いよいよDIOの館へ突入する時が来た。
未来視にて屋敷の場所はすでに特定しているため、原作ダービー戦のように屋敷の位置を聞くために戦う必要はない。
長期戦を見据えて日の長い朝方に屋敷を訪ねれば、番犬代わりのペットショップがじっとりとこちらを睨めつけた。
その門を一歩でもくぐれば容赦はしない。
そう言っているかのようだ。
ペットショップの剣幕はDIOに従っているというよりもこの屋敷を縄張りとしてみているに近い様相だ。
彼は隼だ。騎士ではなく狩人という事なのだろう。
「いくぞ」
ジョセフが緊張とともに一歩、敷地内に足を踏み入れた瞬間。
キョアアアアアアアア、と高い高い鳴き声。
一気に下がる気温は夏のエジプトには異常に過ぎる。
「く、来るぞ!」
言葉と同時にジョセフが思いっきり右に飛ぶ。そこに氷の槍が凄まじい勢いで突き刺さり、鉄柵を歪ませた。
遠距離攻撃としては申し分ない威力だ。これなら車だって優に貫くことができる。
「下手をしなくても僕のエメラルドスプラッシュより威力があるな……なんて鳥だ!」
「俺の後ろへ隠れろ二人とも!穴だらけにされるぞ!」
「アルカナテラー、すまない!」
続けて発射された16もの氷柱は俺の鱗にはじかれ、交通事故じみた音を立てて庭木を吹っ飛ばした。
「うおおおさむっ、俺寒いの苦手だったわ……蛇だし。スヤァ」
「突然ギャグやってんじゃねーよ!まじかよおい!」
余りの気温の低下に接する地面から胴体が凍りつく。まぁ、氷柱は俺の鱗を突破できないし俺は遠隔自動操縦型なので本体にダメージのフィードバックもない。つまりどうという事は無いのだが。
動きが鈍くなるのは痛いかな、という程度だ。
「アヴドゥル、絶対にこれ以上前に出るな」
「ん?あ、ああ。わかった。クロスファイヤーハリケーン!」
承太郎の言葉にアヴドゥルはわずかに首を傾げたが、戦闘中という事で深く考えず了承。
その位置のまま炎を操って辺りを熱していく。
「んん……いやぁ、アヴドゥルの炎は効くぜ!」
「鉄柵がドロドロになる温度のはずなんだが、本当に君にはいい湯加減でしかないようだな。自信を失ってしまいそうだよ」
「ま、相性って奴だ。アヴドゥルの火は比類ない業火さ、誇っていい」
「だといいんだがね」
アヴドゥルが若干複雑そうな顔で苦笑した。ごめんて。
1500度の高温に炙られて即時復活。一瞬鱗表面で小規模な水蒸気爆発も見られたが、そのぐらいで鱗が傷つくはずもなし。
熱いのは得意なので氷を溶かすにはまさに丁度いい湯加減だ。
炎を操るスタンド使いの出現に即座に己の相性不利を悟ったのか、ペットショップが高く舞い上がった。
「キョアアアアアア!!!」
遠距離絨毯爆撃だ。
何連弾もの巨大な氷の氷柱が地上めがけて落下し、甚大な破壊を振りまいていく。
さすがはペットショップ。汎用性と破壊力ではマジシャンズレッドにも足が届くかもしれないスタンド使い。
しかしそれも、マジシャンズレッドの炎壁を前にしては無惨に溶け落ちるしか無い。
ハイエロファントグリーンがいくらか各々間を縫ってエメラルドスプラッシュを発射し、氷柱を撃ち落としている。
ペットショップは苛立ったように嘶いた。
ジリジリと位置を変える俺達に気付いているらしい。
このままだと、炎を盾にしたまま上手く屋敷に侵入されるのは確実だ。
ギチギチとなくペットショップが、はッ、と何かに気がついたように動きを止めた。
「ようやく気がついたかい?鷹は目が良いというからすぐにバレるんじゃ無いかと思ってたが、注意散漫じゃないか」
花京院がペットショップのすぐ後ろに立っている。
空中という鳥の本分である領域に侵入し、なお余裕たるその姿は堂々たるものだ。
ペットショップの目ならばすぐに気付いただろう。花京院が空中に立っているのではなく、空中に幾重にも張り巡らされた細い細い触手の上に立っているのだと。
花京院はニヤリと笑い、ズアッとどこかで見たようなポーズを決めた。
「動物相手にどうかとは思うが……我が本気、ハイエロファントの結界を存分に味わうと良い」
常よりも細かく密度も高く張り巡らされたハイエロファントの結界はまさにうっそうと茂ったジャングルのツタのごとし。
ペットショップも最初はひらひらと避けてはいたものの、街暮らしの長さが祟ってだんだんと余裕がなくなっていく。
氷の氷柱を発射すればその倍は多いエメラルドスプラッシュに見舞われ、羽をかすめればペットショップの体格に比して致死に等しい精密攻撃が成される。
やがて消耗し羽をかすめ、胴をかすめ、そして全方位からのエメラルドスプラッシュがその躯体を直撃する。
ついに。
ペットショップは血を吐き、ギギギと忌々し気に鳴きながら墜落していく。
「ってんな状態になってまだスタンドを出せるのかよ!」
「ギギギギャアアアアアアアッ!!」
そして、直下にいたポルナレフに氷像となって捨て身の特攻を繰り出す。
「見上げた根性だぜ。DIOなんぞの野郎のところに置いとくのがもったいねぇ」
「……ギャ、ギ」
ポルナレフは静かに剣を突き上げた。
シルバーチャリオッツの美しい剣は氷の鎧を豆腐のように突き抜け、その中にいたペットショップの脳天を的確に穿つ。
勝負あり。
鳥でしかない身での見事な健闘にイギーがフンと息をつく。
アヴドゥルがマジシャンズレッドの炎を消し、皆を先導するように前に出た。
瞬間、承太郎が目を見開く。
「さて、じゃあ皆、屋敷に……」
「これ以上前に出るんじゃねぇ、アヴドゥル!」
「ん……?っ、!?」
ガオン、と。
不可視の破壊が通り過ぎ、屋敷のドアと、三つの庭木と、ゆがんだ鉄柵を丸ごと消滅させる。
承太郎にスタープラチナで腕を引かれたアヴドゥルは、ギリギリ左肩を亜空間に削り取られるだけで済んだ。
ばくん、と恐るべき異能を持つスタンドの口が開く。
「避けたか……ゴミの分際で……」
暗く怨念滲むような男の声が虚空から響いた。