の方針は決まった。後は声をかけるだけだ。
「承太郎、良いニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」